真・恋姫無双『日天の御遣い』 拠点:許緒・典韋
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【拠点 許緒・典韋】

 

 

「兄ちゃん!」

「あっ、ちょっと季衣!」

 

 部屋主の了承も得ずに勢い良く扉を開けた親友に、眉を八の字にして流琉は溜め息を零す。

 時刻は正午。自分たちが兄と慕っている旭日を昼食に誘おうと思い立った二人は現在、彼の部屋を訪れていた。

 

「もうっ! 兄様に部屋へ入る時は、のっくするように言われてたでしょ?」

「えへへ、ごめんつい……って、はにゃ? 兄ちゃん?」

 

 表情を苦笑からきょとりとしたものに変え、部屋の中を隅々まで見回す季衣。それに流琉もつられて目を動せば――いつも笑顔で迎えてくれる、旭日の姿がどこにもないことに気付いた。

 

「……留守、みたいだね」

「えぇー……うー、まだ誰にも教えてない、とっておきのお店に行こうと思ってたのになぁ」

「早いうちに言ってなかった私たちが悪いんだし、しょうがないよ。それにしても……兄様ったら、鍵を閉めずに出掛けるなんて、後で注意しておかなきゃ」

 

 基本的に尊敬できる兄なのだが、自分自身のこととなると妙に手を抜くのが困りものだ。

 この部屋だって綺麗にされてはいるけれど……何故だろう、少し寂しい感じがする。勿論それは主が不在であることが大きいものの、簡素な部屋の有様が寂しさを増長させているんじゃないかと、流琉には思えた。

 書簡が積まれた机。

 起きてそのままの寝台。

 来客用の円卓。

 本当に、その程度しか物らしい物が全くない。もしもきちんと机の上を片付けて、布団をちゃんと整えれば空き部屋に変わってしまうぐらい薄く――寂しい生活感。

 

「(なんか……なんとなく、嫌だな…………)」

 

 似合っていないのだ、旭日に。

 日のような笑みを浮かべてくれる、ただ傍にいるだけで温かさの滲む兄に――まるで似合ってない。

 部屋としての機能を果たせていれば別に構わないさと、旭日は気にもせず笑って言うかもしれないけれど、それでも、どんな些細なことであっても背負ってばかりいる彼は、寂しさと無縁であってほしい。

 

「(今度、ぬいぐるみでも持ってこよう。あ、でも兄様は男の人だし、もっと格好いい物のほうが喜ぶかな?)」

「わっ……ね、流琉、流琉ってば!」

「季衣? どうかしたの――ふぇっ!?」

 

 どことなくはしゃいでいる様子の季衣の声に顔を上げると、どういうわけか彼女は猫のように目を細め、ころりと気持ちよさげに寝転がっていた。

 寝台――つまり旭日が毎夜、身体を預けている場所に。

 

「き、きっ季衣!? なんで兄、兄様の……!」

「んにゃ? もしかしたら兄ちゃん、すぐ戻ってくるかもしれないし、もう少しだけ待ってようかなって」

「そういうことじゃなくて! どうして兄様の寝台で寝ているの!?」

「だってここ、すごく気持ちいいんだもん。流琉もおいでよ」

 

 ぽふぽふりと季衣の手が弾むそこは確かに魅力的ではあるが、流石に――しかし、でも、だけど。

 

「わ、私はその、えっと……うぅ…………」

 

 右を見て。

 左を見て。

 また右を見てから、季衣以外の誰もいないことをしっかり確認した流琉は、とうとう誘惑に負けて旭日の寝台に身体を投げ出した。

 

「(うぅ……ごめんなさい、兄様)」

「ねっ、気持ちいいでしょ?」

「ふぇ? あ…………うん」

 

 自分の部屋にある寝台となんら変わらないはずなのに、今朝も旭日が使っているはずなのに、干したてのあの日の匂いが鼻をくすぐる。

 

「(そういえば、兄様も……)」

 

 日天の御遣いという肩書きの通りの、兄の人柄そのままの、ぽかぽかと温かい――そんな日の匂いがした。

 気が抜けて。

 とても、安心して。

 まるで日向ぼっこをしているような心地よさに、ずしりと重くなっていく瞼。

 どうやら季衣も同じ心地の中にいるらしく、彼女は既に穏やかな寝息を立て始めていた。

 

「(だったら……私もいいかな)」

 

 親友の寝息に更に眠気を誘われて。

 ぽかぽかとする安心感に身を委ねて。

 流琉はそっと――瞼を閉じた。

 

 

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「………………ん?」

 

 書類仕事の息抜きの散歩から戻ってきた旭日は、何故か自分のベッドですやすや寝息を立てている二匹の子犬――もとい、季衣と流琉の姿に目をぱちくりとさせた。

 

「あーっと……部屋は合ってる、よな」

 

 室内をくまなく見回し、間違ってないことを確認する。

 他の皆と違い、寝て起きて仕事をする為だけといった風の部屋。

 どうやら自室で間違いはなさそうだが……一体どうして季衣たちがここで昼寝をしているのだろうか。

 

「しっかしなんで……ああ、鍵を開けっぱにしてたか」

 

 不用心なもんだと、まるで他人事のように呟く旭日。盗られて困る物は肌身離さず持ち歩き、重要な書類は机の引き出しにきちんと保管しているので、勝手に入られても別に構わないけれど、こういう事態が起こってしまうのなら今度からきちんと施錠する必要がある。現在の状況を華琳たちに見られたら最後、変に誤解された挙句に首を刎ねられかねない。

 

「ったく、野郎の部屋で寝入るとか、無防備にもほどがあるぞ」

 

 なるべく足音を立てずに近付き、彼女たちの頬を人差し指でふにりとつつく。

 

「……にゃ…………すぅ」

「すぅ……んぅ…………」

「……やれやれだ」

 

 身を捩りつつも気持ちよさそうに夢の中で過ごす二人の姿に、旭日は微かな笑みを零した。

 

「(本当は、これがあるべき姿なんだよな……)」

 

 季衣も、流琉も、本当なら戦場で武器を振るっていい子たちじゃない。

 年相応に同じ歳の子たちと一緒にいて、年相応に同じ年の子たちと一緒に遊んで。巨大鉄球や巨大円盤を敵めがけて振り回すよりずっと、そういう年相応な姿こそが似合っている、小さな女の子。

 

「子ども扱いすんなって、お前たちは怒るかもしれねえけどさ……俺はやっぱ、子どもである間は子どもでいてほしいし、子ども扱いさせてほしいんだよ」

 

 幼い頃を子どもであれなかった自分だから。

 子どもであることを許せなかった――自分だから。

 だからせめて、目の前で眠る妹分たちは子どもでいられる時間を大事にしてほしいと。

 兄貴分として――切に願う。

 

「にゃ……兄ちゃん…………」

「ふみゅぅ…………兄様……」

「……おう、ここにいるよ」

 

 ぽふりと彼女たちの頭を優しく撫でれば、花が咲いたようにふわふわ笑ってくれる季衣と流琉。

 それにつられて旭日も笑みを深め、季衣に蹴られてずり落ちそうになっていた布団を二人にかけ直す。

 

「最近は色々あって疲れてるだろ? もうしばらく寝ときな。そんで、起きたらどっか昼飯でも食べに行こうぜ。今日はおにーさんが奢ってやるよ。……まあ、手加減してくれると嬉しいがな」

 

 まず間違いなく重さを失う財布を思って最後は苦笑を浮かべ。

 二人が起きるまでにさっさと終らせてやろうと、旭日は書簡が積まれた机へと向かった。

 

 

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前回のコメントへの返信

 

 

MATSUさま>

 

ありがとうございます!

確かにやっと、ですね。第一章から張りっぱなしにしていた伏線を、とりあえず少し回収しました。旭日の過去については……徐々に紐解いていきたいと思っています。

 

サラダさま>

 

今の今までちらちらと見せていた旭日の過去ですが、前回では思い切って(?)ちょっと明かしてみました。普段は滅多に怒らない彼も、家族に関することは怒るようです。

これからも頑張って書かせて頂きます!

 

スターダストさま>

 

確かに旭日にはダークヒーロー、アンチヒーローがこれでもかと似合いますね。主人公体質なのに何故なんでしょう……?我らが一刀君と同じ思考なのに、それを隠そうととするというのはまさしくその通りですね。我らが一刀君の魅力が真っ直ぐさなら、旭日の魅力は斜めに真っ直ぐなところだと自分は思ってます。

そして旭日の迷子……ドジというよりは方向音痴ですね。思えば旭日、ほとんどの話で迷子になってばかりいる気が……

 

 

説明
真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は拠点。
妹二人と兄一人のほのぼのテイストにしてみました。
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コメント
旭日はやっぱり善い奴だ、まさに太陽のごとくだな・・・あの漫画は関係ないからな。一刀に似てね。(スターダスト)
流流に季衣、やっぱり子供は子供らしく純粋なのが一番ですね。旭日はやっぱり家族思いの良いお兄さんなんでしょうか。(R.sarada)
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真・恋姫無双 季衣 流琉 日天の御遣い 

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