Cat and me 5.日一日 |
日々は大体決まった時間帯で流れてゆく。
朝は女官の声や気配で目を覚ます。
スズはわたしの腕の中にいるか、寝相の悪さ故に遠くで爆睡しているかだ。
なぜか半回転して足が見えていることもあった(不思議でならない)。
昔からの習慣で、寝台の宮に凭れたまま熱い茶を一服する。
対外、裸で、寝着はそのへんに打ち捨てていた。
わたしたちが寝着を着たまま寝ていると、女官たちは狐に包まれたような顔をするくらいだ。
まあともかく、茶を飲んでいるとスズも目を覚まして、くっついてきたり二度寝をしたり、その辺をごろごろしたりと遊んでいる。
次に水を張った鉢で顔を洗い、髪を整えられ、衣を着せられる。
この洗顔をスズは当初、知らなかったらしい。
いきなり顔を鉢に突っ込んで、ブクブクさせて遊んだのには仰天した。
わたしのネコは髪を結われれば、化粧もさせられる(女とはとかく身支度に時間がかかるものだ)。
それが終われば、スズお待ちかねの朝餉である。
食い意地の張ったスズは、朝からがっつり食う。
対しわたしは、朝は食欲のない方である。
だから、わたしとスズの膳は一目瞭然に量が違う。
こんなに食ったらわたしのネコは太ってしまうのではないか、と毎朝思う。
それでもいいか、丸くなったスズも愛らしいことだろう。
コロコロと転がして遊んでやろう、とも思う。
そしてスズは自分で箸が使えるくせに、わたしに食べさせてもらう事を好んだ。
膝の上で大口開けて待っているスズに、せっせと箸を運ぶ。
それがすめば、冷めてしまった自分の膳を片付ける。
朝餉が終わると、スズに後ろ髪を引かれながら部屋を出る。
一日の中でわたしが最も嫌悪する瞬間だ。
次はジンが信仰している雷神イドーラへの祈りをささげる(ふりをする)。
ボケ、ボンクラたち、その妻たち、母たち、セリナと共に、専用の部屋へと集って長々と頭を垂れる。
祈りなど、好きな時に好きなだけ祈ればいいではないか。
神には悪いが、わたしは神を信じていない。
何かしらの超絶な存在はあるのだろう、それは分かる。
だがそれが君だとは思えないのだよ、とイドーラの肩を叩いて、首を振りたい。
祈りの時間と信仰の深さ、布施の金額で、信者の質を順位付けるのはどうだろう。
己を信じない者は地獄へ落とすのもいかがなものか。
いやいや、分かっているよ、君自身はけしてそんなつもりはないのだろう、とイドーラの肩を叩いて頷きたい。
別にわたしは、君が嫌いなわけではない。
豪放磊落で人妻にちょっかいをかけた挙句にばれて、どえらい目にあったなんて、中々にお茶目ではないか。
悪いのは君を祀りあげて勝手に決まり事を作った神官たちだ。
莫大な布施が、どこへ流れているのか非常に興味がある。
殊勝に目をつぶりながら、そんな事を考えているか、今日はスズと何をして遊ぼうかと思いを巡らす。
不遜な祈りの時間が終われば、うっとおしい連中に捕まる前に脱兎のごとく逃げる。
それから政務室で、ポンポンポコンとハンコを押す。
他、カイドウリンドウに言われるまま、書を書いたり、なんやかんやを命令したりする。
昼餉前にこの苦行は終了し、わたしの可愛いネコが待っている部屋へと戻る。
扉を開けるとスズは飛び付いて出迎えてくれる。
もしくは、キムザの膝の上で涎を垂らして寝ている。
その小さな体を抱きあげて、不在を詫び、可愛い顔と柔らかい唇を堪能する。
が、幸せな時間は長く続かない。
昼餉の支度ができたと声がすると、スズは飯だ、離せと暴れるのだ。
そんなスズの口に飯を運びながら、今日は何をしようかと相談する。
日によって様々だ。
庭園に行くこともあれば、城下にゆくこともある。
カイドウリンドウと遊ぶこともあれば、城内の人気のない場所でかくれんぼや体を重ねることもあった。
くたくたに遊び疲れ、二人で手をつないで部屋に戻ると、昼寝をしたり、本(主に官能小説類)をよんでやったり夕餉までの時間を過ごす。
夕餉が終われば、風呂に入る。一緒に入ることもあれば、別々に入ることもあった。
女官たちは、スズの頭を乾かし、顔に何かをつけ、全てを終わらせた後さっさと下がる。
膝の上でくつろいでいるスズを愛でながら、いつも思う。
わたしは、このネコに出会う前、一体何をして過ごしていたのだろうと。
さっぱり思い出せない。
スズが甘えたように身を寄せてきた。
その洗いたての髪を梳くと、さらさらと零れていった。
多分、記憶できないほどどうでもいいことなのだ。
結局はそう結論づけて、スズを引きよせ唇を落とす。
可愛くて切ない、小さな鳴き声を聞きながら。
この娘が傍にいない世界など、どうでもいいことだ。
そしてわたしとスズは、甘い夜を過ごす。
このまま溶けて消えてしまえばいいと思うほどの熱く甘い夜を。
説明 | ||
ティエンランシリーズ第六巻。 ジンの無責任王子ヤン・チャオと愛姫スズの物語。 この娘が傍にいない世界など、どうでもいいことだ。 ついに投稿作品が200になりました…。 |
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コメント | ||
天ヶ森雀さま:ありがとうございます。目指せ300。(まめご) 200回目おめでとうございます。うん、甘い。(天ヶ森雀) アシェラさま:コメントありがとうございます。彼は夜に関しては努力家です(笑)。投稿作は自分でもびっくりです^^;(まめご) ヤン教育熱心w それにしても投稿作200は凄いですね(アシェラ) |
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