恋姫異聞録68 番外編 −羅刹− |
「解った・・・その代わり必ず曹操様に、皆に手を出さないでくれ」
「昭ッ」
「クックックッ、そうか、賢明な判断だ。着いて来い」
彼の行動は当たり前のこと、そしてそれをさせてしまったことを酷く後悔した
秋蘭は彼を止めようとしたのだけれど、彼は柔らかく笑って頬をなでると敵の潜む森へ
歩を進めた。行ってしまう、そう思った時、秋蘭は動かない身体を這いずらせ追いかけていた
「・・・殺せ」
「なっ!」
昭が森に入る寸前で張牛角は兵に指示し、私達三人に狙い済まされた矢が放たれた
矢は咄嗟に私を庇った春蘭と秋蘭に突き刺さった。私も矢を三つほどこの身に受けて倒れたわ
春蘭と秋蘭も矢を受けたけれど、昭が投げた棍で数本が落とされ致命傷は避けることが出来た
「・・・・・・」
「ククッ、よくその棒っきれで落としたものだ。貴様の力については調べさせてもらっている、武の才が全くないらしいな」
そういうと張牛角は昭の背後に回り頸に腕を回し締め上げた。昭を調べ上げ、捕らえることだけで動きが封じられると
思っていたのよ
「ぐっ」
「貴様はここで大人しく見ていろ、曹操が陳留に戻れば面倒なだけだ。逃がすなどするわけないだろう」
そういって下卑た笑いを浮かべ、私達に向けて再度矢を放つように命令した
だけど
「ぎやアアアアアあああああああああああっ!!!!」
聞こえたのは張牛角の悲鳴、そして自分の目を押さえうずくまる姿、目の前に立つ昭の親指から滴る血液
矢が突き刺さった私達を見る昭の眼が怒りで濁り、ゆっくり振り返ると静かに張牛角を見下ろし握り締める拳は震えていた
「・・・」
背後から頸を絞められながら昭は親指を素早く張牛角の目に突き刺し、その呪縛から脱出していたのよ
「兵達よ鎧を脱ぎ、それを盾とし矢を防ぐのだ。鎧が役に立たねばその身をもって曹操様を守護せよ」
昭は低く響き渡る声で兵に指示し、自分は眼下でうずくまる張牛角の顎を蹴り上げ腰の剣を奪い去った
「がはっ・・・お、おのれっ、殺せっ!?固 、白繞 こいつらをころぎゅぁ・・・」
たたらを踏み後ずさる張牛角の喉に剣が突き刺さり崩れ落ちる。昭からはその瞬間、何時も感じられる
ものよりもずっと重くのしかかるような気迫が放たれたわ、私達味方にとっては優しく包み込むような壁
剣を抜き取ると共に、?固 、白繞と呼ばれた男二人が昭に襲い掛かった。一人は大斧、一人は剣を持ち
森から音もなく飛び出してきたけれど、昭は驚く事無く静かに敵を見据えていた
「兵よ、俺と共に生きるならば剣を。両翼は俺の左右に剣を投げよ、後曲は両翼に剣を渡せ、前曲は俺に向かって
剣を投げよ」
兵たちはその気迫に押されるように腰に携えた剣を次々に投げ込み、昭の周りに剣が突き刺さり始める
二人の男は降り注ぐ剣の雨に武器を振り、動きが止まった。昭にとってはその動きで有る程度は見切れる
自分にも降り注ぐ剣を腕や脚で弾き蹴り上げ宙に舞わせ、剣を持つ男に走り、それに反応した男が
剣で切りかかるのを更に踏み込んで肩で剣をその身で受けた
「なっ」
剣を持つ男は驚きで動きが止まったわ。当たり前よ、剣の根元は切れ味が悪いからと言って身体で受け止めるなんて
普通は出来ない、肩に突き刺さる剣を気にする事無く昭は舞い上がる剣の柄を手で押し込み男の喉に深く剣を
突き刺した
「来いっ郭大賢、こやつ並みではないぞ」
大斧を持つ男は槍を持つ郭大賢という男を呼んだわ、だけど昭は静かに剣を更に舞わせて大斧を持つ
男に剣を弾き飛ばす。森から出てきた槍の男はそのまま真直ぐ昭を狙って攻撃を仕掛けたけど
そこは既に昭の領地、剣の草原の中、斧を持つ男の動きも既に見切った後
「あぐっ!」
襲い掛かる大斧と槍、既に剣を投げていたから同時ではなかった。それも彼の狙い、昭は向かってくる男の足運びを覚え
剣を突進する男に合わせ、宙を舞う剣を蹴り飛ばして脚に突き刺し、止まった槍の穂先を手で握り絞め、宙を舞う剣の
鍔を踏み込み柄を地面に突き刺し、血を流しながら後方に飛び身体を入れ替えるように引き寄せた
「ど、どけぇっ!!」
引き寄せられ腕の伸びきった所に大斧は振り下ろされ、槍を持つ男の両腕は切断された。そして突然無くなった
両腕を見て絶望に崩れ落ちる真下には昭の脚で大地に突き立たった剣、まるで自殺するように自ら腹に剣を突き刺し
顔には疑問と恐怖を浮かべ涙を流しながら崩れていったわ
「あ・・・ああぁ」
仲間の腕を切り落とし、恐怖で涙を流し死んでいく仲間を見て混乱したのでしょうね。そんな隙を昭が見逃すわけがない
投げた剣が喉に突き刺さり、血を吐きながら倒れていった。そして
「かかれ、数は俺達のほうが上、曹操を殺し御使いも殺すんだ」
森の置くから号令をかける叫び声が聞こえたわ。敵の本当の首魁は違ったのよ、今まで出てきたのは
この首魁の配下だったのよね、随分と用心深い人間でしょう?
確かに言うとおり敵は倍以上、私もその時は覚悟を決めたわ。けれどその時よ、昭の舞の真価が発揮されたのは
この時点で剣の草原と舞は完成していた。そして昭は息を吸い込み叫んだわ
『皆聞け、曹操様は俺たちに帰る場所を、家を作ってくれた
中には元賊のもの居るだろう、お前達は民に戻り家を持つことが出来た
今此処で負け曹操様を失えば帰る場所を失う、そしてまた大陸を彷徨い賊となるものが出る
そのようなことがあって良いのか?俺は家族を、娘を失いたくはない。帰る場所を失いたくない
俺と共に戦ってくれ、俺と共に生きてくれ』
昭の言葉に呼応するように怒号のような声があがった。それこそ森を震えさせるほどのね
そして兵達の目には見ていて解るほどに生きる意志が強く灯り、握り締める槍は音を立て力を漲らせていることが
感じられた。『修羅の兵』が完成された瞬間だったわ
兵達は身を寄せ合い隙間をなくし、私を守る盾のようになると脱いだ鎧を盾にして矢に備えた。怒号で動きの止まった賊は
「あのようなものに騙されるな、ただの声だっ!かかれっ!!」
という首魁の指示を受け声をあげて襲い掛かってくる
けれど正面の敵は昭が腕を削り、その身を削りながら次々に賊を殺していったわ。常に脚を使い、敵を六人ほどに纏め
舞い上げる剣を掴み急所に突き刺し、急所に当てるのが無理ならば眼を切り裂き腱を断ち、戦闘不能に追い込む
そしてひらひらと舞踊りながら剣を敵へ蹴り飛ばし、足場に溜まる死体の上を移動して新たに地面のある場所へと移り
大地はまた死体とその身から流す血で埋まっていった
「あ、あの華琳様」
「何かしら?」
「兄様は見切りが使えるのに何故身体を削って?」
「流琉とフェイは知らなかったわね、昭は相手の動きを一度見ないと見切りが使えないのよ」
「えっ!?」
「だから自分の身体にわざわざ一度攻撃を受けて、それから反撃をしていった。あのときの昭の身体は
血と土で真っ黒に染まりあがっていたわ」
「・・・うぅ」
「でもその眼を使って広範囲に視野を広げ、一人が自分に切りかかる動きと、追従する攻撃を同時に
見ていたから、一度自分の身体を傷付けて見切れるのは6人と言うところね」
「・・・兄様は、凄いですね」
「馬鹿よ、自らを捨てる覚悟を簡単に決めるのだから」
兵たちも槍を振るい、その身を盾にして私達三人を守ったわ
「左翼、敵を狼と思え槍を前に突き出し、敵の突進力を削れ。右翼、死体を盾にしろ矢を撃つものから
曹操様を守れ」
昭は賊を倒しながら兵を指揮し、兵は呼吸の合った動きでうねり賊を寄せつけず善戦していたけれど
剣の草原は次第に数が無くなり、地面は死体で埋まっていった
そしていくら『修羅の兵』と言えど数が圧倒的ならば徐々にやられていく、私達の兵の数も半分になろうとした時
配下の一人が一人で敵を殺し続ける昭に襲い掛かった。襲い掛かる男に昭の眼が酷く冷たく向けられた
昭は戦いながら男に剣と目線をちらつかせ挑発を繰り返していたのよ、それがついに耐えられなくなったのね
その男は槍を使い、かなり手ごわい相手だったようで昭は少ない剣を舞わせながら弾き、いなし、身体を回転させ
防ぐだけになってしまっていた。既に身体も限界、剣の草原も無くなった、だけど
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
昭は叫び、握る剣に力を込め身体を思い切り捻ると突進する男に合わせて『剣帝』を使った
前に進む男はいきなり目の前に出される剣の暴風雨に驚いていたけれど次の瞬間には飲み込まれ
地面には肉片が飛び散っていた。当然、昭の腕からも血煙が上がっていたし、その場から動くことも出来なかったわ
「所で風、『剣帝』がなぜ舞の一つなのか解るかしら?あれは前に進むことも出来ないし、その場で留まるだけのもの」
「そうですねぇ、おそらく『剣帝』は何かと組み合わせるものだと思います」
「その通りよあれは群舞の一部、劉備との戦いでは出さなかったけれどね」
敵がボロボロになり崩れ落ちた後も昭は止まらずその場で剣を振り続けた。その嵐のような剣を見て賊は昭を恐れ
近付くのを避けて私達を攻撃をしようとした。そこで『修羅の兵』は何をしたと思う?
生き残る為に、私を守る為に最も恐ろしい選択をした・・・・・・
【兵達は賊を捕まえ次々と昭に投げこんだのよ】
兵は数名遊撃体制を取り、最も攻撃力の高い昭の『剣帝』に賊を追い込み放り込む
剣の暴風に巻き込まれた賊は次々と肉片になり飛び散るかボロボロに
飛び散る血飛沫、肉片、臓物、見える光景は正に地獄絵図
修羅と化した鬼達が舞い踊り、血肉の玉座に座る剣帝という名の暴君に生贄を捧げる悲鳴で奏でられた絶望の詠
つけた名前が『演舞壱式、戦神ノ舞第二幕、贄捧鬼詠』
昭はあの時身体はすでに限界、『剣帝』を出すことで次に兵達が何をするか何となく解っていたみたいよ
兵達の変化を昭も気が付いていたし、自分を見て何をするかも解っていた。だから最後に『剣帝』を出した
肉片と死体、生贄を捧げる鬼達、そして血溜りの中で死肉と血煙の玉座に座る帝、そんなものを見た賊はどうなるか
士気などとうになくなり、そこには恐怖と絶望の悲鳴しかなかった
兵は逃げ惑う賊を捕らえ投げ込む、立場などすでに逆転し修羅は何時しか羅刹となった
守る為にただひたすら敵に恐怖を植え付けるだけの一方的な殺戮の世界
そんなものを見せられた賊は散り散りに逃げ失せ、首魁もそのままにげ去った
後に残ったのは僅か十名の兵士
背後から地面を這いずり必死にしがみ付いて『剣帝』を止めた秋蘭
血溜りと肉片の中心で両腕から血を流し、身体を赤黒く染め上げる昭
私と春蘭は気を失ってなお立つ昭を後ろから見ていた。守る者の気迫を出したまま
剣を放さず血まみれで立つ昭を
「奇跡よ本当に、あの絶望的な状況から昭は配下を一人一人殺し士気を下げ。最後の剣帝で
敵の士気を完全に殺しきった。もっとも賊相手でなくてはこうは行かなかったでしょうけれど」
「修羅の兵はまったくの偶然だったのですか、しかしお兄さんの戦い方は劉備さんの時と全く違いますねぇ」
「あの時はどういう戦い方だったんですか?私達は後から来たので」
流琉は見たことがなかったわね、フェイも。確かにあの時は怒りもあっただろうけれどただ守り、生き抜くと
いう気持ちが強かっただけ、私や春蘭、秋蘭が傷つけられたわけではないから
「あのときのお兄さんは皆さんが帰ってくるまで持てば良いと思っていたようですよ。戦い方も敵を利用していましたが
静かに、と言うよりも熱くと言ったほうが良い戦い方でしたね」
「呂布もいたことだし、なるべく時間を稼ぐ為に剣帝も出す事はなかったのよ」
「そうだったのですか・・・」
そこで今まで黙っていた扁風が木管に筆を走らせた
そのあと昭様はどうなったのでしょうか?前の戦の御話は真桜さんにお聞きしました
なんでも昭様は泣き叫び苦しまれたとか
「・・・・・・何故それを知っているの?」
華琳の身体から怒りの混ざった覇気が垂れ流される。流琉は脅え風は机の下に隠れ
扁風はボロボロと泣き出してしまっていた
「ふうっ、全く真桜は誰から聞いたのかしら。聞かせてくれるフェイ?」
「えぐっ、えぐっ・・・うぅっ・・・」
頭を撫でて扁風を落ち着かせると、扁風はグスグスと言いながら筆を木管に走らせた
以前に真桜さんから御話を聞きまして、昭様が目を覚まされた後、一旦部屋を出たものの心配になった
真桜さんと凪さんと沙和さんが部屋の前で待とうと話し合い
病室に戻ろうとした時に叫び声を聞き何かあったのかと駆けつけようとしたら
華琳様と春蘭様がじっと部屋の前で耐えるようにいらっしゃったと
「そう、それなら仕方ないわね。あの子たちに知られていると言う事は、皆に知られてるということでしょう」
「も、申し訳ありません。私は沙和さんから・・・」
「風は詠ちゃんから聞きました」
あの後のこと・・・私は冷めた茶を一口付けて思い出す
出来ることなら思い出したくはない、だが忘れる事は出来ないし忘れてはいけない
「あの後は、僅かに残った兵達が私達を陳留まで運んでくれたわ・・・」
私や春蘭、秋蘭は怪我も大した事はなかったし、身体の痺れも一日で取れたわ
けれど、昭は・・・
「うああああぁぁぁあっぁぁぁぁあぁっ!!!!!!!!」
病室では眼を覚まし、泣き叫び暴れる昭がいたわ
幾人もその手で殺め、死んで逝った賊の暗い感情を全てその身に受けていた。身体を切り刻み肉片にまで
した痛みを今度は自分自身が受けていたの、彼がその眼の力全てを使えば相手の感情を深く捉える
傷の無い場所からぷつぷつと血が滲み始め、着衣を赤く染めていったわ
腕も舞でズタズタに切り裂かれ、更に『剣帝』を使った代償に腕は動かなくなっていた。身体を這わせ寝台に歯で
噛み付いて、必死に襲ってくる痛みと暗い感情に耐えていた。傷口も暴れるからなかなか塞がらなくて
布団は何時も血で赤く染まってしまっていたわ
私達は彼がこうなるとは思わなかった。なぜなら前線で戦うことなどなかったし、人を殺めたことも初めてでは無かった
それで泣く事があるのは知っていたけれど、彼がその眼を最大限に使ったときどうなるかは解っていなかったのよ
「華琳様、痛みと感情が襲ってくると言うのは?」
「そうね、簡単に言うなら私が指を切ったら見ている昭も同じように痛み血を流すといったら解るかしら?」
「え・・・・・・そ、そんなことって」
「力を手に入れた代償よ、才の無い者が大きな力を手に入れるなら仕方が無いこと」
暴れだしてから秋蘭は直ぐに病室に入って昭を落ち着かせる為抱きしめていたわ、昭も秋蘭を間違って傷つけないように
布団を口に含んでかみ締めていた。流す涙で秋蘭の肩は濡れ、傷口から出る血は服を赤く染めて
私と春蘭は昭が苦しみ続ける姿を見ていることしか出来なかった
彼をこんな風にしてしまったのは彼の忠告を聞かなかった私自身
何も出来ないならせめて側で叫び続ける声を聞くことしか出来なかった
そんな状態が二週間も続き、ようやく昭が落ち着いた時には前髪が全て白くなってしまっていた
顔も憔悴しきって死人のような土気色で、抱きしめていた秋蘭はようやく苦しみから解放された昭をみて
涙を流して微笑んでいたわ
それからよ、昭から華佗の話をされていたことを思い出して張魯を捕らえようと考えたのは
昭の腕は動かないままだったし、髪も白いままだったから、せめてもの罪滅ぼしと思って
情報を集め五斗を手に入れ治療を・・・とね
「そんなことが・・・兄様は守る為なら自分の身を顧みないのですね」
「そうね、今回は守る対象が居なくなった。支えるものが居なくなった。そういったことなのでしょう」
「お兄さんはその身を捨てることを即座に覚悟するのですね。生きのびる為には全てを賭けなければと」
「本当に馬鹿よ、けれどその馬鹿のお陰で私達は生きることが出来た」
私は残ったお茶を飲み干すと、彼が苦しんだ後の姿を思い出す
なんと声をかけて良いのか解らなかった私に、何時ものように軽く笑って
『どうした?何かあったか?』
などと言ってくるのだから本当に馬鹿だ、いっそ私を責めてくれれば楽だったかもしれない
けれど彼は責める事はしない、全て己の無力さを嘆き後悔するだけだ、だからこそ彼には限界が無い
身体が治った後も、今でさえも舞を増やし眼を鍛え己を高めようとしているのだから
「華琳様、その時の賊と言うのはもしや張燕さんと張雷公さん于毒さんの三人のことでは?」
「流石ね風、その通りよ。首魁は張燕、今は夏候昭隊の古参の一人よ」
「ええっ!そうだったのですか!統亞さんが元は賊だったなんて!!」
流琉は立ち上がって驚いた。無理も無いわ、そんな戦いをしたのにも関わらず私のところへ降り
仲間になっていたなんて、それも昭の配下として
「昭が兵達に言った言葉が気になったそうよ、私が賊を民に戻すというのがね」
「そうですよね、元々賊になんかなりたくは無い人だって沢山居るはずですから」
「ええ、私のところに単身で来て、『あの言葉が本当ならば、俺たちは民に戻れるのか?』と涙ながらに訴えてきたわ」
傷だらけで戦う姿を木の上から見ながら彼の言葉は真実だと感じたらしい、私が賊を受け入れ民に戻していることを信じ
自分達も帰れる場所をと門兵に訴え、それを聞いた昭がまだ満足に動かない身体を引きずらせて彼を私の元へ
連れて来た。元々野心などなく、彼らは自分達が安全に暮らせる場所を作ろうとしていただけのようよ
そのためには力をと思ったみたいね、『天下に示す』などとは張牛角が一人で言っていたらしいわ
春蘭は張燕を見るなり、即座に切り捨てよう剣を構えたけれど、昭がヨロヨロと目の前に立って庇い斬る事は出来なかった
「何故止めるっ!こやつはお前をこのようにしたどころか、華琳様に怪我まで負わせたのだぞ!!」
「曹操様を傷つけた事は許せない、だけど俺は必死に訴える人間の言葉は聞いてあげたいんだ」
張燕の目の前には自分の所業で身体がボロボロになった男が庇っている。そんな姿を見てしまい
感動したのでしょうね彼は、地面に額を押し付け、涙を流し私に大きな声で訴えてきた
「申し訳ないっ!命令したのは俺だ、俺の命はどうなっても良い。だから仲間だけは助けてくれっ
そして都合の良い話しだと思うが仲間を民に、貴女様の治める地の民にしてください。お願いしますっ!!」
「・・・その言葉に偽りは無いわね?」
「華琳様っ!!」
「はい、我が魂魄を賭け御誓い申し上げるっ!我が真名は統亞、真名を穢されることも受けましょう
何卒我が仲間達を貴女様の民へと」
そういって顔を上げて舌を噛み切り自害しようとした瞬間、昭は動かない腕を身体ごと振り回して統亞の口の中に
指を投げいれ倒れた。かみ締められて指からは血が流れ統亞は震えながら直ぐに口から指を外したの
「な、何故ッ!?」
「何故って、張燕はもう魏の民だろう?俺の仕事は魏の民を守ることだ」
昭は優しく微笑んでいた、統亞は噛み付いてしまった指を両手で大事に握り締めると、大声で泣き始めた
まるで子供のように流れ落ちる涙で地面を濡らして、そして昭は地面に寝そべったままで私を見て笑っていたわ
『信じているよ』とはっきり解るようにね
私を守りきった昭に言われたら許さないわけには行かないし、元々賊は受け入れるようにしていたから
そのまま『黒山賊』の残り全てを受け入れた。統亞には罰として昭に仕えるよう命令したけれど
統亞の喜びようはそれは凄いものだった。まったく罰になっていなかったわねあれは
「流石は華琳様、御優しいです」
「そんな事は無いわよ、昭がいなければ私は統亞を切り殺していた」
「雲が日輪を和らげたと言うことですね、ですが判断なされたのは華琳様、風はその判断を賞賛いたします」
「フフッ、有り難う。この話もこれで御仕舞い、そろそろ城に戻るわ」
席を立とうとする華琳に扁風は木管を広げ、見てくださいと言わんばかりに広げて見せた
最後に一つだけお聞かせください、舞の名前は華琳様が御付けになったのでしょうか?
華琳は先ほど泣かせてしまったことを謝るように、席を立ち微笑みながら頭を撫でた
「そうよ、戦神も剣帝も私が名付けた。名の無い舞なんてありはしないでしょう?」
その答えに満足したのか、扁風はニッコリと笑顔を作り小さな頭をペコリと下げてお辞儀をした
流琉と風も満足したのだろう、きっと昭に対して前以上に信頼を置くに違いない、そして彼を
守ってくれるはずだ
「話しは終わったのか?」
「ええ、私は城へ戻るわよ。早く身体を治しなさい」
「有り難う、俺の見舞いにも来てくれたんだろ?」
「ついでよ、流琉達が此処に来ると言っていたからね」
華琳は男の頬の傷跡を何時ものようにむにむにとつねると、最後に指で弾き、軽く手を振りながらその場を去っていった
扁風は椅子にもたれかかり膝に娘を乗せる男の手を握り、ニコニコと笑顔を向けながらお辞儀をして華琳の後を追う
流琉も扁風と同じように男の手を握ってお辞儀をすると台所に入って片づけを始めた
「?」
「兄者、何の話だったのでしょうね?」
「解らん、後で聞いてみよう」
男と一馬は去っていく姿を見送りながら頸を同時にかしげていた。それを見ながら詠と月、そして季衣と涼風は笑い
「あんたら本当に仲良いわね、実は血が繋がってるとかじゃないでしょうね?」などと言われ二人は顔を見合わせ
笑っていた。そんな中、風一人が笑うこともせず。テクテクと男の背後に歩み寄りる
「お兄さん、一つだけよろしいでしょうか?」
「ん?」
『雲と共に在るべき風は』
その言葉に男は一瞬で真顔になり、真剣な眼差しを風に向け
『雲は強き風、覇者の風と共に在る』
強い言葉でハッキリと返すと風は眼を見開き、口元に手を添えて柔らかく笑い男の背中に抱きついていた
詠たちは風の珍しい行動に驚いていたが、風は気にする事無くしばらくそのままでいると
パッと離れ、何事も無かったように「ではでは〜」と華琳達を追い屋敷から出て行った
「な・・・なに?どうしたのよ風は」
「知らん、ご馳走様でした。俺は寝るぞー」
「ちょっと待ちなさい。教えなさいよ、アンタの食事作ってあげたでしょう?」
男は娘を膝から下ろし、手を引いて寝室へといってしまう。詠はそれを止めようとしたが
「何だ、一緒に寝たいのか?」と言われ顔を赤くして「ふざけるんじゃないわよっ!」と言って背中を
思い切りひっぱたき、男は背中を押さえ悲鳴を上げながら寝室へと行ってしまった
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・しまったっ!逃げられた」
「ふふふっ、詠ちゃん、昭さんは怪我人だから許してあげようよ」
「まったく、一馬っ!アンタも寝なさい、その腕早く治さないと次の戦に出られないわよ」
「はい、ご馳走様でした。この御礼は必ずいたします」
「良いわよ、今回は頑張ったんでしょ?昭が褒めてたわ。季衣、後片付け手伝ってくれる?」
季衣は頷き流琉の居る台所へと入っていった。詠は部屋に戻る一馬を見送り、男の寝室の方に目線を移し
やれやれと溜息を一つ吐き、月はその隣で笑っていた
流琉の眼を見るに、恐らく俺の昔の話しか・・・・・・
この間のことで流琉にまで迷惑をかけてしまった
今のままでは居られない、大切なものを守れる力が欲しい、今回は秋蘭が死ぬ事は回避出来たが次は解らない
あんな思いは二度としたくない、俺自身が消えないよう戦で死なぬよう、そして秋蘭を守りぬけるよう俺は強くならなければ
男は静かに心の中で自分に言い聞かせると、娘の小さな手を自分の頬に当て微笑みかけながら強い意思をその瞳に灯した
説明 | ||
続いて番外編です^^ 今回出てきた真名は統亞(トーア)と読みます 意味は統(束ね、集め)亞(基礎、繋ぐ)といった解釈で 人を束ね、基礎を作り繋ぐという意味の人物です 今回の舞『贄捧鬼詠』のイメージ曲はAli Project 鬼帝の剣です よろしければご一緒にお楽しみください 何時も読んでくださる皆様、有り難うございます>< |
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5555 様コメント有り難うございます^^狂戦士に似て否なるものだと私は思っています。戦は嫌いですし、戦うことに溺れず冷酷ですから。怒りに溺れてしまうのは支えるものがいなくなった時のみ、それも今後はなくなると・・・(絶影) Ocean様コメント有り難うございます^^剣帝の恐ろしさを読み取って頂ありがたい限りです><彼は結局一人では何も出来ませんので、それでも恐怖は与えられると言った所です。華琳様につきましては良くご存知でと、仰るとおり基本器の大きい方なのでそのまま生かせて頂きました^^(絶影) KU− 様コメント有り難うございます^^なるべく長く書きたいのですが最近のプライベートの忙しさで、申し訳ない><その代わり中身の濃いものを仕上げました(絶影) ロンロン 様コメント有り難うございます^^仰るとおりです、彼にはその身を削ることでしか守ることが出来ません、何せ力がありませんから。そのために泣くものが居ても、守れればよいと。馬鹿なのですよ彼は(絶影) 弐異吐 様コメント有り難うございます^^相変わらず反動や代償が大きく、使えない主人公ですがこれからもよろしくです^^;華琳様は相変わらず器の大きい方ですよー!!(絶影) GLIDE 様コメント有り難うございます^^誤魔化すことに最近は長けてしまってきているようですww(絶影) あれ?いまさら気ずいたけど昭ってベルセルク?特に身近な人を守るとき?(5555) 剣帝、恐っ!! 自分は動かず、配下の人間が間合いまで敵を投げ入れるって、相手からしたら恐怖以外の何者でもない。史実の曹操も息子と典韋を殺した張?の帰順を許したし(袁紹との戦いの前で少しでも戦力が欲しかったみたいだが)、華琳の器の大きさは覇王ならではだと思います。(Ocean) ページは少ないのに、中身が濃い気がする(KU−) 文字通り身も心も削る・・・か。そのせいで守る者たちを悲しませることになっても止まることはしないんでしょうね。(龍々) おぉ〜!昭かっこよすぎですなぁ。華琳も器がでかい(弐異吐) 詠にたいしてあんな逃げ方するなんてw無自覚で石田純一顔負けだなww(GLIDE) |
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