真・恋姫†無双 孫呉編 建業休題
[全4ページ]
-1ページ-

 簡単なキャラ設定

 

 孫権 仲謀 蓮華

 本作主人公。

 孫呉の頂点であり、自身が呉国一の政治家。人材収拾と適材適所を見出す能力は三国指折り。

 その魅力と人心掌握術も一流。弱点は気がはやりすぎるため戦の法は不得手と言うこと。そして思い込んだら止まらない頑固者。

 何故か目が碧い。

 

 周泰 幼平 明命

 孫呉の実力者。武勇に秀でた猛将であり、暗殺やゲリラ戦のプロフェッショナル。

 知略はイマイチ。政治もよく分からない武一辺倒。

 その昔、蓮華を身を呈して守ったことから呉の重鎮からは強い信頼を寄せられる。

 重度の猫依存症。

 

 甘寧 興覇 思春

 孫呉の実力者。武勇に秀でた猛将であり、暗殺やゲリラ戦のプロフェッショナル。

 元盗賊の頭でかなりいろいろやらかしたが、その仁侠心と死をも恐れぬ勇姿で雪蓮からの信頼を得て帰順。その後蓮華に仕える。

 政治には興味がないが知略に秀でており、度々優秀な武功を立てた。

 妄信的な蓮華スキー。

 

 ※孫策 伯符 雪蓮

 死亡キャラなので特別席。

 江東の虎と恐れられた孫堅の長女。若い頃から武勇に秀で、戦上手なので小覇王とまで呼ばれた英雄。

 弱点は妻の大喬と冥琳。

 

 ※周瑜 公謹 冥琳

 死亡キャラなので特別席。

 孫策の親友で義姉妹。素晴らしい才覚の持ち主で、天下の名提督。さらにその美しさから美周公とまで呼ばれた美人。

 弱点は朱里の行動全般で、吐血する。

-2ページ-

 

 今日も呉国に日が昇った。

 蓮華は窓枠の向こう、移り変わった景色を見てため息をつき、書きかけの竹簡を放り出して立ち上がった。

 窓の外は新鮮な空気で溢れ、警護をしている兵や訓練をしている隊などが一望できる。

 蓮華はその景色を眺めて頭を押さえた。

 痛い、重い。これで三日目の徹夜である。皇帝の激務には慣れたつもりだったが、新たな小事が募ると予想だにしないくらい仕事が増えているということがある。

 今、当にそれであった。

 蓮華は限界に近い体に喝を入れて早朝の散歩に出た。主が顔を見せれば諸将や兵も頑張りを見せるものだ。

 若かった蓮華が呉国を掌握するというのは並大抵の苦労ではなかった。舐め腐る老人どもや諸将、そして愛想をつかして出て行く者たち。

 筆舌に尽くし難い苦労を経て、ようやくここまで国を発展させたのだ。

 その一端が、こういった細かい気遣いだろう。

 廊下に出ると待機していた明命がこくりこくりと舟を漕いでいた。

 それに苦笑して、蓮華は明命の前に立った。

 

「明命」

 

 呼んでやると明命ははっと顔を上げたので、その鼻先を軽く弾いてやった。

 

「警護が寝てどうする。見回りに行くわよ」

「は、はい!」

 

 明命も辛いのだろう。蓮華が寝ないと明命も休もうとしない。

 我ながらよい将に巡り会えたものだ。

 明命は眼をこすりながら、犬のように後をついてくる。

 

「そういえば、蜀からの献上物に入浴剤というものを貰っているの。珍しいから使ってみようか」

「はい、お供します」

 

 元気に振舞おうとしているのか、明命はいつもと同じ笑顔を寄せてくれる。

 従者に品を持ってくるように指示し、蓮華は思春のところに行った。思春は兵の訓練が得意なので、城外に出てひたすら兵を操ることをさせていた。今日は戻ってきているはずだ。

 訓練場を覗いてみると、千の兵が両拳を前に突き出し、中腰に――まるで空気椅子をするような体制で、じっとしていた。声ひとつ上げず、全員それを乱すことはない。

 思春は一番前の台座に立って、その様子を睨んでいる。

 

「おはようございます。蓮華様」

 

 やがて蓮華に気がついた思春が頭を下げた。訓練をしていた兵もさっと立ち上がっていき、頭を下げ始める。

 

「私に気にせず続けさせなさい」

「はっ」

 

 短くそう言って、腕をあげると兵たちは一斉に先程の体制に戻る。

 壮観である。

 

「ところで、これは何の訓練だ?」

「クンフーと我慢強さを養う訓練です。歩兵には意外と重宝します」

 

 思春は蓮華を見ず、兵たちを見ながらそう答えた。

 思春も三日寝ていないハズだ。それ以前に、身の回りの警護と訓練を考えれば休む暇はあるのだろうか。

 少し体のことが心配だが、その眼光に疲れは見えない。

 

「蓮華様、まれに思うのですが」

「何?」

「蓮華様が給仕役の格好で私にお茶を注いで下さればどれ程本望かと」

 

 蓮華は黙って思春を見上げた。

 思春はじっと、兵に目をやっている。

 

「訓練は何時からやっている」

「二日前からです。城外で弓馬を丸一日やらせ、疲れきった兵たちに僅かな食物だけをおくり、反発する者は処刑し、倒れそうなところをさらにいじめぬき、今日の明け方に戻って参りました」

「そこから更にこれを」

「休む間もやりません」

 

 兵たちの顔を見ると、色が土色で表情は暗くまるで人形のようだ。

 

「何人処刑した。また、何人過労死した」

「少し処刑し、何人か過労死しました」

 

 疲れが顔に出ないだけだ。思春は疲れている。

 疲れきっておかしくなっとる。

 

「蓮華様が踊り子の格好で私に酒を注いで下さればどれ程本望か」

「わかった。もう休め。兵たちにも伝えよ」

「了承しかねます」

「何故?」

「主が休まないのに、麾下の私どもが休めるでしょうか」

 

 蓮華はため息を付いた。

 

「膝を貸す。どう?」

「全員撤収だ! 速やかに兵舎に戻り休養をとれ!」

 

 兵たちはわっと立ち上がり厩舎に駆け込んで行った。

 しかし疲れはてているため足取りはおぼつかず、顔はミイラのよう。

 兵と言うよりは、肉に群がるゾンビの軍団であった。

 嫌だそんな国。

 

「……取り敢えず湯に浸かる。思春も疲れているだろう」

「御意」

 

 蓮華が歩き出そうとするとまた明命がうつらうつらしている。

 

「明命」

 

 明命は虚ろに目を開いて「はい」と返事をした。

 自分よりも、肉体労働の二人が疲れているに決まっているのだ。

 蓮華は近くにいた小将に兵たちに休息と食物をたっぷり与えてやるよう支持し、風呂場へ向かった。

-3ページ-

 

 さて、ここは大都市建業。それ専門の職人もごまんといる中で、選りすぐりの腕利きに作らせた風呂が建業城の風呂である。

 と言っても蓮華は雪蓮とは違い贅沢なものは好まない。職人に髄を極めさせはしたが、材料に金銀などは少しも使っていない。ある意味、ただ少しだけ広い。それだけの風呂である。

 何かを作ると考えると、それに伴なう費用からどの程度財政を圧迫してしまうか。またそれだけ出せば駿馬が何頭手に入るだろうか。むしろ内政費に回して交通の便を……などと考えてしまい、結局使えないのだ。

 姉なら「パーッと使っちゃおう」とか言って至れり尽くせりのものを作ってしまえるのだろうが。

 そもそもこの風呂でさえも――蓮華の許可無くしては入れない、言ってしまえば蓮華一人用の風呂なのだが――こんなに広くなくても良いだろうと思ってしまうのである。

 自分は小心者なのだろうか。それとも貧乏根性が染み付いてしまっているのだろうか。

 あぁ、また頭が痛くなってきた。

 

「大丈夫ですか、蓮華様」

 

 明命が愛くるしい子犬のような目で見上げてくる。

 ありがたい癒しである。

 

「大丈夫ですか、蓮華様」

 

 思春が血に飢えた狼のような目で睨み上げてくる。

 あまりありがたくない癒しである。

 

「えぇ、大丈夫」

 

 ただし喝を入れる力は間違いなく思春の方がある。飴と鞭。なるほど効果的だ。

 飴で油断したところを鞭で仕留める。

 効果的だ。

 

「何を考えているのですか?」

「明命は知らなくていいことよ」

 

 この純粋な目を汚すことなど出来ない。間違っても今の妄想で五月蝿い役人の始末法を思いついたなどと言うことは出来ない。

 

「蓮華様が望まれるのであればこの思春、暗殺などは得手の一つ」

「人の心を読むのはやめなさい」

 

 この思春、主を想うあまり読心術紛いのものが身についたと言う。

 いったいどの程度あまりがでればこのような妙技を身に付けられるのか定かではないがともかく、蓮華のプライバシーは籠の中の鳥を凌ぐ勢いである。

 

「私だって、蓮華様が望まれるのであらば!」

 

 そこは張り切らなくていいぞ明命。

 そんな蓮華の知られざる心労は置いておいて、従者に頼んでいた入浴剤が届いた。

 三人は蓮華の入浴場で裸足になった。服は着たままである。

 諸葛亮の話によると天界の物で、身を浸ける薬湯のようなものだと言っていた。いい匂いがし、体が温まり、疲れが溶けていくようだと言う。

 ただし奴の話は一切信用出来ない。そろそろ荊州返せ。

 

「これを湯に入れるのですか」

「毒かも知れません。私が先に浸かりましょう」

 

 はしゃぎながら筒を見つめる明命と、いつも以上に低い声の思春。

 反応一つとっても対照的だ。

 

「心配することはないわ」

「何故です?」

 

 思春は少し警戒心が多すぎる。

 

「まぁ、仮にこれが毒だったとしよう。私が死ねば利するは魏。蜀には得るものが無いもの」

「どういう事ですか?」

 

 明命の無垢な瞳が可愛らしい。

 

「私がこれで死んだら、蜀に対して仇討ちという大義名分ができる。今の呉と蜀では呉が勝つ。よしんば我らが返り討ちになっても、疲れきった蜀を見逃す曹操ではない」

「めでたく魏が天下統一というわけですか」

 

 落ち着け明命、全然めでたくない。

 正直、この三国同盟がどの程度続くのかさえ分かったものではないのだ。

 思春が従者から筒を受け取って、蓋を開けた。

 筒と蓋は豪華な彩色がされている物で、一尺(約三十センチ)ほどの長さで直径は三寸(約九センチ)ほどである。

 思春は中を覗き、顔を上げた。

 

「確かに良い匂いがします。スミレのような」

 

 孫権と明命も顔を近づけた。確かにいい匂いがする。深い花の匂いだ。

 

「ふわぁ、凄いです」

 

 明命はにぱっと笑顔をみせた。

 いい匂いよりも何よりも、まず明命の可愛さを天下に知らしめたい。

 自分が天下をとったら叶うだろうか。

 

「そんな切なそうな顔で見るな、思春」

 

 私は思春のこともちゃんと好きよ、ということを心で呟いてみた。

 瞬間的に思春はいつものむっつり顔に戻った。

 喜んでいるのだろうか。分かりにくい。

 蓮華は思春から筒を受け取り、湯船の淵に立った。

 かがみ込んで、少しずつ中の粉を流して行く。

 粉が溶けた湯は深い青色に変わった。

 

「綺麗ですね」

「あぁ、綺麗だな」

 

 後ろの二人も満足そうだ。

 蓮華は色が変わったところの湯に手を入れてみた。

 別に何でもない。引き上げた手から、深い花の匂いがした。

 

「大丈夫みたいね。さ、服を脱ごうか」

 

 残りは後で入れよう。

 

「どうぞ、蓮華様」

 

 蓮華が体を覆う布を取りに行こうとすると思春が三人分の布を出した。

 これは気が利いていると思い、手を伸ばしたところで違和感を感じた。

 

「待て、どこから出した」

 

 流せない。これは流せない。

 一つは蓮華専用の物である。当然私室にしまっていたハズだ。下着とかと一緒に。

 

「さてこの甘寧、皆目見当がつきませぬ」

 

 どこから切り崩せば良いのだろうか。流石思春、隙がない。

 

「桶をお持ちしました」

 

 明命お前も、いつの間にそんな離れた桶置きへ。

 水場で音も立てないとは。

 蓮華は今さらのようにこいつら人間じゃねぇとか思いながら大人しく桶を受け取った。

 三人揃って服を脱いで、湯船に浸かった。心地よい温かさが疲れを癒していく。

 

「それじゃ、全部入れるわよ」

 

 蓮華は湯に浸かった状態で、筒の中身を全部風呂に入れた。

 真っ黒になるほど濃い青だったが、広い浴槽に拡がっていき、やがては薄い青色になった。

 浴場全体が花の香りに染まる。

 湯の色も綺麗だが匂いもいい。体に染み込むような感じがする。

 

「なんとも心地よいものだ」

「ですー」

 

 思春と明命も幸せそうだ。

 蓮華も久しぶりに一心地つけた気がして、ぐっと伸びをした。

 手に何かが当たる。

 見ると湯船に白いものが浮いていた。

 取ってみると、何かが書いてある。紙だった。

 粉と一緒に筒に入れられていたのだろうか。

 

「見て、これ」

 

 蓮華が言うと、思春も明命も蓮華の背に寄った。

 紙なのに水に濡らして破けない、不思議な加工がされたものだった。

 

「えぇと、『蜀漢ノ亮、呉ニコレヲ送ル二オイテ、コレヲシタタメル』」

 

 孔明がこちらに当てた手紙のようだ。

 

「『コノ薬湯ハ、滋養強壮ノ効果アリ、疲労回復ノ効果アリ。毒等ハ入ッテイナイタメ、安心シテ浸カラレタシ』」

「毒は入ってないし、体にいいので安心してください」

 

 明命が復唱した。

 

「『マタ、呉国ノ無駄ニ大キナ胸部ト同様ニ、途方モナク広イ浴槽ヲ想定シテイタモノ、権皇ノ謙虚ナルゴ推進ノ為、想定ヨリ安ク済申シタ』」

「呉人の胸が大きいように浴室も広いかと思ったが、そうでもなくて安上がりだ」

 

 思春が血管を額に浮かべながら復唱した。

 

「『最後ニ、恐ラクハコレヲ読シ、血ヲ吐カレルデアロウ周瑜殿ニ余リ風呂場デ騒イデ溺レヌヨウ伝エテクダサレバ幸イデ候』」

 

 三人で顔を見合わせた。

 

「冥琳がこれを読んで血を吐くだろうから、風呂場ではしゃぐと溺れるぞと伝えろって」

 

 最後に蓮華自身が復唱した。

 風呂場が静まり返る。

 

「孔明の奴、一々こちらを苛立たせに来る」

 

 思春の怒りは最もだ。謙虚って、小心者ってことだろう多分。

 

「姉様と冥琳は何処にいる」

「離れの屋敷で仲睦まじくしていたと思われますが」

 

 明命が言った。

 湯は気持ちがいい。

 しかし孔明の手紙が気に掛かる。今この場で鉢合わせになる可能性などあるのだろうか。

 雪蓮は唯一、勝手に蓮華の浴場に入れる人間だが今は朝方。夜にご盛んなあの二人が起きてくるとは到底思えない。

 

「取り敢えずこれは処分しましょう。誰か、この手紙を――」

 

 従者を呼ぼうとすると、脱衣所のところに光沢のある紫色の髪が翻った。

 猛烈に嫌な予感がした。

 後ろの二人もじっと脱衣所を見ている。

 蓮華も手を上げたまま、水が滴り落ちるのを感じつつ、固まった。

 あぁ、人か魔か、諸葛孔明。

 浴場に入ってきたのは雪蓮と、ある意味期待通りの冥琳だった。

 暢気そうな笑顔の姉と、苦笑いしながらも楽しそうな冥琳。

 この二人の幸せを壊す権利など、誰にもないというのに。

 

「おはよう、皆。凄いじゃない。本当にいい匂いがするのね」

「驚いた。こういう薬湯もあるのか」

「あの、姉様、何故ここへ」

「従者がね、あなたが蜀からの献上物の、珍しい薬湯を使ってみると言うから試しに来てみたの。眠いの我慢してきたんだから」

 

 欠伸をしながら雪蓮が答える。

 寝ていれば良いものを。

 

「ご一緒してもよろしいですか」

 

 良くない、とは言えない。美人な上に笑顔も素敵だ、冥琳。

 手紙を咄嗟に背中に隠したものの、服も遥か向こう。裸じゃ隠し切れない。

 いや、隠す必要なんてない。ここで破ってしまえば。

 

「蓮華、何持ってるの」

「えっ? 手紙です。ただの」

「誰からの」

「だから……何でもありません」

「風呂場に持ち込むくらいなのだから、何でもない訳ないでしょ。見せてよ」

「う……」

 

 蓮華が躊躇していると、雪蓮は訝しげな顔をした。

 その訝しげな顔も一瞬で終わった。後は、獲物を狩る狩人の目。

 素早く、明命と思春が前に出る。

 が、疲れはてている蓮華たちに、毎日放蕩三昧の雪蓮に対する勝算などありはしなかった。

 豹のように突っ込んできた雪蓮に明命は簡単に吹っ飛ばされて水しぶきを上げ、思春も返す刀で吹き飛ばされて同じように水しぶきを上げた。

 

「取ったっと」

「姉さまぁ!」

 

 あっさりと、手紙は取られてしまった。

 雪蓮が手紙をぎりぎり取れる位置にひらつかせては素早く引き戻すといういじめっ子特有のあれを始めた。

 蓮華は二人の幸せを守ろうと、取り返そうとする。

 しかし、体力的なものと武力的なもので、蓮華はどうしようもない。

 冥琳が近づいてくる。ちゃぷちゃぷと湯を揺らしながら。

 すると、蓮華をからかっている雪蓮から手紙を取り上げた。

 

「いくら姉妹の間といえども、人の手紙を盗ってはいけません」

「えー」

「えーではありません。まったく」

 

 唇を尖らせてぶーぶー言っている雪蓮を差し置いて、冥琳が蓮華に手紙を返してきた。

 流石呉国一のアイドルである。その優しさが、自分を救ったのだ。

 何と素晴らしいことか。

 

「待ってください冥琳様! それは孔明からの手紙です! 読んではガボガボ!」

 

 なんてことを、明命。

 反射的に、思いっきり湯に沈める。何てそそっかしい。そこが可愛くもあるのだが、こんな場面で致命的な発言するとは。

 目を戻す。いつも、如何なる時でも図々しい姉までもが、表情を固まらせていた。

 動かない、冥琳。何を考えているのか。風呂場でも取らないメガネは曇っており、どんな目をしているかが伺えない。

 

「あの、冥琳、ありがと……」

「失礼します」

 

 受け取ろうとしたが、冥琳は手紙を引き戻して開き始めた。

 

「か、返してくれるんじゃ」

「孔明となれば、話は別です。またロクでもないことを考えているかも知れません」

 

 冥琳は止まらない。この場を打開出来る人間はただ一人だ。

 蓮華は雪蓮に目配せした。

 雪蓮も意図がわかったようで、黙って頷いた。

 

「あの、冥琳。その手紙はまず私が読むわ」

 

 冥琳は顔を上げ、一度雪蓮を睨んだ。

 雪蓮は少し躊躇したが、たたみかけた。

 

「そういうものは、私が読むべきでしょう。元は私の立場が上だったんだし。さぁ早くそれを渡し」

「浮気しますよ」

「ごめんなさい」

 

 しゅんと縮まる姉を見て、いざとなるとどちらの立場が上になるのかが容易にわかった。

 もう、蓮華たちに出来ることなど、ない。

 冥琳は手紙を読み始めた。序々に、力む指に潰されて、紙に皺が走っていく。

 手どころか、体すら震えていた。

 

「ぬぐぐ、おのれ孔明……!」

 

 バリッと景気よく紙が破られる。

 冥琳は手紙を湯に叩きつけた。

 

「何という言い草だ! よもやここまでコケにされるとは……がはぁ!」

「冥琳ー!」

 

 ものの見事に吐血した冥琳を雪蓮が支える。

 青に、赤が混じる。

 

「あ、あんまり興奮したらダメよ、落ち着いて、落ち着いて」

「ぐぐぐ……誰が風呂場で溺れるか! ぐはぁ!」

「誰か! 誰か医者を呼んで! 冥琳がー!」

 

 慌ただしくなる脱衣所に、雪蓮が冥琳を抱き上げて運んで行った。

 向こうから「提督!」「提督の一大事じゃ!」という叫び声や「ジャーンジャーン!」という銅鑼の音が聞こえてくる。

 蓮華たち三人は騒ぎが収まるまで、言葉を発せずじっと湯船に浸かっていた。

-4ページ-

 

 冥琳に申し訳なく思いながら、三人は疲れも癒され、さっぱりしたいい気持ちで浴場を出た。

 服は従者に任せ、適当な衣を羽織る。

 外は心地のよい風が吹いている。

 日はそろそろ真上までくるか、というところだ。

 

「蓮華様、いい匂いがします」

 

 抱きついてきた明命がそんなことを言った。

 三人揃って同じ匂いのハズだが。

 

「馬鹿を言うな明命。蓮華様はいつもいい匂いだ」

「そうですね」

 

 言葉を返し辛い話題を振るな。

 本当に恥ずかしい。

 

「少し早いけど昼食にしよう。二人とも、お腹減ってるでしょ?」

「御意」

「ペコペコですー」

 

 思春と明命は返事をした。

 蓮華は食欲がなかったので適当に済ませたが、明命はこちらが爽快なくらい物にがっついていた。

 そこまで美味しそうに食べられれば食材も嬉しいだろう。

 更に明命は肉まんを手にとると二つほど頬張った。

 

「おいおい、まだ食べるのか?」

「ふぁい! まだお腹いっぱいになっていません!」

 

 思春が呆れても明命は何処吹く風である。

 肉まんを口いっぱいに頬張る明命を見てるとなんだか幸せだ。これぞ癒しである。

 やがて、器は空になった。

 日が高い。雲は点々と散らばっているが、太陽の光を遮る力のある物はない。

 明命はふぁと欠伸をした。

 

「蓮華様、そろそろ」

 

 いつになく物欲しそうな思春の表情で、膝を貸すという約束を思い出した。

 仕事に戻ろうと考えていたのだが、約束は約束である。

 蓮華は近くの木陰に座ると、ぽんぽんと膝を叩いた。

 

「どうぞ」

 

 思春は「失礼します」とつぶやき、蓮華の膝を枕に横になった。いつになく幸せな顔をしている。

 視線をあげると、明命も指を咥えながらこちらを見ていた。

 蓮華は苦笑して、逆の膝を叩いた。

 

「ほら、明命もどうぞ」

 

 明命はぱぁっと笑顔になって、蓮華の膝を枕に横になった。

 ざぁっと風が吹き、木々を揺らした。向こうからは川の流れる音が聞こえてくる。

 涼しい木陰。囀る小鳥。流れる水の音。

 右足には明命。左足には思春。

 どちらの髪の感触も心地よい。明命の流れるような髪も、思春の癖のある髪も。

 ふと気持ちのいい風が蓮華の髪を揺らした。

 起きたら、書きかけの竹簡を完成させなくては。

 そんな事を思いながら、蓮華も目を閉じた。

 

説明
 この話は
 恋姫ベースに演義+正史+北方+横山+妄想+俺設定÷6
 で出来上がった奇怪なものです。
 百合分が含まれております。キャラ崩壊があります。
 前回と違ってギャグテイストにしてみました。
 蜀は悪役チックです。周瑜さんや孫策さんが少し情けなかったりします。
 設定はオリジナル。もしも設定です。
 以上を了承し、お読みくださる方、どうぞよろしくお願いします。
 感想や意見、矛盾や誤字へのツッコミもよろしくお願いします。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
3544 3152 15
コメント
jackry様、お読み下さりありがとうございます。次もどうかよろしく御願します(破滅型小僧)
タグ
真・恋姫†無双 蓮華 明命 思春 雪蓮 冥琳 微百合 

破滅型小僧さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com