ミレニアム・アンデットデビル下9(fin |
最終章『照れ屋』?川越妃子編
夕食になり、いつも通り食事を作ったが、無駄になりそうであった。
キー姉は部屋から出てこないし、何を言っても『裏切り者』としか言われない。佐津間さんは風間さんと一緒に食べてくるとのことで夕飯はいらないとのことだ。
「・・・・・・。」
今日の夕飯は、シチュー。なぜそのメニューかというと、牛乳を多く使うからである。そして、この屋敷に牛乳を好む人間は一人しかいない。
「・・・・・・。」
我ながらなかなかの出来だと思う。ジャガイモは少し崩れたが、にんじんはちゃんと星型に切ってあって見た目もそこまで悪くはない。匂いだって食欲をそそるし、・・・・・・うん。完璧である。
「・・・・・・。」
このチームに入って分かったことは、佐津間さんが居れば皆リビングに集まり、犬猿の仲の二人も一緒に食事をするが、そうでなければ二人は仕事の話以外では接することはない。だから妃子はこうやって一人づつの部屋に食事を持っていったりする。
「・・・・・・。」
双葉の部屋に着いたが、その扉を開けられなかったりする。
・・・・・・どうする川越妃子。いつも通りのキャラで何事もない様にするか、それとも向こうも意識してきたことに対して・・・・・・って、意識したって、やっぱり、女としてみてくれたこと・・・・・・だよね。・・・・・・つまりそれは・・・・・・・・・・・・いやいやいやいや、調子に乗るな。調子に乗るな。まず、階段は一つずつ上がらないと・・・・・・・、
「入れ」
ドア越しに聞こえる双葉の声に、背筋をピンと伸ばす。そのまま弱弱しくドアノブに手をかけると、恐る恐るドアを引いた。
「・・・・・・し、失礼、しま?・・・・・・す。」
心臓がバクバクバクバク。ヤバイヤバイ。シチューシチュー。・・・・・・って!壊れちゃだめよ川越妃子!ここが執念場!ちゃんと・・・・・・
「おい。」
「ひゃ、ひゃいー!」
声が裏返ってるし!・・・・・・あーっ!もうダメ、私もうプリン!溶けてこの場から消えてたい・・・・・・!
双葉はデッサンをしているらしく、顔は見えない。ただ、手だけはしっかり動いている。
「あ、あ・・・・・、あ・・・・・・・、」
「・・・・・・?」
双葉さんも声が裏返っている。・・・・・・もしかして、ゴキブリでもいるのだろうか?・・・・・・私としてはゴキブリは殺傷能力0だから怖い意味が分からないんだけどな。
ちなみにその発想は佐津間俊と同じだったりする。
「あ、・・・・・・ありがと・・・・・・な。」
「・・・・・・え?」
言葉の意図が分からなかった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
それからしばらく、沈黙が続いた。
「・・・・・・。」
料理に対してありがとう?
「・・・・・・。」
私が運んで来たことにありがとう?
「・・・・・・。」
・・・・・・そ、それとも・・・・・もしかして
「・・・・・・。」
脳裏に自分の都合が良い、それでいて妃子の生まれつきの勘の鋭さでその意図を察した。
「わ、私がい、ひ(生)きていたこちょですか?」
「・・・・・・。」
双葉の表情は伺えない。ただ無言でデッサンをするために鉛筆を走らせているが、よく見るとただシャカシャカ画用紙を黒く塗りつぶしているだけであった。
「あの・・・・・・シチュー、作っちゃたりしちゃったりしなかったりしちゃったんですけど・・・・・・。」
どっちだよ!
日本語を喋れない辛さを体験した16の夏であった。
「・・・・・・。」
後ろ姿から不機嫌なオーラを放つが、実は照れ隠しであることを期待したりしていた。 ちなみに正解は両方だったりする。
「・・・・・・こ、こんな豚な餌なんて食べませんよね!そうそう!捨てちゃいましょう!どこまでも捨てちゃいましょう!」
この時、常に自分という人間を外から見ていた川越妃子は、初めて自分を自分として見つめていた。
「捨てろ。」
う・・・・・・。
言われてみるとダメージは大きかったが、これ以上この空間に居ることは不可能であった。
「あは、あはははははははは。」
バタン。
最後は笑ってごまかし、妃子は双葉の部屋から出てきた。
「・・・・・・。」
シチュー、置いてきちゃったし。
「・・・・・・はあ。」
明日から、なんかやりにくいなあ・・・・・・
ため息を漏らして、誰かと同じリアクションだと気が付いた。
「・・・・・・よし!」
女を磨こう!
初恋に全てを賭けると誓った川越妃子なのであった。
ただ、このチームでは皆キー姉も含めて命を賭けて生活している。・・・・・・当然、一般人の妃子は命を賭けることも許されず、一方的に命を奪われることを、重々承知であった。
・・・・・・双葉さんやキー姉、佐津間さんは何考えてるか分からないけど・・・・・・みんな私を守ってくれている。
妃子は、自分がお荷物ということを理解できない程愚かではない。加え、今から戦闘訓練を積んだところで幼少時代から人を殺すことに命を賭けている人間には決して太刀打ちできないことも知っていた。
「だから・・・・・・双葉さん。」
ドア越しに、双葉の部屋に向かってポツリと口を開く。
「私が死ぬまでに、もう一回だけ私のことを好きって言ってください。」
「今死ね。」
「・・・・・・。」
死ね・・・・・・か。確かに、今はそれぐらいの距離が丁度良いかも知れない。
「私、待ってますからね!」
最後にそれだけ言い残し、妃子は去っていった???。
この感情は本物であることに妃子は気付いていたし、ここまでの心境の変化が俊によって仕組まれたことにも気付いていた。
佐津間さん、私だって、恋をするんですよ。
これだけは、
俊に向かって胸を張って言える言葉であるのは、
間違いないだろう???
?ミレニアム・アンデットデビル2完
おまけ
バリバリ。バリバリ。
「・・・・・・。」
バリバリ。バリバリ。
須藤欄はスナック菓子を貪りながら、指先から放たれる赤外線の融合、立体ビジョンで双葉の部屋を盗撮していた。
【あ・・・・・・ありがと・・・・・・な。】
ミシミシミシ!
右手に握っているマウスが悲鳴をあげる。
「ありがと・・・・・・ふざけないでよ!何があったのよ!何があったのよ!何があったのよおおおぉぉぉぉ!何で私だけのけ者なのよ!」
怒りからか、ポテトチップスを鷲掴(わしづか)みして口の中に放り込む。
「大体、何なのよこの汚い顔!いい加減にしなさいっ!」
ビジョンに映されるのは、双葉が居心地が悪そうに顔を赤くして机に伏せる姿であった。「あなた、キャラが違うでしょ!」
ビジョンに写る双葉に向けDerringerを発砲するが、当然弾が当たるはずもなく、特殊な作りになっているこの部屋で弾丸が跳ね返り世界一危ないピンボールが始まる。
「・・・・・・私は12の時から俊君と一緒にいるってのに、何でこの娘は2週間足らずでラブな展開を演じてんのよ!許可をとりなさい!この私から!」
次はコップを投げる。画面が一時的に揺れ、すぐにまた双葉の赤い顔が映し出される。「あああああああああ!私はついに、ついに妹に先を越されてしいまいましたとさあああああああああ!」
須藤欄は壊れていた。
「・・・・・・どうせ私みたいなゆで卵しか作れない女は一生独身よ。・・・・・・何よ。パソコンできる女だってキャリアウーマンみたいで・・・・・・・ん?」
再びビジョンを見る。ちなみ言うまでもないがゆで卵は料理ではない。
【私が死ぬまでに、もう一度だけ私のことを好きって言ってください。】
【今死ね】
「きゃははははははっ!振られてやがんの!いい気味よ。大体、このモデル顔負けの姉を差し置いて恋愛を体験するなんて、餓鬼(がき)が百年早い・・・・・・・・待てよ。」
可愛いランちゃん→の妹が好き→双葉→振られる→可愛いランちゃんの妹が双葉ごときに振られるという事実。
「・・・・・・なるほど、そう来たか。」
これは難しい注文である。とはいえ、こちら側としては様子を見ることしかできない。「・・・・・・ま、なんとかなるでしょ。・・・・・・さ、謎も溶けたことだし仕事でもしますか。確か今日は、クナザエル社のからの依頼が・・・・・・。」
ディスプレイを切り替えようとした時、双葉がのそのそと入り口まで動き、シチューをすくいあげた。
「・・・・・・。」
無心で画面を見つめる。
【・・・・・・。】
「・・・・・・。」
一進一退である。(よく分からないが)
だが、ここで、双葉が動いた???!
【・・・・・・不味い。】
スプーンを口に、運び、妃子の料理に手をつけたのだ。
【・・・・・・ったく、くそ不味いぜ・・・・・・】
そう言いながらも、双葉はシチューを平らげていく。
「ふ・・・・・・ふざけんじゃないわよ!」
目の前にあるマザーコンピュータをひっくり返し、無駄にケーブルをぶち抜く。
「誰がこんなB級恋愛を見せろっつったのよおおおおおおおお!」
一人暴れ回る欄ちゃんは、その後、やけ食いで体重がまた3キロ太ったとさ。
説明 | ||
まぁ、この作品はこれで終わりだけど、一応続きみたいなのも書いてあるんだが......どうしようかな? | ||
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