魏√アフター 想いが集う世界――第二章――第二話 閑話
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 既に日差しが窓から時刻に、桂花は床の上でその顔を綻ばせていた。

 自分の隣には、敬愛して止まなかった華琳の姿があるから。そして華琳の体は、毛布の上からも体に何も纏っていない事が分かった。

 この事も、桂花は至福の想いをして受け止めていた。

 しかし、それ以上に嬉しい事が昨夜はあったのだ。

 死別した親の伝を使って袁紹の配下に加わり、北家の無実を証明しようと躍起になっていた。

麗羽も同じ気持ちを抱いている事は分かっていた。だが、その想いが空回りしている事が桂花は、容易く読む事が出来た。

 麗羽の父、袁成が生きていればまだ違ったのだろう。だが亡くなってからは、どこかおかしくなってしまったのだ。

 袁家の甘い汁を飲もうとする愚者で溢れ、麗羽も頑張ったが抑える事が出来なくなりだしていた。

 そんな折、麗羽は桂花を呼び出し、華琳の許に行く事を薦めたのである。

 今でも、その時に言われた言葉を、桂花は一言一句覚えている。

 

「桂花さん。私の力が及ばず、申し訳ありませんわ……。今の私では、この地を収める事が出来ません。

 ですが、必ず地盤を固めて見せますわ。ですが、今のままでは桂花さんの知を、無駄にしてしまう事は間違いありません。

 ですから、あなたにはこの地を去って頂きたいのです。そう、予てより言っていた、華琳さんの許に……。行って、くれますわね?」

 

 そう、悲しそうに語る麗羽の目を、桂花は忘れる事が出来なかった。

 地盤を固める事が出来た時。その時は華琳と力を併せ、北家を滅亡に追い込んだ屑共を、一緒に葬ろう。そう約束したのだから。

 麗羽の目には、確かな決意が灯っていた。

 どれだけ高飛車な言葉を吐いても、真に民の事を思う麗羽の姿を見て桂花は、このまま麗羽の許で骨を埋めてもいいと思っていた。

 だが、麗羽の決意を聞き、敬愛している華琳の許にも行きたかった為、陳留に向かう事にしたのである。

 

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 その道中は、決して楽な物ではなかった。

 賊に襲われて護衛は全員死に、麗羽の紹介状も紛失する。

 だが、そこで一刀と再会を果たしていたのだ。

 

(もっとも。顔を知らなくて、郷様に罵声を浴びせてしまったのは、一生の不覚ね)

 

 あの時の事を思い返して、桂花は自嘲気味に微笑む。

 その後に、自分だけが置いてかれ、苦労して陳流に着けば、文官の末席に置かれる始末。

 それでも麗羽との約束を守り、政策を謙譲し、伸し上がればいい。そう桂花は思っていたのだ。

 耐え続けた結果、その機会が訪れ、華琳と目通りが出来る事になり、そこで一刀と本当の再会を果たしたのだ。

 

「……もう少し、素直になれないものかしら。あんな回りくどい伝え方をしても、郷様は気付きそうもないのよね……」

「――そうね。でも、私との約束を破ったら、どうなるか分かってるわね?」

「か、華琳様! お、起きていたのですか!?」

「あら、あなたが目を覚ましているのに、私が寝ているとでも思って?」

「そ、そうですね」

「さて、桂花。そろそろ出立の準備の、最終調整をしなければならないわ。手伝ってくれるわね?」

「もちろんです!」

「ふふ、いい返事だわ」

 

 自分の呟きに華琳が答え、その事に狼狽した桂花だったが、すぐに自分を取り戻し、華琳の着替えを手伝い始める。

 着替えを手伝っている間、桂花は始終笑顔を浮かべていた。

 しかしその脳裏には、意識を失った後に見た夢の事を忘れる事が出来ないでいた。

 その夢を見た事も、もう少し素直になろうと思った切欠でもあった。

 

 桂花が見た夢。

 それは、昨夜。華琳達が見た夢と似ていたのだが、その事を桂花が知る由もなかった。

 

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 あの馬鹿がいなくなってから、城内が静かになった。

 乱世の時代が終わったのだと実感する程に。

 馬鹿がいなくなる前は、静かな時間は少しもなかった。

 廊下を歩けば、必ずあのやかましい声が聞こえた。それに対する、誰かの声も。

 でも今は、どこを歩いても、その声は聞こえない。

 水を打った様に静かな場内を、私は一人で歩く。

 私は、あの馬鹿がいなくなって、少しだけ気付いた事がある。

 あいつ一人がいなくなった事を、私は”寂しい”と感じている事に。

 私は――私以外の皆が思っていた。あの馬鹿な男は、いなくならないと。何の確証もなく、そう思っていたのだ。

 だから私は、あいつを信じる事にした。

 このままあいつが、私達を置いたまま帰って来ない訳がないのだと。

 だが、罰が必要だと思った。

 きっとあいつは、何食わぬ笑顔で帰ってくるに決まってる。

 だから華琳様にお願いして、城の一角に穴を掘る事を許可してもらった。

 華琳様も私の案を聞き、「面白そうね。そうだ、皆で掘りましょう。あの馬鹿が泣いて許すまで、誰も助けてはダメよ?」と、久々に見る笑顔で言ってくれたのだ。

 それから、私達は総出で穴を幾つも掘った。幾つも、幾つも、幾つも――。

 だけど一ヶ月待っても。三ヶ月待っても。半年待っても。一年待っても。三年待っても、あいつは帰って来ない。

 気付けば、異民族の侵攻を止める為に、一人、また一人と城を離れていった。

 それから更に二年。あいつがいなくなってから五年目の年。華琳様は言った。

 穴を埋めましょう。もう、一刀は帰って来ないのだから、と。

 何を言ってるのだろうか。あの馬鹿が私達を置いたまま、帰って来ない訳がないのだから。

 きっと、帰ってくるのに手間取っているだけ。愚図で鈍間なあいつだから、仕方の無い事だろう。

 そう言った私を、華琳様は悲しそうな目で見つめた後、好きにしなさいと言った。

 それから、もう五年。私は穴を掘っては埋める作業を繰り返した。

 十年経って、私は気付いた。

 ああ、もうあの馬鹿は帰って来ないのだと。帰ってきたくとも、帰って来れないのだと。

 真実に気付き、私は一つ一つ、穴を埋めて行った。

 それは単調な作業だった。

 これは華琳様が掘った穴。これは春蘭が。これは秋蘭が。これは、これは、これは――。

 最後の穴を埋め終わった時、私は知らずに涙を流していた。

 空には、綺麗な満月が浮かんでいた。

 華琳様が教えてくれた、あの馬鹿がいなくなった時の月に、そっくりな満月が。

 その満月を見ながら、私は静かに、一人で涙を流していた。

 知らずに流した涙が、私に気付かせてくれた。

 ああ――私は、あの馬鹿が好きだったのだと。

 唯一にして、生涯ただ一人、愛した男だったのだと。

 気付いた瞬間、私は一人で馬鹿みたいに笑っていた。

 何が王佐の才だ。自分の気持ち一つ気付く事が出来ない、馬鹿ではないか。

 私こそ、本当の馬鹿だった――。

 

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 もし輪廻転生があるのなら。

 本当に生まれ変わる事が出来たのなら、私は少しだけ素直になろう。

 この気持ちに、僅かな嘘もないのだから。

「だから、私も迎えに来なさいよ。あんたを待ってる間に、こんなおばあちゃんになったわよ。なんて、来る訳ないですよね……」

「桂花……。いいえ、来るわ。だって、あの馬鹿なんだから。死に際にすら姿を見せないなんて、薄情な真似が出来る訳ないでしょ?」

「そう、ですよね……。それを聞いて安心しました。――華琳様。申し訳ありませんが、一人にして頂いても?」

「……分かったわ。それじゃ、また――」

「はい。また、明日の朝に――」

 

 私の言葉に、華琳様は驚きに目を見開き、笑顔で「ええ」と答えて部屋を出て行った。

 

(ありがとうございます、華琳様。さすがに、誰かがいては、素直になれなそうなので……。

 ああ、段々眠くなって来たわ。おかしいわね。さっきまで寝てたはずな、のに――……)

 

『悪い、桂花。迎えに来るのが遅くなった』

「まったくね。どれだけ年を重ねても、その愚鈍なところは直らなかったみたいね?」

『相変わらずきついな……。まあ、事実遅くなったしな』

「はぁ……少しは言い返しなさいよ。言い訳を言うとかして」

『言い訳って言ってもな。まあ、死ぬ間際まで、こっちに帰る手段を探したんだけどさ。

 ごめん。やっぱり、俺には見つける事が出来なかったよ』

「ふ〜ん……。まあ、本当に遊んでた訳じゃないみたいだしね。少しは信じてあげてもいいわ」

『な、なんだ? 桂花が俺の事を信じてくれるなんて、天変地異の前触れか!?』

「失礼ね! ただ、す、す、少しだけ、あんたを認めてやろうって思ってただけなんだから!」

『……少しでも認めてくれたのか。ああ、それは本当に嬉しいな。で、何でそう思ったんだ?』

「う、うるさいわね! 理由なんてないわよ! ほら、私を連れて行ってくれるんでしょ! 早く連れて行きなさいよ!」

『あ、ああ。それじゃあ、そろそろ行くか。……そう言えば、華琳には挨拶を済ませたのか?』

「あんたと同じよ。華琳様、気付いてたみたいだしね。きちんと済ませたわ」

『そっか。じゃあ、行こうぜ』

「ええ。――もう、いなくならないでよね」

 

 夢の中の私が囁いた、小さな。小さな告白に男は優しい微笑みで、差し出した私の手を優しく握ってきた。

 その手は暖かく、優しい手をしていた。

 だからこそ、私は決意を新たにした。

 二度と、この暖かさを手放さないと。

 どこの誰だか知らないけど、気付かせてくれて感謝するわ。

 もう絶対に、この暖かさから、離れないんだから。

 覚悟しててね、郷様!

 

 ――これで四人。

 さあ、次の再会の準備を、皆で進めよう。

説明
えー、またまた遅くなりました。
修羅場にやられたのか風邪を引き、更に溜まった作業に追われ、書く余裕がありませんでした。

言い訳はこれくらいで。

今回は、桂花の前世のお話。
本編の魏√の後の桂花を、本作の桂花が夢で見るお話です。
これからは前世の夢を、閑話の形で出して行きます。
それでは、少しでも楽しんで頂けたらと思います。
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コメント
いつまでも待ってます♪(ケフカ・パラッツォ)
更新待ってます!(shinonome2525)
更新待ってます!!!!!!(迷い猫@翔)
続きが読みたい…。(ボルックス)
更新期待して待ってます(兎)
次を楽しみに待っています!(soul)
麗羽がかっこいい…だと?次の更新期待して待ってます?(断金)
mad様の言うとおりです。少し投稿するまでに、間が空いてしまっていた事が原因です。修正させて頂きます。ご報告、ありがとうございます。(夢幻)
華琳の夢で桂花が最初に他界してたように思ったのですが? 此処ではその前に誰か亡くなってるようになってませんか?(mad)
リョウ流様:大変申し訳ありません。自分の書き込みと間違えて、コメントを削除してしまいました。なんとお詫びをしていいのやら。(夢幻)
次の更新は早くても、次の土曜か日曜。遅い場合は、いつになるか予想が出来ません。それでも待ってて頂けると大変嬉しいのですが……。見限られても、仕方のない事だと思っています。それでは長くなりましたが、次の更新でまたお会いできたらと思います。(夢幻)
半月も更新していないのに、待ってて頂いてる読者の方々がいて、本当に感無量の思いです。ですが、大変申し訳ありません。もう暫くの間、更新をお待ち下さい。現在、ゲーム会社での仕事が色々な意味で佳境に入っており、帰ってきて落ち着ける時間が、この位の時間になっております。ですので、どうしても書く時間と体力に余裕がない日々を過ごしております。(夢幻)
次は誰と再会するのかが楽しみww(リンドウ)
皆様、多数のコメント。本当にありがとうございます。少しモチベが下がっていて、思う様に話が書けていないので、また遅くなるとは思いますが、次の話も待ってて頂けると幸いです(夢幻)
麗羽の想いにも、桂花の想いにも涙がこぼれてしまいました… (よーぜふ)
桂花の気持ちに涙が……。そして、麗羽がこちらではかなりカッコいい件。流石、一刀ですね。ここまで変化をさせるなんて。(kyowa)
こんな格好いい麗羽はそうそういませんね、いつものお馬鹿キャラがここまで成長するなんて驚きです。(サイト)
本当に麗羽か?(poyy)
麗羽がすごくいいキャラになってますね。原作でも何もできないからああなったのかもしれないですね、いろいろ手遅れで地に染み付いたようですがw(Raftclans)
皆様、コメントありがとうございます。予想以上に、麗羽の人気が上がっていて、驚くばかりです……(汗 あれ? これって、桂花の話のはずなのに……(夢幻)
何度でも言います。こんな桂花でもご飯三杯いけます。麗羽の人気に桂花嫉妬w(miroku)
麗羽も何とか袁家を纏めれば良いのだが・・・まだ斗詩たちには会えてなかったか(hokuhin)
麗羽が別人ですね。二人が再会するところを早くみたいですね。(血染めの黒猫)
麗羽が格好良い…どんな改造手術かt(マテ(リョウ)
麗羽がかっこいいんですけど(gmail)
麗羽がかなりいい人に。でもこれだと反董卓連合はどうなるのか……。そして素直な桂花がかなり可愛い!(よしひろ)
麗羽……イイ人になったな〜〜。ここの麗羽なら、本当に華麗にやってくれそうだ(Ocean)
麗羽にカリスマが!?ゲーム本編でも最初からの出会いがあったならこれ位の出来た人間フラグがあったろうにw(村主7)
10年穴掘っては埋めたのか(2828)
麗羽に幸せを!更新がんばってください。(イリヤ・エスナ)
麗羽がいい人に見えるよ(ルルーシュ)
麗羽が・・・・・・素晴らし人に見える(機構の拳を突き上げる)
麗羽・・・ (´;ω;`)(ユキ)
麗羽の頑張りに涙。早く教えてあげてぇぇぇ。 しかし、前世の穴掘りはなんか空鍋っぽい怖さを感じます…(moki68k)
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