Cat and me13.御前試合
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これは祭りか。祭りだろう。

木刀を片手にうんざりしたため息をつく。

庭園に設置された特設会場の右手には、ボケを中心にしてボンクラ二人、そしてスズが座っている。背後にはカイドウ、リンドウが控えていた。

真っ赤な衣をまとったスズは、高貴さまで感じさせる。中々に美しいではないかと思わず鼻の下を伸ばした(それどころではないというのに)。

左手には呑気に、そりゃあもう呑気に臣下や貴族の者がわらわらと群がっている。一様に好奇と興味をあふれさせた目をしていた。もし、一度に人を殺せる兵器(大砲でもいい)でもあれば、躊躇いもなく奴らに向けてぶっぱなしていただろう。

そして、目の前では師が立っている。

年寄りとは思えない精悍な姿であった。

「勝負は三本」

下段に構える。対しジュズは中段。

「始め!」

圧倒的な勢いで襲いかかる木刀を、音を立てて打ち止める。

なんて力だ、本当に老女か。皮を剥いだら厳ついおっさんがでてくるんじゃないか。

止める、止める、なぎ払う。

攻める、攻める、止められる。

流す、跳ねる、振り下ろす。

頭は空になり、無となり意識を消し去る。

時間の経過も分からない。

そして。

弾けるような衝撃が右腕に走った。

木刀が手から落ちた。

「ジュズさまに一本!」

真っ白だった景色がいきなり色を付けて蘇り、ドオウと歓声が聞こえた。

腕は未だ痺れたままである。

あと一本取られたら、この勝負は終わってしまう。スズが…。

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「二本目」

次は中段に構えた。ジュズは上段。

「始め!」

地を蹴って仕掛ける。流れる汗がうっとおしくて堪らない。

ただただ攻撃した。ジュズは余裕の表情でかわしてゆく。

その内、態勢が変わってきた。

ただただ身を守るようにかわす。ジュズは余裕の表情で突きを繰り出す。

やばいな。

非常にやばい。

小柄な師が、まるで山のように大きく見える。

一瞬の間を開けたジュズが、猛烈な気を放ちながら渾身の一撃をなぎ払った時。

目の前が真っ赤になった。

死んだかと思った。

違った。

悲鳴を上げて、したたか地に打ちつけられたのは、スズだった。

「スズッ!」

木刀を放り投げて、慌ててスズを抱き起こす。

体を折り曲げて痙攣していた。

この娘は。

何度もスズの名を呼びながら愕然とした。

この娘は身を呈してわたしを守ろうとしたのか。

「見事!」

国王の声がする。

「なにが見事なものか! 早く医師を!」

顔を上げ、荒げた声で怒鳴るとざわざわしていた場がしんと静まった。

「冷やすものを持って来い!」

呆然としていたジュズも真っ青な顔をしてしゃがんだ。

「急所は外れています、ただ打身が…」

よかった、とスズが鳴いた。

痛みに顔を上げることもできないスズが。

――あなたが無事でよかった。

そのまま意識を失った。

「スズ! スズ! この馬鹿ネコ…」

小さな体を支えている腕が震えた。

赤い衣に水滴が落ちてゆく。

わたしの涙だった。

 

説明
ティエンランシリーズ第六巻。
ジンの無責任王子ヤン・チャオと愛姫スズの物語。

「この馬鹿ネコ…」
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コメント
天ヶ森雀さまコメントありがとうございます。そりゃもう、御想像にお任せを(笑)。(まめご)
深読み中。ネコは本当にバカなんでしょう(苦笑)。(天ヶ森雀)
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ファンタジー オリジナル 恋愛 長編 ティエンランシリーズ 

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