Cat and me 3.ハヅキ
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夜。何年かぶりに旧友に会った。

宿の一階で共に酒を傾けている。

スズもついてきた。

ご機嫌で小さく卓を叩いて遊んでいる。

「まさか、女づれで旅しているとは思わなかった」

ハヅキはクツクツ笑っている。

「女扱いされたよ。良かったな、スズ」

茶色い髪をかき上げてやると、にっこり笑った。

「ハヅキは変わらないね。いや、顔つきが少し変わったかな」

なんだかうっすらと闇を纏っている感じだ。

「ティエンランにもどったのだろう。どうして、またジンに来たんだ? 例の女捜しか?」

「君に話があってさ」

ハヅキが笑った。腹に一物の笑い方だった。

敏感に察したのだろう。スズが遊ぶのをやめて、わたしの腕に抱きついた。

チリンと音がした。

落ち着かせるため、頭をなでてやる。

「話とは?」

「ここじゃなんだし、ぼくか、君の部屋にいこう」

そしてわたしの部屋でハヅキは言った。

「美貌の女王とその国を手に入れる気はないか」

「ないね」

それならばお前がやればいいじゃないか。

今のこの自由気ままな生活をわたしは気に入っている。

膝の上で、よだれをたらして寝ているネコと、ブラブラ旅をする日常を。

もうすぐあの城へと帰らなければいけないが、用事がすめばまたさっさと抜け出せばいい。

「つまらないな」

ハヅキは落胆するでもなく、ただ笑った。

「ジンの人間は貪欲だと聞いていたのに」

「どうやらわたしは異端児らしい」

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まだ、スズも連れず一人で旅をしていたとき。

目の前のこの男と知り合った。

話が盛り上がり、酒場から宿の部屋へと場所をかえてひたすら飲んだ。

「ぼくのね」

赤い顔してろれつの怪しい口調でハヅキが言った。

「妹がティエンランの王なんだ」

「それはすごい」

わたしもめずらしくベロベロだった。

「わたしもこの国の王子なんだ」

「それはすごい」

ハヅキも言った。

いつもはそんな馬鹿げた事を吹聴しない。

だがしかし、この時は心の澱を吐き出してしまいたかった。

きっとこの男もそうだったのだろう。

一通り吐き出してしまえば、似た者同士だった。

家族から浮いたような疎外感を感じて育った境遇。

ただし、その周囲を見下し差別化を図り、挙句の果てには城を抜け出したわたしに比べ、ハヅキは理解者を求めた。

唯一出会った理解者はこの国の女で、その女を探して旅をしていると目の前の男は言った。

「強く思えば願いは叶うんだ。きっとまた会える」

世の中、そんなに甘いものではないと鼻白んだが、なにも言わなかった。

案の定、探し人とは会えなかったようだ。

 

「美貌の女王とその国とやらは、ティエンランだろう。妹と祖国を売る気か」

「ああ」

ハヅキがゆっくりと笑う。

いやいや、本当に黒くなってしまった。

「ぼくはあの国を滅ぼしてしまいたいんだ」

「そうか」

スズの髪を撫でる。

「だが、それはがんばって自分でやってくれ。人を頼るんじゃないよ」

「可能性のある人物に賭けたかったんだけどな」

肩をすくめた。

「まあ、ティエンランに帰ることはもうないから、何かあったったら声をかけて」

じゃあ、元気で、とハヅキは部屋を出て行った。

 

ブシュッとスズがくしゃみをしたので、寝台に横たえる。

わたしも横になると、意識はすぐに落ちていった。

 

説明
ティエンランシリーズ第六巻。
ジンの無責任王子ヤン・チャオと愛姫スズの物語。

「ぼくはあの国を滅ぼしてしまいたいんだ」

*ハヅキは三巻読んでもらえれば風味が増します。

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コメント
天ヶ森雀さま:コメントありがとうございます。悪い子じゃあないんですけどねぇ。(まめご)
黒ハヅキも決して嫌いじゃないです(笑)。(天ヶ森雀)
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ファンタジー オリジナル 恋愛 長編 ティエンランシリーズ 

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