真・恋姫無双 〜美麗縦横、新説演義〜 蒼華繚乱の章 第十四話 |
新・恋姫無双 〜美麗縦横、新説演義〜 蒼華綾乱の章
*一刀君は登場しますが、メインは基本的にオリキャラです。
*口調や言い回しなどが若干(?)変です(茶々がヘボなのが原因です)。
第十四話 中原に轟く凱歌
少し先には、十万とも二十万と言われる大軍が悠然と構えている。
しかも目の前の敵が全てではなく、城を中心に四方を取り囲んでいるそうだ。
「リアル四面楚歌じゃん!」とか叫んだら仲達が「よく四面楚歌などという難しい言葉を知っていたな」って笑ってた。
くそぅ、その嘲笑はさっきの仕返しのつもりか。
「あんたら……もう少し緊張感を持ちなさいよ!!」
などとふざけていたら、桂花の怒声が響いた。
「っていうか司馬懿!アンタはあの劉備を討つかどうかの機会をうかがってなきゃ駄目でしょうが!!なんでそこで遊んでいられる訳!?」
「……ああは言ったが、華琳様はどの道断を下す事はしないさ」
「だよなぁ」
何となく分かるので同意を示すと、桂花が一瞬ポカンとして次の瞬間「ムキィーーーッ!!」って威嚇してきた。
飛びかかってこないのは、多分男にあまり触れたくないという根底の意思が働いたからだろう。
構うつもりはないらしく、司馬懿は城壁に背を預けて座り込んだ。
俺もそれに倣う。
「けどさぁ……仲達。この戦、勝てるかな?」
「無理だろうな」
あっさりと言いきった。
「勝ち負けで云えばほぼ間違いなく負ける。そもそも兵の数からして違いすぎるんだ。勝てる道理がないだろう」
「…………ですよねぇ」
分かってはいたけど、面と向かって堂々と言われるとやっぱりくるものがある。
城攻めには守る側の三倍の兵力が必要っていうけど、三倍じゃなくて三十倍はあるもんなぁ。
しかも将は三国志でも抜群の武力を誇る蜀の最精鋭。
正直、勝てるとは到底思えない。
「―――けど、負ける訳にはいかないんだよな」
「無論だ。負け戦を描く程、酔狂になった覚えはない」
言って、立ち上がる仲達。
その瞳には、遥か遠くに構える蜀軍を映していた。
「…………今度こそ、僕が勝つよ。朱里」
お互いの陣の中間点で、華琳と桃香は相対した。
「よく来たわね、劉備。ちゃんと私の寝首を掻きに来た事は褒めてあげる。……ようやくこの時代の流儀が理解できたようね?」
最初に口を開いたのは華琳。
冷笑を浮かべながら、劉備を睨んだ。
「曹操さん……曹操さんたちのやり方は、間違っています」
対して桃香は静かに――しかしハッキリとした意思を露わにして――応える。
だが華琳の胸中を占めたのは、何でもない『呆れ』だった。
「……何を言うかと思えば」
華琳の嘆息に、しかし桃香は真っ直ぐな視線を向けながら続けた。
「そうやって、力で国を侵略して、人を沢山殺して……それで本当の平和が来ると思ってるんですか?」
「本当の平和……ねぇ」
静かに、華琳は呟く。
「そんな、力がものを言う時代は……黄巾党のあの時に終わらせるべきだったんです!」
「なら、どうして貴方は反董卓連合に参加したの?あれこそ、袁紹たち諸侯が力で董卓をねじ伏せようとした……ただの茶番劇だったじゃない」
華琳の言葉に桃香は僅かに押し黙る。
しかし引く訳にはいかず、更に叫んだ。
「それは都の人たちが困っていたからです!」
「都の民に炊き出しをしたいだけなら、別に軍を率いる必要は無かったでしょう。それこそ、自分達だけで都に行けば良かったのよ」
「それだけじゃ……意味がないはずです!もっと根本をなんとかしないと!だから私たちは、連合に参加して……」
「それこそあなたの嫌いな武力を使ってね」
「……っ!」
今度こそ、桃香は言葉を失った。
「官は腐り、朝廷も力を失っている。けれど、無駄なものは常にそこにあるの。それを正し、打ち壊すためには……名と力が必要なのよ。今、あなたが背負っているような……強く大きな力と、勇名がね」
華琳は桃香の背、遥か遠くに臨む大軍勢を見据えて話す。
「私の背中にあるのは、力なんかじゃない。志を同じくした……仲間です」
暫しの沈黙の後、桃香はそう言い放つ。
しかし華琳の反応は冷ややかだった。
「同じことよ。志を貫くためには力が必要。その力で全ての不条理と戦い、打ち壊し、その残ったものからでなければ平和は生まれないわ」
「違います!ちゃんと話し合えば、戦わなくたって理解しあうことは出来るんです!」
瞬間―――華琳はキッと桃香を睨んだ。
「ならば貴方はどうして今、ここにいる?」
「え……」
底冷えする様な凍てついた声音に、桃香は背筋に悪寒を感じる。
しかし眼前で自身を睨む少女の覇気に呑まれ、桃香は身動きが取れなかった。
「話し合えば理解し合えるというのなら、あなたがこの地に立つ前に、どうして私たちの所には使者が来なかったのかしら?連合の時も、虎牢関や水関に使者を送ろうとは言わなかったわよね?」
「……っ!」
だってあの時は―――
何か反論の言葉を探そうとして、しかしそれより早く華琳は続けた。
「私たちが先に攻め入ると言っていたから、話す必要はないと見たのでしょう?」
「そ、それは……」
口ごもる桃香の姿に、華琳は胸中で苛立ちを抑えながら諭す様に話す。
「力とはそういうものよ。相手が拳を持っていれば、怖くて殴り返そうと思ってしまう。殴られるかも、殴られるだろう、そして……殴ってしまえと。だから、私は先に拳を示すの。殴って、殴って、殴り抜いて……降った相手を私は慈しむわ。私に従えば、もう殴られることは無いと教え込むの」
「そんな、無茶苦茶な……!そこまでずっと戦い続ける気ですか!」
「そうよ」
ピシャリと、言い放った。
桃香が息を呑むが、構わず華琳は更に続けた。
「話し合いで妥協できる程度の理想など、理想とは言わない。……おおかた益州の兵との共闘にしても、現状を安堵するとか……貴方の理想の片手間で済むような条件だったのでしょう」
「そ、それは……!」
「けれど、私の理想は貴方の片手間では済まないわよ。私はどうあれ、貴方を叩き潰す。貴方の大嫌いな、力と兵と命をぶつけて……。貴方が正しいと思うなら、今こそ私を叩き潰しなさい。その時は、私は貴方の前に膝を折ることでしょう。首を取るなり貴方の理想に従わせるなり、好きにすれば良い」
どこまでも誇り高く、どこまでも気高い王。
その姿に、桃香は何を云えばいいのか分からなくなった。
「この兵力差で……曹操さんは本当に勝てると思ってるんですか?」
「ふっ……負ける戦はしない主義よ」
ニヤリと、強かな笑みを浮かべる華琳。
「曹操さん。もしここで降参してくれたら……貴方の国は、貴方に任せても良い、そう思ってるんです。だから……降参してください」
「……あらあら。平和が一番とか言いながら、兵力を盾にこちらを恫喝するつもり?」
「そ、そういうわけじゃ……っ!」
これ以上の論議は無駄と思ったのか、華琳は馬首を翻した。
「力ずくなのは嫌いじゃないわよ。……けれど、そんな話は私に膝を折らせてからにしなさい」
「どうしても……戦わないとダメですか?」
「当然でしょう。私が納得しないもの。そうしなければ、明日にも私は貴方を裏切って、全力で貴方の城に攻め入るわよ。それでもいいのなら、貴方の好きなようになさい」
「……分かりました。戦いたくはないけれど、私は貴方を叩き潰します。それで……納得してくれるんですね?」
「それでいいわ」
桃香の言葉に満足そうな笑みを浮かべて、華琳は自陣へと戻る。
後に残された桃香は、力なく項垂れるしかなかった。
「結局、断は下されなかった様で」
「あら?不意打ちをしなければならない程、あの子は恐ろしい相手だったかしら?」
「……成程」
彼女らしい物言いに、司馬懿は薄い笑みを浮かべて一礼した。
「さて……私の有能な軍師達は、この絶望的状況を如何に打ち破るつもりかしら?」
試す様な華琳の言葉に、すかさず桂花が応えた。
「まずは弓兵を以て敵の突撃に備え、左右両翼を使って敵部隊を撹乱致します。次いで少数精鋭部隊にて敵本陣に一当てし、すぐさま陣に戻る……これを繰り返し、刻を稼ぐのが上策かと」
「あえて死地に赴き、活を見出すか……中々どうして、面白い策じゃない。桂花」
桂花の策に満足そうな笑みを湛え、次いで華琳は司馬懿に視線を向けた。
それを見計らったかの様に、司馬懿が口を開く。
「―――では、精鋭部隊の指揮は華琳様自らが御執りになるのがよろしいかと」
「ほう?」
興味深げな視線を向ける華琳と、正気の沙汰とは思えないとばかりに目を見開く桂花には目もくれず司馬懿は続ける。
「敵の目的は、あくまでも華琳様の首ただ一つ。ならば本陣に残し敵の総攻撃を受けるよりも、敵中に飛び込んだ方が敵を分散させられるかと」
「私が捕えられずとも、城がおちたらどうするつもり?」
「その心配には及びません」
そこで漸く、司馬懿は桂花を一瞥した。
「左右両翼の指揮は魏軍筆頭軍師殿が……」
次いで一人蚊帳の外だった一刀に視線を移し、
「後曲は兵からの信望も厚い一刀が……」
最後に自分の胸元に手を当て、
「そして本陣は、この司馬仲達が守ります」
ニヤリとした不敵な微笑を湛え、
「御身の御下命一つで我らは盾となり矛となります。守れと云われれば死守し、落とせと云われれば敵を陥落せしめましょう。さぁ……」
口の端を釣りあげながら、言い放った。
「―――我らが主よ。誇り高き号令を」
「はぁッ!!」
先陣を突っ切っるのは、愛用の大鎌『絶』を携えた華琳。
普段は自らその武を振るう事はまずないが、全てにおいて常人を超える事を本懐とするだけあってその武技はやはり達人の域。
戦場においても尚、優麗ささえ感じさせるその技と力によって、蜀の兵は次々と切り捨てられていった。
「フッ、この私自ら武を振るう事になろうとは……しかし、それもまた良し!!」
一閃。
目の前に立ちはだかった兵を両断し、覇王は叫ぶ。
「雑魚は下がれ!私が相手にするは強者のみ!誰ぞ、この曹孟徳に挑む者はいないか!!」
「曹孟徳!いざ、この関雲長と尋常に勝負!!」
中段に構えた青龍偃月刀が、稲光を浴びて閃く。
西風にあおられた黒髪が優雅に舞い、大地を踏みしめる双脚に力が込められた。
「関羽か!……成程、華雄を討った貴女ならば申し分ない!来なさい!!」
「行くぞ!でぇぇぇい!!」
関羽雲長、その真名を愛紗。
後の世に比類なき豪傑の一人として讃えられる武人の一撃を、しかし華琳は受け流し鋭く返す。
「伊達に前線に立つ訳ではないか……中々やる!!」
「舐めて貰っては困るわ……けど、やはり惜しい」
薙ぎ払い、華琳は距離を取った。
そして右手を愛紗に向け、問いかける。
「どう?関羽、今からでも私の元に来ない?貴女なら、最上の持て成しを以て迎えるわ」
「戦場でその様な戯言を抜かす暇があるか!!」
返答代わりとばかりに閃く偃月刀。
凄まじい一撃が華琳を襲い、堪らずその体躯は吹き飛ばされる。
「くっ……!」
「これで、終わりだぁぁぁーーー!!」
上段から、神速の勢いで振り下ろされる青龍偏月刀。
違わず華琳の得物を両断するかに思われたその一撃は、しかし振り下ろされんとしたその瞬間―――
『ドォォォォォン!!!』
「ッ!?」
突如轟いた轟音に一瞬身を固める愛紗。
そしてその一瞬を見逃す程、華琳は甘くはない。
「はぁぁぁッ!!」
「ッ!しまッ……」
渾身の力で振り抜かれる大鎌。
間一髪のところで愛紗は回避に成功するも、その服の臍の辺りに一筋の切れ目が奔る。
あと数瞬遅ければ、身を抉っていただろうその一撃に、愛紗は冷や汗が垂れるのを感じた。
「華琳!!」
そして、愛紗が気を緩めたほんの少しの間に騎馬の一団が直ぐそこまで接近していた。
横っ跳びに回避した愛紗が次に顔を上げた時、そこに華琳の姿はなかった。
「ふぅーっ、危ねぇ……」
「一刀!?どうして貴方がこんな所に!後曲の仕事はどうしたの!!」
自身を小脇に抱きかかえる人物を見た途端、呆気に取られていた華琳は我を取り戻し叫ぶ。
「これも仕事だって。もう前線や両翼に割ける兵はいないから、全体を一度城に下げて……」
「ここで兵を引けと言うの?劉備相手に……あんな甘ったれた者を相手に、負けを認めろとでも言うの!?」
一刀の声を遮り、癇癪を起した様に華琳が怒声を上げる。
その大音声に、一刀は思わず顔を顰める。
「いや……嫌よ!あの子の様な、あんな甘い考えに膝を折るなんて!!この私の誇りが許さないわ!」
「馬鹿な事言うな!命以上に大切なものなんてないだろ!?」
「馬鹿で結構!!」
キッと鋭い眼光を一刀に向け、華琳は怒鳴る。
「私の理想を、信念を貫く事が馬鹿だというのなら、それは私にとって褒め言葉だわ。それで此処に散るのだとしても、本望よ!」
瞬間―――一刀が叫んだ。
「いい加減にしろッ!!」
「ッ!?」
「此処で散るのが誇り?それが本望?寝ぼけた事言ってんじゃねぇよ!!」
「なっ、何を言って―――!」
「お前の誇りは、覇道は、存在意義は!こんな戦い一つに負けたくらいで揺らぐ様なもんなのかよ!!」
一刀の言葉に、華琳は目を見開く。
「負けたって、途中で挫けたって、俺達はその程度じゃお前の傍から離れてなんかやらない。お前が失せろって言ったって、いなくなってなんかやるもんか!!」
「……!」
「だから―――だから簡単に死ぬとか、そんな事を言わないでくれ……!!」
一刀は、泣いていた。
否、今にも泣きそうな程に、辛そうな顔をしていた。
自分が死ぬ訳でもないのに。
自分が傷つく訳でもないのに。
華琳は胸の奥が熱くなるのを覚えた。
だが、それは嫌なものではなく―――むしろ心地よく、温かなもので。
そう。
どことなく、『嬉しい』という、そんな感情に近かった。
「報告!北郷隊長は無事、丞相閣下を救出した模様!!」
「そうか……他方の兵にも通達!これより兵を退き、篭城戦に入る!」
司馬懿は城壁に立ち、次々と舞い込む報告に即座に断を下し戦場を睨む。
遥か彼方で舞い上がる砂塵。
その先頭を切るのは無論、部隊長である北郷―――それに、彼に抱き抱えられる様にして連れられる華琳も一緒だ。
「左右両翼の指揮は荀ケに一任せよ!弓兵、前へ!敵の鼻先に打ち込み足を止めろ!!後衛の第二射まで耐えろ!!」
号令と共に、兵達が隊列を整える。
一刀達の後を追う蜀の兵をギラリと睨み、司馬懿は叫んだ。
「―――放てぇ!!!」
「華琳様!よくぞ御無事で……!!」
城中に戻ると、感無量といった表情で桂花が声を上げる。
それに応える様にして、華琳は小さく笑みを浮かべた。
「桂花、よく耐えてくれたわね……」
「何を仰いますか!華琳様の事を思えば、この程度何の苦にもなりません!!」
もう満面に「褒めて褒めて」と喜色を湛えている様は、何というか……そう、犬の類を連想させる。
「御無事での御帰還、何よりです。華琳様」
城壁を降りてきた仲達が言うと、華琳は桂花の頭を撫でながら顔を向ける。
……あぁ、何か桂花の顔が形容し難い程に蕩けてるよ。
それでいいのか、筆頭軍師。
「……兵の収容、及び城門の封鎖。全て滞りなく完了致しました。四方の防備は万全を期しており、恐らくあと半刻もせぬ内に敵は兵を一度引くものかと……」
桂花の方をチラリと向いて、呆れた様な表情を浮かべたまま仲達は報告を続ける。
―――と、その時だった。
「ほ、報告!!地平の向こうから、大量の兵がこの城に向かっています!!」
「なっ!?」
「はぁっ!?」
嘘だろ……?
流石にこれ以上攻め手が増えたら、不味いんじゃ……。
「ああ。確かに不味いな」
「……なぁ、前から聞きたかったんだけどさ。俺ってそんなに顔に出てる?」
「分かりやすいくらいにな」
神妙な面持ちのままそんな事をのたまう。
「二人とも、今はそんな戯れてる時間はないわよ……誰か、旗印を確認なさい!」
「は、はいっ!!」
華琳の命に、弾かれた様に斥候が城壁に上る。
「あれは……!」
「どうした!!」
「旗印は『夏候』『許』『典』『楽』!―――味方です!お味方の増援です!!」
その声に、一瞬の間をおいて歓喜の声が轟く。
「報告!報告!!東より、紺碧の部隊が接近!旗印は『張』!!」
「報告します!北西より迫る部隊あり!旗印は『徐』!」
「霞に菫まで……揃いも揃って、全く!」
緩む頬を抑え切れないまま、華琳が声を洩らす。
「みんな、華琳の事が心配だったんだよ」
兵への命令が一段落した所で、折を見てそう呟いた。
「……誰も、心配しろなんて言ってないわ」
「だろうな。俺達も勝手に心配してるだけだし」
「けどな」と前置きして、俺は口を開く。
「華琳の夢は、俺達の夢でもあるんだ。一人で全部を背負い込もうとするなよ」
「…………」
「重いなら俺達が一緒に背負ってやる。痛みなら分け合えばいい、喜びなら分かち合えばいい。―――『仲間』って、そういうもんだろ?」
「…………まぁ、考えといてあげるわ」
言って、華琳はさっさと行ってしまった。
一人ぽつんと残された俺は、憎らしい程に青々とした空を見上げ肩を竦める。
「……やれやれ」
もう一仕事、頑張りますか。
「おらおらどきやーっ!!張文遠様のお通りやでぇ!!」
「死ぬ覚悟のある者だけ前に出ろ!!全て我が七星餓狼の錆にしてくれるわ!!」
「ど、どいてくださぁい!死んじゃっても知りませんからねぇ!?」
突如襲来した魏軍の増援に、蜀軍は混乱の境地にあった。
「みんなーっ!春蘭様に続けーっ!!」
「秋蘭様、城の旗は健在です!華琳様達は無事ですよ!」
「隊長!今行きます!!」
魏が誇る勇将、夏候惇と張遼、それに徐晃の突撃。
更に典韋、許緒、楽進といった武勇に長けた将が続き、脇に残った兵を夏候淵率いる弓兵と李典、于禁らの遊撃隊が余すところなく仕留めていく。
「む?あれは……」
「お城の兵が動いているって事は……」
「大将も討って出たっちゅうこっちゃろ!いくでぇ!!」
進軍の速度を一気に早め、魏の部隊が蜀の陣を蹂躙していく。
「我が紺碧の張旗に続け―――っ!」
戦場に勇躍し、飛龍偃月刀を自在に振り回す霞。
神速の二つ名をほしいままにする勇名に恥じぬ武技の前に、群れて立ち向かわんとする蜀の兵は草の様に薙ぎ払われていく。
「我が剣は覇王の剣、我が怒りは覇王の怒り!」
大地を駆け、黒色の大剣を振り下ろす春蘭。
魏武の大剣を自負するその刃は大地をも裂かん程の勢いと共に、目の前に立ちはだかった重厚な鎧武者を真っ二つに両断する。
「徐公明、仁の道を通さんが為……参ります!」
白亜の馬に跨り、大斧を自在に操る菫。
その外見からは予想もつかない程に勇ましく戦場を駆け抜ける様に見惚れている内、蜀の兵は首と胴が離れていく。
「ひっ……!か、勝てる訳がねぇ!!」
「逃げろぉーーー!!」
そして、一度伝染した恐怖は止めどなく暴れ出す。
瞬く間に戦意を削がれた蜀兵は散り散りになって逃げ出した。
「勝機は今ぞ!全軍、掛かれぇ!!!」
堰を切った濁流の如く、留まる所を知らないその勢いを以て魏軍は蜀軍を呑みこんでいく。
「勝負あった……かな?」
そして、一刻もしない内に戦は収束へと向かった。
蜀軍は撤退を始め、霞や菫の部隊がそれを追撃している。
土壇場での救援の到来は、蜀の動きを察知した稟と風が各地に放った急使によって齎されたものらしい。
ただ、荊州の南方に向かっていた春蘭達はそれが届くより早く、蜀軍の追撃を振り切って救援に駆け付けた様だ。
なんでそんな早く来れたのかを聞いたら「華琳様の窮地を察せずして、その臣が務まるか!!」と春蘭に一喝されてしまった。
結果として荊州南部こそ失ったものの、蜀は北部から引かざるを得ない状況に追い込まれた。
華琳は元々南部に関してはそこまで執着していなかったから御の字らしく、今夜は盛大に宴を催すとか。
「俺もそろそろ、城に戻るか……」
夕日が地平の彼方に沈もうとしている。
燃える様に赤いそれは静かで、けれどとても物悲しく思える。
その光景を眺め―――
「―――一刀ォ!!!」
ナニカが、俺のカラダを貫いた。
後記
茶々です。
フラグを立てたまま中途半端に放置する茶々ですどうもです。
話の中のフラグはちゃんと後で回収しますよ?
今はそのままにしておくつもりですが。
そして次々回、遂に『晋』√に突入します。
内容は……秘密ですよ。お楽しみという事で。
それでは、また。
説明 | ||
茶々です。 久々に筆が進んだ茶々ですどうもです。 前回辺り、この話は三十話くらいで終わる〜……みたいな事を話したのですが、実はちょいと展開を変えたらまだまだ伸びそうです。 伸びるといってもそんなに伸びる訳でもないのでどうというわけではないのですが。 そんなこんなの十四話。 それでは、どうぞ。 |
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