ミラーズウィザーズ第四章「今と未来との狭間で」15 |
(き、器用貧乏って、何よそれ! そんなこと言われたの初めてだし……)
〔そして、主は『霊視』という技能(クラフト)を使えるわけではない。それが根本的認識の間違いかもしれんのう〕
(へ? な、何言っているの? 私こうして幽体のあんたが視えてるじゃない)
〔主は疑問に思ったことはないのかえ? 自ら落ちこぼれと認めるような自身の実力で、そこまで強力な『霊視』が出来ることを〕
(で、でも、『霊視』って生まれつきの体質もあるし……)
〔その通りじゃ、『霊視』とは先天的要素の大きい技能(クラフト)じゃ。ならばの。主はどうじゃった? 主は幼きときから、この世界の在りよう視えておったのか?〕
(えっ? 私は……、私は子供のとき……)
〔覚えておらんか。なら我が答えを言うてやろう。主は、視えておった。この世界の幽現、全てが視えておったはずじゃ〕
(何それ? 結局、私、『霊視』が生まれつきあったってこと?)
〔それが勘違いだと、言うておる。『霊視』は生まれつき得やすい者はいても、生まれついて視える者は『霊視』を使えぬのじゃ〕
(はぁ? 何、言ってるの? 視えるんだったら『霊視』出てるじゃない)
〔エディ。主は『霊視』を使わないことを出来るかえ?〕
(つ、使わない……)
〔出来ぬじゃろ?〕
(ちょっと待ってよ。どうして『霊視』を使わない必要があるのよ!)
〔やはりというか、主はわかりやす過ぎるの〕
(さっきから、本当になんなのよ! ユーシーズ! あんた何が言いたいのっ!)
〔エディ、我は『霊視』を技能(クラフト)と言うたのじゃぞ。使いこなせぬ能力(タレント)は、技能とは呼べぬ。『霊視』を使いたいときに使い。使わぬべきときは使わぬ。主にはそれが出来まい。人は生まれついてその目で現世を見るが、現世が見えたところで人は技能とは呼ぶまいて〕
(……。つまり、私は唯一有用に出来ると思っていた『霊視』すら出来てなかったってこと?)
〔結論から言おうか。エディ、主は今のように『霊視』を使い続ければ死ぬぞ〕
(え……、し、死って、そんないきなり……)
〔主がこの世ならざるモノが視えるのは、主の存在自体が幽世寄りだからじゃ、幽世の者が幽世を見るのは当然じゃろ。今の我のように〕
もう言い返す言葉がエディには見付からなかった。突然、ユーシーズに言われたことはエディの理解を超えていた。
〔その最たる例が先程の所行じゃ。現体を持つ人が、魔法で作り出したとはいえ、現体を持つ呪樹の捕縛をどうやってすり抜けた。あんなもの我の本体でもできんぞ〕
(すり抜けた? 何の話?)
〔では主は何をどうすれば、あのドルイドの呪樹の捕縛から抜け出たというのじゃ。カルノ達ですら、為す術なく捕らえられていた魔法ぞよ。主が空間転移の大魔法でも使ったというのかえ?〕
(……、あれ? 私、そんなこと……した?)
〔我の見立てでは、主は空間をねじ曲げたのじゃ。体の自由利かぬほど縛り上げられておるなら、自由に動ける空間を作ればいい。考え方は悪くないが、主は出来んことを成してしまう。その代償が今の体調不良じゃ。いや、不調というレベルではないの。主は主の魂魄をすり減らしてまで大魔法を使ってしまった。使えぬ魔法を使うて、ただで済むとでも思うてか〕
(あの、意味がわかんないんだけど……)
エディは反論しようにもどうにも実感がない。そんな魔女すら驚かす魔法をエディが使って見せたというのか。
〔その自覚のなさが、主の異能の根本であり、厄介なところじゃろうて。主の『霊視』もそうなんじゃ、意識、無意識はともかく、『霊視』を使えるものは、『霊視』の魔術構造を組み立てて、幽界を視する過程を起こす。しかし、主は『見る』と『視る』が等価になってしまっておる〕
(『見る』と『視る』が一緒なんて当たり前じゃない)
〔それは主の当たり前であって、世の当たり前ではないんじゃよ〕
(いや、なんかもう、まったく意味不明なんだけど)
〔ほんに主は物わかりが悪いよのぅ。つまりじゃ、普通の『霊視』使いは『霊視』の法を使っておるのに対して、主は『霊視』の法を使わずに幽界を視ておるのじゃよ〕
(は? 何言ってるのよ。そんなの出来るわけないじゃない)
〔じゃから主は出来んことを成しておると言っておろうが。主の結界破りもそうじゃ、主は結界破りの法なぞ知らぬじゃろう。その魔法構造も理解しておらん。なのに主は結界破りをしてみせる。つまりじゃ、主は魔法過程をすっとばして『結果』得ておるんじゃよ〕
(それこそ、あり得ないよ。『原因』があって『結果』がある。因果則こそ、この世の根本原理だよ?)
〔その通りじゃ、主のやっとることに『原因』はある、ないのは『過程』じゃ、いや『過程』もあるんじゃろうがな。我にも認識出来んほどの異形なもの、主が固有に持つ独特の魔法過程が。それが他の者からすれば、『過程』が少なく見えるというわけじゃ。前に我が言うたことを覚えておるか?〕
ユーシーズには幾多の助言や忠告を受けている身であったがエディにも今彼女が言わんとしていることは察しがついた。
(私の魔法は私だけのもの。みたいな感じだっけ……)
〔そうじゃ、主が無意識に使っている魔術過程と、意識的に使おうとしている呪言魔法の魔術過程との齟齬。それが主が魔法を上手く使えん理由じゃ〕
(なんなのよ、それ。私は単に普通に魔法が使いたいだけなのに……)
〔普通のぅ。いつぞやもそんな話をしたかの。普通でないのが魔法で普通の魔法なんてあり得ないはずじゃった〕
(でも、普通の魔法がある現代の魔道は歪んでいる。だっけ?)
〔ほう、主にしてはよく覚えておったな〕
(馬鹿にしなっ……、もういい、私よくわかんない。私がどうしたら魔法使いになれるのか、これから何をしたらいいのかも……)
〔我は人に道を説く立場にないからの。ただ、これだけは言うておく、『霊視』を使わないでいられるようにだけはしておくんじゃな〕
(『霊視』を?)
〔先程言うたが、主は無意識に『霊視』を使い続けておる。周りの者は、その魔術過程が読めぬので、主が常に『霊視』を使っていることに気付いておらぬ。だから止めぬのじゃろう〕
(『霊視』を使うのがまるで悪いみたいに言うんだねユーシーズは)
〔一時使うなら、魔道の者として責められるべきことではない。じゃが、主は常に使い続けておる。主は『魔法』を常に使っておるのじゃぞ。その意味がわからんでか?〕
(だって、私……)
だって、何だというのだろう。何をこの魔女に伝えたいのだろう。エディには自分の心中ですらわからないのに、幽体の魔女に返す言葉が見付かるはずがない。
今にも泣き出しそうなエディに、ユーシーズは困った顔をした。実際には出ない溜息を吐いてユーシーズはエディの頭に手をやる。
〔そして、我の声も聴くべきではないのじゃ……〕
幽体の手は実体たるエディの頭に触れたのだろうか。エディにはその指先の優しさを感じることができた。
〔こうして我と『念話』をするのも、主が無意識に『念話』の法を使っているからじゃ。無論、世にはそのように『霊視』や『念話』を無意識に使う輩はいる。しかし、主は度が過ぎる。全ての心言を幽界に届け、目を開けばいつでも幽界を視る。それでは身が持たん。その自覚がないのが一番厄介じゃな〕
エディ自身単なる落ちこぼれと思っていた。それが異能があると言われて急激に変わるわけでもない。第一、その異能が本当にその身に備わっているのかすら実感がない。それなのに自覚を持てといわれても、息苦しさしか感じられない。
「お嬢さん、苦しいのですか?」
エディがあまりに顔を歪めていたからであろう。ドルイドの大男が声をかけてきた。ユーシーズと話しをするために、傍目には黙り込んでいたエディが苦渋の顔をしているので不審に思ったのだろう。
「えっ、あ、……はい」
敵であるダイ・ゴーインに気遣われ、エディは慌てて答えた。しばらく休んでいたお陰か、ユーシーズに頭痛い苦言をされていた所為か、倒れかけたのが嘘のように、もう意識ははっきりとしている。
「あなたまだ学徒の身、このような事態で疲労困憊となるのも当然ですな、小生のように日頃から肉体を鍛えておれば別ですがな、HAHAHAHA!」
別段、馬鹿にされたわけでもないのだが、やはり魔法使いとしては一人前扱いはしてもらえないのが少し悲しかった。しかし、ユーシーズから、自分の異常性を聞いたあとでは、そんなことは些細なことでしかなかった。
説明 | ||
魔法使いとなるべく魔法学園に通う少女エディの物語。 その第四章の15 |
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