真恋姫無双 美陽攻略戦 第十九ターン |
美陽攻略戦
(はじめに)
董卓軍のその後の話です。
第十九ターン
「あちゃ―、生き残りは僅か十数騎、こりゃ全滅やね―」
重さ八十斤の飛龍偃月刀(ひりゅうえんげつとう)を軽がると肩に担ぎ、
遠方での戦闘を一部始終見ていた女性は同様に傍らで見ていた少女に語った。
「なあ、チワチワ。これからどないするねん」
銀髪の少女は怒った様子で胸にサラシを巻いた女性にくってかかった。
「霞様、何度言ったらわかるのです。ワタシはチワチワではありません。智羽です!!!
羌族の連中は、こちらの指示を無視して突入したのですから自業自得です。それより……」
馬氏の五常の中で一番年少であるが、その智謀は群を抜きに出てと言われる馬謖こと智羽は、
騎兵と比べてあきらかに数で劣っていた歩兵に負けた理由を、いつもサラシしか巻かず寒く
ないのかと思わず考えてしまう張遼にポツポツと話し出した。
「れぎおん!? てすとぅど!? 」
霞は聞いたことがない異国の言葉にウキッとサル顔になって戸惑い、
それを見た智羽はため息を出した。最近西方商人達から聞いた大秦国(ローマ帝国)
の新しい戦法を霞にも解りやすいように説明した。
「……大盾を装備した歩兵が密集隊形を組み、最前列の兵士が全面に盾を構え、
後方の兵士が盾を掲げた状態で行軍します。一部隊全てが盾による防護を得る事で
弓矢や投石などの飛び道具に対して高い防御力を発揮するのです。
しかし、兵の機動性や速やかな連携が難しいなどの問題がありましたが……
あの指揮官はその弱点を逆手にとって相手の機動力をそぐ戦法を編み出すなど……
あの軍団には手を焼くことになるかもしれません」
「なんや、
簡単やんかあの陣形に対して
騎兵による十数にも及ぶ波状攻撃をしかければええやんか」
「ッ!?」
簡単な説明を聞いただけで、敵の陣形の弱点を素早く見抜いた霞の言葉に智羽は驚いた。
智羽自身この新戦法に対抗する手段を考えるために、兵法に関する書簡を読破し研究していた。
そしてその結果が、霞の言った戦法が有効な策と考えていた。
それを意図も簡単に見抜くとは……
これが天賦の才能というものなのか……
智羽がこの地に派遣される以前、執金吾(皇宮の周囲の治安を司る官職)の丁原
の一家臣にすぎない張遼を馬騰叔父上が招聘してまでこちらの陣営に引き込んだ。
このとき智羽はたかが客人にすぎない霞を何故そうまで厚遇するのか馬騰叔父上
に質問をしことがあった。
それを聞いた馬騰叔父上は笑いながら
『蛇に龍を養うことは出来ない』
と智羽に言って聞かせた。
今にして智羽はその意味の一片を理解できた気がした。
「……それでは霞様は、あの敵陣を攻略なさるのでしょうか」
智羽は霞がどのように出るか探るように質問をした。
しかし霞は豪快に笑いながら智羽の背中を叩いた。
「チウチウも人が悪いなー
よー見てみい。 先ほどの戦闘からもう体勢を立て直し第二波に備えたる。
ムリにあれに手出した痛い目に遭うでー」
智羽は叩かれた背中を擦りながらジト目で霞を見た。
「……では、霞様は敵軍が集結する前に各個撃破を主張していましたが
……どこを狙うつもりなのです」
「軍目付の馬幼常ならもうわかてるやろ。
ウチの狙うのは大物や。
チウチウにも骨折ってもらうで」
霞は心底イジワルな顔つきで智羽に心中を語った。
「私を左別部司馬に任ずるだと」
華雄はあまりの出来事に面食らった顔で月と詠を交互に見ていた。
掃討戦が一段落し、華雄は月達の執務に使われている大天幕までくるように呼ばれた。
大天幕では
上座に座る并州軍の将軍である月と校尉として将軍を補佐する詠はその脇に控えていた。
「はい。華雄さんのように有能な指揮官なら部隊ではなく一軍を率いてもらいたいのです」
「イヤしかし、私は流れの傭兵の指揮官にすぎない者が、いきなり一軍を率いろとは……」
本来流れの傭兵は死体に群がる輩と蔑まれるような存在である。
ましてやその頭領となると旗色が悪くなると逃走するか保身の為に
謀反を企てる可能性があることから信頼という言葉からかけ離れている存在になる。
私は何時裏切るかもしれないことを飢狼のような目をして華雄は月達を脅した。
しかし、月達の決心は動くことが無かった。
「私は華雄さんの兵隊さん達、上官を信頼すればこそできる統制から華雄さんを信頼致しました」
「ボクは色々あるけど、
月……董将軍、董家の当主の眼鏡にかかったのなら指揮官としては一級ね」
月は席をたち下座に座る華雄の手を取った。
「華雄さん、
どうか華雄さんの武を私たちに示してください。信頼の証として私の真名を預けます」
「真名を!?」
華雄は驚きを隠せない様子で月を見た。
月のゆるぎない信頼した目
華雄は人から信頼される嬉しさがある半面、
このように簡単に人を信頼する愚かさを冷笑したようにも見える複雑な表情で月達に言った。
「私は賤民の出で真名すらない婢。
だが、婢から抜け出し私の存在価値を示す我が武を真名の代わりに董将軍に預けよう」
華雄が大天幕から退出するのを見計らって、詠は衝立(ついたて)向かって怒鳴った。
「そこ!衝立の後ろに隠れている3人組出てきなさい」
衝立の後ろから一刀、恋、ねねがヒョコっと首を出した。
「行ったようなのです」
「……ウン」
この決定に華雄がどにような反応をするか好奇心に駆られ衝立の後ろに隠れ立ち聞きをしていた。
「なあ、月。真名って皆が持っているものではないのか」
月は華雄を哀れむような表情で一刀に答えた。
「人には良民と賤民があり、
前者はあらゆる自由があり真名を名乗る自由も認められております。
しかし、賤民になるとあらゆる自由はなく、真名を名乗る自由すら奪われるのです。
そして婢(はじため)であることは……女には色々なことがあり、
華雄さんにとって唯一の心の支えが武のようなのです」
月の話が終るのを見計らって詠はジト目で覗き見3人組を見た。
「アンタ達も聞いていたように、華雄に一軍を預ける指揮官したけど
ボクはまだ華雄を『信用』した訳ではないからね」
詠ちゃん、と不遜な詠に月がたしなめてたが、詠は今だこの決定に不満があった。
そもそも、
一刀が華雄の名前を聞いた瞬間、何の根拠も無くいきなり買いだ!と興奮したように言い
実戦を見ていた月と恋の評価としては統率力、兵の錬度などを勘案して良将との評価を出した。
(なおこのとき、何故ねねには聞かないのです――!!と叫んだが詠は華麗に無視した)
他者からの評価は好評であったが詠自身の評価としては将としては『信頼』ができる.
しかし、どこまで『信用』してよいかが解らず詠にはそれが腑に落ちなかった。
数刻後、
華雄は陣地に設けられたやくらにいる兵に見られないように単身、
丘の影に沿うようにして陣を後にしていた。
幾つかの丘を越えた陣地のやぐらから死角となる地点に来た時華雄を呼ぶ声が聞こえた。
「葉雄殿、葉雄殿」
華雄は本当の名を呼ぶ声のする方を向いた。
そこには、外套を着た二人の若い男女がいた。
「おおっ、沮授殿か」
「葉雄殿、首尾はどうでした」
葉雄(しょうゆう)は満面の笑みを浮かべ首尾よく董卓軍に潜り込んだことを伝えた。
「しかし、予想外のことが起こった。私が左別部司馬の任に就くことになった」
それを聞いたもう一人の猫耳の頭巾をした少女 荀ェ(じゅんしん)は硬い声で無表情に言った。
「チョット貴女、裏切るようなことをするつもりはないでしょうね」
荀子の血脈相承である名門荀家の出である荀ェにとって
傭兵業をする人間(非孝)は信用ができるものではなく、
またこのように考えるのは今の治世の文化人にとって当たり前の反応であった。
「ない胸をはるな、女郎。
私は我が武にかけて約定をそこなわない。……そちらが反古にしないかぎりな」
ない胸は余計よ! と憤慨する荀ェを落ち着かせながら、沮授は軽薄な笑顔で葉雄に言った。
「やだな〜
葉雄殿、我が袁家の者が約定を反古する訳なじゃないですか〜 それが証拠にほら」
と言って足元に置いてあった小箱を乱暴に蹴った。
そこからは、眩いばかりの黄金の棒が幾つか転がった。
葉雄は内心の激怒を抑え、転がっている黄金を大切そうに拾った。
この黄金一本で、親を、妻を、子や孫を賤民から開放することができる。
「……并州軍の様子はどうでした」
黄金を浅ましく拾う様子を嘲るように見られていると感じた葉雄は
沮授に兵の様子や陣の設置状況を声を荒げに語った。
「ふむ。予想どおり呂奉先やを陳公台を陣営に引き入れましたか、
しかし、奇妙な格好をした男とは……
まあいいでしょう。葉雄殿は当面は董将軍の命令に従ってください」
以前、沮授が田豊に并州軍は官軍に比べて勇猛果敢であるが、
肝心の将が武家である董家の親族以外には良将少なく、
賈?、李儒と言った策士達が細々とした軍制もしなければならない現況を指摘した。
この現況のおかげで并州軍は何時も後手に回っている。
そこで、沮授は朝廷から冷遇されている良将や市井の無名の将を送り将の底上げを図り
最終的には并州軍の将全てをこちらの息のかかった者にして裏から并州軍を操り
戦争の勝敗を袁家が左右できるように軍略を図った。
田豊からいくつか修正を入れられ、この献策が採用された。
葉雄が金を持って去るのを見送ると沮授はため息をつき荀ェにいった。
「桂林小姐(ねえちゃん)、
人にはそれぞれ立場があるんだからそのような言い方をしたらダメじゃないか」
「一枝(いっし)こそ、あんな下賤なのと付き合うなんてどうかしているわよ」
沮授はさらに深いため息をついた。
「名門荀家の桂林小姐に何言ってもムダか……
僕が袁成様に拾われなければ葉雄殿と同じ立場だったかもしれないんだよ……」
寒門(貧乏)出身が食うに困り、自らを、子を売る等が日常茶飯事であり
沮授自身も幼少の頃売られそうになった。
そのとき運よく袁成と出会い袁家で最高の教育と衣食を得る事ができたが……
横で孝行についてウンチクを言っている荀ェを適当に無視し沮授は闇夜に浮かぶ月を見た。
黄金のように輝く月の光を見るたび
前宗主 袁成様との衝撃的な出会いを思い出し沮授は苦笑した。
太陽のようにさんさんと輝く髪の毛を4連の縦ロールにした頭
蜜蝋で固めたヒゲを天を突き刺すように尖らせ
まさに威風堂々とした獅子王のような御姿
そして初めて沮授に言った言葉
「孺子(こぞう)……ナットウは好きか」
(あとがき)
はじめまして、この度は 真恋姫無双 美陽攻略戦 第十九ターン
をご覧になって頂きましてありがとうございました。
今回から登場してきますNPCの馬謖ですが金髪のグゥレイトゥ!様
がお描きになったキャラを元に構成しております。
この場をお借りして御礼申し上げます。
また、郁様のイラストをインスパイヤさせて頂きました。この場
を借りて郁様に御礼申し上げます。イメージとしては漢女ではなく
麗羽パパ(袁成)と見てください。
また、読者様からこんなのイメージ違うという苦情(くるかなドキドキ)
ですが、美陽シリーズはシリアス設定ですので今回は顔合わせ
的に様子見でお笑いキャラになるかマジメキャラになるかどう転ぶ
かわかりません。しかし、次回は馬氏達のターンですので出番は
多くなります。
それにしても、袁成の納豆発言…なんなんでしょう(笑)
最後まで、本編を読んで頂きまして大変ありがとうございました。
説明 | ||
第19回目の投稿です。 読みにくい点や日本語がおかしい部分があるかもしれませんが、宜しくお願い致します。 郁様のイラストをインスパイヤさせて頂きました。この場を借りて郁様に御礼申し上げます。 イメージとしては漢女ではなく麗羽パパ(袁成)と見てください。 |
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コメント | ||
>ねこじゃらし様コメントありがとうございます。シリアスすぎて最後のあたりで何かお笑いをと・・・(thule) >金髪のグゥレイトゥ!様コメントありがとうございます。五常の面々は美陽では重要なNPCですので色々と活躍させます。ありがとうございました。(thule) >jackry様コメントありがとうございます。なんか理不尽な言葉を考えていたらTVのCMがちょうど(笑(thule) なんだこの流れはwwwひき割りは邪道!丸納豆こそ正義!(ねこじゃらし) 自分の描いたキャラが出てくるのは想像以上に嬉しさと恥ずかしさが///ありがとうございます!(金髪のグゥレイトゥ!) 市販の納豆は嫌いですが給食の納豆は美味しいですよね(本編の感想を言えと…(金髪のグゥレイトゥ!) |
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