ミレニアム・アンデットデビル下4
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 三章『このゲームの目的』?佐津間俊編

「まったく、君はなんて下らない企画を考えるんだ。」

「そういう風間さんが一番のりのりだと思うのは気のせいですか?」

 俊と風間は欄のマザーコンピュータがある部屋で二人の学園生活をチェックしていた。「双葉が一般人に手を出すまで何分持つか、賭けますか?」

「30分前後に一億。」

「なら、オレは5分前後に一億賭けましょう。」

「いや、流石にいくら双葉だからと言っても、5分で一人殺されたら午後にはこの学校全滅だぞ?」

「それを言ったら30分に一人殺しても、一週間で学校自体が無くなっちゃいますよ。」 風間は煙草に火を点けてやれやれと首を左右に振る。

「いいか、見とけよ。あいつはあれで人間らしい部分があるんだ・・・・・・っお、教室に入ったぞ。」

 画面の中には、双葉が全員の前で自己紹介をしている。

「じゃあ、今から計りますね。」

 携帯パソコンのストップウォッチ機能を使う。

【柳双葉、職業はテロ・・・・・・テロップ】

「ふははははは!何だこいつ、俊、お前いつ双葉にギャグを仕込んだんだ!?」

 どうやら風間のつぼに入ったらしく、パンパンと俊の背中を叩いてくる。正直うざい。

 その刹那、画面で双葉のギャグに一人の女の子が笑みを漏らした。

 そして、双葉は条件反射でその女の子めがけて教壇を蹴り、見事に直撃させた。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 一気に二人の体温が下がっていった。

「・・・・・・時間は?」

「・・・・・・5秒フラット。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・どこが人間らしいんですか?」

「どこだろうな・・・・・・。」

 二人はしんみりと画面を見つめていた。

「・・・・・・この賭けは、無効だな。」

「オレの方が近いですよ。」

【・・・・・・あ。】

「・・・・・・こいつ、秒単位で殺したんだぞ。」

「・・・・・・別にいいですけどね。」

 風間は点けたばかりの煙草を消した。

「そういえば、うちの会社のシングルAの部下を一人借りたそうだな。何に使うんだ?」「何って・・・・・・ここにいますよ。」

 そういって画面を指指す。すると風間の部下が確かに高校生の制服を着て授業を受けていた。

「・・・・・・いないじゃないか?」

「そして、風間さんにもやってほしいことがあるんですよ。」

 ポーカーフェイスの俊は、得意げに言う。風間は画面を見ながら首を傾げていた。

「・・・・・・オレは講師でもするってのか?」

「いえもっと面白いことですよ。」

「・・・・・・??」

 俊はそれ以上何も言わず、ただモニターを眺めていた。

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 午後になる。食事は外食するとのことで、近くにある庶民的なレストランに入った。

「こんな店で私の舌をうねらせることができるかな?」

「風間さんの舌なんてコンビニの肉まんで十分過ぎると思いますが。」

「・・・・・・さらっと嫌味を言うのが上手くなったな、俊。」

 会話を交わしながら、席へと向かう。俊が座る席には、一人の学生が食事を採っていた。

「お疲れ様です。」

「・・・・・・誰だ?君は高校生に知り合いなんていたのか。」

「高校生には、あのチームとハプネス以外にはいませんね。」

 言いながら俊は腰掛けた。

「・・・・・・ああ、なるほど。恭平か。・・・・・・っておい、君は確か今やっている仕事は片付けたんだろうな?」

「佐津間さん、オーダーは何にします?」

「それじゃあ恭平と同じ物を一つ。」

「聞けよ!」

 まるで風間が存在しないかの様な会話の流れである。

「それで、恭平。あの二人を直に見た感想は?」

「とりあえず、柳さんは無理ですね。機嫌を損ねたら殺されちゃいますよ。」

「恭平。君は今やっていた仕事はどうしたんだ?あれはまだ製作途中のはずだったと思うが?」

「そうか。それより、上手くやってくれよ。君の演技力がこのプランの最大の目的なんだからな。」

「はい。佐津間さんの頼みなら、いつでも大歓迎ですよ。」

「聞けと言っているだろ!」

 俊はともかく、恭平からすればハプネスの社長である風間を無視できるのはなかなか肝が据わっている証拠である。

「オレ、ミレニアム・アンデットデビルに転職します。」

「君は馬鹿か!ハプネスを侮辱するのも程ほどにしろ!・・・・・・というか、入れるものなら私が入りたいのに、こいつはいつでも却下却下と・・・・・・」

 ぶつぶつと始まる風間の愚痴を、右から左へと聞き流す。

「社長、一緒に転職しましょうよ。」

「馬鹿かお前は!」

「よし、恭平は採用。」

「やったーーー!」

「・・・・・・おい。」

 俊の肩を本気で掴む。今にも暴れ出しそうだ。

 そんな風間を軽くあしらい、本題に入った。

「ああ、それとあの学校に殺し屋、お前がいるということを欄に教えておいてくれ。」

「ええ、そうですね。・・・・・・でも、双葉さんに殺されないでしょうか?」

「大丈夫だ。双葉と欄は絶対に殺せないように釘を刺しておいたから。」

 喜怒哀楽が分からない俊の顔が、一瞬だけ変化した。だが、その表情にも喜怒哀楽の燐片さえも浮かんでこない。

「正直、あの二人が口で言っただけでは言う事を聞かないと思うんですが・・・・・」

「同感だな。」

 双葉と欄は、逆らう気にもならないということを、俊自身が一番知っていた。

「このチームを結成した時、一番の問題点はなんだったか分かるかい?」

 俊が意味ありげに言うと、恭平が答えた。

「・・・・・・やっぱり、軍資金の少なさと、小規模な人数での運営ですか?」

 一般的な線を突く恭平に、俊を首を横に振った。

「違うな。あの二人の仲の悪さだろう。」

「正解です。」

 流石に双葉と付き合いが長いだけあって、この辺りの事情は察しているらしい。

「・・・・・・・それだけですか??」 

 控えめに発言する恭平。しかし、本当にミレニアム・アンデットデビルが一番苦労した点はそこだけであった。

「ああ。欄よりも双葉の方が月額で稼ぐ金額がでかい。その事を欄に自慢し、逆上し、喧嘩。そして、たまたま欄が60億近く稼ぐと、今度は双葉をからかい、しまいには双葉は働かなくなってしまった。」

「つ、月で60億・・・・・・!そ、それも個人でなんて・・・・・・」

「まあ、リアルに想像できるな。」

 風間はその金額にも動じない。この男も月額ではそれぐらいの利益を生んでいるのだろう。

「だから、仲が悪いから二人に罰を与えたんだ。すると、前まではいがみ合っていた二人が、少なくとも仕事の中では助け合っている。」

「おおおお!流石は佐津間さん。凄いですね。」

 熱く俊に憧れの眼差しを送る恭平とは対照的に、風間は冷ややかな視線を俊に投げる。

「・・・・・・おい、視点が違うだろう。」

 流石は風間。目の付け所が違う。

「その、罰というのは何をしたんだ?」

 恐る恐る問う風間に、俊は笑顔を作った。当然、偽りの笑顔である。

「聞きたいですか?」

「聞きたいです。」

「・・・・・・いや、私はやめておこう。」

 風間は席を立ってトイレへと向かった。危険察知能力、第六感が働いたらしい。

「双葉は特殊な核シェルター、戦車が突っ込んできても壊れない部屋に閉じ込め、その中に毛虫10万匹とタランチュラ70匹を入れておいたんだ。欄は肥溜めの中でゴキブリと戦かっていたなあ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「罰が終わった後、欄が泣き出してさ。その時初めて欄が女の子に見えて可愛かったよ。ああ、そうそう、双葉も泣いていたな。何だかんだいっても、あいつもまだ15才だし、普段は大人びてる分こういうギャップが可愛かったりするんだよな。」

(泣かない人はいるんですか?)

 その問いを俊に聞く勇気は恭平自身持ち合わせていない。

「・・・・・・その罰って、・・・・・・何時間ですか?」

 聞きたくないらしいが、聞かずにはいられないらしい。

「・・・・・・ん?三日ぐらいかな?」

 俊はなんでもないかのようにさらっと答えた。

「・・・・・・。」

(佐津間さん、人間の血が通っているのかな・・・・・・。)

 本気でそんなことを思う恭平だが、それは仕方のないことであった。

「話は終わったか?」

 風間がスーツのネクタイをいじくりながら俊の隣の席へと戻ってきた。

「社長・・・・・・。」

 涙目で見つめられる風間は困惑したいた。

「オレ、ハプネスでいいです。・・・・・・ハプネスがいいです。」

「だ、そうだ。よかったですね。優秀な社員が一人出来て。」

 何事もないように、俊は運ばれてきたスパゲッティにフォークを絡ませる。

「・・・・・・・・・・。」

 当然だが、風間はリアクションがとれないらしい。

「さて、本題に入ろう。」

 恭平はこの本題という言葉にどれだけ深い意味があるのかを計ろうと必死だった。だが、この男から何か情報を読み取るのは不可能である。

「今回、感受性、及び協調性を高めるために一般社会に溶け込むようにと二人に伝えた。だが、知っていると思うがそれは偽りである。」

「カレーが遅いな。」

 かちゃかちゃとフォークを鳴らす風間は子供みたいである。

「定食屋ですからね。」

 風間の言葉を受け流す。風間はもう興味を失ったらしく、対照的に恭平は俊の虜となっていた。当然俊は風間なんて無視をして喋る。これを言ってはお終いだが、元々風間はこうゆうキャラなのだ。

「本当の目的は、ちょっとしたドッキリをやって楽しむ・・・・・・予定だ。」

「予定・・・・・・ですか?」

 訝しげに復唱する恭平に頷く。

「ああ。・・・・・・予定である。」

「・・・・・・何か不都合でも起きたんですか?」

「不都合が起きる可能性が出てきてね。その新メンバーの川越さんの事で、少し気になる点があるんだ。」

「恭平、カレーはまだか?」

「知るかっ!」

 恭平にとって大事な場面なのに、この男は場の空気を読むことが出来ないらしい。

「その内容は・・・・・・?」

「残念ながら社内機密でね。一部の人間しかまだ公表できないんだ。」

「はあ・・・・・・。」

 一部の人間というのは、俺一人だけどね。

「まあ・・・・・・恐らく大丈夫だろう。」

 川越さんは、まだ俺を超えないだろう???

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