どうということの無い話
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 たぶん、ソイツにとって本当に大切なことは他人にはどうでもいいようなことだったりするんだ。受験とか、就職とかは、もしかしたら結婚も、たぶん皆が大切に思わなきゃいけないから大切なんだ。

 

 昔……そう、かなり昔の話だったと思う。たぶん十二、三年前だったと思う。だから記憶は曖昧だ。というかほとんど覚えていない。ただ、当時の俺にとっては何かとてつもなく悲しいことがあって――それはお気に入りのおもちゃを壊してしまっただとか、親に酷く叱られたとか、そんなろくでもない事だったかもしれないけれど――とにかく泣いて泣いて泣きまくっていた。それで……、そうたしか場所は公園だ。公園のベンチだかブランコだかとにかくそんな場所で、俺は泣いていた。ここまでは、まぁ、状況説明みたいなやつだ。このあたりのことは本当に曖昧で、水底の風景のようにぼんやりとした輪郭のようなものしかもう見えない。けれどここで、この昔話にはもう一人の登場人物が登場する。そして、彼女が登場した途端に俺の記憶は鮮明になる。彼女はたぶん、今の俺とさして変わらないような年齢の女性だった。童顔なのにやけに大人びた表情の人。その人が泣いてる俺に言うのだ。

「どうしたの、何がそんなに悲しいの?」

「み――し――だ」

 その時俺がなんと答えたのかはほとんど覚えてない。何かを言ったはずなのだが、何を言ったのか思い出せない。でもとにかく、その後俺たちは二言、三言、言葉を交わした。そしてそれから、彼女が俺の頭をなでながら言った言葉が、その言葉が、今も俺の心の中に刻み込まれている。何故だかは、よくわからないのだけど。忘れられない。

「君のその悲しみはきっと眼をそらして忘れたふりなんかちゃいけないし、何かで誤魔化すべきものじゃない。それに、きっと君の心に空いたその今苦しくてしょうがない穴はどんなに小さくなっても決して埋まらないものなんだよ。だけどね、たぶんその穴を通り抜けるのは幸せっていう風だから、君のその悲しみがいつかの幸せに繋がるから。だから……」

 

 

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 修羅が如し母親のがなり声で目を覚ます。薄いカーテンを突き抜けてきたぼんやりとした朝日を顔面に受けつつ、時計の時刻を確認して余裕のある時間に起きれたのとを安堵する。未だに母親に起こされるというのも情けない話だが。せっかく高校生になったのだから、明日からは目覚ましを使ってきちんと自分で起きよう、なんて事を今の高校に入ってから一ヶ月半、毎日思っている。ついでに毎日失敗している。薄緑の目覚まし時計の叫びは何日たっても俺に届く様子はない。

「ん……あぁ?」

 寝ぼけた頭で制服に着替えながら今朝見ていた夢のことを考える。

 ……たしか世界の命運を掛けた戦いに自転車で赴いてそこで猫と巨大人形ロボに乗ってバトルするような、そんな夢……かな

 

 ナァ

 

 曖昧な夢の結末に思いを馳せていると、突如部屋の隅からそんな鳴き声が聞こえてきた。ぎょっとして振り向くとそこには全長三十センチほどの白茶のネコ科の哺乳類が。というか三毛猫の子供がゲージの中、毛布で作った即席の寝床で鳴いていた。そういえばコイツのせいで貯めていた金の結構な割合が飛んでいったのだった。

 思い出すと笑えばいいのか正直に迷うのだが、昨日の学校の帰りに川原でコイツを拾ったのだ。今時ないような、ダンボールにマジックで書かれた拾ってくださいの文字。というかあの時生まれて初めてダンボールに入れられて捨てられている子猫なんてものを見た。とにかく、こんな古風なほう方法を使うなんて、動物愛護団体はどうしたんだ、とかくだらないどころかよくわからないことを言っていたのだが、眺めているとこの殺人級にかわいい生命体の加速粒子砲なみの精神攻撃を受けて、気づいた時にはコイツを自転車のかごの上に乗せていたのだった。まぁ、あの状況は猫にとって見れば笑い事ではないだろうしな。……それにしても加速粒子砲なんて言葉は実在するのか否か。

 それからすぐに貯金を下ろして、あれ買ってこれ買ってと色々買いこみ、ネットであれやこれや調べて、共働きの両親が帰ってきた時には既に反論の余地もないような状況に持ち込んでいた。我ながら随分と思い切ったことをしたとも思ったが、結局俺が面倒見るのとエサ代全額負担で飼っていいという許可が出たのだったからオールオッケー。

 ちなみにそんな慌ただしい経緯もあってかコイツは未だに名前が決まっていない。

「よぉ、元気か?」

 なんとなくそんな風に声を掛けてみるとミャァと、「はい」なのか「いいえ」なのかよくわからない返事をされた。

「まいいや、待ってろ。もうちょっとしたらエサとミルクを持ってきてやるから」

 今度は元気にニャーと返された。たぶん「はよせい」と言ってるのだろう。

 

 鬼神が如き苛烈さで仕事へと向かっていった母親を見送り、拾い猫の世話なんかをしているとあっという間に家を出る時間になっていた。慌てて教科書と弁当を詰め込んだカバンを持って、自転車に飛び乗る。俺の通う公立高校は自転車で十五分くらいという非常にありがたい位置に建っているのだが、携帯を見るとそれでもかなりぎりぎりの時間帯だった。どこともなくワンワンと威嚇する犬の鳴き声を背景に今日も今日とて俺の毎日が始まった。

 

 学校に着いたのは空から降り注ぐ日差しも暖かい、ホームルームの始まりを告げる鐘の鳴る二分ほど前の頃だった。駐輪場に自転車を止め、周りに混じってぞろぞろと歩く。この時間帯が一番ここを歩く生徒数が多いというのはいいのだろうか。何て事を考えながら昇降口で靴を履き替えていると肩に手の置かれる感触がした。普段学校でつるんでいる誰かだろうと思いつつ振り替えると、そこには知ってはいるものの予想外の顔があった。

「やぁ」

 目を細め、口の端を吊り上げてそう言ったのはクラスメイトの樋渡白兎だった。このクラスでも割と孤立している暗い印象のコイツと話したのは一度くらいしかないのではないかと思う。長すぎる黒い前髪が目にかかっていて、それでよく目を開けていられるななんて感心する。

「よお」

 取り敢えず挨拶を返す。ただし足は機械仕掛けのように動き続ける。じゃないと遅刻してしまうからな。

「実は君に話したいことがあるんだよ」

 俺の隣を歩く奴の顔は未だに皮肉げな風に歪んでいる。男にしては長い髪を揺らしながら俺の返事など待たずに言葉を紡いだ。

「君はさ何か忘れてしまった過去というやつに心当たりはないかい?まぁ、忘れているのだからそんなものあるわけがないのかもしれないけどさ。兎にも角にも君のその忘れ去っている幼き日の記憶がそろそろ君に追いつきそうなんだよ。君はそれを忘れてしまえばそれでなかったことになってるかもしれないけど、忘れられた奴らは溜まったものじゃないからね。今か今かと自分たちの存在を君に思い知らせてやろうと虎視眈々とその時を窺ってるんだ。それはまったくもって無害であることもあるし、非常に危険なこともあるんだ。奴らは手段を選ばないからね、何が起こるかはその時になってみないとこの僕にもわからないのさ」

 階段を上りながら一息でそこまで話し終えた樋渡はあっけに取られていた俺に一言、

「兎にも角にも僕は君にその事を言いたかったのさ」

 そう言うとさっさと俺を追い越して先へと行ってしまった。

 俺はといえば、よく知りもしないクラスメイトの突然の電波な言葉にどうすればいいのかと戸惑い途方にくれていた。くだらない話だ、と笑い飛ばせばよかったのかもしれないが、アイツの言った幼き日の記憶という言葉がしつこく頭にこびりついているのだった。それでも教室へと向かって動き続ける足は変わらないのだから日常は恐ろしい。

 

 何て思っていた矢先に足が止まった。

 

 それは奇妙な存在だった。

 階段の踊り場に立つ俺の目の前、階段を数段上ったところに、二この学校の制服を着た艶やかな黒い髪を腰まで伸ばした小柄な少女がっ立っている。のだが、ソイツは顔に般若の面をつけていた。それがあまりにも制服とミスマッチで――般若面なんかにあう服装なんてものもそうそうないいだろうが――どこからどう見ても不審者にしか見えなかった。普段であったら眉をひそめて「誰だテメェ」くらい言えそうなのだが、それがあまりにも奇妙な雰囲気で口から言葉が出てこない。奇妙というのは、なんというかそれは存在が非常に薄いのだ。どこからどう見てもインパクト絶大な外見をしているのに、ふとすれば見過ごしてしまうようなその程度の存在感しか感じることが出来ないのだ。実際、俺の横を何人もの生徒が通り過ぎて行ったが誰もそいつに目を向ける奴はいなかった。なのになんで俺がそいつのことに気づけたのかといえばよくわからないのだが、向こうは俺に用があるらしくじっと仮面の奥からこちらを見つめていた。 

「……d¥#wて」

 ソイツは手を伸ばし俺に向けて何か言ったが何を言っているのかわからない。それこそ「て」くらいしか聞き取れなかった。だがソイツはそんなことお構いなしに、手を伸ばしたままゆっくりとこちらへ近づいてくる。その姿になぜだか俺は目が放せず、指一本動かすことが出来ない。

「おs%……*。して」

 今度は少し言葉が明瞭になった気がする。ほんの少しだけど。

「おも――して」

 一歩、一歩、ソイツが近づいてくるごとに言葉がはっきりとしてくる。同時に何か忌避感のような嫌な気持ちが心の中ゾワリと蠢いた気がした。

「思い#して。あの+の&pを」

 

 キーンコーンカーンコーンと朝のホームルームの始まりを知らせる鐘が鳴った。その途端にそいつは消えていた。

 まるで最初からそこにいなかったかのように。

 まるで、幽霊であるかのように。

 無意識に体がブルリと震えた。なんだか今まで気にならなかったよくわからないもやもやが急に意識の表層部に昇ってきたかのようなそんな気がしてならなかった。あたりには誰もおらず、遠くで無数のイスが引かれるガタガタという音が聞こえてきた。高い位置にある窓から差し込む日差しに体を包まれていると何故だか冷たく感じた。一人で踊り場に座り込んで、ぼそりと呟くしかなかった。

「遅刻じゃん」

 

 

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 三時間目。どうにもあの般若の面の女のことが離れなくて、でもそれを振り払いたくても授業に集中できるほどまじめな性格ではなく、俺は数学の問題解説を聞き流しつつ拾った猫のことを考えていた。名前の決まらないあの三毛猫。一体なんと名付けたものか。やたら凝った名前をつけるのもあれだし、

「……ミケ……」

 気づけばそう呟いていた。がそれにしても「ミケ」は安直過ぎるだろ。流石にそれはどうだろうか。なんて随分と否定的に考えるのだが、どうにも却下する気になれない。というか別に「ミケ」をあの猫の名前にしようとか思ったわけではなく、なにかもっと別なことに係わりあいのある言葉であると気づいたのは四時間目に入ってからの事であった。

「ミケ……ミケ……」

 何かが引っかかるのだがそれが何なのかが一向に思いつかない。いや、気づいてはいるような気がする。なのに思いつかない。なんだか心の奥底にあったもやもやに係わっているような。そんなことを思った途端、目の前にあの般若の女が現れた。気がした。はっきりと見えたわけではなかったのだが、一瞬あの般若の面が目の前に現れた気がしたのだ。もっとも今は授業中だし、あんなものが現れたら誰かが気づくはずだ。やはり気のせいなのだろう。なんとなくその流れで今朝の出来事を思い返し、あの般若の面の女の言葉を思い出す。

「俺は……今大切なことを忘れている」

 そんな気がした。

 

 昼休みになって、俺は樋渡を探していた。あの妙な般若の面の女も、いま俺の内側で燻っているよくわからない感覚も、全部今朝アイツが意味不明なことを言い出したことから始まった気がする。だから取り敢えずアイツを捕まえて色々と吐かせようと思ったのだが、アイツはどこにもいない。昼休みになった途端、ふらりとすぐ、どこかに消えてしまった。普段クラスでも孤立してるから誰かに聞いたところでアイツの行き先がわかる奴なんて誰もいない。仕方なしに学校内をぶらぶらとあてもなく探し回ったのだがまったく見つからなかった。

 そういえば、小さい頃に似たようなことをした記憶がある。誰を探していたのか覚えていないが公園のようなところで必死に誰かを探していた。それこそ茂みの中とか木の陰とかありとあらゆる場所を探していた気がする。たぶんかくれんぼでもしてたのだろう。あのときは、結局探し人はどこにいたのだったか、全然覚えていない。

 一通り校内を見回った俺は、結局樋渡を教室に戻ってきた時に捕まえることにして、とっとと教室に弁当を食いに戻ろうと廊下を歩き出した。その時だった。

「あ……」

 今度こそ再びあの女が俺の目の前に現れた。相変わらずあの般若の面を顔につけて。

「あんたは誰なんだよ、そんな突拍子もない格好してさ?」

 一度会ったからか、今朝のように体中が金縛りにあうようなことはなかった。ただ、妙な気分にはなっていた。それが何なのかは上手く表現できないのだが。強いて言うなら若干の恐怖と感慨深さのようなものを混ぜ込んだような感じだ。

「思い出して。あの子のこと」

 そして今回はあちらもはっきりと言葉を伝えてきた。今朝のように一部が聞き取れないなんて事は微塵もなかった。ただ、その声が少し音質の悪いスピーカーから聞こえてくるような雰囲気があって少しだけ不気味だった。

「あの子?誰のことだよ。大体人の質問にはちゃんと答えろよな」

「お願い……あの子のことを忘れないで……、忘れたふりなんてしないで」

 会話が成立しない。どうも向こうは俺の言っていることが耳に入っていないらしい。ただ必死に手を伸ばしてこちらに触れようとしてくる。なのに何故だかあの手が俺に触れるなんて事は永遠にないように思えた。

「お願い……」

 その声に切羽詰ったものと、それからなぜか懐かしいものを感じて、自然と手を伸ばそうとした。その時キーンコーンカーンコーン、と鐘が鳴る音がして彼女は俺の目の前から掻き消えた。綺麗さっぱり。朝と同じように。

「何なんだよ」

 自然に口が動いたが、それは随分と遠い。いや、薄っぺらい。俺は全然何なんだなんて思っていないし、彼女の言いたいことも理解している。昼過ぎのやけに強い日差しを受けて、何もわからないはずなのに俺はそう確信していた。

 俺は大切なことを忘れている。

 窓から見えた木々の影がやたらとはっきりしていた。

 

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「ただいま」

 誰もいない家にそう言って足を踏み入れる。学校では結局樋渡を捕まえることが出来なかった。それもそのはずで、アイツは五、六時間目を早退したらしい。俺が必死に校内を探し回っていた時にはアイツは既に学校内にはいなかったという事なのだ。まぁ、実際はそんなに必死でもなかったが。

 

 ナァ

 

 突然部屋の隅で鳴き声が聞こえた。そしてトコトコと小さな物体がこちらへ向かって歩いてくる。ゲージから出した記憶はないのだが。そこには昨日拾った三毛猫の子供がいた。相変わらず恐ろしいほど保護欲をかきたてる無垢な瞳をこちらへと向けてくる。それを見て俺はソイツを抱き上げた。ソイツは特に抵抗することもなく、俺の腕の中に納まる。

 そして彼女が現れた。

「思い出して……」

「思いだしたよ。アナタが言いたかったことも、それにアナタがあの時最後に言った言葉も」

 

「君のその悲しみはきっと眼をそらして忘れたふりなんかちゃいけないし、何かで誤魔化すべきものじゃない。それに、きっと君の心に空いたその今苦しくてしょうがない穴はどんなに小さくなっても決して埋まらないものなんだよ。だけどね、たぶんその穴を通り抜けるのは幸せっていう風だから、君のその悲しみがいつかの幸せに繋がるから。だからその子のことちゃんと覚えていてあげて。君がその子の為に流した涙を覚えていて。それはこの子の為でもあるし、君の為でもあるから」

 

 カラン、と音が鳴って般若の面が床に落ちた。そしてそこにあったのは、童顔でそれなのに大人びた表情をしたあの時と同じ彼女の顔だった。彼女の着ている制服は俺の通っている学校のものだがよく見ると所々若干デザインが違う。

「思い出したんだ」

 初めて、俺の言葉が彼女に伝わった。

「うん。あの時、アナタが俺を慰めてくれた時、俺は死んだミケを抱いていたんだ」

 あの頃、俺は近所の公園に住み着いていた野良猫とよく遊んでいた。名前は「ミケ」。三毛猫だったから。そのミケと遊ぶのが当時の俺には本当に楽しくて仕方がなかった。けれど夏のお盆の時期、遠くの親の実家へと行っていた俺が帰ってきた時、ミケは公園にいなかった。どれだけ名前を読んでも出てこなかった。不安になった俺が必死で公園中を――それこそ茂みの中から木の陰まで――探したら、ミケは公園の奥で死んでいた。いや、死に掛けていたのだ。俺がミケに走りよった時、一瞬だけうっすらと目を開けてか細い声でニャーとだけないて、目の前で死んでしまった。なんで死んだのかはわからない。餓死だったのかもしれないし、病気だったのかもしれない。それはついぞ俺にはわからなかった。けれど、死んでしまった。それが悲しくて悲しくて俺は泣いていたのだ。

「なんで忘れていたんだろう。あんなに悲しかったのに……」

 俺の心からの言葉に彼女は答えることはなく、代わりに、

「でも思い出したでしょ。もう、忘れないよね」

 そう言ってあの時の様に俺の頭をなでた。なでられる感触はなかった。

 それで、彼女はいなくなった。たぶん今度こそ完全に。

 

「これで一件落着かな?」

 背後から声がした。振り向くとそこに樋渡が立っていた。その髪は学校で見る黒髪ではなく白銀の色をしていた。

「なんだその頭」

 俺が呆れたようにそう言うと、あの皮肉げな笑みを浮かべて樋渡は答えた。

「地毛だよ地毛。でも学校にこれで言ったら校則違反だろ?だから毎日染めてるんだ、学校に行く時だけね」

 楽しげにいうソイツの服は黒い修道服のようなものだった。

「で、お前は何?死神かなんか?」

 樋渡はそれには直接答えなかった。

「まぁ、僕的には白兎の役がいいかな」

「何それ?」

 

 

 

 それで、今度こそ、この話は終わった。

 結局俺は今も彼女の言っていた悲しみの穴を通る幸せにはまだ出会っていないような気がする。ただ、なんとなくいつかは出会える気がした。

 それから樋渡が教えてくれたことだが、彼女は十七歳の夏休みに自動車事故で死んだらしい。おそらくは俺が彼女とであってそのあとすぐの事だったのだろう。一度しか会ったことのない俺に会いにきたのはなんでだったのだろうと聞いてみると、樋渡は、

「大抵はああいうのは死ぬ瞬間に一番心に思っていたことしか残らないからな」

 何て言っていた。

 こうして俺の他人にとってはどうでもいいような話は終わった。変わったことといえば樋渡とよく話すようになったことくらいだ。

 

 それから、猫の名前は未だに募集中。

 

 

 

         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
卒業前に部活の何かに乗せるということで書いたわけのわからない話です。
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幽霊  死神 

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