真・恋姫無双紅竜王伝煉獄編J〜天和城の戦い〜 |
夜の闇に包まれた天和城内を、人目を忍んで移動する10名に満たぬ一団があった。
「・・・張勲様、袁術様、今なら誰もおりませぬ。行きましょう」
先頭を歩く人物が物陰から周囲の様子を見渡し、後ろに控えている主君―――夜闇でも目立つ金髪を布で隠した袁術と、彼女を包むように抱えている張勲に囁く。
「じゃあ、行きましょう。門番の人には『袖の下』を渡しているんですよね?」
「はっ。馬小屋番の者にも抜かりなく」
彼女らを囲むのは元袁術家の中でも忠誠厚い親衛隊の者たちである。魏漢軍からの最後通告の文が届けられ、推戴という名の幽閉を強いられていた袁術(仲軍皇帝)と張勲(同軍大元帥)は脱出経路を探らせていた元親衛隊の彼らを道案内に脱出行をしていたのである。
「七乃ぉ・・・」
「大丈夫ですよ、お嬢様。この七乃が必ずお守りいたします」
不安げに見上げてくる主君を安心させるように励ますが、張勲自身、心の中には不安が渦巻いていた。
(脱出したのはいいけど、その後どうしましょう?)
天和城を脱出した袁術一行。しかし、行くあても先立つものもない。かといって悩み、考え込んでいる暇はない。愚図愚図していると2人の不在に気がついた袁尚が追手を差し向けてくるだろう。
(お嬢様は嫌がるかもしれないけど・・・)
実は張勲にはすでに腹案があった。ただこの案は袁術が最も嫌うであろう案で、お嬢様最優先の彼女はあまり採用したくない案だが・・・
「七乃」
張勲が前に乗せている袁術が彼女の真名を呼ぶ。いつになく真剣な表情で、彼女は告げる。
「何か、策があるのじゃろ?妾のことは気にせずともよい。言ってたもれ」
「・・・はい、お嬢様」
主に促され、張勲は案を告げた。それは名門袁家の当主を自負する袁術にとって、屈辱的なものであったが・・・
「良案ではないか」
「お、お嬢様・・・?」
意外にも彼女は深くうなずき、その案を了承した。
「その案なら妾も七乃も助かるのであろ?それならこの袁術、何度だって頭を下げるぞ」
張勲の案とは、『魏漢軍に仕える従姉の袁紹を頼って曹操・織田に降り、情報提供の代わりに助命を乞う』というものだった。
袁紹の陣に出頭し、降伏した袁術から城内の情報を得た舞人は、諸将を集めて軍議を開いた。
天和城は山に築かれた天然の要害で攻め口としては正面の大手門、東の門、西の門、北にある搦め手門が存在する。さらに各門を突破した後も三の丸門、さらにその後にも二の丸門が存在する難攻不落の城郭となっている。
魏漢軍は軍議で春蘭を大手門先鋒に、東門から麗羽、西門からは秋蘭がそれぞれ攻撃を担当することになった。
「敵勢の俺たちに対する反抗心は強い。ここで一気に奴らを殲滅し、返す刀で劉備・孫策を潰す!俺たちに残された時間は少ない、この戦いの出来如何でこの大陸の未来が決まると心得よ!敵に情けは無用、恩は仇となって帰ってくるものと心得、捕虜といえども皆殺しにしろ!」
「さぁ、曹孟徳が精鋭たちよ!大陸の安寧を勝ち取るため、進め!」
『御意!』
「久しぶりだな・・・氣を練るのも」
大将軍に就任以降、戦の指揮に主眼を置いていたため武人・舞人の力を見せるのは本当に久しぶりのこと。
すでに春蘭たちを先鋒にした攻撃部隊の準備は整い、舞人が放つ『合図』を待つばかりとなっている。
「よし・・・こんなもんか」
彼の掌から生み出されたのは、直径1メートルはあると思われる巨大な火の玉。この火の玉こそが今回の作戦の『合図』である。
「攻撃・・・」
火の玉を掌から落とし、天和城めがけて右足を一閃!彼の右足から放たれた火の玉は、天和城の一角―――火薬庫に直撃。そして大爆発が起こった。
「開始だ!」
魏漢軍は一斉に天和城に向かって動き出した。この戦いに終止符を打つため―――
「二の丸隊は消火活動にあたれ!三の丸隊は防戦の準備をせよ!愚図愚図しておると魏漢軍が攻めてきおるぞ!」
袁術・張勲の逃亡後、仲軍の指揮を執る袁尚は突然の攻撃に慌てふためく部隊に次々と指示を下して鎮静化を図る。しかし、火の玉や投石機から放たれてくる岩がその活動を妨害する。
「袁尚様!火が木々に燃え広がりだしました!消火の人手が足りません!」
「申し上げます!夏候惇隊に大手門を突破されました!東門、西門ともにお味方苦戦しております!」
その事態は最早手の施しようがないほど深刻化しており、敗北はほぼ決定的であることは誰の目にも明らかだった。
「これまでか・・・まったく、袁譚といい使えぬ奴らめ」
ため息をついた袁尚は部下が彼の指示を伝えに走った後、鎧を脱ぎ棄て本丸と定めていた炎上する御殿―――の裏に拵えてあった裏道へ姿を消した。
(わしはこんな山の中では死なんぞ!)
裏道をしばらく駆けてゆくと、城の北の搦め手門の外に出る。彼しか知らぬ抜け道だ。いや、知らぬ道だった。
「遅かったな、袁尚」
「ちょ・・・張?!貴様なぜここに・・・」
目の前に楓が兵を率いて待っているまでは。彼女はその瞳に怒りの色を宿し、袁尚を睨み据えていた。
「大陸の平穏を悪戯に乱し、それだけでなく将兵を見捨てて一人逃亡するなど武人として言語道断!」
「ま、待て―――!」
「覚悟せよ」
袁尚が制止する暇もなく―――楓の刀が、袁尚の首を一閃した。
「ぐぁっ!」
二の丸の部隊を攻撃していた春蘭の刃が部隊長を一閃。息絶えて崩れ落ちる敵将とともに、麗羽が攻略した三の丸に続いて二の丸も攻略した。血糊をぬぐう春蘭のもとに、指示を求める使者が駆けつけてきた。
「夏候惇様、二の丸・三の丸で投降した兵の処遇はいかがいたしましょうか?」
三の丸・二の丸砦で降した捕虜の数は2万名に上っていた。
「・・・大将軍の指示通りにしろ」
「で、では捕虜の首はすべて刎ねろ、と?なかには非戦闘員もおりますが・・・」
「そうだ」
(非戦闘員を大量に殺したとあれば、舞人の悪名は大陸中に広がるだろう。そして、後世にも悪名は残るだろう。だが、その荷はお前だけには背負わせはせん。秋蘭や霞、桂花・・・みんなで背負っていこう。我らは、『仲間』だからな)
夜が明けるころ、天和城の本丸御殿は魏漢軍に占拠されて華琳たちの勝利は確定した。捕虜となったのは2万3千名。その中には約4千名を含む非戦闘員がいたが―――その全員が戦後処理が完了した後、処刑された。大将軍織田舞人による非戦闘員を含んだ虐殺は『項王の再来』と囁かれるほど国外の者に恐れられ、また怒りを抱かせた。
次回以降予告
戦いの場は大陸の西、漢中は定軍山に移る。その中で軍神は、一つの決断を下す。
「愛紗―――いや、関羽。お前、劉備のところに帰りたいなら帰ってもいいぞ」
魏国一の弓の使い手は、同盟国を救うため漢中へと軍を向ける。
「なに、心配はいらんよ舞人。無事に帰ってくるさ」
漢中では、策謀が渦巻いていた―――
「張衛貴様・・・!自分のしようとしていることが分かっているのか!」
「漢中は私が守って見せます。曹操にも、ましてや織田にも頼らず、ね。その為に夏候淵殿には生贄となっていただきましょう」
友を救うため、紅竜は前代未聞の救援作戦に打って出る。
「閣下!せめて具足を・・・!」
「やかましい!これで十分だ!」
真・恋姫無双紅竜王伝『定軍山の戦い』編、次回よりはじまります。
説明 | ||
煉獄編最終話の11話です。この最終回は結構悩みました・・・最後のページに次の章の予告があります。 | ||
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コメント | ||
ついに定軍山がきましたか・・・wktkが止まらない!!!!(ちまき) 更新お疲れ様です。次回が気になります。(nemus) |
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