真・恋姫無双 EP.21 二人編 |
華琳は有能な人材を、その身分に関わらず登用する。ふらりと街を訪れた桂花は、すぐに城に向かった。簡単な面接の後、文官として採用され、すぐに頭角を現し華琳の目に止まったのである。
現在は真名も許され、軍師として腕を振るっていた。
「これは……間違いなさそうね」
集められた情報を元に、それらを分析して華琳に報告する。今もっとも重要視されているものは、黄色い布を巻いた一団についてだった。
出所は不明だったが、どうやら彼らは自分たちを『黄巾党』と名告っているらしい。そしてその呼び名が、民に広く浸透しつつある。
「西の森には、確か打ち捨てられた砦があったはずね」
棚から地図を取り出して、机に広げる。西の森の周辺は、あまり細かく調べていないため、正確な状況はわからない。だがそこで、黄巾党と思わしき一団が何やら行動しているらしいのだ。
「これは、華琳様にご報告しないと……」
そう呟いて、ふと、先日のことを思い出した。偶然、華琳が秋蘭に話しているのを聞いてしまったのだ。
(華琳様は、北郷の行方を密かに捜している……)
それは少なからず、桂花に驚きを与えた。華琳の性格からして、天の御遣いというものに興味は持ったとしても、自ら捜すような真似はしない気がしたのだ。意外であり、軽い嫉妬を憶えた。
桂花は、軍師に登用されるにあたって、北郷一刀のことは一切話していない。自分の利用価値を、そこに求められるのは嫌だったからだ。
(直接聞かれたなら、正直に答えよう。それまでは――)
いずれにせよ、一刀がいつまでもあの村に留まっているとは思えない。話す頃には、また違う状況になっている可能性が高かった。
ともあれ、桂花は報告書をまとめて会議室に向かった。これから、報告会があるのだ。
「みんな、集まったわね」
桂花が部屋に着いてしばらく待つと、華琳が春蘭と秋蘭を伴って現れた。文官と武官に幹部が十名ほど、桂花と同じように席について待っていた。
定例の報告が始まり、最後に桂花の番が来る。
「さて、桂花。何か新しい情報はあったかしら?」
「はい、華琳様」
桂花は彼らが『黄巾党』と名告っている事、西の森で怪しい動きがあるということを告げた。
「なるほど、黄巾党ね」
「はい。これは彼らが一つの組織として、機能し始めた証拠だと思います。これまではどこか、ちぐはぐな面がありましたが、最近は部隊としての統率、意志の統一が図られているように思われます」
華琳は、桂花が持ってきた地図を睨む。
「この辺りには、砦があるくらいか……」
「そこを拠点とするつもりなのでしょうか?」
秋蘭が言うと、華琳は首を振った。
「それにしては、報告にある人数が少なすぎるし、ここを足掛かりにする目的がわからないわ」
「確かにここでは、本体と分断される恐れがあります。袁術に対抗するには、あまりに貧弱です」
「それでもここを選んだ理由……」
近くに大きな街はなく、昔からの深い森が広がるだけだ。
「百名ほどの人数で何をする……?」
目を閉じて、華琳が考える。その間、誰も口を開かない。やがて、何かを決意するように目を開く。
「考えてもわからないなら、自らの目で見るしかないわね。春蘭!」
「はい、華琳様!」
「親衛隊を率いて、私と来なさい」
「華琳様――」
秋蘭が何か言いかけるが、それを華琳は手で制する。
「危険なのは、朝廷に反旗を翻してから覚悟済みのはずよ。大丈夫、そのために春蘭を連れて行くのだから。ねえ、春蘭?」
「もちろんです! この私が、命に代えても華琳様をお守り致します!」
「秋蘭と桂花は、袁紹、袁術を警戒してちょうだい。いいわね?」
仕方なく、二人は頷いた。
桂花は席に座り、話を聞きながら考える。
(北郷のいる村も、あそこから近いわね……)
その事実を華琳が知るはずはない。だが、運命が二人を近付けようとしている気がしてならなかった。
桂花は、言葉に出来ぬ不安を感じながら、その日の会議を終えた。
イライラを募らせた雪蓮は、台所からくすねてきたお酒を飲んでいた。しかしいくら飲んでも、心に溜まったものを洗い流すことは出来ない。
ここ数日というもの、袁術に雑用を押しつけられて出かけることが多かった。
(いっそのこと、袁術を斬って逃げようかしら)
本気でそう思う時もある。袁術を斬るのは、おそらく容易いだろう。そばに控える張勲の剣を奪えば、あっという間の出来事である。
(ま、無理なんだけどね)
自分の立場はわかっている。客将などと呼ばれているが、便利に使える道具に過ぎない。何か反抗する素振りを見せれば、妹たちの身に刺客が放たれるだろう。そして妹たちが不用意に動けば、雪蓮の首が飛ぶ。
お互いの存在を大切と思うからこそ、足枷にもなるのだ。
(母様……)
この先、あとどれくらい堪えればいいのか。どれくらい、あの我が儘な娘に頭を下げなければならないのか。そんなことを考えると、気が滅入った。
「雪蓮……」
自分を呼ぶ声に気付き、下を見る。雪蓮は木の上で休んでいたのだ。
「ここよ、冥琳」
酒瓶を持って飛び降りると、呆れるように冥琳は肩をすくめた。
「まったく、昼間から飲んでいるの?」
「別にいいじゃない。これくらい、バチは当たらないでしょ?」
「……溜まっているみたいね」
苦笑いを浮かべて歩き出す冥琳を、雪蓮を追い掛けた。
「何かあったの?」
「そうね。少しは雪蓮の気が晴れるかも知れないわ」
「えっ? なになに?」
「袁術には知られたくないの。こっちよ」
冥琳に案内されて付いていった先は、街はずれにある小さな酒屋だった。
「……」
「……」
店の主人と冥琳は無言で頷きあい、二階へと登る。
「ここはね、蓮華様たちとの連絡に使っている場所なのよ。主人は孫堅様に恩があるらしく、こうして場所を提供してくれているの」
「そう……」
雪蓮は、母の名が今も生きていることを感じ、何だか嬉しかった。
二人は二階に上がると、突き当たりの部屋のドアを開けた。そこで待っていた人物に、雪蓮の顔が笑顔になった。
「明命! 戻って来たのね」
「ご無沙汰しています、雪蓮様!」
椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる明命を雪蓮はしっかりと抱きしめる。
「あ、あの雪蓮様……」
「無事に戻って来てくれてよかった……」
隠密として動いていた明命の存在は、袁術たちに知られていない。そのため、見聞を広めるという目的もあったが、袁術たちの目から遠ざけるためにもあえて旅に出したのだ。しかしその間、雪蓮はいつも明命の安否を気に掛けていたのである。
「冥琳の言う通り、少し気が晴れたわ」
「ふふふ、それだけじゃないのよ。明命、あの話をしてあげて」
「はい」
元気に頷いた明命は、旅の間に起きた出来事を話して聞かせた。その一番の話題は、噂の天の御遣いの話である。
「えーっ! 洛陽の時も一緒だったの? いいなー!」
まるで子供のように、雪蓮は喜んで次々に明命に質問をする。
「北郷って、どんな人なの?」
「はい。一言でいえば、雪蓮様に似ています」
「それは、手が掛かりそうだな」
「ちょっと冥琳ってば!」
口を尖らせながらも、顔は笑ったままの雪蓮は目を輝かせた。
(会いたいなあ。北郷一刀か……)
彼のことを考えると、今までの鬱憤が嘘のように晴れてしまった。本当に天の御遣いなのかどうかは、正直、興味はない。ただ、雪蓮の勘が告げるのだ。
「北郷一刀、絶対におもしろい奴ね!」
それは、確信だった。
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恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 旅立った二人のその後とか。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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