真・恋姫†無双 ?白馬将軍 ?徳伝? 第1章 放浪の鷹 5話
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カァン! キィン! 

 

 

金属と金属がぶつかり合う甲高い音が、竹林に囲まれた学院庭に響き渡る。

 

両手に2本の剣を持った徐庶こと香里が、長身でありながら全身を稼働させた体裁きと踏み込みから、雌雄一対の剣を様々な角度から打ち込み続ける。

 

山賊達との戦いでは、後ろに護るべき存在が居たために、足を止めて戦わなければならなかったが、今は純粋に1対1の戦い。軽快なフットワークを生かしたその戦いぶりは、まるで剣舞の様であるが、放たれる剣閃は素早く鋭い斬撃の嵐である。しかし・・・

 

 

「(駄目か・・・これだけ目線を動かし続ける攻撃を繰り返しても、鷹殿は一歩も動いていない。いや、動く必要が無いのか。)」

 

 

そう、相対しているのは鷹。宝刀で香里から放たれる斬撃の数々を、一歩も動かずに全て受け止めているのだ。

 

既に何回鷹に打ち込んだのか、最早覚えていない程香里自身の武を尽くした斬撃を放ったために彼女の息は上がっており、口と鼻で深呼吸しなければ呼吸が整わない程だったのである。

 

そのため、心身にほんの僅か、ほんの僅かではあるが集中力が切れてしまう瞬間が発生した。

 

 

「・・・え?」

 

 

その瞬間を、鷹が見逃すはずが無い。

 

香里が思わずつぶやいたその時には、既に顔の左側の空間に、鷹の宝刀が存在していたのである。つまり香里が知覚出来ない程の速度の突きが、香里の直ぐ隣に放たれたのである。勝敗は明らかであった。

 

 

「隙あり・・・呼吸を整えるのであれば、もっと距離を取るべきだな。」

 

「ま、参った・・・。」

 

 

鷹は直ぐに宝刀を引いて肩に担ぐ。香里は双剣を鞘に納めて一礼する。

 

 

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鷹が水鏡学院で勉強を始めてから、七と所縁と香里に練武の相手をする様依頼され、鷹はそれに応じた。鷹の兵法や政治学の勉強は朝から最も気温が高くなるまで。その講義を受け終わったらこうして3人の練武の相手を務めている。

 

七達はこれまで3人で練武して来ただけに、自分よりも強い存在を相手との練武経験が無い。だが鷹は自分達よりも遥か上を行く武人である。

 

これまで七達が培って来た武の結晶は、鷹には全く通じなかった。その実力差が解らない程に強い鷹の存在は、練武の相手としては最高であった。

 

一方の鷹からすれば、勉強の師であり、武の弟子と言う少々変わった関係ではあるが、鷹自身も一人で宝刀を素振りするよりは、練武の相手をした方が武の勘が鈍らないので、これはこれで悪い事では無い。

 

 

「はい鷹さん! 次は私なの!」

 

「所縁か、七はその次だな。」

 

 

香里との練武が終わるや、次は所縁との練武である。双剣使いと言う意味では似ている香里と所縁であるが、速さの香里と力の所縁と言う違いがある。

 

フットワークを駆使してスピードで翻弄する戦い方の香里に対し、双剣ならではの手数の多さに、下半身から上半身へしっかり力を伝えた一撃一撃は非常に重く、強烈な攻撃を連発して相手の防御を抉じ開けるのが所縁の戦い方なのである。

 

 

「では試合開始の合図は私が取らせてもらおう・・・構えて、初め!」

 

 

香里の合図と共に、真っ正面から踏み込んで右手に握られた剣が振り上げられ、振り下ろされる。全身をしっかり稼働させた一撃は、それも鷹の宝刀に遮られるが、その体勢のまま左手の剣で鷹の胴を薙ぎ払う一撃を繰り出

 

 

「え?」

 

 

せなかった。既に所縁の左肩に鷹の宝刀の石突き(ただし分銅に換えている)が打ち込まれており、一撃を出す前に動きを止められてしまったのだ。しかも左肩を抑えられたその一撃は、同時に所縁の全身の動きも一瞬だけ止めた。

 

だが、鷹を相手にその一瞬は致命的な隙となる。

 

そのまま鷹が体を僅かに前に動かし、宝刀の刃を所縁の喉元に突きつけて、勝負あり。

 

 

「良い踏み込みと、良い一撃だった。ただ、一の太刀の後、二の太刀がバレバレだ。それじゃ格上には通じないし、同等の力量を持った相手には、駆け引きで不覚を取る可能性が高いな。」

 

「あうう〜、相手が鷹さんだったから先手必勝しか無いって思ったの・・・」

 

「格上に先手必勝と言う発想はいいが、それに奇襲を付け加えておかないとな。正面からだと寧ろ反撃を喰らってあっさり終わりだ。いや、同格でも同じ結果になるだろう。

攻めなければ勝てないが、受けも意識して置かないと敵の反撃に対応出来ん。今後は攻めに特化しない様、守りとの組み合わせを意識した方が良い。」

 

「はい!」

 

「香里と守りの練習をすると良い。香里は攻撃が軽い代わりに速さがある。そして守りの技術はしっかりしているから、守りを意識して練武してみると良いぞ。」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 

香里と同様、所縁も一旦双剣を納め、一礼した。

 

 

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「では、鷹さん。次は私がお相手させていただきます。」

 

「それはいいが、七。」

 

「? はい、なんですか?」

 

「折角だから馬上戦をやろう。」

 

「ええ!?」

 

 

七にだけ、馬上戦を提案したのには訳がある。所縁と香里は武器が双剣なのに対し、七は斧槍(所謂ハルバード)。つまり鷹の宝刀と同様、長柄武器なのである。

 

長柄武器は騎兵のメインウェポンとなる事が多い。と言うより馬上にあると、剣では間合いが狭くて戦いにくいのだ。無論、そのハンデをものともしない戦い方が出来れば話は別なのだが、それが出来るのは極僅かである(所縁と香里はその極僅かに入る)。

 

そしてもう一つ、鷹が七に馬上戦をする様提案したのは、少し前の出来事に遡る。

 

 

 

 

鷹の勉強の講師は、優里、香里、朱里、雛里、七、所縁の6人が代わる代わる交代で務めている。そして様々な兵法書や政治書の文章理解や解釈等、書籍から学ぶ事以外に、戦場の俯瞰図と駒を用意して盤上で模擬戦をする事もある。

 

こうした盤上での模擬戦に置いては、特に鷹の経験と発想に驚かされたのが、茴香を含めた講師7人であった。

 

何しろ将軍として軍を率いる、と言う意味で実戦経験があるのは鷹一人なのである。現場経験に裏打ちされた鷹の戦術は、女性陣にとって予想外の貴重な知識なのである。

 

 

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特に鷹の発想で驚くのが、騎兵運用であった。そもそも、鷹が率いて来た涼州騎馬軍の精鋭部隊は、中央や南方の騎馬軍とは根本的に練度や能力が大きく異なるのである。具体的に言うと行軍能力が段違いなのだ。何しろ多少の山岳地帯ならおかまい無しに真っ直ぐ行軍が出来てしまう、凄まじい踏破能力を持った騎兵達である。平地での進軍速度となれば推して知るべし、と言った所だ。しかもそんな化け物騎兵が15万も居ると聞いたら

 

 

「それなんて匈奴軍?」

 

 

とつぶやいた七の言葉は、皆の心境を表した一言であった。

 

また「本当にそんな事出来るんですか?」と言う趣旨の疑問を呈した朱里と雛里に対し、鷹with白影と共に皆で付近の山野を駆け巡り、その最高峰の馬術を見せつけたのである。

 

そしてその姿を見た所縁から、鷹の前に座ってその光景を見たいと言う希望が出されたのである。鷹はこれに承諾し、7人全員が鷹の馬術を実際に体験したのである。

 

鷹と白影の組み合わせの馬術は、彼女達に取ってまさに未知のエリアであった。なにしろ、多少の断崖をものともせずに駆け上がっては駆け下りるわ、岩によって真っ直ぐ進めない荒れ地を、岩と岩を飛び跳ねながら目的地に一直線に駆け抜けるわ、彼女達が全く経験した事ない速度で街道を駆け抜けるわ、とにかくとんでもない一時であった。

 

ちなみに、鷹と白影が見せた馬術と馬上からでも対象を狙い討つ事が出来るレベルの騎射能力を備えた騎兵が、涼州では平均水準である。

 

 

 

しかし、この鷹と白影の馬術に辛うじて着いて来れたのが、七とその愛馬録嗚未の組み合わせであった。元々駿馬と呼ぶに相応しい録嗚未と、鷹の馬術を体験した七が、馬術の更なる錬磨のために、此処数日は講師をせずに山野を駆け巡っていた。

 

そして、鷹がその習熟ぶりをテストしてみたのである。内容は、鷹と白影について行く事(ただし、武器も所持して)であった。このテストに、辛うじて合格したのである。

 

 

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だから、鷹は七との練武は馬上戦にして、今後もしかしたらあり得るかもしれない、実力者との一騎打ちに備えて、馬上での戦い方を教えようと考えたのである。

 

そしてそれは七にとっても望んでいた事である。遠駆けについて行けたのであれば、次は馬上での戦闘法の習熟が課題だと思っていたからだ。

 

だが、馬上での戦闘は地上の戦闘と違い、直接地面に足が接地しないため非常に戦いにくい。その中で安定感を作り出すには、両足でしっかりと馬体を締め付けて体を安定させなくてはならない。そして、乗っている馬との信頼関係も、白刃と矢が降り注ぐ戦場に置いて、生死を分ける重要な要素である。

 

 

 

「(・・・凄い圧力・・・)」

 

 

愛馬白影に騎乗し、宝刀を右手に佇むその姿は、七に途轍も無いプレッシャーを浴びせていた。

 

香里と所縁が歯が立たぬ程、鷹と二人の実力差がある。自分も殆ど変わらないだろう。しかも地上戦ではなく、馬上戦ともなれば力量の差は、その差が解らない程に開いているだろう。

 

だが萎縮していては意味がない。大きく息を吸い込み

 

 

「覇ッ!」

 

 

自信が感じていた重圧を振り払うべく一喝。

 

 

「行きます!」

 

 

斧槍を振り上げ吶喊して来る七に対し、鷹も前に出る。

 

 

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「りああああああ!」

 

「はああああああ!」

 

 

鷹も七も、選んだ技は薙ぎ払いであった。

 

鷹の宝刀と、七の斧槍が凄まじい速度で激突する!

 

その軍配は鷹に上がった。七の斧槍をものともせず振り抜かれた鷹の宝刀。その一撃は七を録嗚未ごと後退させた。

 

 

「う・・・く・・・」

 

 

辛うじて斧槍を手放す事は無かったが、その代償に両腕が痺れ、その痺れが全身に伝播する。録嗚未が打ち負けた後、上手くタイミングを合わせて後退していなかったら、鷹の返しの一撃を突きつけられて、試合はそのまま終わっていただろう。

 

だが幸い、距離が空いたので立て直しの暇ができた。最も、これは戦場での戦いではなく、練武であるので鷹はあえて追撃はしなかったから、のが理由である。実際、思いっきり吹き飛ばされた後に体勢を立て直せたとしても、次の鷹の一撃に七は絶対に堪えられなかったので(ちなみに七を吹き飛ばした初撃ですら、全力ではない)、これが実際の戦場であったなら既に七は斬られていたか、生け捕りにされていた。

 

今度は鷹は迎撃せずに受け止める。其処から、七は斧槍を振り回しつつも間合いを詰められぬ様注意しつつ、必死に攻める。

 

突きを中心に、なるべく隙が生じない様に、基礎基本の技だけで激しく攻めかかる七の一撃一撃は、しかし鷹には届かない。突きが来ればその軌道を逸らし、薙ぎ払いが来れば宝刀の柄で受ける。

 

そして時に、攻撃前の動作が大きくなり過ぎた場合は、鷹がそれを指摘するかの様に鋭く、されど辛うじて対応出来る程度の攻撃を繰り返したため、徐々に七の攻撃は無駄が省かれ、最小限の切っ先で相手を討ち取る、極めて合理的な攻撃へと錬磨されて行く。

 

徐々に七の攻撃が激しさを増し、それで居て隙が非常に小さいので鷹も受け重視の状態から適度に反撃を繰り出す様になった。そのためか、七の練武であったものが二人の練武へと変貌して行く。

 

最も、一見そう見えるだけで実際には七の練武でしかないのだが。

 

 

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「(七と言い所縁と言い、この武才は流石としか言いようが無い。香里は少々劣るが練度に置いては二人を上回るか。

だが俺や林檎様、翠様と比べると七と所縁はまだ熟練度に劣るし、香里は俺達に勝てる力量までは伸びないだろう。負けない戦い方は出来るだろうがな。

七と所縁の課題は、基礎基本の熟練度の低さ。今後は一から全てを鍛え直す事だな。香里は課題と言うより相手の力量を見極めて、適切な戦い方が出来るかどうかの目利きこそが重要だな。)」

 

 

七の攻撃を受けながら、鷹が内心考え込んでいると、七の攻撃に少し力が無くなって来たのを察する。どうやらスタミナが持たなくなって来たらしい。全力で攻撃しているとは言え、鷹からしたら持久力が乏しいと見えたのだ。

 

 

「(熟練度を向上させると共に、長時間の戦闘にも堪えられる様、基礎基本の繰り返しだな。才能あるが故に基礎基本が疎かになってしまったな。)」

 

 

鷹の頭の中で、七と所縁の今後に置いて指摘すべき点がまとまり、疲労が見えて来た七との練武を打ち切るべく、鷹が動いた。

 

七が放って来た突きを薙ぎ払って防ぎ、その一撃の重さと疲労が見えていた状態であったため、七の体勢が僅かに崩れた。その隙に返しの宝刀が七の首筋に当てられて、決着となった。

 

勝負あり! と言う香里の声で鷹も七も武器を引き、一礼する。

 

 

「お疲れ様、馬との連携も馬上での戦闘技術もまずまず良かった。」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「ただし、ばてるのが少し速過ぎたな。今後は基礎基本を徹底的に磨き直す事にしよう。所縁、君もだ。所縁との練武は短かったが、それでも一つ一つの熟練度はまだ低めだ。毎日の素振りを怠らない様に。」

 

「「は、はい!」」

 

「香里は一つ一つの体裁きや武技は実に鍛え込まれてあって、長時間の戦いにも良く堪えたと思う。だが防御の技術をもっと鍛えた方が良い。攻めに特化し過ぎると受けの意識が弱まって、小さな反撃を受けただけで大打撃に繋がる事もある。防御の技術を鍛えて、受けの意識を強化すれば格上相手でもかなり粘り強い戦いが出来るはずだ。」

 

「は、ご指導ありがとうございます。」

 

「お疲れ様。今日は此処までにしよう・・・? 七、どうした?」

 

「た、立てない・・・うう〜〜〜」

 

 

七が録嗚未から降りると、膝が笑っていて足腰が立たない状態になってしまったため、地面に座り込んでしまったのである。

 

香里や所縁が肩を貸そうとするが、どうも足腰だけではなく両腕も力が入らない状態らしい。

 

それを見かねた鷹が

 

 

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「え!?」

 

「にゃ!?」

 

「なんと・・・」

 

 

七の膝裏に左腕を回し、背中に右腕を回して持ち上げた。言うまでもないがお姫様抱っこである。

 

そのままさっさと学院内部に消えて行ったのを、所縁と香里は呆然と眺めていたのであった。

 

ちなみに、学院の建物からその光景を眺めていた朱里、雛里は真っ赤になってしばらくの間機能停止状態になっていた。

 

 

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もう何と言うか、本当に遅くなり過ぎまして申し訳ありません。

 

GW中にもう一本、とか言っていた一月程前の自分に鷹の薙ぎ払いが襲いかかってきそうで怖いです・・・。

 

此処の所パソコンがインターネットに繋がらないわ、書き溜めていた文章が何故か吹っ飛んでいたとか、仕事で失敗が続いていたたまれない思いをするとか、5月は色々大変でした・・・。

 

今後も執筆は続けて行きますが、更新が遅いのはご寛恕賜りたく思います。

 

 

 

次回とその次から、また旅を再開させようと思いますが現在考えているのが、

 

 

長江を下って楊州方面に行き、其処から北上して中原に向かう√

 

長江を上り、益州から漢中を通り、長安と洛陽を経由して中原に向かう√

 

 

の二つです。

 

もしご希望の√があればそれも新規に追加して検討しますので、どしどしご意見をお寄せください。

 

 

 

それではまた次回でお会いしましょう。

 

 

 

説明
白馬将軍?徳伝の一章5話目です。
何と言うか、本当に申し訳ありません。パソコンが滅茶苦茶な状態で執筆意欲も萎えてしまったので時間がかかり過ぎてしまいました。
仕事も忙しいので今後も更新は亀の歩になってしまいそうです。
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コメント
録嗚未wwwまたキンダムネタかよwww今の時代に蜀を回ってもあまり得るものはない、と思います。張仁ぐらいか?それよりは楊州とかを回った方が会える人材の質は大きいと思います。(PON)
BookWarmさん 毎回コメントありがとうございます。七と香里と所縁はいずれ何らかの形で戦場に出る事は間違いないですからね。今後は周囲の環境も含め、穏やかに行くと良いのですが・・・。(フィオロ)
宗茂さん コメントありがとうございます。戦場で武を振るい続けて来た武人はやはり強いです。(フィオロ)
さすがに実戦経験豊富な鷹は三人とは格が違うといったところですね(宗茂)
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