とあるこどもの日のとある一幕 |
真っ青な空に鯉のぼり気持ち良さそうに泳いでいる。連休前の休みにお父さんが頑張ってポールを立てた鯉のぼりだ。黒い鯉、赤い鯉、青い小さめの鯉、それにピンクの鯉が仲良く泳いでいる。
「「やねよりたかい?こいのぼり?おおきいまごいは?」」
弟妹が楽しそうに口ずさみながらお父さんに寄りかかりながら飽きもせず鯉のぼりを見上げている。お父さんがポールをたてている間も、ずっと本物の鯉のぼりだとはしゃいでいたけ。
我が家では去年まではお手軽なミニ鯉のぼりをあげていた。ただ幼稚園に飾ってあるのや、テレビで映し出される鯉のぼりをみて二人が口を揃えて、『うちのはちいさい』『にせものだ』と嘆いていたのをお父さんが覚えていたらしく、今年から大きな鯉のぼりへと変わった。
「じっと眺めてどうしたの、ほら、お茶にしましょう。」
私が三人を眺めていると後ろからお母さんの声がした。振り返るとお母さんがお盆に柏餅とチマキ。それと冷たい緑茶をのせていた。
「何でもないよ。二人とも嬉しそうだなって。」
「亜由美も小さい頃はあんなだったわよ。お父さんがいる時はね。」
お母さんがテーブルにお盆を置いて、私が見ている方向へ視線を向ける。その表情は懐かしそうな感じがした。もしかしたらお母さんの目には、今見えている光景とは別の光景が重ねて見えているのかもしれない。
「そうなんだ。ねぇ、小ちゃい時の私って、どうだった。」
印象に残る事はちゃんと覚えている。でもあの日、あの時の思いが強く残り、それ以外の日常はぼんやりとしか覚えていない。
「そうね。よう君達とあまり変わんないかな。ただ一人っ子だったからあの子達と逆ね。真ん中に座ってたわよ。覚えてない?」
そう言ったお母さんはどことなく寂しそうな感じがした。たぶん私が忘れてしまっているかもというのが頭をよぎったのかもしれない。
「覚えている。いつもお母さんとお父さんの間に座りにいったよね。」
私がそう答えるとお母さんはとっても嬉しそうに話しはじめる。幼い時の記憶の大半はお母さんとお父さんに挟まれて座っている私。
「亜由美の指定席だったもんね。それでいじわるで間を閉じるとムキになって手を私達の間に手を入れて座りにくるんだよ。泣きそうな顔してね。」
「それは覚えてないよ。でも最近、よう君が同じ事するよ。泣きそうではないけど。」
私と彼が並んで座ってたりすると後ろから二人の間に手を入れて私達の間に入ってくる。私がそう言うとお母さんが可笑しそうに笑う。
「さすが姉弟ね。見ていたわけでもないのに。さて、お茶が温くなる前に、食べましょう。よう君、りょうちゃん、おやつだよ。こっちにおいで。」
「「は?い。」」
お母さんが三人に声を駆けると、お父さんに引っ付いていた弟妹は大きな返事と共に、我れ先へとこちらへと駆けてくる。
「きょうはなに?」
「今日は柏餅とチマキだよ。」
「ふたつもいいの?」
「やった?。」
そう言って寄って来た弟妹に柏餅とチマキを手渡す。二人は両手で受け取り、満面の笑みを浮かべる。そして早々とお父さんの側に戻ろうとする。
「ほら、ダメだよ。ちゃんと座って食べないと。」
「いや、こいのぼりみながらたべるの。」
私が座るようにうながすと、弟はそう言って駆けてお父さんの隣に戻っていく。残った妹は私とお母さんの顔を眺めつつ、そしてお父さんと弟のいる方向に視線を何度か往復し、何やら良い事を思いついたのかニコニコとして私の袖を引っ張る。
「ねぇ、みんなであっちでたべよう。ねぇ?」
どうしたものかと思い、お母さんを見る。するとお母さんはニッコリとわらい妹の頭を撫でてOKを出した。
「そうしようか。さて、亜由美、お茶お願いね。りょうちゃん、これお父さんにね。」
「は?い」
妹はお母さんからもう一つ柏餅とチマキを受け取って先ほどの弟と同じように駆けてお父さんの所に戻る。
「お母さん、いいの?」
「いいのよ、あっちの方が気持ち良さそうでしょう。」
お母さんがそう言うと開けっ放しになっているリビングドアから気持ちのよい風が吹き込んで来た。確かにここよりもあっちの方が風通しが良い。そんなことを思っているとお父さんが私達を呼ぶ。
「二人もこっちに来てごらん。すごく気持ちがいいよ。あとお茶をください。」
「ぼくも。」
「わたしも。」
私とお母さんは顔を見合わせてお互いに笑い。三人がまっているリビングドアに移動した。こうして初夏の陽気な匂いが漂う、こどもの日の穏やかな日常がすぎていく。
fin
説明 | ||
さて今日は端午の節句。皆様のご家庭ではいかがお過ごしされているのでしょうか。兜飾り、五月人形、柏餅、ちまき、鯉のぼりとお祝いの仕方はそれぞれだと思います。さて彼女はどんな日を過ごしたのでしょうか。 | ||
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小説 とある 端午の節句 鯉のぼり 柏餅 ちまき | ||
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