真・恋姫†無双〜三国統一☆ハーレム√演義〜 #24-1 夢の終わり 〜木〜
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黄平二年、一刀は産休中の上級官僚に代わり、政(まつりごと)を見事にこなして見せた。

また“現代の夢”での剣術修行にも励み、自衛の技術を学んでいる。

 

年末、洛陽の街で一刀は白装束の一団に襲われるも、主犯らしき刺客の男を斃(たお)すことに成功し、祖父の教え、自身の正義、掲げる理想を心に刻む。

そして。

事件を契機に、ようやく一刀は思春と真の意味で結ばれたのだった。

 

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帝暦・黄平三年、新年一月初めの玉座の間。

『頂議』に参加する為、控えているのは十四名の英傑ら――桃香、華琳、雪蓮、愛紗、朱里、冥琳、桂花、雛里、稟、亞莎、秋蘭、穏、風、音々音。詠のみ産休による欠席。また、秋蘭が就任した『御史中丞』も頂議に参与することになっている――である。

 

「皇帝陛下、御出座ーーー!」

 

皇帝出座を知らせる声が響き、その場にいる上公を初めとした官僚らは揃って臣下の礼を取る。

しかして現れた一刀の姿は、今までとは全く違う服装だった。

深衣(しんい)と呼ばれるきっちりめの上着を改造した、袂(たもと)のない真っ直ぐな袖の上着に袴を履き、腰帯には例の似非日本刀を差している。しかし最も目を引くのは、その肩に掛けられた陽光を跳ね返して銀色に輝く肩掛け(ケープ)であった。

 

前年末の事件で刺客に刺された際、聖フランチェスカ学園の制服は腹部に穴が開いた上、自分の血と刺客の返り血によってかなり汚れてしまった。

しかし、この純白の制服は一刀の『天の御遣い』としての象徴とも言える。捨ててしまうのはどうか、ということで汚れていない部分を利用し、ケープに縫製し直したのである。

 

「崩してよし」

 

玉座まで来た一刀は、下座の皆々へそう言い付けてから腰を下ろす。

官僚らはその一言で礼を崩し、各々楽な体勢を取った。

のだが。

 

「……何つーかさぁ。『頂議』は内内の会議なんだから、こんな堅苦しくしないでもいいと思うんだよなぁ」

 

玉座に座った一刀は開口一番そう漏らした。

既に一年半近く続いている毎月月初の小会議であるが、開始時の儀式染みた堅苦しさがどうにも馴染まないらしい。

皇帝のそんな一言に、仲間達が口々に苦言を申し出る。

 

「年も明けて初の会議での最初の一言だというのに、あなたはまたそんなことを……#」

「新年早々、華琳様に心労掛けるんじゃないわよ、シモエロ皇帝液!」

「液って……とうとう生物ですらないし」

 

口火を切ったのは華琳と桂花の主従(というか主人と奴隷)コンビ。

 

「はぁ……。あのような事件があったばかりだと言うのに。陛下の能天気は死なねば治らないのでしょうか?」

「稟。それどころかこのへぼ皇帝の馬鹿さ加減は死んでも治らないに違いないのです」

「はっはっは! 中々上手いことを言うではないか、音々音」

「秋蘭もさりげ無くきついな。まぁ陛下……北郷に反論は出来んだろうがな? ふふっ」

「う……」

 

続いて突っ込んだのは、“陛下”と尊称を用いつつも辛辣な口振りの稟と、それを更に補強する音々音。そしてそんな二人の発言を笑って流す……いや、肯定する秋蘭と冥琳。

一刀はまさしく反論出来ず口籠もる。

 

「ほーんと、いつまで経っても支配者の自覚が出ないわねえ。そういうとこ、実に一刀らしいけど♪」

「見事に四面楚歌ですねぇ♪ でもでも、それが旦那様のいい所〜♪」

「うんうん♪ 私も堅苦しいのって苦手だから、どっちかと言ったらご主人様に賛成かな?」

「だ、だよね?」

 

楽しげにフォロー気味の発言をしたのは雪蓮、穏、そして桃香の三人。

一刀も貴重な味方を得たと同意するも、そんな三人(特に桃香)に突っ込むのは、桃香の副官である蓮華と、大将軍・愛紗である。

 

「駄目よ、桃香。あなたまでそんなことを言い出したら一刀が自重しなくなるでしょう?」

「蓮華の言う通りです、桃香様! ご主人様は只でさえ……その」

「やめて! その先を言わないで、愛紗!」

 

過剰に反応した一刀に愛紗は流石に気が引けたか、視線を彷徨わせたが……

怪しい笑みと共に答えたのは、ある意味この場のメンバーで最も油断ならない存在。

 

「止めるだけ無駄ですよ、お兄さん。ふっふっふ」

「何をする気!?」

「はてさて何のことやらー。それでは皆さん、ご一緒に。せーの」

 

『貫禄がないから』

 

「全員で合唱だよ!? うぅ……指揮するなんて酷いよ、風……」

 

一斉に突っ込まれて涙目の一刀。

風はご満悦だったが、そんな主君に慌ててフォローを入れたのは朱里、雛里、亞莎の三人。

 

「はわわっ、私は言ってませんよ!?」

「わ、私もですぅ〜……」

「あ、あの……私も……」

 

自己申告によると三人は合唱しなかったらしい。

しかし、一刀は涙目のまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「……内心では?」

「「「…………」」」

 

一刀の一言に、三人は沈黙してさっと目線を外した。

 

「……。うん、いいんだ。俺に貫禄ないのは事実だしね……。さ、議題に入ろっか……」

 

 

……

 

…………

 

 

「――以上、『洛陽拡張計画』の進捗です」

「ん、ありがと。慰霊碑だけ予定より遅れてるって話だけど、大きな問題はないか」

「私は華琳様にご報告しているの。アンタは黙ってなさい!」

「おーい……」

 

桂花のあまりに露骨な、敵愾心丸出しの言葉に、一刀のみならず誰もが苦笑いである。

唯一人、華琳のみは愉快そうに笑っていたが。

 

『洛陽拡張計画』は順調に進んでいる。

市街はほぼ完成し、昨年十月から手がけている宮殿の工事も五割近い進捗率だ。また、旧市街(新洛陽・北西部)のうち、現在使用しているこの宮殿や禁苑の一部を一般公開する予定でいる。

そこに一刀が提案したのが、先程の慰霊碑だった。

 

戦乱を憂い平和を願って戦った数多の兵卒、時代の理不尽に流されるしかなかった庶人、訪れた平和を享受出来なかった全ての人々の霊を慰める為。そして、泰平の世が末永く続くことを願って、現宮殿の朝庭(朝儀などを執り行う、朝廷の前庭)の中央に石碑を建てることになったのだ。

 

「とにかく。計画は順調です。本格的な夏が訪れる前に行政機関を新たな宮殿に移せると思われます。また、後宮の移転も同時期で問題ないかと」

「だそうよ、一刀」

 

先の桂花の応対を見てだろう、わざわざ仲立ちしてくれた華琳に笑みで応えてから、一刀は襟を正した。

 

「さて、次の議題で最後だな。昨年末に起きた、俺への襲撃事件について。愛紗、お願い」

「はっ! 少々お待ちを」

 

愛紗は玉座の間を一旦退出し、すぐに女性二人を引き連れて戻って来た。

 

「ふぅ、やっと出番ですの? この袁本初を待たせるなんて……もっと段取り良くして下さいな、皆さん」

「こんなオバサンはどうでもいいけど、大陸一の偶像(アイドル)のちぃを待たせるんじゃないわよ!」

「なっ!? 誰がオバサンですの!」

「ふふん、あんたのことに決まってるでしょ。ちぃと比べたら明らかにオバサンじゃない!」

「きぃぃぃぃぃ! 貧弱体型のチビが言ってくれますわね!」

「ひ、貧弱っ!? ちょっと胸がでかいからって、威張ってんじゃないわよ!」

「おーっほっほっほっほ! わたくしの胸はちょっとどころでは済みませんわよ?」

「むっきぃぃぃぃ!」

「あらあら、あなたとわたくしでは比較するのも馬鹿らしい程に差がありますわね。おーっほっほっほ!」

「そっちこそ言ってくれるじゃないの、垂れ乳オバサンが!」

「言うに事欠いて、垂れ乳オバサンですって!?」

 

『…………』

 

愛紗が連れてきたのは、言わずもがな麗羽と地和である。

放っておけばいつまでも喧嘩し続けそうな二人に、『頂議』参加者は皆呆れ顔。

 

「ええい、いつまで喧嘩している! 皇帝陛下の御前だぞ!」

「「……ふん!」」

「まぁまぁ愛紗。待たせちゃったのは本当だしね。じゃ、早速報告して貰おうかな」

 

愛紗の一喝でようやく二人も言い合いを止め、一刀が話を促した。

 

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普段余り接点のない、麗羽と地和の二人が共に呼ばれたのは、先程一刀の口からあったように、今回の『頂議』での最後の議題が昨年末の一刀襲撃事件についてであるからだった。

 

件の襲撃事件は明らかに超常的な事象が絡んでいた。

 

大帝国の首都内部で、あれだけの兵が隠密に配されていたこと。

事件時、一刀の周囲から街人が消えたかのようにいなくなったこと。

一刀が首謀者と思しき刺客を斃したことで、白装束の兵が霞の如く消えたこと……

 

考えれば考えるほど、不可思議な点が浮き彫りになる。

通常の調査で原因を探ることは困難と判断した一刀らは、和王朝において妖術の類の知識を持つこの二人に調査を頼んだのだ。

 

地和は基本的には妖術使いであることを隠している(異端として排除されることを避ける為だ)が、少なくとも仲間内では公然の秘密となっている。他ならぬ一刀の為と、散々文句を言いつつも(照れ隠しなのはバレバレだったが)協力することを承知した。

加えて、神秘性のある物品、術具や宝貝(ぱおぺい)などの蒐集家として様々な資料を所持しており、相応に知識を身に付けていることから、麗羽が協力者・フォロー役を依頼されたのだった。

 

「じゃあ調査報告、始めるわよ」

 

地和が手提げから、砕けた拳大の珠と解読出来ない文字の描かれた符を取り出した。どちらも一刀が斃した刺客の懐から出てきた物品だった。

 

「どっちも道士(道教の実践者)が使う妖術――正確には『方術』って言うんだけど――その力が籠められていた術具だった。珠は壊れちゃってて、詳細は分からなかったけど……状況から考えると、白装束の兵隊に関わるものだと思う。ちぃの知ってる術に幻影を作るっていうのがあるんだけど、同じように実体……命令で動く“人形”を作るような強力な術具なのかも。それと、思春が言うには“人形”は靄のように消えたって言うし……五胡との戦争で、鮮卑の兵隊も同じように消えたらしいじゃない。ということは……黒幕は同じ人物かもしれない」

「五胡戦争での消えた兵隊については、葉雄(しょうゆう)さんが調べて下さっていましたわ。何でも、于吉なる道士が僅か一晩で数十万もの兵を鮮卑の大人に与えたとか。ただ、その正体は杳(よう)として知れません……」

「ふむ……どうあれ、敵は強力な妖術使いを擁している、ということか」

「それは確実ね。人間と区別がつかない実体を作る妖術なんて、聞いたことないもの」

「……厄介この上ないな。時間も場所も問わず、大量に兵を作り出されては、対抗手段が非常に限られてしまう」

 

口元に手を遣り悩ましげに言う秋蘭に、地和はすぐに異論を述べる。

 

「そこは心配要らないと思うわ。かなり離れた場所で、しかも複数の場所から“人形”が現れたってことは、複数の人間がこれと同じ術具で“人形”を作った筈よ。こんな高度な術を使える妖術使いが何人もいるわけないし。で、この手の術具は消耗品――使い捨てなの。一度使ったら術者が力を籠め直さない限りもう使えない。でもって力を籠めるのは一朝一夕じゃ無理。それこそ道教で言う『神仙』みたいな存在でもなきゃ……」

「『神仙』……仙人って奴か。その于吉なる人物が仙人で、かつ俺を殺そうとしてるとなると最悪だな」

「それは今のところ可能性は低いだろう。その道士が係わったとされる五胡戦争は既に一年半以上も前の話。しかもそれきり全く音沙汰がない。本当にそれ程の力を持つならば、幾らでも襲撃する機会はあった筈だ」

「それもそうか。武道やってた身としては『氣』はまだ理解出来たんだけど、妖術なんて眉唾だと思ってたんだよな。『数え役萬☆姉妹(しすたぁず)』の公演って、演出の光から楽器演奏まで、地和が妖術でやってると聞いたときは驚いたもんなー」

「ふっふーん♪」

 

一刀の言葉に、地和は手を腰に遣って無い胸を張る。対して桃香は不思議そうに言葉を続けた。

 

「そんなこと言ったら、ご主人様は昼間でも見える程、眩い流れ星に乗って落ちてきたんだよ?」

「そう言われてもなぁ。俺はその時、意識が無かったし……目を覚ましたら、地面に寝てたから実感がないんだよね。ああ、そういや管輅さんも妖術使いの類だったのかもなぁ」

「……嫌な奴の名前を出さないで頂戴。妖術なんて言葉は、常識では判断出来ない、理解出来ないモノを一緒くたにしているだけ。華佗の五斗米道とて世では妖術扱いよ。多くの人間が理解すれば、宗教や技術として世に広まるでしょうけれどね。現に道教は宦官を初め、市井にもある程度浸透しているわ。世相が安定してからは鳴りを潜めているけれど」

 

先の見えない乱世においては、道徳観念などきっちりした生活を理念とする儒教よりも、呪術を用い功徳を積むことで不老不死や不可思議な術を行使出来るとする、悪い言い方をすれば現実逃避に近い道教に人気が出たのである。

また、儒教の基本理念は子々孫々へ血を繋ぐことである為、宦官は子を成せないという意味で、完全にその理念に背いていることになる。皇帝に侍ることにより後漢王朝で隆盛を誇った宦官であるが、儒教という観点からみれば非常に低い地位だったのだ。故に彼らはこぞって道教を信奉したという。

 

しかし、三国同盟及び『和』王朝の治世により、世相は急速に安定した。特に庶人の生活水準はかなりの向上を見せており、現世利益・生活の安定を求めることで、人々の意識は道徳観念重視の儒教へと回帰した。

特に、当時の民間医療は宗教団体による呪術・祈祷頼りであったが、一刀による医者増員計画が進み、一般人でも医者に掛かることが容易になるにつれ、次第にその姿を消している。

 

なお、この世界では五斗米道は神農大帝が編み出した究極医術の一流派であり、現在では受け継ぐ者の絶えた技術とされている……。

 

「ちぃは独学で妖術を覚えたから、細かいことは分からないけど。ちぃの使う妖術は道士の使う方術と同じ系統のものが多いみたい」

 

結局のところ、道士の方術だろうと呪い師の呪術だろうと、その筋の者でない人間から見れば訳の分からないモノ――『妖術』でひと括りにされるという訳だ。

 

「妖術使い、道士、『天の御遣い』。呼び方が何であれ、何が出来て、何が出来ないのかが分かってれば対処は取れるさ」

「うむ。思春によると、白装束の兵隊……“人形”の兵士としての練度は大したことはないそうだ。同じ言葉を繰り返しながら、単純に斬りかかってくるばかりだったとか。その程度ならば、北郷の周囲に常に護衛の武官を配すればいいだけの話だ」

「多分、複雑な命令や、同時に複数の命令は出来ないのよ。実体を作るなんて、只でさえ馬鹿みたいに妖力を使ってる筈だもん。寧ろ、問題なのはこっちね……」

 

地和は人指し指と中指で符を挟み込み、皆に見えるよう示した。

 

「これは『人払い』の符。術を起動すると、一定の範囲――『結界』って奴ね――に足が向かなくなるの」

「足が向かなくなる?」

「そう。『結界』の内部へ向かおうとする意思自体を歪めるの。迂回出来るなら無意識に迂回してしまうし、目的地が『結界』内なら、延々とその周囲を歩き続けることになる。元々『結界』の内部にいたのなら、適当な理由をでっち上げてその場を去ろうとするわ」

「成る程、屯所を無断で離れた警備隊の隊士の言動とも合致するな。それで街から人が消えたように見えたのか」

「そういうこと。警備隊に捜索させたら、洛陽中からこの『人払い』の符が出てきたわ。千枚以上もね……」

 

呆れたように言い放つ地和だが、近しい者ならばその内心が怒りに沸騰していることは明らかだった。

何故なら、この符の多さこそ、“敵”の一刀に対する殺意の大きさそのものなのだ。

愛しい者をこれだけの労力を掛けてでも害さんとした輩がいる……その事実に冷静さを欠きつつある地和を見てか、麗羽が大きな紙を巻いたものを愛紗に手渡した。

 

「……符の貼られていた位置を洛陽の地図に印しましたわ。見て戴けますかしら」

 

愛紗は麗羽から渡された市街の大地図を開き、用意していた机に置く。

一刀も玉座から下り、重鎮ら全員で地図を取り囲む。

 

「……なんだこりゃ。ほぼ市街全域かよ……」

 

思わず一刀が漏らした言葉通り、『人払い』の符は洛陽市街のあらゆる場所に配置されていた。洛陽の地図は、符の位置を示す朱墨によって真っ赤に染まるかのようだった。

 

「つまり、いつでも俺を狙えたってことか?」

「……いいや、違うな」

 

一刀の疑問を真っ先に否定したのは冥琳だった。その言葉に、多くの者が頷く。

 

「よく見ろ。市街は確かに網羅されていると言っていいが、符が貼られていない場所は明らかだ」

「冥琳ちゃんの言う通りなのです、お兄さん」

「……風。ちゃん付けは止めてくれと……」

『今はそんなことを言っている時じゃねえぜ、冥琳ちゃんよ』

「………」

「ぷっ、くくっ……」

「笑うな、雪蓮!」

「はいはい、仕切り直しよ。風も余計な冗談は無し。いいわね?」

「これは失礼致しましたー。という訳で、地図を見て下さい」

 

風はそう言うと、地図上で三箇所を指差した。

 

「後宮・禁苑を含む宮殿内。城郭内の調練場。そして兵屯所。この三箇所には符がありません。精々がその周辺までです。さて、お兄さん。この三箇所の共通点とはなんでしょー?」

「……うーん、その三箇所の共通点と言うと……かなりの人数の兵が常駐してること?」

「はい、ハズレ〜♪ 旦那様、残念でした〜」

「……先程から気になっていたのだが。穏、今は公務中だ。“旦那様”は止めんか!」

「ええ〜」

「“ええ〜”ではない! 公私混同甚だしい!」

「もう、愛紗ちゃんったら。そんなことで目くじら立てなくても」

「桃香。これは愛紗の言い分が正しいわ。穏、せめて名で呼ぶくらいに抑えなさい(ぎろり)」

「うぅ〜、はぁーい……」

 

穏やかな言葉に反して迫力満点の蓮華の一瞥に渋々と頷く穏だったが、寧ろ蓮華の迫力に気の弱い何人かがビビっていた。

 

「(ひっ! れ、蓮華様、お顔が怖いです……。穏様、直接睨まれてるのに、どうして落ち着いていられるのかな……)」

「(あわわわ……ぐすっ)」

「(はわ! お、落ち着いて雛里ちゃん! 怒られてるのは雛里ちゃんじゃないよ!?)」

「(愛紗と蓮華は、へぼ皇帝が絡むと途端に沸点が低くなるから困るのです……)」

 

これでは議題が進まないと、一刀が軌道修正を試みる。

 

「おーい、また話が盛大に逸れてるぞ〜。誰か答えを教えてくれ」

「あんた、まだ分からないの? 馬鹿なんじゃないの? 死んだ方がいいんじゃないの? っていうか死ね」

「……じゃあ華琳、教えて」

「なっ!? こ、この荀文若を無視するなんていい度胸じゃない……!」

「はぁ……。桂花、私の発言を邪魔するのかしら?」

「う゛っ……も、申し訳ございません……」

「そう、いいコね。……一刀。あなたは常駐する兵が多い箇所と言ったけれど、それならば洛陽警備隊本部に符が貼られている点はどう説明するのかしら?」

「あ、言われてみりゃそうだな。警備隊の本部は何だかんだで常に相当な人数が詰めているもんな」

「逆に言えば。符のあった警備隊本部と、符のない三箇所の差こそが答え、ということよ。即ち」

 

そこで華琳はぐるりと周囲の皆を見回す。

 

「――私達、一刀の正室が常に複数いる場所には符が貼られていない」

 

後宮は勿論、宮殿には官僚と親衛隊、調練場と兵屯所は将軍である正室らが日常の業務をこなしている。

そして、この時代には国民全体の休日というものがない。各人が数日(一般的官吏なら五日)につき一日、休日を取る。

つまり、正室の殆どが上級の官僚や将軍であるが故に、生活の場である後宮だけでなく、宮殿・調練場・兵屯所においても正室が一人もいない状況というのは極々稀なのだ。

警備隊の本部にも確かに警備隊組長である正室――凪、沙和、真桜、焔耶、恋、おまけで音々音――がいることも多いが、警備隊の基本業務は警邏であり、また街中に屯所がある為、不在であることの方が多いのである。

 

「……成る程な。なるべくみんながいないときに俺を襲いたいから、その三箇所は貼るだけ無駄だったってことか。よく考えてみたら、『人払い』の術が起動してたっていうあの時……思春も璃々も別段変わったところはなかったっけ。ということは……『人払い』の術は、みんな――英傑と呼ばれるような人物には効果がないってことか?」

「それはちょっと違うわ」

 

一刀の再度の疑問に答えたのは、ようやく落ち着いたらしい地和だった。

 

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「紫苑の娘とは言え、璃々はまだ子供よ。大体、一刀にも効果がなかったんでしょ?」

「そうだった。俺にも効果なかったんだから、英傑には無効ってことはないか」

「……自分で言ってて虚しくない?」

「……身の程を弁(わきま)えてると言ってくれ。となると、条件が分からなくなっちゃうな……」

「何度かちぃが術を起動して実験してみた感じ、一刀に近しい者には効果がないみたい」

「俺に、近しい?」

「具体的には……一刀の“家族”には一切効果が出なかった。美以たちにも効果なし。美羽や七乃、袁燿(よう)は、最初効果を受けてたけど、声を掛けたら正気に戻った。それ以外で術に抵抗出来た者は、今のところ見つかってないわ」

『…………』

 

実験結果から推察される術への抵抗力の基準のひとつに、大半の者が気まずげに沈黙した。

 

「面白いわね。赤子の娘らが影響を受けない点から、一刀の血を引く者には効果がないのは確実として……」

「そうだな。美以らに効果なしということは、北郷と性交渉をもった者にも、完全な耐性が付くことも確定と言っていいな」

「はわわわっ、冥琳さん! そんなはっきり言わなくてもぉ!」

「はふぅぅ〜〜〜〜……」

「そ、その通りだ! 他にも婉曲な言い回しがあるではないか!」

「……大人というものは恥じらいが無くなるのですか……」

「あ、あはははは……」

「も、もう……冥琳ったら……」

「(流石、冥琳様は大人です……私ももっと精神的に大人になれば、あんなに堂々と出来るようになるのでしょうか……)」

 

冥琳のそのものズバリな言い方に、初心(うぶ)な娘らが揃って赤面。

 

「恥ずかしがっちゃって、みんな可愛いわね〜♪」

「……別に下品な言い回しと言うわけでもないでしょうに (せ、せ、せ、性交渉……よ、余計なことを考えるな、私!)」

「今更何を恥ずかしがってるのよ、全く……。この馬鹿に効果がなかった点。美羽、七乃、袁燿には切っ掛けさえあれば抵抗可能な点。特に、思春と璃々にも効果がなかった点は重要ね」

「たとえ肉体関係がなくとも、一刀さんと相思相愛であれば術は効力を為さない、ということなんじゃないかな〜。根本的理由は分からないけど、それなら一刀さん本人が抵抗の基点と考えられるし」

「ふぅむ。璃々ちゃんや袁燿ちゃんの例を鑑みるに、親子の愛情でも良いのでしょう。袁燿ちゃんはお兄さんを父と思っていますから。……稟ちゃん、大丈夫ですかー?」

「きゅ、急に何っ!?」

「おおっ、内心“えろえろ”なことを妄想して暴発寸前かと思ったのですが。随分我慢強くなりましたねー」

「ふ、ふふふ……。特訓だけでなく、日頃から無心になる練習をしていますから。伊達に接吻まで漕ぎ着けた訳ではありませんよ!」

 

超余談であるが、一年以上に亘る特訓の成果により、稟は華琳と接吻することが可能(ディープな方は時間制限有り)になったのだ!

 

「それはそれで詰まりませんねー」

「ちょっと、風!?」

「さてさて。ともあれ、忠誠心や友情での抵抗は無理、と考えるのが自然でしょうか」

 

風の締めの言葉に、地和が悔しげに呟く。

 

「術に抵抗出来るような護符を作ることが出来れば良かったんだけど……ちぃの力量では無理だった……」

 

地和は拳を握り、唇を噛む。俯く彼女は小柄な体躯をより小さく見せていた。

 

「蔵書を調べたり、以前わたくしが泰山で見つけた同じような符と比較したり……手は尽くしたのですけれど」

「うん。分かってるよ。――ありがとう。地和、麗羽」

 

一刀は俯く地和の髪を優しくひと撫でし、前髪を梳いた。

 

「っ! ……お、オバサンに言い訳して貰わなくたっていいわよ!」

「のわんですって! この袁本初自らの施しをっ!」

「恩着せがましいのよ、オバサン!」

「きぃぃぃぃぃっ! オバサンオバサン繰り返さないで下さる!?」

 

その場の誰もが(麗羽を除いて)、地和の口汚い言葉が空元気であると分かっていた。

指摘するのも野暮と、一刀は地和の頭を少々乱暴に撫でる。

 

「きゃっ!?」

「ここまで分かれば十分さ。黒幕が誰かは知らないが、奴らは千載一遇の好機を逃した。符に頼らなきゃ『人払い』が出来ないこと。俺も含めて、みんなに術が効かないこと。“人形”は数頼みで一騎当千の武人にとって脅威になり得ないこと。要点さえ押さえてしまえば、どうってこともない。なぁ、みんな?」

 

不敵に笑う一刀の言葉に、皆が笑顔で応える。

 

「勿論です、ご主人様! 我等の守護が鉄壁であることを思い知らせてやりましょう!」

「はい! “人形”の兵隊を街中に送り出すことが出来るのに、街の人々を人質にしなかった。地和ちゃんの言う通り、これは“人形”に出来ることが相当に限られることの証左です」

「そうね。タネさえ分かれば、防衛は簡単だわ」

「となると、後はどうやって黒幕を炙り出すか、ですね。此方は骨が折れそうです……」

 

亞莎が難題に眉をひそめたが、一刀はお気楽に言い放つ。

 

「なら、無理に黒幕探しなんてしなくてもいいだろ。こっちは富国強兵あるのみ――隙なんて見せなけりゃいい」

「はぁ……気楽に言ってくれるな?」

 

冥琳が思わず突っ込むが、一刀はそれでも笑顔のまま。

 

「辛気臭いのは嫌いだしね。どうせ王様なんてやってれば敵は数限りないんだ。なら、片っ端から“味方”に引き込んでやるまでさ」

「――うん! さっすがご主人様♪」

「あー……全く。お気楽主従は相も変わらず、ね」

 

一刀と桃香の楽天家コンビの雰囲気に、華琳を初め、その他の面々もやれやれと呆れ気味に相好を崩した。

 

「では具体策を練るとしよう。と言っても、一刀や文官には、我等の内の武官を必ず侍らせれば事足りるか」

「そうですね。特にご主人様の護衛は、保険の意味を含めて、最低三人でしょうか」

「朱里の意見に同意します。攻め、守り、連絡の三手あれば如何様にも対処可能でしょう。正室の武人は百戦錬磨の者ばかりですからね」

「稟ちゃんの言う通り、誰であれ武力は問題ないと思うけど……性格的問題があるんじゃないかな〜?」

「うぅむ、至極ご尤も。例えば、春蘭ちゃんに連絡役とかは無理でしょうねー」

「……ああ、姉者は九割攻め、一割守りが精々だな。ふ。ふふふ……」

「秋蘭。笑い事ではないぞ……」

「いや、思わず想像してしまってな。敵に突撃したいのに連絡役に回されて不承不承走る姉者……ああ、さぞ可愛いだろうなぁ……」

『…………』

「あ、あわ〜……え、ええと……親衛隊と警備隊の方々だけでは手が足りませんから、将軍職の皆さんにもお願いすることになります。人選等については軍部に一任で宜しいでしょうか?」

「必然そうなるわね。日程の調整は冥琳と愛紗、お願いね♪」

「「しぇれーーーーん!?」」

 

軍部における最高文官・大司馬の職務放棄にも近しい無茶振りに、最高武官・大将軍と軍部を司る三公・太尉が叫んだ。

額を集め侃侃諤諤(かんかんがくがく)と相談する官僚らを尻目に、地和は床に座り込む。麗羽も地図を丸めて隣に座った。

 

「――ふぅ……」

「…………」

「地和。麗羽。お疲れ様……ここのところ、寝る間も惜しんで調べてくれてたもんな」

 

そんな二人に労いの言葉を掛けたのは、他でもない一刀。

彼の微笑みを見上げながら、彼女らは事件当時を思い返す。

 

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昨年末、麗羽・猪々子・斗詩の通称三馬鹿と、『数え役萬☆姉妹』こと張三姉妹は帝都を離れていた。

無論、三馬鹿は宝探し、張三姉妹は地方巡業である。

偶々洛陽への帰り道で合流していた六人は、璃々の誕生日に間に合うようにと帰京した。

 

護衛の武官たちが大勢取り巻く、張三姉妹専用の幌付き馬車。六人はその馬車でのんびりと話していた。

 

「ようやっと洛陽に到着ね。やはり馬車だと遅いですわね。揺れも酷いですし」

「文句あるなら、一人で歩けば?」

「……このわたくしに対して、相変わらず生意気な口を利きますわね、地和さん#」

「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるわよ、麗羽!」

 

麗羽と地和は角突き合う仲である。

不可思議な物品などを蒐集することで、一刀のオンリーワンたる存在となることを図り、幾つかの実物を得てその立場を確立しつつあった麗羽からすれば、一昨年の末に後宮入りした地和は、実際の妖術使いであるという点からその立場を揺るがす存在だと言えた。

逆に地和から見れば、庶人から“成り上がった”自分に対して元より四世三公の名家出身である麗羽は、官位を捨てたとは言え、その意味で正に対極の存在である。況(ま)してや、アイドルとして開き直ってはいても内心コンプレックスを感じている“体型”という意味でも対極であるが故に、何かと目に付く存在であった。

 

という訳で、極端に言って“互いに目障り”な関係の二人は、顔を合わせる度に口論となるのが日常となっていた。

 

「もう麗羽様ったら……わざわざ乗せて貰ったんだから、そんな言い方しなくても……。この馬車はご主人様と真桜ちゃんの発明品が付けられていて、普通の馬車より揺れは少ないし。いつもごめんね、人和ちゃん」

「気にしないで、斗詩さん。麗羽さんが“そういう人”なのは十分分かってるから。こっちこそ、いつもちぃ姉さんが突っかかっちゃって……」

「それこそ気にしないでいいよ、人和ちゃん。……大概、麗羽様の方が悪いし……」

 

対して仲が良いのは斗詩と人和の二人である。

尊大な主人と猪突な相棒の抑え役と、我儘放題の姉二人の諌め役。同じく苦労人という立場からか、二人は三国同盟末期に張三姉妹が蜀を訪れた頃から馬が合ったようだった。

特に人和は後宮入りして程なく、斗詩・白蓮・秋蘭・流琉・冥琳からなる苦労人同盟(?)に仲間入り。以後、より仲を深めている。

 

「まーたやってら。姫もよく飽きねーなぁ。そんなことより、やっと洛陽まで帰ってきたんだし。どっか寄り道して飯食わない?」

「あー、それいいなー♪ 私、シューマイ食べた〜い!」

「なんだよ、またか? お前ら姉妹揃ってシューマイ好きだよなー」

「そうかなぁ? そればっかり食べてる訳じゃないよ〜。甘いものだって大好きだもーん♪」

 

消去法的に残った二人であるが、共通の話題と言えば食事関係ばかりではあった。

しかし、猪々子からすれば女の子女の子している天和は、ある種憧れの存在であったし、堅苦しいことを嫌う性分が自身と近しいこともあり、気の置けない相手の一人だった。

天和から見ても、ファッション関係はともかく、基本ノリの良い猪々子は話し易い相手だ。我儘で妹二人を引っ張る自分と、無鉄砲に物事を進めて主人の麗羽すら引っ張る猪々子。どこかシンパシーを感じてもいるようだ。

 

「文ちゃん、天和ちゃん。あんまりゆっくりしてたら陽が落ちちゃうよ。まずは宮殿に戻って、帰参の報告して。それから出掛けよう?」

「ええ〜! それって二度手間だよぉ、斗詩ちゃ〜ん」

「そうだそうだー! ノリが悪いぞ、斗詩〜」

「なになに? どっか寄るの? だったらちぃはねぇ……」

「ちょっと、ちぃ姉さんまで……」

「報告が優先に決まっているでしょう。さっさと宮殿まで進めて下さいな。……わたくしはゆっくりしたいのですから」

「なによ、結局自分がゆっくりしたいだけじゃない! オバサンは疲れ易くて困るわね〜?」

「こ、このツルッペタ小娘が言ってくれますわね!?」

「あ〜あ、また始まっちまった」

「さっき猪々子ちゃんも言ったけど。ほーんと、よく飽きないね〜?」

「もー! 麗羽様も地和ちゃんもいい加減にしてぇ〜!」

「はぁ……御者さん。このまま宮殿までお願いします」

 

再び喧嘩を始めた麗羽と地和を無視し、人和はそう御者へと伝えたのだった。

 

 

……

 

…………

 

 

人和の指示通り、洛陽宮殿まで直帰した馬車から降りた一同。

護衛役の武官らも任務完了と散り散りになる。無論、上官は報告のために宮中へと参内していく。

しかし、猪々子と斗詩は宮殿全体から、ぴりぴりと緊迫した気配を感じていた。

 

「……斗詩。なーんかおかしくね?」

「うん。何かあったのかな……」

「聞いた方が早い。おい、そこの!」

 

猪々子が禁兵の一人を呼び寄せる。

 

「こ、これは文醜将軍!」

「おう。……何かあったな?」

「は、はい。大きな声では言えませんので、お耳を……(実は、皇帝陛下が曲者を斬り伏せた際、手傷を負われたとか……)」

「なっ!? あ、アニキはどこだ!?」

「は、はっ! お、恐らく、奥の、玉座に、おいでになるかと……!」

 

猪々子に胸倉を掴まれた兵士は、苦しげにそう答えた。

 

「ど、どうしたの、文ちゃん!?」

「アニキが……!」

「ちょっと猪々子! 一刀がどうしたの!?」

「いいから付いて来い! 麗羽様、急いで!」

 

思わず零れた一刀への呼称、そして普段お気楽な猪々子の青褪めた横顔を見て、麗羽は無言で頷き早足に歩き出す。他の面々も同じく二人の後を追った。

宮中へと入ったことを確認して、麗羽が歩きながら改めて問い質す。

 

「……猪々子。何がありましたの?」

「細かいことは分かりません。でも、アニキが怪我をしたって……」

「ちょっと! どういうことよ、猪々子!?」

「だからっ、あたいも細かいことは分かんねーんだよ!」

「……一刀に、何かあったってこと?」

「……多分」

 

最初に駆け出したのは誰だったか。いつしか六人は宮中を走っていた。

六人が泡を食って玉座の間に飛び込むと、そこは混沌の坩堝(るつぼ)であった。

 

玉座に座り、華佗の治療を受けている一刀。

床にへたり込んでいる桃香と蓮華、蒲公英に沙和。

抱き合って涙する朱里と雛里に、流琉と亞莎。

声を上げて泣いているのは小蓮と美以、それにミケ・トラ・シャム。

腰を抜かし、呆然としている白蓮、真桜、明命。出産間近の翠もそうだ。

共謀者を探そうというのか、興奮して武器を持ち出す愛紗に鈴々、焔耶と春蘭、季衣に霞。

暴走しつつある武官らを押さえる星や桔梗、秋蘭と冥琳、祭に思春。

華佗の補助か、涙の跡もそのままに慌しく駆け回る月と、それを手伝う紫苑に璃々。

心配そうに玉座を見上げる恋に音々音、風と稟、それに穏。

翠と同じく出産間近の為、手伝いに加われず、治療の様子を窺う詠と凪。

泣き喚く美羽を慰めつつも、ちらちらと玉座へ視線を送る七乃。

不機嫌そうに一刀を睨む華琳と雪蓮、そして桂花。

 

「―― 一刀ぉっ!」

「―― 一刀さん!」

 

目の前の状況に一瞬固まった六人だったが、ある意味空気を読まない天和と麗羽が駆け出したことで他の者も硬直から解放され、玉座へと駆け寄る。

 

玉座の一刀は上半身の肌を晒していた。

六人に知る由もなかったが、毒に冒されている為に顔色も悪く、腹部の傷からは未だに血が流れていた。玉座の肘掛けには、一部が血に染まった上着が掛けられている。

 

「一刀、大丈夫なの!?」

 

天和の叫び声のような問いに一刀は――

 

「やあ、お帰り。道中はどうだった?」

 

しーん。

 

「……あ、あれ?」

 

一刀の余りにもお気楽な語調に、騒然としていた玉座の間は一瞬で沈黙に支配された。

 

「いやいや、こんなの大したことないんだよ? 華佗の治療だって受けてるし、何も心配要らないんだってば」

 

慌てて言い訳を始める一刀だが。

 

「一刀の馬鹿ぁっ!」

『ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

玉座への階段を一足飛びで上りきり、天和が一刀に抱きつくと、玉座の間には数十人もの女性の叫び声が響いた。

 

「あいでででで! 天和、ちょっと待って! もうすぐ治療終わるから! 服に血が付いちゃうし!」

「もう、姉さんったら……(一刀さんも、心配させないで……心臓が壊れるかと思った……)」

「天和姉さん、抜け駆けなんてずるい!」

「そ、そうだよ天和ちゃん! 私達だって治療が終わるの待ってるのに!」

「だってだってぇ〜〜〜!」

「天和! いいから離れなさいよーー! シャオだって我慢してるのよ!」

「空気の読めん女め!」

「(姉者に言われては、天和も立つ瀬があるまい……まぁ言われて仕方なくもあるが)」

「ふぅ……相も変わらず騒がしいですわね……」

「とか言って、麗羽様〜。なんだか嬉しそうっすよ?」

「あははっ、ホントだね♪」

「うっ、煩いですわよ! 文醜さんも顔良さんも、人のことを言えた義理ですか!」

「「あ、あはは……////」」

 

ぎゃいぎゃいとすぐに騒がしくなる玉座周辺だったが、

 

「……とにかく一旦離れてくれ、張角殿。治療出来ん」

 

との華佗の一言で天和も渋々離れ、ようやく落ち着いたのだった。

 

 

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「……もう、傷は大丈夫なのよね?」

「もっちろん。『錬功』を提案してくれた華佗にはどれだけ感謝しても足りないな」

「これで、一刀の周りは安全になるよね?」

「それまた勿論。流石に妖術は想定外だったからね。今後はちゃんと対処してくよ。それも地和と麗羽の協力のおかげだ。ありがとう」

「おーっほっほっほ! これもわたくしの深慮遠謀の為せる業ですわ!」

「……嘘つきなさいよ、オバ――」

「まあまあ! 助かったのは確かだから。ね?」

「――ふん!」

 

高笑いする麗羽を無視して、地和は先程一刀に撫でられた髪に触れる。

 

「……そう言えば、さっきはよくもこの大陸一の偶像(アイドル)の御髪(おぐし)をぐしゃぐしゃっとやってくれたわね?」

「え? あー……」

「この無礼に対する謝罪の品は……相応のモノを期待してるからね?」

 

どこか拗ねたような、愛しい人の役に立った嬉しさを恩着せがましい言葉でしか伝えられない地和のおねだりに、一刀は苦笑いしつつも快諾したのだった。

 

-6ページ-

「うーむ……迷うな」

 

肌を切るような寒さの続く、一月の中旬。

一刀は洛陽の街中、とある場所で唸り声をあげていた。

 

「ラーメンにするか、マーボー丼にするか……そこが重要だ」

 

此処は街の食事処、一刀の手には店のメニュー……一刀が悩んでいるのは、本日の昼食である。

ここまで下らないことで悩む皇帝もおるまいが、そもそも街の大衆食堂で飯を食う皇帝がおかしい訳で、まさしく今更という話ではある。

なお、マーボー丼は一刀が白米にマーボーをかけるのを見て、とある店が売り出したものがいつの間にやら洛陽中に広まったものである。

 

「熱々スープのラーメンか、唐辛子たっぷりマーボーの辛味で身体を温めるか……」

 

さて、一月の『頂議』によって一刀が外出する際には、最低でも三人の武官が護衛として侍ることとなった。本日の護衛役は……

 

「何が『そこが重要だ』だ! 男ならばさっさと決めんか!」

「食事は大事だぜ、春蘭。悩むだけの価値がある」

 

ラーメンとマーボー丼の間で揺れる一刀を叱り飛ばす春蘭と。

 

「意外と食事に拘るのね、一刀って。まあ時間は有限なんだから、適度にしてね」

「今日の午後は結構余裕がある予定だから……って、いつの間に酒を頼んだんだ?」

 

早速食前酒を嗜んでいる雪蓮と。

 

「兄様、今日の夕方は武術訓練ですよね? なら腹持ちのいいご飯の方がいいと思いますよ」

「おっ、成る程。確かに流琉の言う通りだな。よし、マーボー丼に決定!」

 

親衛隊からの担当、流琉の三人だった。

一刀はこの三人を引き連れ、午前中の市場視察を終えた帰り、昼食を街中で摂ることにしたのだった。

 

「みんなも注文決まってるね? じゃあ、おっちゃーん! 注文よろしく〜!」

「へーい!」

 

 

 

注文した料理が届き、四人は食事をしながらも会話に興じている。

 

「はふっ、はふっ! んー、熱い! 辛い! うまーい!」

「もう、子供じゃないんだから。大人しく食べなさい、一刀」

「そういう雪蓮は、酒とつまみだけじゃなくて、ちゃんと料理も食べなさい」

「うー……いいじゃない。ちょっと気になることもあるし……」

「む。シャオから聞いたけど……体重が気になるなら、酒を控えて運動しろって」

「ぶふぅっ! しゃ、小蓮ったら、一刀に何言ってるのよぉ!?////」

「いつの世も、女性が体重と体型に悩むものなのはもう分かってるけどさ。今は孫紹(しょう)の為にも健康第一だよ? それに雪蓮が俺には勿体無い程の美人なのは変わってないんだから、ね?」

「「「……軟派な台詞……」」」

「良いことを言ったつもりなのに!? いいよ、もう!」

 

一刀が自棄食いのように丼の中身を掻き込む。

 

「あ、あはは……ごめんなさい、兄様。でも、そんなに掻き込むのもお腹に良くないですよ?」

「んぐ?」

「あはっ♪ マーボーの餡が口元に付いてます。っと……」

 

流琉は布を取り出し、一刀の口元を拭いてやる。

 

「……ありがと。あはは、これってちょっと恥ずかしいね」

「そ、そう言うことは思っても口にしないで下さいっ!////」

「「……(じとー……)」」

 

イチャイチャする一刀と流琉の二人に、雪蓮と春蘭の視線が刺さる。

 

「さ、さあ食べちゃおうな!」

「は、はい!」

「流琉は可愛いものね〜。一刀がデレデレするのも仕方ないのかしら〜?」

「あぅ〜……////」

「まあそう苛めるなって、雪蓮……ん?」

 

そこで一刀は春蘭があまり会話に加わらす、食も進んでいないことに気付いた。

 

「春蘭、どうしたんだ。もしかして調子悪いのか?」

「む? いや、調子が悪い訳ではないのだが、どうにも食事が喉を通らん。食欲がないというか……」

「……春蘭様、それって……」

「そうね。春蘭、もしかしてあなた、懐妊したんじゃないの?」

「なっ、なにぃ!?」

「マジかっ! 確かに食欲がなくなることもあるらしいし……城に戻ったら、早速華佗に診察して貰おう!」

 

一刀はもう懐妊が決まったかのように喜色満面。雪蓮も多少意地悪い笑い方ではあるが、笑みを湛えている。

 

「む、むむむ……これは本当にそうなのか……?」

「……もし、本当にご懐妊なら。おめでとうございます、春蘭様」

 

狼狽するばかりの春蘭に、流琉が声を掛ける。しかし……

 

「う、うむ……流琉?」

「――はい?」

「……どうしたのだ。心此処に在らず、というか」

「あ、いえ……その」

 

流琉は春蘭と一刀を交互に見、雪蓮を見て、ぼそぼそと呟く。

 

「――羨ましいな、って。先日翠さんもご出産されましたし……。私や季衣と同じくらいの歳の鈴々ちゃんも、しっかり母親してるし……」

「あーもー! 可愛いわね!」

「ひえっ!?」

 

突然、がばっと雪蓮が流琉を抱き締めた。

 

「雪蓮、何を華琳みたいなことしてるんだ……」

「だってだって〜。可愛かったんだもーん!」

「今度はシャオみたいだぞ……まあ姉妹なんだから似てても不思議じゃないんだけど」

 

呆れ顔の一刀を無視し、雪蓮は流琉に耳打ちする。

 

「(ねえ、流琉)」

「(は、はい?)」

「(色々考えちゃうとは思うの。小蓮も偶に悩んでるし。けれど、一刀は心の底から全員を本気で愛してくれるでしょう?)」

「(……はい)」

「(浮気とどう違うのかとか、男としてどうなのかとか、女として複雑なトコもあるけど。でも……)」

「(はい。そうですよね……いつだって本気。そんな兄様だから、私も好きになったんです……)」

「(ふふっ、そうよね。だから……不安なら、その分だけ甘えちゃいなさい。きっといつの日か――そう遠くない未来、私達全員の子が生まれることになるわ。この孫伯符の“勘”を信じなさい♪)」

「(――はい! ありがとうございます、雪蓮様)」

 

二人は互いの顔を見合わせて微笑んだ。

 

「おーい、俺たちは除け者かよ〜。なぁ、春蘭」

「(ぼー……) はっ! な、なんだ!?」

「……ま、とりあえず無理に食べることはないさ。真実は華佗に診て貰わないと分からないしね」

「そ、そそそうだな!」

「あらあら、春蘭も可愛いわね〜♪」

「こっちには来るなよ! 私を抱いていいのは華琳様と一刀だけ――」

「春蘭! 嬉しいことを言ってくれるなぁ!」

「ええい、抱きつくな!////」

「へぶ!?」

 

ゴン! という鈍い音と共に、一刀は丼鉢に顔面を突っ込まされたのだった。

 

-7ページ-

食事を終え、店を出た四人。

華佗に春蘭を診て貰おうと、早速城を目指して歩き出したのだが。

 

ガラガラガラガラ!

 

けたたましい音が近づいてくるのを、周囲の街人すら感じていた。

 

「んん? 何の音だ?」

「戦車が走るような音ね……馬車でも暴走してるのかしら?」

「一応、警戒しておくか」

「はい。私は念の為、背後を」

 

そうこうしていると、遠くに土煙が見えてきた。

街の人々が巻き込まれまいと道を空けたお陰で遠くまで見えるようになった。どうやらかなりの速度で馬車が走ってきているようだ。

 

「こんな街中で、危ないな……緊急の伝令なら早馬だし、なんで馬車が街中で急いでるんだ?」

「引き止めて注意する?」

「んー……急患とか、何か事情があるのかもしれないし。警備隊に追跡と事情聴取だけお願いしておこう」

 

一刀が付近の警備隊支所を思い出そうとしていると、目の前を馬車が通り過ぎた。

……かと思いきや、急ブレーキ。いや、この馬車にブレーキはないので、馬の速度を緩め慣性で停止した。

 

「――義兄上ッ!」

「す、睡蓮!?」

 

停止した馬車から飛び出してきたのは、少し小柄な少年……先帝にして漢王朝のラストエンペラー、劉協であった。

 

「さ、昨年末の事件の顛末を聞き、ようやく仕事を終えて参上した次第で……! 本当にご壮健にあられるのですか!?」

「いや、だからな?」

「大事無いとの文は戴きましたが、読めば読むほど不安に駆られるばかりで! ああ、お元気そうで良かった……!」

「うん、元気だけどね?」

「やはり陛下自らが市井の警邏を担当するなど、問題が……」

「よーし、ちょっと黙れ」

 

ごつん!

 

「あいたっ!」

「……落ち着け。あと、街中で馬車にあんな速度を出させて、事故を起こしたらどうする」

「も、申し訳ありません……」

「心配してくれたのは嬉しいが、だからって平静を欠くな」

「は、はい……」

「俺は平気さ。いつだって心強い仲間が守ってくれる。華佗や張機っていう優秀な医者もいる。もう傷口もきれいさっぱり消えちまったよ」

「そう、ですか……良かった」

「……心配掛けて済まなかった。わざわざ見舞ってくれて、ありがとう」

「そ、そんな! 義兄上がご壮健ならば、何も……////」

「それにしても、睡蓮。随分背が高くなったな」

「そうですか? 自分だと良く分かりません」

「確か去年は朱里と同じくらいだったろ? 今は明らかに朱里より高いぞ」

「義兄上がそんなことまで覚えていて下さっただけでも、満悦至極です!」

 

一刀が睡蓮の頭を撫でる、というよりはぐりぐりと揺すると、睡蓮は嬉しそうに顔を赤らめた。

そんな様子を窺っていた護衛三人は……

 

「(……なーんか面白くない……#)」

「(……奇遇だな。私も何故か苛立ちが抑えられん……#)」

「(や、やっぱり朱里ちゃんや雛里ちゃんの言う通りなのかな……?)」

「(どういうことだ、流琉?)」

「(あー、私聞いた事あるわよ。あれでしょ、『八百一』とかいうの)」

「(やおいち? なんだ、それは)」

「(要は男色の話よ)」

「(だ、男色ッ!? 流琉! 朱里めは何と言っていたのだ!?)」

「(あの、その……兄様と睡蓮様って、ちょっと怪しいよね、と……)」

「(一時、洛陽の街中でも噂されてたわねぇ……ほら、睡蓮が一刀の義弟になった頃。警邏に同行してたからでしょうけど)」

「(にゃ、にゃにぃ〜〜〜!?)」

「(で、でも。そのことを聞いた兄様が、朱里ちゃんと雛里ちゃんにお仕置きしたって聞きましたよ?)」

「(一刀はそういうところで嘘は付かないでしょ。本人が“恋愛”ではなく“親愛”だって言うなら、本当だと思うけど)」

「(む、むむむむ……!)」

「(しゅ、春蘭様! 頭から煙が!?)」

 

「――北郷ッ!」

「うわっ!? あー、吃驚した。どうしたの、春蘭」

「貴様、我等……いや、華琳様というものがありながら、男色に走るとはどういう了見だ!?」

「ぶぅーーーー!? いきなり街中で何を言い出すんだ!」

「い・い・か・ら、答えろーーーー!」

「落ち着け! 睡蓮は義弟であって、そういう存在じゃないっての!」

「そ、そうだぞ、春蘭! 僕と陛下は義兄弟であって、愛人では……」

「睡蓮も愛人とか生々しい単語を使うな!」

「むがーーーーーー!!」

 

どこからどう見ても立派な痴話喧嘩である。周囲からひそひそと噂し合う街の人々の声が聞こえてきそうだ。

 

「ええーい! だから、どうして俺を男色に仕立てたがるんだ、みんなしてぇぇぇぇぇ!?」

 

結局、逃げるように城へと帰る四人+睡蓮であった。

 

 

……

 

…………

 

 

「くくくっ、はははははは!」

 

洛陽の宮殿、その奥の後宮に秋蘭の笑い声が響いていた。

彼女がこれほどにあからさまに声を上げて笑うというのも稀有な状況であるが。

 

「笑い事じゃないよ、秋蘭……」

 

そんな秋蘭の前で、一刀は肩を落とす。

 

街中で妻と義弟相手に痴話喧嘩をやらかし、一時は収まっていた男色疑惑の話題がまた持ち上がってしまうことは最早確実と言えた。

一刀の市井の者の人気は非常に高い。それも崇拝・畏怖といった上流階級への意識というよりは、庶民的とでも言うべきか、“自分達の仲間としての代表者”としての人気だ。

それだけに、彼に関する噂は驚異的な速度で洛陽、そして国内へと駆けていく。特にその内容が笑えるものならば尚更に。

実際のところ、一刀が男色であるとは殆どの洛陽の民が思ってはいない。ただ、一刀は自身に男色疑惑があることをからかわれると、面白いように過剰な反応を返す為、民に人気のネタなのである。

 

「人気者はツライわねぇ、一刀♪」

「あのな! なんかこそこそ話してるな、とは思ってたけど! 余裕があったなら春蘭を止めてくれよ……」

「だって〜。義兄弟だからって一刀ってば睡蓮には特に気安いんだもん。なーんか面白くなかったし〜?」

「嫉妬するなら女の子相手の時にしてくれ……」

「んん? 私達の誰も知らないような女と浮気なんてしようものなら、どうなるか分かってるのかしら?」

「失言でした! ごめんなさい!」

 

ぺろり、と雪蓮が舌なめずり。その背後には鬼の如きオーラが見えるかのよう。

一刀は途端に真っ青になって何度も首肯した。

 

「ふん! わ、私は謝らんぞ!」

「……まあ今更何言っても後の祭りだしね……謝れなんて言わないよ」

 

春蘭は微妙に後ろめたさを感じつつも、やはり謝罪する気にはならないようだ。

少なくとも彼女の目には、一刀が他の人間に現を抜かしていたように見えていたわけで、無理もないと一刀も諦め気味だった。

 

「に、兄様! 元気を出して下さい。人の噂なんて、いつかは消えるものですから!」

「……うん。ありがと、流琉」

 

凪と並ぶ旧魏勢の良心とも言える流琉の慰めに、一刀も彼女の頭をぽんぽんと叩いて礼を述べた。

 

「…………」

「?? どうしたのだ、睡蓮殿?」

 

悩ましげに一刀と本日の護衛役三人の賑やかな会話を見ていた睡蓮。その複雑げな表情に、秋蘭が声を掛けた。

 

「あ、ああ。あの三人は義兄上の妻なのだな、と……」

「うむ。それを言うなら、北郷には私を含め四十二名もの正室がいるな。それがどうしたというのだ?」

「……秋蘭。ひとつ、訊いてもいいだろうか?」

「私で答えられる範囲ならば」

「そ、その……どう言い繕おうと。一夫多妻である以上は、おぬしも義兄上から見れば大勢の中の一ではないか」

「うむ。それは真実だな」

「女は……秋蘭は。それに、他の者もだが……それで本当に納得出来るものなのか?」

「成る程……では答えよう。誰もが納得はしている。だが誰一人として満足しておらん」

 

ずばりと秋蘭は答えた。

 

「納得はしているが、満足はしていない……?」

「うむ。北郷が……一刀が“ああ”いう男であること。恋敵は数限りないこと。自身が大勢の中の一であること。少なくとも、この点においては皆が納得している。事実として受け入れている、と言った方が正しいか」

「…………」

「だが、正室の誰一人、現状で満足はしておらん。誰よりも一刀を愛すること。誰よりも一刀の側近くにいること。誰よりも一刀の心を占めること。誰よりも一刀を独占すること。誰しもがそれを求め、行動している。ふふっ、毎日が女の戦いと言えるな」

「そ、そんな状況で、正室同士で仲違いするようなことはないのか? 男に独占欲があるように、女にもあるだろう。刃傷沙汰とまではいかずとも、友情や愛情が壊れたり……そういった不安はないのか?」

「一刀の節操無さは正に天下無双。だが、奴は常に本気だ。一度誰かを愛したならば、その身を擲(なげう)ってでも愛し守ろうとする。文字通り必死だ。口だけではない、それだけの覚悟を感じさせるのだ。そう……奴の情もまた天下無双、という訳だ」

 

ふわりと笑った秋蘭の相好に、睡蓮は言葉を返せなかった。

 

「最も古くから奴に侍ってきた蜀の者でも、“恋愛の達人”を自称する女から、こんなことを言われたことがある」

「趙子龍……星のことだな」

「うむ。奴は言った。一刀に侍る為、我等に必要なのは確固たる覚悟――自らが、一刀にとって『一番で在り続けんとする覚悟』だ、と。故に、私達はどこまで行っても満足などしはしない。人生が死まで続く戦いであるならば、愛もまた死まで続く戦いなのだろう」

「……つまり……義兄上も、おぬし等も。日々、命懸けで戦っているわけ、か……」

 

そう言うと、睡蓮は大きく息を吐いた。

 

-8ページ-

「さて、何故にそのようなことを訊いたのか。逆に訊いても宜しいか?」

「……ああ。実は……最近、三人から同時に求婚を受けていて……」

「ほほう。お相手を訊いても?」

「秋蘭にとっては顔見知りだ。曹熾(し)の娘ら三人……今は曹純が家長だから、彼の妹らと言うべきか」

「……成る程。さては何時ぞやの事件で惚れられたか」

「う……そ、そうらしい……」

 

秋蘭の言う事件とは、黄平元年に起きた旧魏の将軍、曹仁・曹純の妹三人が何咸(かかん)によって誘拐された事件である。何咸は妹を人質に曹仁らを脅し、丞相・華琳の殺害を目論んだ。しかし、正体隠蔽の術具を用いた雪蓮によって何咸は誅され、悪事は闇に葬られたのだった。

ただ、この事件において劉協こと睡蓮は雪蓮に同行しており、曹三姉妹救出の際に素顔を晒していたのだ。

 

「あの事件を解決したのは雪蓮であるし、僕はただ何咸と話がしたくて無理矢理付いて行っただけだ。恩義と言われても困る。しかも、曹純は三姉妹揃って輿入れさせたいと言うし……。最近、とうとう三姉妹だけで僕の屋敷近くに越してきたんだ」

「はっはっは、それは積極的な! かの三姉妹は見目麗しく成長するに違いないと評判であったし、男冥利に尽きる話ではないか」

「わ、笑い事では……。正直、僕に複数の女性を同時に愛せるとは思えなくて……。それに彼女らは押しが強いというか、僕が弱いというか。丁度、今、義兄上に絡んでいる三人に近い感じで、三人が三人とも特徴的で……」

「ほぉ……。雪蓮に姉者、流琉が彼女らと似ていると?」

 

睡蓮は頷き、懺悔のようにゆっくりと語り出した。

 

「長女の曹憲は、雪蓮のように普段は優しいんだが。偶に僕を見る視線が怖いというか、蛇に狙われている蛙の気分になるというか……。僕よりも幾分年上だから、というのもあるのかも知れないが」

「……」

「次女の曹節は、春蘭みたいに何故かいつも喧嘩腰で。構うな、放っておいてと言われるんだが、常に付かず離れずで、言われた通りにすると尚更機嫌が悪くなるんだ。特に他の姉妹二人と話していると物凄い形相で睨まれるし……」

「…………」

「三女の曹華は、年下な分、姉二人よりは接し易いし、普段は流琉のように気の利く子なんだ。でも『側室が駄目なら愛玩動物でも構いません!』と言われても、どうしたらいいやら……」

「……………………」

 

秋蘭は何も言えずにいた。というか、内心で彼女らの父である曹熾に「娘にどんな教育をしてきたのか」と問い詰めたいような。彼女らが華琳の従姉妹であることを考えれば納得出来るような。

 

「そういう訳なんだ。只でさえ複数の女性を娶ることが出来るか不安なのに、相手が妙に積極的で怖いんだよ……情けない話だが」

「そ、そうか……」

 

さて、どう助言したものか、と秋蘭が頭脳を回転させていると。

 

「――話は聞かせて貰った!」

 

いつの間にか、一刀が護衛三人も連れて此方に来ていた。

 

「普段から女性に振り回されている義兄から、悩める義弟にアドバイス――もとい、助言を授け……」

 

「振り回されてるのはほぼ自業自得じゃない?」

「全くだ。責任転嫁も甚だしいぞ!」

「それに、兄様も女性関係は十分鈍感な人ですし……」

 

「……散々な言われようだな、北郷」

「せめて秋蘭が何も言わずにいてくれて良かったよ……ともかく!」

「は、はい!」

 

言葉の暴力でボコボコにされつつも、一刀はびしっと睡蓮を指差した。

 

「いいか! 不安だ怖いだ言う前に。まずは自分の心を素直に感じろ! お前は、その娘たちをどう思っているのか。これからどう付き合っていきたいのか――彼女らはお前への気持ちをはっきりとさせてるんだ。なら、好きになるかどうかはともかく、お前も誠心誠意応えろ!」

「!」

「好きになれないなら、それをちゃんと伝えてあげろ。好きになったなら……その娘の全てを生涯背負う覚悟を決めろ! 中途半端は男の恥と知れ!」

「…………」

 

睡蓮は義兄の言葉をひとつずつ、ゆっくりと反芻する。

 

「――義兄上。ご助言、確かに承りました。……僕には彼女らと向き合う勇気が、覚悟が足りなかった。僕も本音で、彼女らの気持ちに誠意をもって応えようと思います」

「おう。頑張れ、睡蓮!」

「はいっ!」

 

とまあ男同士の方は話の片が付いたようだったのだが。

 

「なあ。無節操も男の恥なのではないか?」

『…………』

「……姉者。せっかく話が纏まったのだから、混ぜっ返すな……」

 

やはり空気の読めない春蘭であった。

 

 

 

さておき、睡蓮の登場でごたごたしてしまい、誰もが春蘭の懐妊疑惑をすっかり忘れてしまっていた。

その日の夕餉においてそのことを思い出した面々は、同行を申し出た華琳と、双子の妹である秋蘭も引き連れて華佗の下を訪れた。

 

「悪いね、華佗。もう勤務時間外なのに」

「気にするな、一刀殿。これも医者の……五斗米道の使命のひとつさ。さて、では早速診察しよう」

「う、うむ! よよよ宜しく頼む!」

「ふふふ……春蘭ったら、緊張しているの?」

「そそそそのようなことは!?」

「……落ち着け、姉者」

 

椅子に座る姉の肩を、秋蘭が斜め後ろから叩いた。

 

「わ、分かっている!」

「ははっ、まあ緊張するのは仕方ない。さあ行くぞ――」

 

言うや否や、華佗が雄叫びを上げる。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

それに呼応するように、身体中の氣が双眸へと集中する。

華佗はこうして女性の胎(はら)に宿る子の生命力を見る……らしい。

 

「(相変わらず煩い上に胡散臭いわね……いい加減、慣れはしたけれど)」

「(そゆこと言わないの、華琳)」

「むっ――見えた! 確かに生命の輝きだ……!?」

「ど、どうした? ま、まさか、何かおかしいのか!?」

「い、いや。そうじゃない。夏侯惇が確かに懐妊しているのは確認した。だが……夏侯淵」

「うむ? なんだ、華佗」

「俺の目に狂いが無ければ。君も懐妊している」

「「なにぃぃぃぃぃぃ!?」」

「あら、そうなの? 気分が悪かったりはしないの、秋蘭」

「これと言って。これは思いがけぬ結果となりましたな」

「もうちょっと驚きや喜びを表に出してもいいのよ?」

「……華琳様“が”詰まりませんでしたか?」

「ばれちゃった?」

「勿論。本当に困ったお方――!?」

「やったな、秋蘭ーー!」

 

華琳と秋蘭がじゃれ合っていると、突如一刀が秋蘭を抱き締めた。

 

「こ、こら北郷! おぬしも落ち着けっ」

「これが落ち着いてられるかっての! ははははは!」

「ま、全く……華琳様とは違った意味で、困った奴だ……////」

「あらあら。顔が赤いわよ、秋蘭?」

「か、華琳様……!」

「春蘭も、いつまで呆けているの? 仕方ないコね」

「はっ!? い、いえ。余りに驚いてしまって……。こほん。めでたいな、秋蘭!」

「……うむ。お互い、めでたいな。姉者」

 

こうして、春蘭のみならず秋蘭も懐妊しているという事実が判明したのだった。

 

 

 

蛇足。その後、夏侯姉妹の私室にて。

 

「そうかそうか! 私だけでなく秋蘭もか!」

「……ふふっ」

「ん? なんだ、秋蘭。嬉しいのならば普通に笑えばよかろう。何故、私を見て笑う?」

「いや。姉者は“一刀”との子が出来たのがそんなに嬉しいのかと(にやにや)」

「にゃっ!?////」

「照れることはないではないか(にやにや)」

「なっ、ならばそのにやけた笑いを止めろーー! 大体、秋蘭とてそうだろうが!」

「うむ。これでも十分に喜んでいるさ。姉者ならば分かるだろう?」

「うぅ〜////」

「はっはっは! 照れる姉者も可愛いなぁ」

 

この妹は結局そこに落ち着くらしい。

 

-9ページ-

(うふん♪ やっと会えたわぁ……“今日”も頑張ってねぇん♪)

 

“現代の夢”へと送られる直前に聞こえてくる野太い声。今でははっきりと聞く事が出来るようになっていた。

しかし、此方の声は向こうに届いていないらしく、会話は出来なかった。

 

(……ああ、今日は“現代の夢”に行けるのか……)

 

眠りの淵から意識が浮上する。

 

昨年末の襲撃事件以来、“現代の夢”を見る機会が減少していた。

一時期は毎日のように見ていたのだが、現在では二、三日に一度程度となっている。

このメッセージによると、

 

(ゴメンなさい、ご主人様。此方でも面倒事があって、中々機会を見つけられないの。寂しいわァン……)

 

とのことだった。

面倒事の詳細については一切触れない為、一刀には状況が分からない。しかし、現時点で幾つか確信を得ていることがある。

 

まず、声の主は一刀をよく知る人物であり、“古代の現実”での普段の様子も知っていること。

彼(?)はこの一方的な挨拶において、しばしば親愛、あるいはそれ以上の感情を隠しもせず話しかけてきた。世間話だけでなく、一刀の妻らに対し、偶にやっかみのような、嫉妬らしき感情を窺わせたりすることすらあった。

 

現代ではなく、古代の人物であり、少なくとも敵ではないこと。

一刀を“ご主人様”と呼ぶことや言葉の端々から感じられる親愛などもあるが、なにより彼の仲間たちの一部を真名で呼んでいた事から、一刀はそう確信するに至った。

 

そして、彼と自分が会ったことがあるらしいこと。

いつだったかの挨拶で、この謎の人物は一刀へこう言ったのだ。

 

(面倒が片付いたら、すぐにでもご主人様に会いに行くわぁん。感動の“再会”を楽しみにしててねぇん♪)

 

この言葉は一刀を随分驚かせたが、どれだけ考えてもこの人物に心当たりが無かった。

 

(明らかにカマっぽいんだよなぁ……声色は絶対男だし。口調からだけでも相当“濃い”人だし、そもそも声自体が印象的だし。一度でも会ったことがあるなら忘れないと思うんだけど。一体何処で会ったんだろう……?)

 

一刀が思考に耽る間も無く、メッセージは続けられる。

 

(じゃあ行ってらっしゃ〜〜い♪)

 

結局、一度とて名乗らぬ不思議な味方の声に励まされつつ、一刀の意識は再び闇に落ちた。

 

 

……

 

…………

 

 

「ィエェェェェィ!」

「ほっ」

「セェイ!」

「なかなか」

「チェェ――」

「おら、連携が甘え!」

 

ゴスッ!

 

「んぐぅっ!」

 

上段から斬り下ろし、すぐさまの平突き、そして切り払いへと連続攻撃を仕掛けようとした一刀だったが、連携の隙を突かれ、逆に脇腹へ痛烈な一撃を見舞われる。

アバラ骨に響く痺れるような痛みに、一刀は思わず膝を付いた。

 

「……フーム、『霹靂』の出来具合はまあまあだな。連携も形にはなってらぁ」

 

『霹靂』――北郷流における、上段変則の構え『蜻蛉』からの斬り下ろしの名称である。『二の太刀要らず』と言われる示現流の斬り下ろしと基本は同じだが、受け止められたとてそのまま押し切る示現流とは違い、北郷流では相手に受け止めさせないことを良しとする為、敢えて名称を改めたものである(と言っても示現流では斬り下ろし自体に名称はないが)。

 

「よぉし、小休止。休みながら聞け」

「……オッス……おー痛ぇ……」

 

孫十郎の指示に、一刀は刀を放り出し、その場に胡坐を掻いた。

 

「立ち合いはかなり熟(こな)れてきたな。さて、今日から『居合い』も教える」

「おおー!」

「まず、北郷流において『居合い』ってのは“抜刀術を用いた速度重視の交叉法、あるいは緊急避難”と覚えとけ」

「基本的に後手ってこと?」

「そうだ。相当に熟練すれば奇襲として先を取る攻め手にも使えるだろうがな。納刀した状態で襲撃された際、たとえ座ったままからでも素早く戦闘態勢を整える技術であり、可能なら交叉法によって反撃する技術だ」

「ふーん……大体分かったけど、疑問点がひとつ」

「なんでぇ?」

「速度重視っていうけどさ。『居合い』って片手で刀を抜く訳だろ。スピードっつっても限界あるんじゃ?」

 

首を捻る一刀に、孫十郎は意地悪く笑う。

 

「はっ! 素人の浅はか考えだな」

「浅はかで悪かったな!」

「しかし、目の付け所は悪くねえ。ちぃっと実演してやるよ。そのまま座ってな」

 

そう言うと、孫十郎は手にしていた刀を鞘に納めた。

 

「――いくぜ!」

 

(やっぱ初動は遅――!?)

 

一刀は抜刀する直前までの動作を見切っていたが、刀が鞘から抜き放たれた瞬間、その動きを見損じた。

気付けば孫十郎の振るう刀が頭上でぴたりと止まっている。

 

「どうだ?」

「……なんか、鞘から抜いた瞬間に加速したような……」

「おうおう、いいところまで見えてるようだな。オメエの所感は間違ってねえぜ、一刀。鞘走りから抜き放った瞬間の加速、それこそが『居合い』のミソさ」

「一体どうなってんの?」

「簡単に言っちまうと“デコピン”の要領だ。鞘走りを“タメ”として、鞘から刃が離れる瞬間に解放する。タメがある場合とない場合で速度や威力が段違いなのは、実際にデコピンをタメないでやってみりゃあすぐ分かる」

 

孫十郎は改めて納刀し直し、目の前で右手の中指をピコピコと振って見せた。

実際、この力を溜める理論は様々な武術で見られる技法のひとつだ。特に拳を加速する距離が得られない、超至近距離の打撃などで威力を確保する為によく用いられる。

 

「『居合い』が“速い”と言われる所以は、無防備に見える納刀からの攻撃であること、脇構えのように間合いが掴み難いこと、そして今見せた鞘走りからの加速、これらの相乗効果だ。だが逆に言えば……」

「真っ当に正面から使うと効果が薄いってことか」

「そういうこった。どこまで極めようと片手で振る以上は諸手(もろて)より威力は劣る、肝心のタイミングが得物の長さで変わっちまう、鞘走りさせりゃ当然得物は刃こぼれしちまう、とまあデメリットも多い。結局、使える状況が限られる技なのさ。だが、いざって時にゃ便利なのは保証するぜ」

「成る程ね……確かにデメリット多いな」

「最初は素早く抜き放って構えるだけの抜刀術から教える。次に立った状態からの『居合い』。それをマスターしたら座った状態から。最後に、対鎧武者用の『居合い』だ」

「え? 威力ないって言ってるのに、鎧相手の『居合い』があるの?」

「示現流から伝わった技があんだよ。つっても現代のボディアーマーとか相手じゃあ意味ねーけどな。まぁ使える時が来るかも知れんし、何にせよ順番がある。さぁ、始めんぞ」

「……分かった」

 

 

 

「タァッ!」

「てんで駄目だな。しっかりタメろ。抜き放つタイミングもずれてやがんぞ」

 

タメの感覚と、抜き放つタイミング。習得には徹底して反復練習あるのみ。

一刀は孫十郎の監督の下、ひたすらに繰り返す。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

「どうした、もうへばったか!」

「なんの、まだまだ! すぅ〜〜〜……」

 

深く息を吸い、意識を集中する。

 

(鞘の中で刃を滑らせて、刀が抜ける瞬間振りぬく……!)

 

一刀が抜刀しようとした瞬間。

 

バチッ。

 

そんな音を幻聴した。

 

(――!?)

 

途端に視界がブラックアウトする。

 

 

……

 

…………

 

 

「うわぁっ!?」

 

飛び起きた一刀。

周囲を見回すが、真っ暗なままだ。

状況を把握しようと、ぱたぱたと身体や周りを手探りする。

 

(寝具や衣服からして、現実に戻った……みたいだな。何が起きたんだ?)

 

思考を巡らすも、余りに突然すぎて全く分からない。

このような事態は今まで一度も無かったことだ。

 

「むにゅ〜〜、どうしたのぉ〜、かずとぉ〜」

 

むっくりと身体を起こし、寝惚けた声色を出したのは、昨晩最後の伽役だった小蓮だ。

 

「あー、えっと、なんと説明したやら……」

「あ、分かった! 怖い夢、見ちゃったんでしょ?」

「うえ? い、いや……」

「もぉ〜、一刀ったら仕方ないなぁ。眠れるまでシャオが抱き締めてあ・げ・る♪」

「わぷっ」

 

暗闇の中、シャオが一刀にすり付いて来たかと思うと、ぎゅっと顔を抱き竦められる。

一瞬怯んだ一刀だったが、ボリュームは無くとも(などと言えば痛い目に合うが)柔らかく温かい感触に、身体を弛緩させた。

 

「えへへ〜♪ おやすみ、一刀♪」

「……ああ。おやすみ、シャオ」

 

(情報が全くないんじゃ、考えるだけ無駄だし……ま、いいか)

 

そう考えた一刀は、自身からも愛しい娘を抱き締め、ゆっくりと睡魔に身を委ねた。

 

 

 

(〜火〜に続く)

 

-10ページ-

【アトガキならぬナカガキ 〜木〜】

皆様、ご無沙汰してしまい申し訳ございません。四方多撲でございます。

 

さんざお待たせしておいて、今回24話は少々見切り発車です−−;

おまけに、この『〜木〜』は黄平3年の1月のみ。懐妊は春秋姉妹の二人、出産は翠のみ(しかも描写なし。次の話で出てきますが)という有様。1話当たりの文章量はいつも通りなのですが……

 

イチャイチャ成分が大幅に足りていない! 気がする。

 

冒頭、前年末の事件の対処などで量を取り過ぎてしまったの原因です……。何度か書き直したりしたのですが、どうにも上手く纏まりませんでした。すぐに話が横に逸れるし……だらだら書くことは出来ても、きっちり纏めるのはとても難しいことを痛感しております。ああ、力量不足が……

 

次回以降はイチャコラ成分を多目にお送り出来るよう精進致しますので、どうかお許し下さい。

※なお、今回も「あとがき演義」は最後の「〜水〜」編に付属させますので、悪しからずご了承下さい。

 

それではまた次回、「〜火〜」編でお目に掛かりたく存じます。

 

 

敢えてもう一度書く。

祝! 真・恋姫†無双〜萌将伝〜 発売決定!

もう地図で予約したぜ! でも公式の方も特典次第で予約するぜ!ww

 

四方 “やべえ、公式でハーレムやるなら、このSSって存在価値なくね?” 多撲 拝

 

説明
第24話(1/5)を投稿です。
祝! 真・恋姫†無双〜萌将伝〜 発売決定! 念願のFDですよ♪
だと言うのに、またもや一ヶ月半ぶりの投稿……忘れられていないか凄く怖い。完全に自業自得ですがorz
ともあれ、ほんの少しでも皆様にお楽しみ頂けます様に――
……分割するようになったせいで、序文のネタ(↓)が枯渇した……どうしよう−−;
ほら見なんせ、読みなんせ〜♪ ほれまけとけ添えとけ♪ 蜀END分岐アフター、はいどうぞー☆
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コメント
そのにやけた笑いを止めろ→にやついた(21話コメントを参照)(XOP)
XOP 様>修正しました。ついでに23-1の同じミスも修正しました(GREPで確認)。ご指摘ありがとうございます!(四方多撲)
また“現実の夢”での剣術修行→“現代の夢”(XOP)
劉趙 様>お待たせしておりまして、申し訳ありません…早ければ今週末にも投稿できそうです!(四方多撲)
早く続きをお願いします(劉趙)
XOP 様>ここは「幻聴」を残す形としました。その他、誤字を修正しております。ご指摘ありがとうございました!(四方多撲)
地和は一指し指と中指で→人差指:事実が発覚したのだった。→判明した(『発覚』は悪事・陰謀などが明るみに出ること):幻聴した気がした→聴いた気がした(幻聴は実際に音がしないのに聴こえる様に感じるつまり『聴いた気がする』こと)(XOP)
劉炎 様>お褒め下さる方がいらっしゃる内に更新したいのは山々なのですが…この次、火編に苦しんでおります。どうか今暫くのお時間を下さいm(_ _)m(四方多撲)
XOP 様>恋姫たち母親は「性交渉有りグループ」のつもりでした。分かりにくいですね… 璃々と袁燿については、璃々を追加。袁燿は基本的には侍従任せの設定です。なんせ七乃は普段働いている訳で、美羽一人で赤子の世話は怖すぎますしw 双方について本文を修正しております。ご指摘ありがとうございます!(四方多撲)
この小説面白いから早く新しい回をつくってくれ(劉炎)
一刀の血を引く者には効果がないのは確実→一刀の子供とその母親(「血を引く者」では正室たちが含まれません):玉座に座り、華佗の〜華琳と雪蓮、そして桂花。→璃々と袁燿は?(特に袁燿の世話はどうした?この時点で一刀の養女じゃないから七乃らでベビーシッターを雇っている?) (XOP)
花 様>ありがとうございます!>< 最近、ホントに執筆時間が取れないのでその焦りもあり… 過度にシリアスにならずにお気楽にやっていこうと思います^^(四方多撲)
久しぶりにTINAMIに来たら更新されていた。これほど嬉しい事はない……。と置きまして、恋姫新作も楽しみですが、国家運営と次世代がある部分・そう「被ってる」とか気にしなくてもいいんじゃないでしょうか。むしろそちらを楽しんで読んでますし。発売も7月ですからそう気にしなくてもいいと思いますよ?(花)
XOP 様>本当に誤字多くて申し訳ない…修正致しました。『孫行者』は猿の面の上から、あの目抜き帯を付けていますが…本文中には帯をしているとしか書いてませんでした−−; 描写する場所がないのでアレですが、自己紹介することで正体隠蔽を解除できる、ということにして下さいm(x x)m(四方多撲)
順番では次は紫苑、桂花だけどこの調子だと桂花はどうやって・・・・・・?懐妊と出産の順序は一致すると限らないので先に桂花が懐妊する可能性も・・・(XOP)
玉座へと掛け寄る。→駆け寄る:便利なのは保障する→保証(「保障」は「制度として守る」):正体隠蔽の術具を用いた雪蓮→あの猿の面は単なる面では?術具なら睡蓮は面をつけた雪蓮を雪蓮と認識できないのでは?(XOP)
XOP 様>確かにそうですね−−; 「数十人もの女性」と修正致しました。ご指摘ありがとうございました!(四方多撲)
彼女以外の正室たちの叫び声が→これだと美羽・七乃・美以(あと桂花)が含まれません。少なくとも美羽は一刀に好意を持っていますし・・・(XOP)
XOP 様>自重しろ:ご尤もでw 美以たちは皇帝の客分ということで。七乃と美羽は…あれ、麗羽は帰って来たばかりじゃん…話は尚書の執務室で聞けるとして、雛里か亞莎に七乃が頼んだとか、かな? 適当でスイマセン…。それにしても誤字多過ぎ…いつも以上にお手数をお掛け致しましたm(_ _)m(四方多撲)
XOP 様>痛い目は「合う」でも「遭う」でもよいようです。袁胤:ぎゃー!やってもーた! 御史中丞:今まで描写する機会を逸していたのを失念しておりました…注釈を追加しました。麗羽は極稀に猪々子・斗詩を呼び捨てます。タイミングはなんとも言えないので、逼迫した事態において使っています。(四方多撲)
XOP 様>朝庭:説明を追加しました。恋姫では洛陽が焼失してない為、名称が時代的に微妙なんですが… ボディアーマー:私の趣味であるTRPGの、某ゲームから引っ張った「コンバット・インファントリー・ドレス」をイメージしてます。NBC戦用のボディアーマーで、胴部を鋼鉄(四肢はプラスチック)と各種繊維で防護するものです。(四方多撲)
レイン 様>FD発売が待ち遠しくもあり、完結まで待ってほしくもあり… いや、さっさと書けという話なのですが−−; 敢えて冥琳を「ちゃん付け」してみましたw 睡蓮の外伝も余裕が出来たら書いてみたいですね〜^^(四方多撲)
よーぜふ 様>ありがとうございます! なるべくお待たせしないように頑張ります。冥琳ちゃん、はきっと本人が嫌がるだろうと思いましてww(四方多撲)
永遠の二等兵 様>久々の更新で申し訳ありません−−; 完結まで頑張りますので、これからも宜しくお願い致しますm(_ _)m(四方多撲)
弐異吐 様>筆者が袁家の脳天気表現に苦手意識を持っているのも無関係ではない…かも−−;(四方多撲)
浅井とざし 様>ありがとうございます〜! お言葉を励みに頑張りまっす!(四方多撲)
hokuhin 様>お待たせしました! この外史の麗羽はマジックアイテムユーザーなのでw あの馬鹿っぷりは意外にムズカシイ…(四方多撲)
kau 様>本当にお待たせ致しました…お楽しみ頂けたならばよいのですが^^; 萌将伝で、恋姫たちの設定に矛盾が出ないか、何気に不安な筆者です… とりあえず美羽の「主様」にヤラレタww(四方多撲)
だめぱんだ♪ 様>ありがたいお言葉を頂き、恐悦至極です! 次は…余りお待たせしないように頑張りますね^^;(四方多撲)
t-chan 様>ありがとうございます〜^^ ご期待に添えるよう頑張ります!(四方多撲)
moki68k 様>前回焔耶も言ってますが、偉そうな一刀って何の冗談かと思っちゃいますw そういえばこの外史の一刀くんは「ロリ」言われてないや。アンソロだと鉄板ネタなのにw(四方多撲)
jackry 様>そうだ! もっと萌えを! イチャラブだ、イチャラブを書くんだ、俺!w(四方多撲)
ptx 様>きょ、恐縮です^^; ご期待に添える作品になるよう、今後も頑張ります!(四方多撲)
カズト 様>お久し振り&お待たせ致しました! 貂蝉は…文字だけであのインパクトを表現するのって難しそうですよねぇ…w(四方多撲)
320i 様>お待たせ致しました〜、本当に… 楽しんで頂ければ幸いです^^(四方多撲)
sion 様>ホントお久し振りになってしまいました−−; ご明察の通り、木火土金水の五行で5分割を想定しております。(四方多撲)
武器を持ち出す愛紗に鈴々、焔耶と春蘭、季衣に霞→焔耶!霞!自重しろ!(其々妊娠3ヶ月と5ヶ月):桃香の客将に過ぎない美以たちと無位無官の美羽が玉座の間に入ることが出来たのはなぜ?七乃も役職の高さからいえば微妙。(見舞客として一刀が許可?)(XOP)
頂議の参加者ですが・・・いつから御史中丞も参加することに?最初は参加していないことになっていたはず。:猪々子に胸倉を捕まれた兵士は→掴まれた:……猪々子。何がありましたの?」→麗羽の口調なら「さん」がつくが・・・人和か?:正室たちの叫び声→天和以外の女性たちの叫び声(XOP)
睡蓮君…君は紛れも無く『北郷一刀』の義弟ですっ!!!(色んな意味で)彼女達を幸せにしてあげて下さいね…(ただ、特に三女にはお気を付けを(笑))それから、書き忘れてましたが、春蘭さんに秋蘭さん、ご懐妊おめでとうございます。(レイン)
ある意味この『外史』が萌将伝かもしれません(笑)『原典』の萌将伝は色んな意味で期待と不安(内容や容量的に)がありますが、私は速攻で予約してきました(関係無い)貫禄無し、『超鈍感』、『フラグマスター』デフォルトな一刀君ですからしょうがないですよ(笑)一刀君と睡蓮君の八百一か……イヤ、ナンデモナイデスヨ…追伸:風さん…いくらなんでも冥琳『ちゃん』って…(レイン)
おかえりなさいまし、いつまでもおまちしておりますよ。 …冥琳ちゃんてw(よーぜふ)
お久しぶりです。大丈夫です、需要はまだまだあります。少なくともここには。(永遠の二等兵)
なんか麗羽が結構まともで怖いな(弐異吐)
待ってました^^需要ならここにありますから。(浅井とざし)
良かった更新されている。ここの麗羽様は地味に役にたつ事が多いな。(hokuhin)
ヒャッハー、きたよきたよ、毎日チェックしていた甲斐があるというもの。”このSSって存在価値なくね?”<むしろ、萌将伝をこのSSで出すべきだと思うんだ。(kau)
更新待ってましたー!貴重な蜀アフター&ハーレムSSであることもさることながら、内容もとても面白いですし、ずっと楽しみにしてますよー!(だめぱんだ♪)
更新お疲れ様です。公式に負けないくらいいい作品だと思います。次回も楽しみにしています。(t-chan)
更新多謝!しかし敬われてない皇帝ですなーwまー璃々との仲を勘違いされないだけマシですねw なにげに不安感をあおるサブタイトルですが楽しみにしています。(moki68k)
更新待ってました!!めっちゃくちゃ楽しみにしてました!!この作品は本家に匹敵するクオリティなので、存在価値が無くなるということはまずあり得ない。(ptx)
昼を街中で取ることに→摂る:連携の隙を付かれ→突かれ:便利なのは保障するぜ」→保証:現代のボディアーマーとか→防弾服と防刃服のどっち?:言えば痛い目に合うが→遭うが:複数あったもの・袁胤→袁燿(胤はまだ生まれていない)(XOP)
汚れていない部分を利用しし→利用し:皆々へそう申し付けて→「申し付ける」は謙譲語:フォローを入れよたのは→入れたのは:現宮殿の朝庭の→中庭?:武官らを押さえる星や桔梗→抑える?(物理的になら押さえるでOK):(XOP)
お久しぶりです。待ってました!!とりあえず貂蝉が現れたときの皆の反応が楽しみです。ちなみにこのSSは存在価値ないわけがないww(スーシャン)
お〜久しぶりの更新!タイトルが「木」ですか・・ふむ、陰陽五行で5話構成ですかな?w(Sirius)
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