真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第三・一話〜 |
桃香は自分の部屋で、布団に包まったまま、自己嫌悪していた。
昼間、愛紗に対し、つい、口を付いて出てしまった一言。
その時の愛紗の表情が、頭から離れないでいた。
彼女らと義兄妹になろうと言い出したのは、ほかならぬ自分だ。
なのに、その関係を壊しかねないような事を、口走ってしまった。
それは、今日の昼間、邑の中を巡回中のこと――――――。
「劉備ちゃん、おはよーさん」
「おはよう、おじさん」
「劉備ちゃん、今日はいい野菜が入ってるよ!どうだい?」
「わ!おいしそ〜!うん、後で買いに来るね!」
声をかけてくる人々に、笑顔で答える桃香。
「今日もいい天気〜。お散歩・・・じゃない、巡回日和だね〜」
ぽかぽかとした春の陽気の中、のほほんと歩く桃香。
「・・・ちょっとのどが渇いちゃったな。あ、あそこでお茶しよ」
そういって、近くにある飯店に入る。
「おや、劉備ちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは。えっと、冷たいお茶と、お団子、ください」
「はいはい」
奥へと引っ込む女将。
しばらくして、お茶と団子が運ばれてくる。団子をほおばり、茶をのどに通す。
「はふ〜。・・・やっぱりここのお団子はおいしいな〜。・・・って、あれ?」
その視界の中に、ふと飛び込んでくる、見知った顔が二人。
「愛紗ちゃ〜ん!鈴々ちゃ〜ん!」
ぶんぶんと、手を振って二人を呼ぶ。
「あ、桃香おねえちゃんなのだ!」
「桃香さま?」
「二人とも、今日は非番だよね?お散歩中?」
そばに来た二人に問いかける桃香。
「あ、はい。この邑のことをよく知っておこうと思いまして」
「お姉ちゃんは何してるのだ?」
「おさん・・巡回中だよ。で、ちょっと休憩中」
あわてて言い直す桃香。
「なるほど。・・・さぼられている訳ではないと」
「や、やだな〜、愛紗ちゃんてば。そんなことないってば〜」
「愛紗、鈴々も団子が食べたいのだ」
「ま、いいでしょう。女将、団子と茶を二つくれ」
「いい天気だね〜」
「そうですな・・・」
「ZZZ・・・」
「鈴々ちゃん、寝ちゃってる」
「まったく。こんなところで寝たら風邪を引くぞ、鈴々」
寝息を立てる鈴々を、やさしく起こそうとする愛紗。
「ふふ」
「な、何でしょうか」
「ううん、仲がいいんだな〜って」
「物心ついてから、共に居りますから。・・・あの、桃香さま、ぶしつけながら、お聞きしたいことが」
「なに?」
愛紗がまじめな、そして少し照れた表情で、桃香にあることを聞く。
そして、それを聞いたとたん、桃香がその表情を一変させる。
「ですので、その、義兄上が喜ばれそうなものをお教えいただけたら、と」
「・・・や・・・よ」
「え?」
すっく、と。突然立ち上がる桃香。その肩が、小刻みに震えている。
「いやって言ったの!!」
「と、桃香さ、ま?」
きっ!と、愛紗を睨む桃香。
「・・・私だって、わ、たし、だっ、て・・・!!」
桃香の目に、涙が浮かび始める。そして、
だっ!!と、走り出す。
「桃香さま!?」
思わず立ち上がる愛紗。
「・・・どうしたのだ〜?」
目を覚ました鈴々には何も答えず、走り去った桃香の後姿を見つめる愛紗。
「わたしって、馬鹿だ・・・」
布団を頭から被ったまま、一人ごつ、桃香。
昼間、愛紗から聞かされたその一言、
「・・・私は、義兄上を、お慕いしております」
ズキン!!と。胸に痛みが走った。
自分が、絶対に口にできないその言葉を、他の人から始めて聞かされた。
私塾時代、兄と仲のよかった、白蓮、麗羽、華琳、蓮華からも、聞くことのなかった言葉。
それを聞いたとき、桃香の頭の中は真っ白になった。
気がついたら、とんでもない事を口走り、逃げ去っていた。
知られてしまった。
自分が兄に抱く、禁忌の感情を。
それも、義姉妹の契りを交わした義妹に。
「はあ〜〜〜〜〜〜〜」
これで何度目のため息だろうか。
「・・・お風呂でも入って、あたま冷やそ」
寝台を出て、着替えを持ち、部屋を出る。
楼桑村が豊かな理由の一つに、豊富な湯量の温泉がある。
なので、邑ではこの時代には珍しく、各家に持ち風呂が備わっている。
とぼとぼと廊下を歩き、風呂場に着く。扉を開け、中に入り、服を脱ぐ。
ふと、姿見の中の自分と目が合う。
その前に立ち、自身の体を上から下まで見やる。
子供のころから瓜二つだった、自分と兄。
その違いが現れたのは、女としての特徴だけ。桃香は自身のふくよかな胸に触れる。
「・・・こんなものあったって、何の役にも立たないのに」
愛しい人に対して使うべき女の武器。けれど、自分はこれを使えない。
なぜなら、愛しい相手は、実の兄だから。
「はあ。何してんだろ、私」
脱衣所を出て、湯につかる。
そこへ。
ガラガラガラ、と。扉の開く音。
入ってきたのは、
「愛紗・・・ちゃん?」
「桃香・・・さま?」
しーーーーーーん。
と、空気が固まる。
長い沈黙の後、
「くしゅっ!!」
愛紗がくしゃみをした。
「・・・風邪引くよ、入ったら?」
「あ、は、はい・・・」
湯につかる愛紗。
再びおとずれる沈黙。
「「・・・・・・・・」」
そして、ほぼ同時に、
「「あの!!」」
声を出し、見詰め合う二人。
「・・・何?愛紗ちゃん」
「・・・その、桃香さま、は、もしや、義兄上を・・・」
「・・・笑ってくれていいよ?ううん、軽蔑してくれていい。実の兄が想い人だなんて、変だよね?」
「・・・そうですね。変です。おかしいです。狂ってます。どうかしてます」
愛紗のその返答に、カチンときた桃香。
「・・・ちょっと、言い過ぎじゃない?」
「事実を答えただけです。」
「愛紗ちゃんに何がわかるの!?どんなにどんなに思ったところで、絶対に叶わない気持ちの何が!!」
ザバッ、と、立ち上がって叫ぶ桃香。
「私も同類ですから」
「え?」
愛紗の言葉に、きょとんとする桃香。
「・・・とはいえ、私の大切な人は、もう居りませんが」
「愛紗・・・ちゃん?」
「私の兄は、幼いときに、賊に殺されました。私のすぐそばで。私が自分の想いに気づいたのはその時です。・・・すでに手遅れでしたが」
「そんな・・・」
愛紗は桃香を見つめる。
「桃香さま、確かに実の兄を愛してしまうのは、禁忌です。ですが、人の想いは理屈でないのも、また事実です」
「愛紗ちゃん・・・」
「・・・だからと言って、私も譲る気はありませんが」
「む。・・・いいよ。なら、私も正々堂々と受けて立ってあげる」
「はい。・・・ふふ」
「あはは」
「「あははははははは」」
翌日から、桃香は今まで以上に一刀に甘えるようになった。
嫉妬を抑えることも、少しだけ、緩めた。
一刀が誰か別の女性と話しているのを見ただけで、凄まじい嫉妬の炎を燃やしては、
靖王伝家を振り回し、一刀を追いかける。
時にはそこに、愛紗も加わって。
一刀と自分は決して結ばれない。
それは判りきっている。
だから、兄が誰かふさわしい伴侶を見つけるまで、自分は徹底的に甘え続ける。
自分のことを、嫉妬の女帝と言うものが、増えつつあっても。
好きなものは好きなんだから。
だから、
(覚悟してよね、一刀。私の、愛する、お兄ちゃん)
あとがき
というわけで、拠点、桃香編です。
最初は愛紗も込みで書くつもりだったんですが、
ちょっと長くなりそうだったので、まずは桃香だけのお話にしました。
女心、しかも実の兄妹での恋の悩み。
・・・も〜、難産。頭が痛いです。
とりあえず、妄想純百パーセントです。
いろいろなご意見、ご感想、お待ちしております。
次回は愛紗編のつもりです。
また難産かな〜。
それでは、また。
再見〜。
説明 | ||
刀香譚の拠点でございます。 タイトル通り、三話の後のお話です。 内容については、ご一読のほどを。 では。 |
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コメント | ||
たしかこの時代は上の人間なら親近婚もあったはず…(へたれ雷電) こうなったら桃香よ、天下統一して、近親婚オーケーの帝国を築くのだ。(ナック) もち袁ショウでございます。(黄昏☆ハリマエ) リョウ流さま、かわゆいですね〜、嫉妬に燃える女の子って。(狭乃 狼) はりまえさま、KYって誰ですか?・・・すみません、わかりませんです。(狭乃 狼) このあとぞくぞくとライバル登場主に魏王とか呉王とかKY娘(わかります?)とか幸薄娘?とか期待します。(黄昏☆ハリマエ) パプア大佐、次は愛紗です!!乙女な愛紗が見れる!!・・・かも?(狭乃 狼) お疲れ様です〜。なんか個人的な願いありがとうございます!!桃香の恋は実ってほしいねぇ〜・・・。そして愛紗の・・・・・・・そしてハーレ(ry(パプア大佐) hokuhinさま、そうですよ。だから本編の展開的に次は・・・ゲフン!ゲフン!(狭乃 狼) 桃香が通っていた私塾がすごい。ほぼ後の太守じゃないかw(hokuhin) 砂のお城さま、落としどころがあるといいですが。応援してあげてください。(狭乃 狼) 紫電さま、実らせてあげたいですか?神様でもなければこればかりは、ね。(狭乃 狼) チェインさま、種馬にも越えれる壁とそうでないのがあるはず・・・。だと思うんだけど、一刀だしな〜ww(狭乃 狼) 切ない(つωT) 切ないですねぇ~~~・・・・・ 個人的に桃香は大好きなキャラなので恋が実ってほしいです!! 実の兄弟?(゜Д゜) そんなもの一刀の種馬スキルの前には障害にすらならないぜ!!(チェイン) |
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