the stories of tea 〜ラプサンスーチョンにからまれて〜
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ラプサンスーチョンにからまれて

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 その女の噂は学校でも大層有名だったが、俺個人としてはあまり気にしていなかった。生まれてからこの方女との縁があった試しもないし、これからもそんな生き方だけはごめんだと思っていたからだ。別に女が嫌いなわけじゃない。それだけは勘違いして欲しくない。人間と付き合っていくのが面倒なのだ。いちいち相手と自分との関係を気にしながら生きるというのが厄介。それだけのこと。ああっと神様なら相手をしてやっても良い。なぁ、神。何で俺の隣にその女がいるんだ?

「おっはよー、今日も元気かね?」

 新学期が始まってから随分たつが、何故か俺の隣にはいつもこいつがいた。理由は、知らん。登校中待っていたかのように校門に現れては校舎まで一緒についてくる。

 いつも屈託ない顔で笑う。俺の隣にいて何が面白いのか、まるで理解できない。ともかく関わるのは面倒なので俺はだんまりを決め込んでいたのだが、それをいいことに相手はしゃべることを辞めようとすらしない。

「でねぇ、昨日行ったお店がすっごくおいしくて、今日も食べに行こうと思ってるんだ。特にフルーツタルトが絶品で――」

本当によくしゃべる。昨日行ったばかりの店で一体幾つのデザートを食べたんだ。さっきから日本語ではないカタカナ語が幾つも並んでいる。洋菓子どころか和菓子にも興味のない俺にはさっぱりだが。

「だからさ、今日行こうよ!」

なにがだからなのか分からず、俺は黙って歩を進めた。何事にも関わらない。それが生きていくうえでの一番高等なテクニック。

「沈黙は肯定なり。昔の人は良いことを言った。それじゃ、帰りにさっき言ったところで待ってるよ!」

まぁ、そのなんだ。相手が勝手にした早とちり。俺は関係ない。だから、今日もいつも通り、だ。後ろめたく思う必要なんてない。さぁさ、学校だ今日もいつもと変わらない一日なんだ。

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……そのはずなのに何故、俺の脚は目的地に向かっている? 授業も終わり、放課後もとうに過ぎた。それなのにどうして、わざわざあいつに会いに行かなきゃいけない? 約束の時間だって、特に指定されたわけでもないが、店自体もう閉まっている時間だ。それを今更待ち合わせに行ってどうする? 後ろめたさからだろうか? でも他人からどう思われていようと俺は一人でいきたいと思っている。それは変わらないはずなのに。

 あいつはいた。

こっちを向いた。

「いつまで待たせるの?」

流石に怒っていたらしい。それもそうか、まだ春先とはいえ日が暮れてしまえば寒いのも事実。だが謝罪する理由はこっちにはない。そういおうとしたら先に、

「この馬鹿!」

と言われてなんだか冷たい液体を引っ掛けられた。相手の手には水筒があった。どうやらはなから俺が喫茶店に付き合うことは期待していなかったらしい。それにしても馬鹿とはひどい言い草だ。そのうえ、何だこの液体。なんかタバコ臭い。

「なんだこれ」

「それ、ラプサンスーチョンっていう紅茶。最初は温かかったんだけど、今はもうその通り。責任とってよ」

「それはこちらのセリフだ。これ染みにならないんだろうな。まったくお茶を引っ掛けるなんて非常識にも程がある」

こんなに癖のある匂い初めてだ。本当にこれ紅茶か? うわ、何だかうすら寒くなってきた。

 俺は身体をこすって体温を上げようとした。

「だけど、それくらいの時間待っても良いって思うくらい好きなんだ」

急に身体を近づけ抱きしめてきた。

「お、おい」

「ねぇ、付き合ってよ。絶対夢中にさせてみせるから」

ストレートな告白。あまりの唐突さにびっくりして声が出ない。

「沈黙は……」

「ごめん、な」

あまりにも風変わり。だけどその中に繊細さがあって主張はしっかりしている。俺は彼女の身体を剥がすと、そのまま彼女に背を向けた。逃げ出したのか? よくわからない。でも彼女はクセが強すぎる。あまりにも。俺には向いていない気がした。

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 家に帰ってネットでラプサンスーチョンという項目を調べる。なんでもスモーキーフレーバーのある好き嫌いが分かれる紅茶らしい。そのとき唐突にあいつの顔が浮かんだ。

 なるほど。あいつ自体がラプサンスーチョンってことか。

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翌朝、またいつも通り彼女はいた。そしていつも通り付いてくる。だが今日は何もしゃべらなかった。まるで幽霊のように静かでかえって不気味だった。だがいつも通り隣にいるのだ。あまりの気味悪さに声を掛ける。だが一向に返事がない。それが連日続いた。

 正門から登校口まで、静かな、でも何か歯車がかみ合わない数日。

 しかしある日、彼女が正門に立っていなかった。それ以外はいつもと変わらない一日だった。

翌日もそれが続く。なんとなく気になって彼女のクラスに行くとここ連日休んでいるらしい。

何も変わっていない。全てが元に戻っただけ。なのに、彼女がいないというこの事実が俺の頭をだんだんと支配していった。

意味もなく授業中に彼女は今日学校にいるのかと考える。

家に帰ると彼女は今頃なにをしているのかと考える。

登校中、彼女の声が後ろからかかるのを期待している。

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ああ。

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「『絶対に夢中にさせてみせるから』、か」

俺は苦笑し無理やり登録されていた彼女のメアドをケータイから引き出す。

人によって好き嫌いが激しいと良く言われる彼女。それは彼女の絡み癖のせいだ。全く、どうやら俺はまんまとしてやられたらしい。やみつきになりそうだ。

 

説明
茶シリーズ第三弾
今回はちょっとらラノベっぽいかも
とにかく実験、実験ですよ
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