「メール、言葉」 アイマス二次創作SS |
目と目が合うだけでうれしいだなんてあるんだなぁ。
春香はTV局でのことを思い出しながら微笑みを浮かべてしまう。
千早と通りすがりに目が合い、お互い笑顔で手を振った。それだけのことなのに春香にはなんだかうれしかった。
自分から目を合わせようと向こうを見つめ続けたりはしたんだけどね。
そのことに少し恥じ入る気持ちはあるのだけど、やはりうれしいものはうれしい。
自分の仕事は終わっているので家に帰ってもいいのだが、まだ日の明るい時間ということもあって事務所に戻ってきた。
「ただいまー」
といって事務所に入ると小鳥がパソコンに向かって作業をしている。こちらに気づいて、おかえりなさいと笑顔で返してくれた。
他の人のスケジュールが書かれたホワイトボードを見ると、小鳥以外にもこの事務所にいるようだ。
「雪歩ー、私にもお茶ちょうだーい」
給湯室に向かって声をかけると、小さい声で返事が返ってきた。
携帯電話を見てみるとメールの受信履歴があることに気づく。鞄の中に入れていて気づかなかったようだ。
確認をしてみると、
「あ、千早ちゃんからだ」
1トーン上がって声が出てしまい、慌てて口を押さえる。
周囲の様子をうかがってみると、小鳥と目が合い、なんとなく2人して笑ってしまった。こちらは苦笑いだけど、相手はイイ笑顔だ。
こそこそとソファに腰かけて千早からのメールの内容を確認してみる。
『おつかれさま、今仕事が終わったわ』
画面に向かって「おつかれさまー」と声をかけようとしたことに気づいて口を押さえる。
春香は気恥ずかしくなりながらも結局小声で声をかけ、続きを読んでみる。
『今日、TV局で春香と目が合ったわね。なんだかうれしかったわ』
こっちもうれしかったよ。すっごく。
『次の撮影が少し緊張するものだったからナーバスになっていたのだけれど、おかげでリラックスして撮影に臨めた、ありがとう、春香』
ありがとうだって、ありがとうだって。
ソファの上で足をバタつかせたりして身悶えしながら、そこを何度か読み直す。
本当はそんなことなかったかもしれないけど、彼女がそういうことを言ってくれたことが春香にとってなによりうれしい。
『その後でTV局の人にぶつかって転んでいたのはいただけないけど』
見られてたかー。
天井を見上げてしまう。あれを思い出すと自分でも赤面してしまうことなのだ。
派手にすっころんで、謝らなきゃいけない相手に盛大に心配されてしまって。
『怪我はしなかった?』
その一文に沈んでいた自分の気持ちが少しだけ浮き上がってくるのが春香にはわかった。
何気ない心配の、むしろ社交辞令ぐらいの言葉のはずなのに、反芻していくうちにさっきの面映い気分なんてどこへやら口元が緩んできてしまう。
あの時は少し赤くなっていた膝小僧も今は何事もなかったような顔をしているし。
『それじゃあ、またあとで』
そんな言葉でメールは締められていた。
このメールに対してどんなふうに返そうか、そんなことを考えるだけで心が躍り始める。
こっちも目が合ってうれしかったことはまず伝えないといけないことだし。
怪我とかはしなかったのはもちろんのことで。
こっちの仕事についても何か伝えたほうがいいだろうか。
だらだらと文章を打ってしまうと、長くなって千早ちゃんが読むのに疲れてしまう気がして全文消してしまう。
いい出だしが浮かばずに頭を抱えてしまう。
気がつけば春香の目の前のテーブルにはお茶が置いてあった。いつのまに置かれたものか気づかなかったけど、事務所に戻ってきてから雪歩にお茶を頼んだことをようやく思い出した。
椅子に座っている雪歩の姿を事務所の中で見つけて「ありがとう」と声をかけたときに彼女の向かいに椅子に座ってお話している女の子の存在に気がついた。
その後姿はまさしく彼女でしかありえず、
「千早ちゃん、どうしてそこに?」
自分でも間抜けだと自覚してしまうほどに間の抜けた声を上げてしまった。
「春香の返信を待っているのよ」
いたずらっぽい笑顔を浮かべて、そんなことを言ってくる千早。
「だって、あんなに楽しそうに見ているのだもの。こちらにもそれくらいのメールが返ってきてもいいんじゃないかしら」
どこまで見られてたのぉ。
うわーんと声に出して天井を見上げるように顔を上げる。はずかしくて相手が見ていられない。
「ここでどんな内容で送るつもりだったか教えてくれる?」
うわ、なんてバツゲームだろう。
うめくような声がこぼれつつも、なぜか言葉は口をついて出てきた。
「私も目が合ってうれしかったよ」
「ええ、私も本当にうれしかったわ、春香」
とてもじゃないけど相手が見ていられない。
「転んだけども少し膝が赤くなっただけでたいしたことなかったよ、千早ちゃん」
「それはよかったわ」
「えーっと。こっちの仕事も千早ちゃんに会えてうれしかったせいか、なんだかいつもよりいいねって言われちゃった」
「本当に? それが一番いいことだわ」
「あとはね、事務所の近くに新しいケーキ屋さんできてたね、今度一緒に行ってみたいなぁ」
以上です、と言ってからようやく千早のいるほうを見ることができた。
彼女は少しだけ頬を染めながらうれしそうな表情でこちらを見つめてきていた。
「じゃあ、今から行きましょうか、そのケーキ屋に。萩原さんも一緒にどう?」
「ううん、なんだかお邪魔したら悪いし、私はまだすることがあるから」
「そう、じゃあ2人で」
千早が立ち上がるとともに春香の腕をつかんできて、こちらを引っ張るようにして歩き始める。
春香は急な事態に慌ててしまうけども、よくよく考えてみればこれはうれしいことなんじゃないかと思い直す。
「お互い仕事がうまくいったのだから、お互いにお礼をしましょう」
彼女の提案はとても素敵に思えたから、
「うんっ!」
と春香は大きくうなずいた。
その途端に千早は引っ張るのをやめてくれて、今度は輪を作った腕に春香の腕を通すようにして組み直してくれた。
春香は少し照れ笑いをしながら千早のほうに体を寄せてみた。
お互い笑顔でうなずき合って、ケーキ屋に向かってしっかりと歩き始めた。
-END-
説明 | ||
アイドルマスター二次創作SSになります。 春香と千早の組み合わせはラブい! そういえば、先の話ですがはるちはオンリーイベントなんてあるようで、行ってみたいなぁ |
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