恋姫異聞録59 定軍山編 −雲と秋−
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「はっ、はぁっはぁっ、くそっ間に合え」

 

「兄者っ!これより先は分かれ道、どうかご無事でっ!」

 

「頼む一馬。兵を少しでも早くたどり着かせてくれっ」

 

激走する二頭の馬は分かれ道で左右に分かれる。亜麻色の毛並みを持つ馬は疲れを知らぬかのように

背に乗る蒼い外套をなびかせる男の気持ちに応え脚を動かし、地を削り疾走する

 

「何が運命の分かれ道だっ!俺はそんな事は認めない、そんなものに妻を殺させたりするものかぁぁぁぁぁっ!!!」

 

握り締める手綱から血が流れ、風に流され飛ばされる。飛ばされた血は馬体に赤い斑点を残し、それを

力にするかの如く、走る馬の脚は剛脚となり地を駆け叫ぶ男の心に精一杯応えた、それが己の使命である

と言わんばかりに

 

 

 

 

 

 

「皆よいか、私は昭を追いかけ定軍山へと向かう。凪たちは城で一馬が用意した兵と合流しこちらを目指せ」

 

「御一人で行かれるのですか?!」

 

「昭の眼が濁っていた、このままではどうなるか解らん」

 

春蘭の体から殺気が漏れ出す。妹の危機と義弟の心配、その二つが春蘭の心で激しい炎を燃やす

その身体に少しでも触れれば大爆発を起こしてしまうような危うい殺気、そんな殺気を馬上で纏う春蘭の前に

扁風が立ちはだかり目の前に木管を広げた。周りの皆はその行為に驚くが木管には地図が記され春蘭は

それを受け取り、柔らかく笑う

 

「すまん、礼を言うぞフェイ」

 

手にする木管には定軍山に向かう最短の道を書き記したもの、稟と風との交流で道を地図として頭の中に

叩き込み、情報の必要な今、即座に木管に記して春蘭に渡していた。あまりの記憶力に周りの者たちは

驚き、そんな驚いている中の一人である凪にも素早く木管に地図を書いて手渡す、地図の指し示す先は『許昌』

 

「ありがとう、私と一緒に」

 

凪が手を差し出すと扁風は柔らかく微笑むと淡い紫色の髪をなびかせ手を掴み馬に飛び乗る

後ろでは真桜の前にちょこんと風がいつの間にか乗っていた

 

「行くぞ、一刻も早く昭に追いつき秋蘭を救うのだっ!」

 

『『応っ!!』』

 

馬の腹を蹴り、春蘭は一気に馬を加速させていく。ゆらゆらと陽炎のような殺気を漲らせ、身のうちに焦燥を閉じ込めて

 

我が妹の命を狙うとは、後悔させてやろう。二度と日の目を見ることが出来ぬよう、胴から首を我が剣で食いちぎってやる

 

 

 

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「・・・・・・ここが定軍山か」

 

「秋蘭様、周囲を偵察してきましたが、特に変わった様子はありませんでした」

 

周りは木々に囲まれた山道、連れてきた兵士も見回りの為それほど多くは無い数、秋蘭は

周りを見回し、地形を頭に入れていく。流琉の言葉を疑うわけではないが、用心に越した事はない

ここはもう国境なのだ、いつ敵と遭遇するかわからない。ならば敵に備え、地の利を自分のものとしておく事は

大事なことだ、何時ものように冷静に自分の周りを観察し記憶していく

 

「念の為、近くの村人達にも話を聞き合わせましたが、見慣れない騎馬が数騎うろついていた以外は特に変わった様子は」

 

「そうか、何時もの偵察かもしれんが数日は留まり様子を見よう、何か動きがあるかも知れん」

 

偵察ならば地形を見られるだけ、これ以上先にはこれないはずだが見慣れない騎馬か・・・少し気になる

今の劉備に我等と戦っても勝つ見込みなどは無い、下手に手を出してくるとは考えにくいが

 

「・・・」

 

「秋蘭様、兄様のことですか?」

 

「フフッ、違う。そう何時も昭のことばかり考えてはいないさ」

 

どうやら私は皆からそういう眼で見られているようだな、流琉は「あはは・・・」と笑ってごまかしているが

先ほどの言葉で解ってしまうさ、だがそれも仕方が無いか。劉備との戦いが終わってから私は昭の側に

ずっと付いていた、戦場で舞うなどもう十分だ昭は皆の前で舞っている方が似合っている、皆の笑顔の中で

 

「ぐあっ!」

 

兵の一人に矢が突き刺さり倒れる。秋蘭は直ぐに反応し兵を纏め始めた

 

「・・・・・・伏兵がいたか、皆敵の襲撃に備えよっ!」

 

秋蘭は倒れた兵士に目を伏せると、更に指示を出し兵たちを動かしていく

 

「兵を移動させるぞ、一箇所に固まっていたら狙い打ちに合う」

 

「はいっ!」

 

気になっていたことがこんな風になるとはな、敵の規模も敵が誰なのかもわからん、全ては後手に回っている

伏兵が劉備のところであるのは間違いなかろう、下手に森を出ては敵の良い的だ、今は情報を集めつつ

兵を一箇所に留まらせないことが大事だ

 

「流琉、斥候を放て。敵の情報を少しでも多く手に入れる、突破できる場所があるか探らせろ」

 

「はい、人数は?」

 

「少なくて良い、後をつけられても困る」

 

兵たちは音を立てず森の中を移動していく、秋蘭は来る途中にその目で確認した地形を反芻しながら

率いていく、身を隠せる場所を、そして敵を突破し自分達の領土へ戻る為に脱出経路を探していく

しかし敵はあらゆる所から出現し、兵を削られ斥候もまったく帰ってくる様子は無い

 

・・・森を包囲されているか。どこから逃げても無駄だ、兵も度重なる奇襲で散ってきている

日が沈みきりまた上る前に、どうにか突破口を見つけなければ

 

「秋蘭様・・・」

 

「大丈夫だ、もう直ぐ日が暮れる。身を隠し、闇に乗じて突破口を探るぞ」

 

自分の妹のように思う少女に安心させるよう優しく笑いかける。その笑顔で流琉は力強く頷き

不安をかきけした。

 

しっかりしなければ、我等はこのまま敵に喰われてしまう。ここから許昌は遠い、援軍も期待できない

八方塞だ、だが私は諦めたりはしない。舞王の妻が心折れることなどありはしないのだから

 

ふと空を見上げる秋蘭の瞳には大空が映り、空を浮かぶ雲が夫の姿を思い起こさせた

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

馬を追い、息を切らせ走り続ける。空は薄暗く、もう直ぐ夜の闇へと周りを包もうとしていた

 

日が暮れる、これなら秋蘭のことだ兵をもたせることが出来るはず。頼む流れ矢などに当たらないでくれ

敵はおそらく黄漢升、ほかに誰が来ているかは予想がつかないが弓の名手である黄忠だ、狙撃されたら・・・

 

妻が矢を受ける姿を想像し男の顔が一瞬で青ざめ、手綱を握る手はブルブルと震えだす。

 

駄目だ、秋蘭が死ぬわけなど無い。今は余計なことを考えるな、走れ絶対に助けるんだっ!

 

 

 

 

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許昌の城門に飛び込むように一馬を乗せた馬が入り込む、あまりの速さに城門を警備していた兵士は

驚き、腰を抜かしてしまうが一馬は気にすることも無く、華琳の居る城へと馬を走らせた

 

場内を馬で走りぬけ、玉座の間の前で馬から飛び降り滑り込むように華琳の座る玉座の前へと

躍り出た

 

「報告しますっ!定軍山は罠です、このままでは姉者がっ」

 

肩で息をし、必死の形相で報告する一馬を見て桂花は驚き、さらに青洲から一日半ほどしか掛からずにこの許昌へ

姿を現したことに稟までもが驚く、そんな中で華琳は冷静に、一馬に口を開く

 

「情報は?」

 

「兄者です。天の知識ですっ!」

 

一馬の言葉を聞いた華琳は玉座から立ち上がり桂花と稟に指示を飛ばし始める

 

「兵の用意を、秋蘭がここを出てからまだ日がたっていない、出られる者からすぐに出しなさいっ!」

 

「御意」

 

「一馬も兵を連れて直ぐに出なさい、春蘭たちは?」

 

「姉様は皆を連れて許昌を目指しておりますっ」

 

「解ったわ、稟、霞たちを準備させて。春蘭たちを待つ必要は無いわ、急ぎなさい」

 

「はっ」

 

指示を飛ばし、一馬は兵舎に走り、桂花は輜重隊を編成し、稟は兵の編成を始める。

華琳も己自身で出撃する為、直ぐに準備を始めた

 

劉備か、あのような目にあって未だ私達に手をだすのか・・・

それとも蜀に下った馬家の者の仕業?

 

どちらにせよこれ以上私の大切な仲間を傷つけさせない

もう二度と誰かに期待する事はない、私には仲間がいる、支えてくれている人がいる、だから私が信じるもを貫き通す

 

それが昭が言ってくれたこと、相手が誰であろうと構わないわ、私は覇王!牙をむくものを許しはしない!

 

『絶』を握り締める手に力がこもる。

 

前回は自分の甘さで男に舞を舞わせ、その身体に大きな刀傷を着けてしまった

だが覇王に後悔は無い、後悔をするよりも前を見て己の理想を貫く

 

邪魔をするものに静かに怒りを滾らせ、理想を支える仲間を傷つけようとするものに全力を持って叩き伏せる

 

華琳の眼には馬騰の時に見せた強い意志の灯が灯った

 

「華琳様、準備が整いました」

 

「出るわよ、目標定軍山!強行軍で目指す。脱落者は後方から来る別の隊に拾わせなさいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「秋蘭様、敵の攻撃が少なくなってきましたね」

 

「ああ、日が昇るのを待って包囲を狭めるつもりだ」

 

せめて日が昇らぬうちに包囲を狭めてくれれば闇に紛れ突破することも出来るだろうが

こちらの動きを待たれるのはきついな、しかも兵はここに留まるだけで体力を消耗していく

敵将は随分とやるようだ、どうする?突破できる場所は全て潰されているようだ

 

「今動くのは危険ですね、どうしましょう」

 

「包囲網の穴を見つけたいがおそらく敵は森の外を囲むように兵を配置しているだろう。

最悪は無理やり突破するしかない」

 

そうなると殿は私、流琉にはそんな事はさせられない。敵の数は多いな、これだけ攻撃を繰り返して

なお森の周りを包囲するのだ、少ないわけが無い。やはり無理やり突破するしか道は無い

 

死ぬわけにはいかない、絶対に死ぬわけにはゆかない、華琳様の覇道を支えると

私たち三人は約束をしたのだ、約束は守る。そして、昭の顔を悲しみに染めるなど・・・

 

駄目だっ!それだけは絶対に駄目だっ!

 

秋蘭は顔を振る、そして弓を握る手に力が入る。そんな姿を流琉に見せまいと森を警戒するように

後ろを向いた

 

どれだけ昭が私達のために傷つき、泣いてきたのだ。私は支えると言ったのだ

だから私は負けるわけにはゆかない、ここからも皆と共に生き延びてみせる

 

振り向く秋蘭の強い意思を宿した横顔に、流琉や兵士達は折れそうな心を立ち直らせる

ここから生きて帰るために

 

「私は舞王の妻!私を信じろ、必ずここから生きて帰るっ!」

 

 

説明
定軍山編

ころころ場面が変わるので読みずらい
かも知れませんが力不足です申し訳ない

何時も読んでくださる皆様、感謝しております
ありがとうございます^^

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コメント
神龍白夜様コメントありがとうございます^^間に合え昭!!走れ!妻を救えー!!(絶影)
kyowa様コメントありがとうございます^^偽・悲恋姫†異聞録もまた異聞録の一部ですので彼女の思いは変わらず!凛々しい彼女をお楽しみください!(絶影)
リョウ様コメントありがとうございます^^次回も良いところで切れてしまいます^^;続き頑張りますので次もよろしくおねがいします^^(絶影)
Ocean様コメントありがとうございます^^続きはなるべく早く書き上げますので!!次は色々因縁の対決のようなものが多いので楽しんでいってください!!(絶影)
ねこじゃらし様コメントありがとうございます^^旦那なのだから頑張れ!走れ!間に合えー!!(絶影)
toki様コメント「ありがとうございます^^いつもよいところを気が付かれますね!占い師ともども今後をお楽しみください><劉備は果たしてあのままなのか?など色々楽しくなってきましたよー(絶影)
GLIDE 様コメントありがとうございます^^背中合わせな絵、私も見たいですね!!仰るとおり真桜は誰になるのでしょう、変わらないで欲しいのですが(絶影)
宗茂様コメントありがとうございます^^急げ昭!間に合えみんな!次回をお楽しみに!!(絶影)
双神 様コメントありがとうございます^^果たして昭は舞を使うのか?それも使わないのか?秋蘭の元に間に合うのか?次回をドキドキしながらお待ちください!!(絶影)
Night 様へコメントありがとうございます^^秋蘭の強烈な決意を感じてくださってありがとうございます^^次回の魏の動きにそしてある人物の活躍をご覧ください!(絶影)
めるきお様コメントありがとうございます^^走れ昭!間に合え魏のみんな!果たして間に合うのか!!次回もきになる終わり方になってしまいそうで先に謝っておきます!ごめんなさい><(絶影)
KU−様コメントありがとうございます^^次回も気になるところで切れますよー御免なさい^^;(絶影)
秋蘭を救えるのか!?間に合え昭!!!(リンドウ)
まさか、こちらでも舞王の妻宣言が聞けるとは!昭は間に合うのか!?(kyowa)
何て良い所で切れてるんだ…続き…続きが気になる…(リョウ)
やばい、続きが早く読みたくなる。 今回は秋蘭の『舞王の妻』としての思いが良かったです。相手が黄忠と馬姉妹なら、次回はママさん弓使い同士と義兄弟の対決ですな(Ocean)
秋蘭を救えるのは旦那だけだ!間に合ってくれ!(ねこじゃらし)
更新お疲れ様です。敵の正体が気になりますね。以前のままの劉備ならばやりかねないが、果たして本当に黄忠なのか。今さらながら、あの占い師がわざわざ出向いてきた事が気になってきました。(tokitoki)
秋蘭と昭が背中合わせで戦ってるCGが頭に浮かんだ…未来予知かなwwそういえば萌将伝の真桜のCVは誰になるんだろう?(GLIDE)
急げ昭〜!  続きが楽しみです。(宗茂)
ものすごく続きが気になります!やはり昭は舞をするのでしょうか?春蘭もきになりますね。(RAIN)
お疲れ様です。秋蘭の『舞王の妻』としての生き残る決意、身を案じてあせる昭君は、曹操軍のほかの面々は、どうなるのか楽しみです。(Night)
続きがすごく気になります!しかし原作でも春蘭たちはギリギリだったから、翠や蒲公英との兄妹喧嘩が勃発するのか?眼が濁った状態の昭がどうなるか気になるところだが、今は奥さんの下に早く駆けつけるんだ!(めるきお)
気になるところで切れるな〜。続きを楽しみに待ってます。(KU−)
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