極楽幻想郷(紅) その3 |
「おーい魔理沙。全然進んでないぞ」
「そんな事は百も承知だぜ。全く、またアイツか……」
魔理沙の肩に手を乗せた横島の言葉に魔理沙は苦い表情を浮かべる。
「何だ? 進んでも辿り着かないとかいう罠か何かなのか?」
「どう言う理屈でやってるのか分からないが、前にも同じような事があって紅魔館へ着くのを邪魔されたんだよ」
「ふーん……しっかし寒いなー。深海にトランクを鎖で雁字搦めにして突き落とされた程じゃないけど」
「聞いてるだけでもゾッとしない話だな。というか体験したことがあるのか……?」
フッと遠い目をした横島はそれ以上何も語らなかった。
似合わないぞとつっこみたい衝動に駆られた魔理沙は口に出かかったところでなんとか呑み込んだ。
「まぁその話はその内聞き出すことにしよう。この辺りの湖……霧の湖と言うんだが」
「まんまな名前だな、おい」
「分かりやすくて良いだろう? それはともかくだ。
この湖を縄張りにしている力の強い妖精がいてな、それが恐らく紅魔館への道を邪魔しているんだ。現に、少し寒くなって来たはずだぜ?」
確かに、と横島は鳥肌の立った腕を見る。
湖には流氷一つも浮いてもないのにこんなに寒いのはおかしい。
「その妖精は氷の妖精でな、夏の暑い時は丁度良いんだが……」
「いいんだが?」
「バカだ」
あーそうなんだーと横島は聞き流した。
しかし妖精と言う単語で気が付いた事があるので、魔理沙に聞いてみる事にした。
「なぁ、魔理沙……その氷の妖精って……」
「あー、出たな白黒!」
横島が魔理沙に問いかけようとしたところで、突然割り込んできた大きな声によってそれは止められる。
顔を声の聞こえた方向へと向けると、そこには氷のような羽を広げ仁王立ちした(バカっぽい)少女が居た。
「ここで会ったら百光年目! 大人しくあたいの必殺スペルを受けてみろ!」
ビシッ! と人差し指を突き出し不敵な笑みを浮かべる姿に横島は言葉も出なかった。
「……百光年は時間じゃなくて、長さだぜ」
やれやれと溜め息交じりに首を振った魔理沙のツッコミが虚しく当たりに響くのであった。
極 楽 幻 想 郷 (紅)
紅魔郷編 リプレイ その3
「ち、チルノちゃん! 止めよう、こんなこと!」
「止めないで大ちゃん! あたいはこの白黒にりぞんべするんだ!」
「な? バカだろ?」
遅れて登場した緑の髪を横に縛った妖精――「大妖精」が氷の妖精――「チルノ」を止めようとしがみ付く。
しがみ付いた大妖精を振り切ろうとギャーギャー騒ぐチルノを尻目に魔理沙は横島へと視線を向ける。
「……やっぱ妖精ってレズが普通なのか……」
「おい待て」
しかし横島は妙な誤解をしていたので魔理沙は即座につっこんだ。
「何でそんな思考に辿り着いたんだお前は……?」
「いやウチの事務所の居候に妖精が居てな……そう言えば最近出番無いっていうか忘れ去られてるけど……そいつ、レズなんだよ」
「……いや、妖精全体がレズな訳じゃない。
それに幻想郷の特に力があるヤツは女が多いけど、レズじゃないぞ? 多分」
真剣な表情で魔理沙は横島に詰め寄る。
魔理沙の迫力に横島は圧倒されながらおぅと短く答えるしかできなかった。
「? 大ちゃん、れずってなーに?」
「へ!? え、えーとその……私にも分からないー、うん!」
「そっかー、大ちゃんでも分からないのかー」
遠くの方でこっそり横島たちの会話を耳に入れていたチルノ達。
ふーんと頷くチルノの横で大妖精はホッ、と息を吐いた。
「……ハッ! やい、白黒! たわしの無い話であたいをやり過ごそうだなんてさせないぞ!」
「他愛の無い、な。しかし毎回毎回、お前の相手になる私の身にもなってみろ。
同じスペルを何回も繰り返すと飽きられるぜ。
……そうだ! おい横島お前……弾幕ごっこやらないか?」
「ノーセンキュー! 何が悲しくて幼女の服を引ん剥かなあかんのやぁ!?」
「横島、それ弾幕ごっこ違うぜ」
ちょっとエッチな好青年を貫き通したワイのイメージがぁぁぁぁぁぁ! と叫ぶ横島の顔面に魔理沙の手刀が鋭く入る。
「ごふぅっ……! 何をするんじゃいきなり!?」
「お前が悪い。と言う訳でさっさとやられてこい」
「やられるの前提!? ちょっとその評価は無いんじゃないかな!?」
いーからいーからと魔理沙に押されるように横島は前に出る。
だが、前に出た瞬間そのまま箒を踏み外し落ちそうになった時、寸での所で柄を掴んで湖に転落する事を防いだ。
「……あー、そう言えばお前飛べなかったな」
「だから、普通の人間は飛べるか!」
え、普通? と魔理沙から懐疑的な視線を受けて横島は静かに涙を流した。
話に置いてけぼりにされたチルノは首を傾げる。
「よく分かんないけど、結局どっちがあたいと弾幕ごっこするの?」
「コイツ」「魔理沙」
箒の上に上がりながら横島は魔理沙を、魔理沙は横島を指差し、辺りに沈黙が漂う。
「おい、魔理沙。いきなり素人を戦わせようとは一体どういった魂胆だ?」
「なに、この魔理沙さんが 優 し く 弾幕ごっこをレクチャーしてやろうと思っただけだぜ。実戦で」
お互い笑顔……しかし両者とも顔を引き攣らせながら睨み合う。
時間にして数分後――横島が拳を掲げる。
すると横島の意図を理解したのか魔理沙も拳を掲げる。
遠目に見ていた大妖精がハッと気付き二人を止めに掛かった。
「ふ、二人とも! 殴り合うなんて止め「「最初はグー! じゃんけんポンッ!」」て……あれーっ!?」
リズム良く拳を振り、あいこを繰り返す姿に大妖精はそのまま空中で器用にこける。
良く分かっていないチルノは不思議そうに見ていた。
「これいつまで続くのかな、大ちゃん?」
「さ、さぁ……? 忙しいみたいだし邪魔した駄目だよ、チルノちゃん」
「うーん……仕方ない、今日の所は見逃してあげるわ!」
元気良くチルノが頷くと、大妖精はホッとした表情になる。
まだあいこが続く横島達に次に遭った時は覚悟しなさい! と宣言しその場を去り、それを追うように妖精もその場を後にした。
「あいこで……もう良いか?」
「しょっ! ……おう大丈夫だ。いやー、やり過ごせて良かった」
「そりゃぁいきなり目の前で突然じゃんけん繰り広げられたら飽きるだろうぜ。
しかし、よくあんなにじゃんけんであいこが続いたな……」
「フッフッフ……何を隠そう、実は俺小学生の頃はじゃんけん王の異名を持っていた事もあったのだ! ……半年くらい」
思い返せば父親との駆け引きの遣り取りにほろりと横島は涙した。
鍛え上げられたじゃんけんの腕前(主に腕の動作を見切る能力)がまさかこんな所で発揮するなど誰も考えないだろう。
「ところで、あの二人はもう戻って来ないよな? 実はそこに隠れてましたなんてないよな!?」
「そこまで妖精に知恵があるとは思わないぜ。
まぁ、今度会った時には相手してやれ。ちょっと力のある子供と遊ぶようなもんだ」
「子供と遊ぶのに命懸けなんて嫌やー! ……ってよく考えたらウチの事務所も同じようなもんか」
「お前のとこの事務所って一体何なんだ?」
良く預かる子供から泣くと燃やされる事を思い出してそういうもんかと納得しかけたがブンブン頭を振った。
好き好んで死に向かう奴が何処にいるといるのだろうか。少なくとも横島はそこに桃源郷(ロマン)があれば行くが。
「ところで魔理沙。俺の目がおかしくなったのか?
目の前の館が一面真っ赤に見えるんだけど」
「あぁ安心しろ。普通だ。
ここの主人は紅が大好きだそうだ。外も中もな」
チルノ達が居なくなったから、先ほどまで辿り着けなかった紅魔館が見えてくる。
外見は血のように紅く染め上がった館に横島は思わずゴクリと生唾を飲み込む。
「……館に入っていきなり吸血とかされないよな?」
「大丈夫だ。お前不味そうだし」
「それはワイを不潔と言いたいんやな? 喧嘩なら買うぞ?」
「ならここで撃ち落とすぜ?」
凄む横島の目の前に八卦炉を突き付けるとそのまま横島は両手を上げて助けを求めた。
「分かった! 俺が悪かった! だから危険な音がするそれを締まってくれ!!」
光を収束し始め、危険な音を響かせる八卦炉を遠ざけるよう横島が懇願すると、八卦炉の光は消え、そのまま魔理沙の懐に収まった。
「全く、火力に差があるのは一目瞭然なんだ。ちょっとは学習しろ」
「……へーい」
いつか復讐しちゃる、と横島の小さな呟きを無視して魔理沙は正面を向く。
「さて、これから紅魔館に突撃する訳だが」
「あれ? 用事って……戦争でも仕掛けに来たのか?」
「いや、あの紅魔館の中にある図書館に本を狩りに来ただけだぜ」
「文字違うくね?」
「気のせいだぜ?」
笑顔で押し切る魔理沙に、横島は不安が隠しきれなかった。
あ と が き
チルノや大妖精を表現できたか分かりません。
私のイメージではこんなのです。
基本的にバトルにはしないつもりです……多分。
説明 | ||
大妖精の喋り方に自信がありません。 なので二次創作とかで書かれている感じを目指します。 チルノはバかわいいなぁ…。 |
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コメント | ||
横島と魔理沙、いいコンビですね。魔理沙は嫌がりそうですが。あと大ちゃん可愛い。(K-999) | ||
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