清・恋姫無双 第五話 討伐 |
ある日、一刀たちは白蓮が盗賊を討伐しに行くというのでそれに同伴していた……
今まで、討伐は幾度と無く行ってきた彼らだが、兵を率いて討伐を行うのは初めてになる。
「しかし仕官して間もない我々に左翼全部隊を任せるとは…白蓮殿もなかなか豪気なことをなさりますね」
愛紗は自身の後ろに控える兵たちを見て呟いた。
彼らの大半は義勇兵で、討伐に赴くのはこれが初めてだ。もちろん命のやり取りも初めてであり、その覚悟から重苦しい雰囲気が彼らを支配していた。
「それだけ期待されてるってことかな?」
「なら、白蓮の期待に応えられるように頑張ろうな」
「任せろなのだ!」
「ああ、鈴々は元気だなぁ(ナデナデ)」
「にゃ〜〜〜」
「はぁ。鈴々もご主人様ももう少し緊張感を持ってください」
自信満々に胸を張る鈴々の頭を一刀が無意識に撫で、それを愛紗が窘める。そんな戦場とはかけ離れたやり取りに、いつの間にか義勇兵達の緊張は霧散していった……
そうこうしている内に、白蓮の演説が始まった。
「諸君!いよいよ出陣の時だ!今まで幾度となく退治しながら、いつも逃げ散っていた盗賊共!今日こそは殲滅してくれよう!公孫の勇者たちよ、今こそ手柄の好機ぞ!存分に手柄をたてぃ!」
「「「「うぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!」」」」
その声に兵達は大気を、大地を振るわせる鬨の声で答える。
「出陣だ!」
そして白蓮の言葉とともに兵達は一斉に移動を始めた。
「ご主人様、どうかなされましたか?」
進軍途中で一刀がいつもと違う面持ちをしていたことに気付いた愛紗が、心配そうな顔で尋ねてきた。
「別に、なんでもないよ。ただちょっと緊張してるだけ」
その声に気付いた一刀はいつもの笑顔で愛紗に答えた。
「はあ、そう仰るのならば良いのですが」
愛紗は彼が何かを隠していると思ったが特に詮索することなく馬を進めていった……
「全軍停止!我が軍は鶴翼の陣を敷く!粛々と移動せよ!」
しばらく進んだところで伝令が命令を伝えながら前線へと駆けていく。
「いよいよですね。桃香様とご主人様は後方で待機していてください」
「いや、俺も行くよ」
その発言に愛紗が声を荒げた
「駄目です!これから相手にするのは今までの盗賊とはわけが違うのですよ。確かにご主人様はお強いですが、何かあってからは遅いのです!」
しかし、一刀は真剣な眼差しのまま答えた
「戦える力があるのに、何もせず指を咥えてみているだけなんて真似は出来ないよ。それに、この戦いで失われる者たちが、もし俺が行っていれば助かっていたんじゃないか……って後悔はしたくないんだ。自惚れかも知れないけどね」
その目には決意の炎とその奥に底知れぬ悲しみが宿っていた。それを感じた愛紗は諦めた表情で
「……分かりました。しかし、くれぐれも無理はなさらないようにしてくださいね。背中は私がお守りします」
「もし何かあっても鈴々がお兄ちゃんのこと守ってあげるのだ」
「ああ、二人とも頼りにしてる。代わりと言ったらあれだけど、二人のことは俺が守るからな……じゃあ桃香、行って来るね」
「うん、三人とも気をつけてね」
そして愛紗が兵たちのほうへと向かい声を上げた。
「聞けぃ!西駕の兵たちよ!敵は烏合の衆だ!だが慢心はするな!それが命取りになるぞ!白蓮殿の下、共に戦い、勝利を味わおうではないか!」
「「「「「応!」」」」」
兵たちが士気の高い声で応え、愛紗はその反応に満足したような顔で頷くと再び口を開いた。
「これより戦訓を授ける!心して聞け!」
その愛紗の言葉に鈴々が前に進み出て、普段とは違い真面目な武人の顔で口を開いた……
「兵隊のみんなは三人一組になるのだ!一人は敵と対峙して防御!一人は防御している横から攻撃するのだ!最後の一人は周囲の警戒なのだ!」
「敵を飢えた獣と思い情けをかけるな!情けをかければそれはいつか仇となって返ってくると思え!」
「おおーーーーーーー!!」
兵たちは高らかに気合のこもった声を上げる。
「全軍、戦闘態勢を取れ!」
愛紗の号令とともに兵たちが抜刀する。それと同時に盗賊たちのほうも動き始めた。
一刀はそれを見て刀を天高く掲げた。そして、
「全軍突撃ー!!」
兵士すべてに響き渡る声で一刀は指示を出し、『白心』を盗賊たちに振り向けた。
「おおーーーーー!」
瞬間、兵たちは駆けだし、茉宏たちもそれぞれ武器を構え駆けていった……
兵達は自らが戦禍の下にいるというのについつい自分たちを率いている三人の武人の動きに見とれてしまっていた……
「はぁぁぁぁっ!」
まさに圧倒的……そう呼ぶに相応しい圧倒的な武力を愛紗は披露していた。
何人もの盗賊がたった一振りの攻撃によって吹き飛ばされていく。
その何人たりとも寄せ付けぬ青龍偃月刀の一振りは彼女の凛とした美しさと共に輝いた
「にゃにゃにゃ〜〜〜〜!」
無邪気に駆け回る鈴々の姿はまるで子供。ここが草原だったなら微笑ましい光景だっただろう……
しかしそこは戦場。自分の何倍もの丈のある武器を振り回し、これまた自分の倍以上ある盗賊をいとも簡単に吹き飛ばす光景はある意味異質だった。
「・・・・・・」
混戦する戦場をまるで風のようにすり抜けていく白い影
その影が通り過ぎて行った後には、何が起きたのか理解できないまま地に伏していく盗賊たちだけが残っていた……
一刀の顔にはいつもの笑顔は無く、氷のような冷たい表情のまま淡々と盗賊を切り倒していく……その冷徹なまでの動作は彼の隠された清艶な雰囲気を強調し、敵味方を問わず思わず見惚れさせた。
「な、なんだこいつら!?強すぎる!」
「あいつらには構うな!弱い奴等から殺るんだ!」
盗賊たちは三人と戦うことをやめ、兵達を中心に相手をするようになる。
「くっ、盗賊ごときが」
「へへっ、複数で相手をするとは考えたな。だけどよ、囲まれたらどうよ?」
その言葉通りに兵たちは数十人の盗賊たちに囲まれていた。
「おらぁ!」
「くっ!」
彼らは半ば諦めていた。死ぬのは怖いが、戦場に立っている限り起こりうることだと覚悟の上だった……それでも、自分たちに迫る凶刃に対して目を瞑らずにはいられなかった。
ズバッ
「えっ?」
ドシャ
しかし、目を開けた先には盗賊たちの代わりに一刀がおり、周りを囲んでいた十数人の盗賊は悉く地に伏していた。
「駄目だよ諦めたら。立ち向かわなくちゃ」
兵たちは気付かなかったが、彼らに向けた表情はどこと無く悲しそうだった。
「はいっ!申し訳ありませんでした!」
「謝罪はいいから、戦に集中して。いっしょに生きて帰るんだ」
「はいっ!」
そういうと一刀はまた戦場の中へと消えていった
「「「(俺達も頑張らなきゃ!!)」」」
結果から言えば盗賊たちの戦線はすぐに崩壊した。
多勢とはいえ所詮は烏合の衆、統制された軍隊の敵ではなかった。
中でも功績が大きかったのは一刀たち率いる左翼部隊で、最も戦果を大きく挙げ、被害もほとんど無かった。
それは愛紗や鈴々の働きも大きかったのだが、やはり一刀の戦いぶりが凄まじかった。
彼は常に戦場を駆け回りながら盗賊を切り伏せ、危険にさらされた兵がいれば、それを助けるために疾走していた。
また、兵たちはまさに一騎当千の文字が相応しい三人の奮戦ぶりを見て士気を高め、結果として生存率の上昇につながった。
逆に盗賊たちは彼らにしてみれば鬼神のごとき三人に恐れを為し、士気を落としていった。
もはや戦いを放棄し、逃げ出そうとする者もいたが、誰も逃げ切ることはできず、そのことごとくが討ち取られていった。
結果、公孫賛軍は完全な勝利を手にしたのだった。
「完全なる勝利、だったな。よかったよかった〜」
戦いを終え、桃香たちは白蓮たちと合流した。
「やったね白蓮ちゃん!」
桃香が笑顔で白蓮の元へと駆けていき、白蓮は笑顔でそれを出迎えた。
「いや、桃香たちが頑張ってくれたおかげだよ。……あれ?北郷はどうした。一緒じゃなかったのか?」
その場には、最も活躍したはずの茉宏の姿は無かった。
「ご主人様なら「先に行っててくれ」って言ってたから、まだ残ってる筈だよ」
桃香が指差した方角には先ほどまで討伐の舞台となった荒野があった。
「は?何してるんだ?」
「ん〜、わかんないけど、ご主人様にとって何か大事なことなんだよ、きっと♪」
「ふーん……それならいいんだが」
自分の主の不可思議な行動にもあっけらかんと答える桃香の姿に白蓮は彼女達の絆の強さを感じていた
と、そこに穏やかならぬ表情をした星が彼女等の話に混ざってきた
「しかし……伯珪殿。最近、何やらおかしな雰囲気を感じませぬか?」
星には今回の盗賊たちを見て疑問に思うことがあった。
「おかしな雰囲気……?どうだろう。私は特に感じたことは無いけど」
「白蓮ちゃんってば、のんびりしてるねぇ〜」
「むむっ。……確かにそうかもしれないが、桃香にだけは言われたくない……」
「あ、白蓮ちゃんってば、ひどぉい!」
キャイキャイと騒ぐ二人を微笑みながら見つつ、愛紗が口を開く
「しかし、星の言うことも尤も。最近、特に匪賊共の動きが活発化しているように感じます」
「お主もそう思うのか……」
「ああ。ここしばらく、匪賊は増加の一方だ。その者共が村を襲い、人を殺し、財貨を奪う。……地方では飢饉の兆候すら出ている」
「食料が奪われたら、そりゃ飢饉も起こるのだ……」
「それに、話によれば国境周辺では五胡の影もちらついているという。何か大きな動乱に繋がるやもしれんな」
三人とも険しい顔で口を開くなか、
「いや、もうすでに事は起こっているさ。まだ表面的に表れていないだけで」
そこには一刀がいつの間にか帰ってきていて、神妙な面持ちで会話に参加していた。
「ご主人様!戻られていたのですか」
「お兄ちゃん、お帰りなのだ」
「ああ、ただいま。と、それより鈴々、さっきの話だけど今回の盗賊たちに何か共通点は無かった?」
「ん〜、あっ!黄色い布を頭に巻いていたのだ!」
「そのとおり。それが奴等……黄巾党の特徴だよ」
「黄巾党?それはどのような者たちなのですか?」
「彼らは漢王朝の圧政、太守たちの怠慢などに耐えられなくなり立ち上がった元民衆だよ」
「では、なぜ盗賊のような真似などを……」
「確かにそう思うのも無理は無い。しかし、俺達は各地を見てきたから分かると思うけど、いまの官軍に奴等を倒す力はもはや無いに等しい。そんな中で彼らはどうするか……」
「……脅威がなくなれば、もはや何をしようが奴等の自由になるというわけですね」
「そう。本当に漢王朝を倒そうと思ってる奴等もいるだろうが、ほとんどは自分の欲望を満たすために集まってるにすぎないと思うんだ」
「確かにそうかもしれませんな……」
「しかし、それもこれも漢王朝の腐敗が原因ですか……」
「もう漢王朝には任せられないのだ!」
「そんな風に漢王朝に不満を持っている民衆は大陸中にいる。もはや不満が爆発するのは時間の問題だろうな……そうなったらこの大陸は間違いなく動乱の世になるよ」
「抑えられないのが歯痒いですね……」
「そうだね。けど、その中でどうやって俺達が立って行くのか……それが問題だと思う」
「そう……ですね」
愛紗たちは険しい顔つきで空を仰いでいた。
「まぁ、そんな難しい顔をしてても何も始まらないさ。今は、目の前の混乱に対処していこう」
一刀がまとめるように言うと、ちょうど桃香と白蓮の話も終わっていた。
「あっ、ご主人様〜お帰り♪」
「ただいま、桃香。なんかご機嫌だけどどうかしたの?」
「うん。あのね、白蓮ちゃんが私達のために宴を開いてくれるんだって」
「宴?やった〜酒が飲めるのだ!」
宴という言葉に鈴々は先ほどとは打って変わって嬉しそうな顔を見せていた。
「こら、鈴々はしゃぐんじゃない!……しかし宜しいのですか、我々などのために宴など開いても」
「ああ。今回の討伐がうまく行ったのは桃香たちの手腕に拠る所が多いからな」
「良いではないか愛紗よ、ここで断るのも無粋だぞ」
「それもそうだな。白蓮殿、ありがたくお受けします」
「ご主人様も良いよね?」
「あっ、ああ……」
「??」
「じゃあ、今日の夜にやるから、そのつもりでな」
「「はーい(なのだ)」」
「宴か……まぁ、気をつければ大丈夫かな」
一刀のつぶやきは誰の耳にも入ることは無い……
あとがき
今回の話はどうでしたでしょうか?
作者としては、主人公に少し影を持たせたいなって思ってるのでいろいろと伏線を張ってはいるのですが、うまくいきませんね。話がつながらない……
それでも、何とか書き進めていきますので、感想・要望・改善点などがありましたら気兼ねなくコメントしていただけると幸いです。
それでは、次話もよろしくお願いします。
説明 | ||
今回は討伐のお話です。一刀は何を思うのか…… 話の参考になるかと、ほかの作者の作品を見るたびに自分の文才の無さに悲しくなります。 どうやったらアイディアって思いつくんでしょうね。 |
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