ミレニアム・アンデットデビル下2
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 一章『普通の高校生』?柳双葉編

 

 欄によると、俺のクラスがCで、欄が隣のBクラスらしい。欄曰(いわ)く、本当に俺たちの入学は学校に許可されており、俺たちは中途入学といったわけの分からないシステムでこの組織に紛れ込んだらしい。

 一般社会に全く興味も関心も知識さえもないが、とりあえず、この2年というプレートに俺と欄を同じ領域に収納するということは、ここにいる豚どもは欄と同じ年齢ということになる。

 教師というにはあまりにも歳老いた老人に連れられ、教室に足を踏み入れた。

 クラス中の視線が自然と双葉に集まる。

「自己紹介・・・するんだ。」

 生きるのが辛そうな老人の言葉を素直に聞き、言われるままに従う。これは柳双葉としては非常に珍しい光景だ。

「・・・・・・柳双葉、職業テロ・・・・・・・・・・・・・・・・・テロップ。」

「・・・・・・・・・・。」

 クラス中に静寂が訪れる。双葉としては、この空気は厳しいので、今すぐ暴れまわりたい気分であった。

「・・・・・・っぷ、」

 一人、双葉を見てほくそえんだ女性がいた。

 女性が、いた。

 ダァァン!

 双葉は有無を言わさず教壇を蹴り飛ばし、その女に命中させた。首の向きが変わり、生徒用の机を吹き飛ばし、最後に一度女生徒に当たった教壇が宙を舞い、再び空から降ってくる。運が良ければ生きているだろう。

「・・・・・・あ、」

 あ、で終わる問題ではない。普通、ここまで酷い怪我を一般人が目の当たりにたならばすぐに叫びだすが、あまりの異常さに皆、現実味が薄れているのだろう。

「おい・・・」

 老人が、一番前の席の男子生徒に声をかけた。

「救急車を・・・呼べ。」

 なるほど、少なくともこのじじいは俺がどういう人間か知っているのか。

 

 ホームルームの時間は、救急車が運ばれて一限目が終わった。

 そしてその間、初日で柳双葉は机を自分のベットに変えることに成功した。

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 正午になり、目が覚めた。

 俺が上体を起こすと同時に教室全体の声が消える。・・・・・・ハプネスと何一つ変わりはない。嫌な思い出だろうが、なんか懐かしいな・・・・・・・

 教壇に教師が黒板に文字を書いているのを見ると、一応今は授業中らしい。双葉は用意されている机の中にあった筆箱を取り出し、その中に収納されている消しゴムを握る。

「・・・・・・。」

 シュ。

 そして、授業を進めている教師に向かって投げつけた。

「・・・・・・!?誰だ!先生に向かって消しゴムを投げたのは!」

 教師という権力を存分に振るっている一般人に対しても、双葉は自分のスタイルを貫き通す。

「俺だ。」

 激怒する教師を、双葉は十八番の仏頂面で相手をする。

「てめえの授業は飽きた。帰れ。」

「・・・・・・んなっ!」

 周りの生徒は双葉の無茶苦茶さに何も言えない。というか、双葉はこの授業を10秒も聞いていない。

「死ね、屑。」

「・・・・・・はは?ん、やはり朝の騒ぎはお前のことか。」

「何言ってんだてめえ?」

 本当に双葉は何も覚えていない。常に人の命を奪っているこの男が暴れるのは、もはや日常茶飯事である。

「とぼけても無駄だ。お前、後で生徒指導室に来い。俺が人生を教えてやる。」

「何だそのシステムは?それはてめえの人生のつまらなさを聞かなきゃいけないという厳しい罰なのか?」

 周りの生徒が小さく吹き出して笑っているがすぐにそれは無くなる。教師が怒っているということもあるが、その小さな行為一つで命の危機に遭うということを早朝に身を持って体験したからだ。

「貴様・・・・・・いい度胸だな。教師にこういう口の聞き方・・・・・・、」

「どうでもいいが、その汚い顔を取り替えて来い。いい整形外科を知っているが・・・・・・まあ、所詮てめえ如きの安月給じゃ無理だな。・・・・・・そうだ、この俺がビニール袋をやろう。」

 今度こそクスクスという笑い声が響く。この教師は生徒からは好かれていないらしい。「俺が元柔道関東選抜選手だということを、お前は知らな・・・・・・」

 ガッシャーーーン!

 教師の視界の隣を何かが猛スピードで通り、それが黒板に激突した。

「・・・・・・え?」

 後ろを振り向く姿はとても間抜けだが、それは仕方が無い。生徒用の椅子が、黒板に刺さっていて驚かない人間は、一般人ではまずいないだろう。

「なら先生、柔道教えてくださいよ。」

 椅子を投げて立ち上がった双葉は、一歩、教師の方に歩み寄った。

「は、はは。先生はもう歳だからな!いや?、しかし若いというのは素晴らしいことだな、うん。全く。あ、授業は、ここまでだから、じゃ。」

 今まで見たことの無い生物に、尻尾を巻いて退散する教師は、本当に情けない姿であった。

 再び、教室に静寂が訪れると誰もが思ったその時、教室のドアが開いた。

 そこには、この学校の最上級生と思われる男子生徒が、バットやらナイフやら武器を持って入ってきた。

「おいチビ、お前が転校生か?」

 ったく次から次へと寄生虫どもが・・・・・・。

 その中の体格のいい、リーダー格の男が話かけてきた。数といい、武器といい、本来ならば怖気づく場面なのだが、この男達も本当に相手が悪かったというのは、もはや言うまでもないだろう。

「よくわからないが、多分転入生だな。頭、大丈夫か?顔も不細工だしな。」

「んなことはどおでもいいんだよ!」

 今でも暴走しそうな態度に、周りの生徒は今、そして早朝あれだけ暴れた双葉よりも怖がっている。多分、一般人の中では危ない種族なのだろう。

「お前が朝、病院送りにした女、あれは俺の女なんだ。この意味が分かるだろう。」

「おい、てめえミルク買って来い。」

 双葉は男の意見を右から左に流している。元々、勝負にもならないからだ。

「聞いてんのかお前!」

「余った金はやる。その代わりダッシュで行け。」

 双葉の隣にいたクラスメイトに、一万円札を渡した。だが、その背後にはもうバットで武装した3年生が迫ってきている。

「あ、危ない!」

 クラスメイトはとっさに双葉を庇い、目を思いっきり閉じてこれから味わうであろう恐怖と痛みに耐える準備をしていた。かなり立派で勇敢な少年である。

 だが、痛みはいつまで経っても来ない。なぜなら・・・・・・

「何やってるんだカス。早く買って来い。」

 バットの先端を、双葉がめんどうくさそうに捕まえていたからだ。

「え・・・・・・あ・・・・・、」

「おい、この屑共。」

 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴っても、この状況は当然続く。

「先に手を出したのはてめえら屑だ。これは正当防衛が成り立つ。・・・・・・この意味が、分かるだろ?」

 バットと双葉の間にいるクラスメイトを面倒くさそうにどけると、一歩、3年生達のいる場所に足を踏み出す。

「なんだこのチビ!」

 男はバットから手を離し、そのまま勢いに乗り双葉の顔面めがけて拳を放つ。だが、

その先には何も無い。

「素人が。」 

 ッパリーーン!!

 双葉は自分より10pは背丈の高い男の顔を捕まえ、勢いよく窓際に放った。その勢いは留まることなく、窓ガラスを割ってこの空間から消えていった。

 補足だが、ここは3階である。そこから落ちたらどうなるかは、言うまでもないだろう。

「死にたい奴はかかってこい。許してもらいたいのなら、土下座して靴の裏を舐めろ。」 その言葉に3年生が答える前に、教室のドアが再び開いた。

 ・・・・・・また雑魚か?ちょうどいい。これから静かに眠れるように今のうちに五月蝿いハエは殺しておかないとな。

 双葉は視線をドア向ける。一般人しかいない領域では、誰が来ても話にならない。当然、仮に今トッププロの殺し屋が双葉の目の前に現れても特に変わりはないだろう。

「柳君、少し、時間いいかしら。」

「・・・・・・。」

 甘い声と同時に出てきたのは、ストレートヘアーの長身美少女であった。モデル顔負けの容姿に、その仕草、加えてオーラまでもがこの場にいる全員の目を奪うのに十分過ぎる程美しかった。

 そう、その女性は、須藤欄である。

「・・・・・・。」

 なんだそのキャラ?反吐が出る反吐が出る反吐が出る!

「取り込み中の所悪いんだけど、ちょっと柳君に見て欲しいものがあるの。」

「死ね。」

 頬が一瞬ビクンと動き、完璧な仮面が一瞬崩れた。だがそれも本当に一瞬で、今では完璧な演技で素顔は闇に隠されている。

「そ、そんなこと言われたら、ラン、悲しい。」

「・・・・・・。」

 無言でポケットに入っている携帯パソコンを取り出す。無論、投げつけてこの女をこの世界から排除するためだ。

 ゆっくりと振りかぶり、頭の後ろまで持っていき、投げるモーションの途中、

 欄の左目が赤色に光った。

 ッドッバアン!

 双葉の上半身が炎に包まれ、周りにいた生徒は断末魔の叫びをあげる。

「・・・・・・。」

 制服も髪も、そして双葉自身焼き尽くされ、そして後頭部が木っ端微塵(こっぱみじん)に吹き飛ぶ。だが、それでもこの男は死を知らない。砕かれた頭部もすぐに再生する。

「きゃ?、ラン怖?い。」

「・・・・・・てめえ、」

 なるほど、テクノ・アイか。・・・・・・やはりここは俺の今後の人生のためにもまず、この女から殺しておくべきだな。

「お・・・俺は見たぞ!睨んだ瞬間、双葉の手にあった何かが爆発したのを!・・・・・・このデカ女だ!このデカおん・・・・・・」

 ッツッバン!

「ぐああああああ!」

 双葉に喧嘩を売った3年生のリーダーも虚しく、デビルウイルスの前に無となった。携帯パソコンが普及しているこの世の中、欄は歩く地雷変換装置である。

「・・・・・・この屑が(ぼそっ)じゃなかった、きゃ?、ランこわーい!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 この女、俺より性質悪くねえか?・・・・・・いや、それよりも、絶対この女、人殺したことあるだろ。

 教室全体が炎に包まれる中、この二人を除く全ての人間がパニックに陥っていた。

「で?何の用だ。」

 短く用件を切り出す。双葉は、これを仕事と割り切っている。そしてそれは、欄にも当てはまるだろう。

「ああ、俊君から、ここに書いてあることは絶対に守れってさっき連絡あったの。あなたのことだから、どうせ携帯見てないでしょ?」

「てめえが破壊したからな。」

「ま、済んだことはしょうがないわ。ここに書いてある3ヶ条は絶対守ってね。連帯責任らしいから。」

 欄は双葉に一枚の紙切れを渡した。その紙には、欄が言った通り、3つの約束事が書かれている。

 

 これは連帯責任である。

1.授業を全部受ける。

2.ご飯は必ず二人以上で食べる。

3.人を殺さない。

 なお、もし破った場合、前回の拷問を量と時間を2倍に・・・・・・

 

 無造作に紙を丸めた。

「・・・・・・欄。闇医者を手配してくれ。」

 肩がわなわなと震える双葉のこの言葉は、欄の予想の範疇だった。

「もう呼んだわよ。・・・・・・2名ね。」

「すまんな。」

「これぐらい、気にしないで。」

 二人のキャラクターが180度変わる。それが何故かは言うまでもない。罰を受けるぐらいなら和平を選ぶのである。

「・・・・・・・欄。」

「何?」

「・・・・・・頑張ろうな。」

「ええ・・・・・・リタイアは許されないわよ。」

 輝かしい瞳をした二人は固い決意を決めた。ただ、光る瞳は希望に輝く目ではなく、この先訪れる試練に真っ向から挑む覚悟を決めた輝かしい目であった。

 青い空、白い雲、そして、赤い炎。これからの二人の学園生活は、この3色でスタートしたのであった。

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 夜、双葉は自室のベットの上で寝っ転がっていた。メンタル的に今日一日は相当ハードだった様だ。

 夕飯は強制ではないし、なにより双葉はご飯を食べなくても生きていける。ならば疲れているのでこのまま睡眠を取るしかない。一旦ベットからどいてシーツを綺麗にピンと伸ばす。がさつな性格の双葉が唯一几帳面な部分である。

 コンコン。

 ドアのノックが忌まわしい。まだベットに入っていないから寝たふりもできない。それに、相手が誰だか分からない場合は応答にも困る。

「入るわよ。」

「無理だ。」

 欄だろうとあの女だろうと、俊さんでないなら部屋に入れる必要は無い。このまま眠りにつこうと思い、ベットに入った。

 ガチャ。

 ドアが開く。部屋に現れたのは欄であった。

「何でプライベートでお前の顔見なきゃいけないんだ?空気読め。そして消えろ。」

「仕事の話よ。あなたこそ空気読みなさいよ。」

 このアンデット・ファラオと口喧嘩できるのはこの女ぐらいであろう。欄はづかづかと、まるで自分の部屋の様に侵入し、双葉の目の前の椅子に座った。

「あの学校・・・・・・おかしいと思わない?」

 わざわざ自室まで上がりこみ何を言うのかと思えば、こんな下らない話から始めやがって。

「てめーの妹を含めて全員頭おかしいってことか?」

 それでも双葉は一応返事はする。軽くあしらって明日に備えたかった。もちろん、既に首から下は布団の中である。

「いえ。少し、遠まわしだったわね。」

「・・・・・・?」

 首を傾げならも、目を閉じて睡魔が訪れるのを待つ。

「私たちが通っているあの学校、他にも私たちと同じ様な境遇の殺し屋がいるわ。」

「へ?。」

 意識の半分は薄れている。

「こんなことするのは俊君ぐらい。となれば、私達じゃない殺し屋も俊君がやった差し金と考えるのが普通じゃない?」

「そ?ね・・・・・・。」

 気持ちいい闇が俺を待っている・・・・・・・。

「つまり、私達にそいつを殺させて、前回と同じ罰を与えようとしている可能性があるってことよ。」

「・・・・・・。」

 頭の血が引いて意識が覚醒するのが自分で分かった。

「仮に俊君の差し金として、私達の命を狙いに来た。私が返り討ちにする。処罰決定。」「・・・・・・同業者なら殺しても支障は無いんじゃねえのか?」

「いえ、それがそうもいかないのよ。その同業者、名前は上月っていうんだけど、その男は2年も前からこの学校にいたのよ。つまり、同業者という確信が持てない。」

 双葉はベットから上半身を起こした。

「なら何でてめえはその上月って奴が殺し屋だと思うんだ?それに2年前って、このチームが出来るかどうかって時期だろ?普通に考えたら、俊さんの差し金って線は消えるな。」

 あくまで客観的に、そして冷静に答える。だが、欄の答えも冷静に返ってきた。

「あの俊君を普通という枠にくくる気?」

「そうは言ってねえ。だが、根本的に考えたら、殺される可能性があるのは生身で実戦経験も中途半端なてめえだけだろ?俊さんが普通だなんて考えたことも無いが、それ以上にてめえを俊さんが殺すなんてありえねえだろ。」

「・・・・・・・・・。」

 欄は何も言葉を返せなくなった。確かに、双葉の言う事は筋が通っている。だが、欄の胸には違和感が残っているのも確かである。

「確かに・・・・・・ね。ま、今日は初日だし、少し様子を見てみましょう。」 

 話すことが済むと、欄はすぐに立ち上がりって部屋から出て行く。

「ドア閉めろよ。」

「いや。」

「・・・・・・。」

 殴りたかったが、家では俊さんがいるので色々問題がある。加えて、今日は精神的にかなり参っている。双葉は仕方なくベットから降りてドアを閉める。そして当然電気も消す。

 ・・・・・・欄が罰を怖がるのは痛い程分かる。俺だってあの罰を受けるぐらいなら舌を噛んで死にたい。まあ、死ねねえがな。だが、その上月って奴が別の組織の差し金だとしたら、欄は大きな見落としをしていることになるな。

「・・・・・・・。」

 今度こそベットに入り、これから眠りにつく体制を整える。

 ・・・・・・もし、仮に別の組織の人間だとしたら、目的は何だ?俊さんの様に一般教養を?なんて言わねえだろうし、欄の殺害でもないだろう。仮に欄を殺したとして、俊さんが黙っているはずがない。間違いなくこのチームに喧嘩を売った人間は一人残らず消えるはずだ。となれば、何か別の目的・・・・・・待てよ。

 暗闇の中、双葉の両目が薄っすらと光る。

 ・・・・・・仮に、上月という男が本当に殺し屋だとしよう。殺し屋だとして、俊さんが上月の存在に気付いていないというのは・・・・・・無いな。あの人がミスをするなんて今までで一度も無い。ならば、差し金とまではいかなくても、何か考えがあるというのは間違いない。まあ、どちらにしても、

 双葉は頭の中で羊を数え始める。

 ・・・・・・明日になれば少しは見えるだろ。

 羊を5匹数え、双葉の意識は闇に沈んでいった。

説明
今振り返るとキャラはいいんだけど話しがけっこう繋がってないんだよな?
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