ミレニアム・アンデットデビル下6
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 五章『最悪の黒幕』?須藤欄編

 私が高校に通ってから三日が経った。そして、上月という男の素性を調べても三日が経つが、未だに手がかりが掴めない。

 今現在公開されているページからシークレット機密。加えて既に消去されたデータの復元までして調べているのだが、大事な部分だけ未だに掴めない。

 ・・・・・・これは、おかしい。

 当然全く白紙というわけではない。ただ、どの視点から見ても普通の高校生のデータしか入ってこないのだ。

「・・・・・・。」

 午前中、今は数Uの授業を行っている。当然、そんなものを聞いても何の意味も持たないし、その程度の知識ならハプネスで既に持っている。欄の視線は常に四つ前の席に座る人物。上月(こうづき)隆(たかし)に注がれているのである。

「じゃあ、次の問題を・・・・・・上月。」

 教師と目が合った上月が指名される。立ち上がり、黒板に答えを書く。

「隆、違うぞ。このXのグラフの関数の値で考えたら答えが出るぞ。」

「ああ、なるほど。でも俺、いつも言ってるけど数学嫌いなんですよね。社会出ても役に立たないし。」

「それを言われたら返す言葉はないが、少なくとも大学までは必要なんだから覚えておきなさい。」

「はーい。」

 ごく普通、自然体のやりとりを交わす。当然、違和感など学校に通って三日しか経たない欄が感じるはずがないし、クラスの雰囲気も何も変化はない。まるで昔からこの学校の生徒であるように。

 なら、やはり上月は普通高校に通う同業者なのであると見るのが妥当であろう。

 ・・・・・・って、んなことがあるわけないでしょ。

 この世界はそんなに甘くない。確かにいつ死んでもおかしくない職種である。仮に、会社側が後悔しいないようにある程度の自由は確保したとしよう。さて、その貴重な自由の時間の中で誰が高校なんて行きたがるだろうか?

「・・・・・・。」

 答えが出ない。矛盾だらけである。

 殺し屋が学校なんていくわけがない。

 私を目当てに高校生の振りをしたとしても、その情報が一切入ってこない。

「う??、う??、」

 私は須藤欄、デビル・ウイルスの称号を得た人物である。パソコンを統(す)べて知り、それを自由自在に操れる。それだけに留まらず、ある程度の機械の内部的な操作だってできる。 ・・・・・・はずなんだけどなぁ。

 だんだん自分に自信が無くなっていくのが分かる。

「う??、う??、」

 考える時に声を漏らすのは欄の悪い癖である。その事に渚が気付き、手をあげた。

「先生、大変です!欄が苦しそうです!」

「何!?大丈夫か欄。」

 まず今はっきりしている事は二つ。一つは上月が殺し屋ということ。もう一つは俊君の差し金だということ。

 その証拠に俊はこの三日間仕事と偽り、家を空けていた。バレバレな嘘だが、それでもクライアントからの依頼は本当にあり、一つの嘘に相当手間と時間を費やしているのが分かる。これは、上月と会うために作った口実と考えるのが妥当であろう。

「う?う?う?」

 しかし、分かるのはここまで。当然ながら俊君の目的も分からなければ上月という男の素性も掴めない。 

「渚、須藤さんを保健室に連れて行きなさい。」

「欄、今保健室連れて行くからね。」

「・・・・・・え!?あ・・・・・・ええ、お願い。」

 途中で気付いたが、私は具合が悪いことになっていた。流石にこれですぐあの罰を受けるというのはなさそうなので、一人で考えをまとめるために欄は保健室へと向かった。 

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「じゃあ、先生が来るまでおとなしくしてるんだよ。」

 渚が会って三日しか経たない私に優しくするのに何の疑問も抱かない。それは渚ということであって、他の人間ならばそうは思わないだろう。

 ガララ、不器用なドアの音を残して渚は部屋から去って行った。

 ・・・・・・これは返って好都合かもしれないわね。

 一人でこれからのこと、それとこれからのことをじっくり考えるのもいいかもしれない。だが、それでも話は先に進まない。俊の考えた先を知るなんて、欄の全てを知りうるネットワークだけでは限界なのだ。展開的にも、そろそろヒントが必要だ。

 ・・・・・・距離、4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・、来たわね。

 欄が愛用のDerringerを太ももから抜き取り、それを入り口に構える。既にベットをバリケートに使用してあるのでこちら側も問題はない。

 コンコン、

 右目のテクノ・アイに一つのレーダーが写っている。周波数で人物を特定しているので、相手が誰かも分かる。

「入っていいですか?」

 そう、それは間違いない上月の声。

「・・・・・・。」

 無言で銃を構え続ける。人を殺せば例の罰ゲームになるし、何より欄は人を殺さないと決めている。Derringerは超小型のハンドガンで、その分威力も弱い。改良によって今の時代ではどんどん強力ではあるが、それでも通常の銃に比べれば威力はたかが知れている。それでも銃だから、人を殺すには十分と思うかも知れないが、案外そうでもない。小型のDerringerは3メートルの距離で発砲して頭部に直撃しても弾は貫通しない。人を殺さないと誓っている欄とこの銃の相性はピッタリなのだ。

「・・・・・・失礼します。」

 声と同時だった。

 バアアアアン!

「っ!?」

 襖式のドアがそのまま欄の方へ向かってくる。欄のDerringerでは木のドアも貫通できないし、何より視界を奪っているのでむやみやたらに発砲できない。だが、この攻撃を仕掛けたということはこちらの武器を把握してのこと。つまり、俊とこの男の関係はこれだけで確定したのだ。。

 パリン!

 左右にかわしたり伏せ続けるのは得策ではない。それも、殺しは相手の得意分野である。欄が見たところ、C、もしかすればB級のレベルもある可能性もあるので、(ハプネス基準)ここは背後にある窓ガラスを割って外へと逃げた。

「・・・・・・っち、」

 当然それを上月は追いかける。

 窓の外は草が伸びきっている、全く手入れのされていない敷地である。そこから森に繋がっているので、ここを戦場にしようと欄は考えたのだ。

 ・・・・・・私に大口叩いたこと、後悔させてあげるわ。

 欄は草の長さまで身を屈めると、素早く横にステップしながら森へと誘う。その理由は三つ。一つは距離をとるため。二つ目は的を絞られないため。そして三つ目が上月が接近戦重視のタイプだと知ってのことであった。三日前、初めて挨拶を交わした時に見せた戦闘態勢の構え。あれはナイフを主に使う殺し屋の構えである。

 がさがさ。

 やがて一本の木の後ろに身を隠した。これで例え銃できてもなんとか耐えれる。それに、こちらはレーダーで相手の位置を把握できる。威力が無い Derringerとはいえ、一発でも当たればまともに動くことは困難である。つまり勝負は上月が欄を見失った時である。

「須藤欄、隠れてないで出てきてくれ。」

 上月の右手には黒い銃が握られているが、種類までは分からない。もちろんオモチャなんてオチはありえないが。

 欄のいる位置から20度近くズレた方角を見ながら語りかけている。それは、射殺のチャンスである。

「この戦いに何の意味がある?もう須藤にも分かる通りこれは全部佐津間さんに仕組まれた・・・・・・」

 パス。

「知ってるわよ。」

 上月の右足を命中させてから声を出した。元々この相手なら射程の位置から推測まで時間はかからないだろう。

「あなたはこの私に喧嘩を売った。それが俊君の仕組んだ罠だとしても、それなりの制裁を受けるべきだと私は思うわ。」

 もう勝利が確信していた。敵は一人。周囲に人間は存在しない。この広い場所で動きを封じてしまえばもう結果は見えている。

 上月の右腕に握られているH&Kの標準がゆっくりと欄に向けられていることも知っている。

 ッズキュー?ン!

 消音装置は付いていないらしく、大きな音が森全体に響き渡る。もう力の差は明らかだ。

 ・・・・・・最低でもCはあると思った私は買いかぶり過ぎていたようね。

 上月が放った弾は欄の頭の位置の60p上の枝に当たる。威力は凄いのだが、その折れた枝で動きを封じるなんて芸当はできないし、念のため欄ももうその場にはいない。

 パス。

 次は左足。20メートルは離れているので、足を狙い動きを封じるぐらいにしかこのDerringerは機能しないだろう。元々暗殺用のハンドガンなので、実戦向きではないのだ。「・・・・・・くっ、」

 力なく跪く上月に戦意が無いことが分かったら、堂々と目の前から上月に接近していく。

「さあ、ゲームはお終い。俊君の狙いを教えてくれるかしら?」

 そうは言っているものの、この男は何も分からない様な気がしてきた。ここまで使えない人物に俊が情報を教える可能性も低い。 

「・・・・・・俺の口からでは、それは言えないですよ。」

 ほらね。

 適当にあしらって苛めてやろうかと考えた時だった。

「私の口から説明してやろう。」

「??????っ!!!!!!」

 予想外の背後からかけられた声に慌てて振り返る。

「どうした?そんなに驚いて。・・・・・・そうか。このハンサムな顔に見惚れていたのか。」「・・・・・・。」

 欄の背後にいた人物。それも予想外であった。

「久しぶりだな。大体一年前後くらいか。たまには遊びにきてもいいんだぞ。」

 その高価なスーツを着こなす人物の名は、風間神海。世界一の暗殺者の称号は本物で、声も姿もなく音を立てずに人を殺すこの男は、世界各国から『暗無(あんむ)』と呼ばれ恐れられている。

「・・・・・・お世話様です、風間様。」

 ふかぶかと頭を下げると、風間の表情が呆気にとられた。

「・・・・・・何の真似だ?」

 欄がハプネスにいた頃、礼儀作法なんて全くできない、いや、やらなかったのだ。当時の風間にも当然頭なんて下げないし、今は亡くなった元社長にもやった記憶はない。

「先日、早川稔の件で出し抜かれて頂いたので、丁度私もお礼の方をしたいと思っていたところでして。」

 何故ここでわざわざ敬語を使うのか。遠まわしに嫌味を言うため?否。ここで自分を偽って自分を殺しておかないと、自分自身が抑えられそうにないからである。

 だが、そんな欄もこの一言でピタリと止まる。

「川越妃子が死ぬ。」

「・・・・・・え?」

「おい、いつまでそんな演技をしている?早く迎えにいけ。」

「はい!」

 風間の言葉が浴びせられた瞬時に上月が立ち上がった。・・・・・・おかしい。いくらDerringerとはいえ、骨に罅は入る。それは仮に足に防弾チョッキを巻きつけいたとしてもだ。

「・・・・・・どこ行かせるつもりなの?」

 その問いに、風間は何でもないように答えた。

「決まっているだろう。川越妃子のところだ。」

 既に上月の姿はやがて見えなくなろうとしていた。

「・・・・・・あなた、前から頭悪いと思っていたけど、余程馬鹿みたいね。」

 Derringerを二丁構える。もしものために左右太ももに装備してあるのだ。そして、これがもしもの時。

 風間は銃を向けられているのに、未だに背筋をピンと伸ばして立ち尽くしているのみ。欄とは戦う気が無いらしい。

「君の境遇には正直同情するよ。爆発に巻き込まれ身体を失って機械で構成されながら生き、元上司の私にプライドを傷つけられ、最後は一度生き別れした妹と再び生き別れを体験するとはね。」

「妃子は、私が守るわよ!」

 声と同時に右手のDerringer風間の頭部を狙うが、それを紙一重で右に避ける。だが、逃げた方向には左手に握られている Derringerで十分追いかけられる。

 そう。Derringerの最大のメリットは二丁拳銃が可能な点なのだ。映画やドラマではハンドガンを両手で使うが、それは所詮フィクション。経口が大きくなるつれ、当然反動も大きくなる。熟練すればその反動にも慣れて両手でハンドガンを扱うことも可能だが、実戦ではやはり動きが鈍るのであまり望ましくない。しかし、このDerringerなら反動はかなり抑えられている。つまり、女の力でも片手の射撃が可能になるのだ。

 二丁拳銃のもう一つの欠点は、視野の問題である。二つの銃を扱うのは有利になるのは当たり前であるが、視野が狭くなるのである。武器が二つあることから迷いが生まれ、そこに隙が生まれる。しかし欄の場合、Derringerを扱って5年のキャリアに加え、右目のテクノ・アイがある。これで欄は一流の殺し屋、ハプネスで言うAクラスの殺し屋と肩を並べたことになる。

 右に避けた風間を空いている左手での銃で標準を捕らえ、放つ。

 パス。

 それでもこの男に頭を狙うのは無理である。暗無と呼ばれたこの人物なら避けられる可能性が出てくる。なので確実に有利な状況に持っていくために、まずは胸の中心を狙った。だが・・・・・・、

 キン!

 弾は風間の右手に握られるナイフに当たり、弾かれた。

「この銃の最大のウィークポイントだな。発射口がはっきり見える上に威力も大したレベルではない。」

 パス、パス。

 冷静に解説をする風間に答えず、弾を放つ。だが、それらはただ森の奥へと消えるのみである。

「この・・・・・・っ!」

 胸の奥が熱い。頭が熱い。身体が熱い。・・・・・・なるほどね、これが殺人鬼の気持ちなのね。

「すぐカッとなるようでは戦場で命を落とすぞ。だが安心しろ。これは俊からの依頼なので君を殺したりはしない。私も本心では美女を殺すのはあまり好きではないのでな。」

 風間は森の奥ではなく、学校のある場所へと逃げていく。銃を使える欄と使えない風間では、風間は距離を取るしかない。だが、徐々に欄は風間との距離を縮めていた。

 パス。パス。パス。パス。

 やがて風間に近づくにつれ、弾も当たりそうになっている。始めは絶対に当たらない様に見えた風間はA級だが、この二丁拳銃を武装する欄と同じ階級であるのなら、倒せないはずがない。

 パス。

 保健室が見えた頃、風間の前髪に弾がかする。そろそろこの男の死期が近いらしい。

 ・・・・・・それにしてもこの男、スーツで、しかも革靴でここまで軽やかに動けるとは、流石は世界最高の暗殺者ね。

 それも、ここで最期(さいご)となるが。

 やがて距離が2メートルとなった時、風間の心臓をロックオンした。

 パス。

 弾を放つが、ギリギリナイフで心臓を庇い、またしても外傷を負わない。だが、

 キュイイイン。

 風間を守っていたナイフは、風間の手から離れ、宙に舞った。

「終わりよ!」

 目と鼻の先Derringerを向ける。いかなる人間だろうと、これを避けれるわけがない。

 身体が熱い。この男は、ここで私に殺されるべきである。

 風間は絶体絶命というピンチにも関わらず、いつもと同じ人を食ったような顔でこちらを見ている。そして、欄の右腕を掴むが、もう遅い。

 カシャン。

「・・・・・・!?」

「ここまでだな。Derringerは本来の弾数は2発。君がこの銃を改造して無理矢理6発まで拡張しているのはハプネスでは有名な話だ。もはやDerringerではない、とな。まあ、どちらにせよ弾数の計算も出来なければ話にならない。」

 この男の余裕な表情の意味がやっとわかった。・・・・・・だが、確かに弾数の計算を出来ない人間は、命を落とす。欄は風間との戦いで、弾を10発しか放っていない。つまり、片方弾丸を使い切ったのならば、後2発残っている。

 左手に握るDerringerを風間の頭部に向け、悟られないよう静かにトリガーを引く。

 カシャン。 

「・・・・・・え?」

 弾は、出なかったのだ。

 ドッ、とまるで一瞬だけ地球が跳ねたように見えた。だが、それを最期に欄の視界が闇に染まっていったのだった。

「・・・・・・馬鹿だな。君は恭平との戦いに弾を2発放っているだろう。」

 意識を失っている欄を担ぐと、学校の前に止まっている高級車まで歩いていく。

 そこには、佐津間俊が同乗していた???。

説明
う?ん、戦闘シーンが分かりにくいなぁ
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