真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第六話・後編 |
「さて、何がどうして、輝里、徐元直に恨まれているのか、話してもらいましょうか、劉伯安殿」
幽州軍の天幕内にて、その場にいる一同の視線が、中央に正座する男、幽州の牧・劉虞伯安に集まる。
「わ、わしは別になにもしておらん!あの娘の母親をちょっとばかり、口説いただけじゃ」
「徐苑さんを?」
「・・・母御のこともご存知で?」
なぜか一刀をじと目で見る愛紗。
「う、うん。輝里は洛陽での私塾時代の後輩だったんだ。お母さんにも、みんなでお世話になった。な、桃香、白蓮」
「そうだな。しかし輝里か。そういえば、あいつはやけに一刀になついていたな」
「そうだったね。いっつも、カズくん、カズくん、って後ろをついてまわってたっけ」
懐かしそうな表情の白蓮と、じと目で一刀をにらむ桃香。
(桃香おねえちゃん、目が怖いのだ)
(嫉妬の女帝はけんざいか)
「そういえば、輝里は私塾に入って一年程度で退塾したけど。・・・まさか?」
ぎろりと、劉虞をにらむ一刀。
「し、知らん!!わしはただ」
「ただ?」
「苑殿に一言言うただけじゃ。娘御は可愛い盛りだの、と」
「・・・情けないな、同じ漢王室の血を引くものとしては」
はあ〜〜、と深いため息をつく一刀。
「でも、私塾を辞めることになったぐらいで、ここまで恨むものかな?」
疑問を口にする桃香。
その言葉を聞いて、ビクッ!!と、体を震わす劉虞。
「まだ何かあるのか?」
「・・・何もない!何もないぞ!!苑殿が勝手に首を吊っただけじゃ!!わしは何も『ドガッ!!』はがあっ!!」
一刀のこぶしを食らって吹っ飛ぶ劉虞。
「この腐れ外道が」
「一刀、気持ちはわかるが、殺すなよ」
一刀を抑える白蓮。
「・・・わかってるさ。さて、輝里がこの馬鹿を恨む理由はわかった。で、これからどうするかなんだけど、愛紗、斥候は?」
「戻っています。周囲に伏兵などは見当たらないそうです」
「周辺の邑に被害は?」
「ないそうです」
「そうか」
「どうする、劉翔」
華雄の問いに、一刀は
「こいつの首を輝里にわたせば事は簡単だけど、こんなのでも一応州の牧だ。きちんと法に則った上で裁くべきだろ」
「じゃあ、どうするのだ?」
鈴々が丈八蛇矛を背に、一刀に問いかける。
「正面突破は下策も下策だしな」
「・・・へ〜〜〜〜」
華雄の発言に、感心した表情を向ける白蓮。
「何だ白蓮、その顔は?」
「いや!べつになんでも!!」
「・・・それで、どうしますか、義兄うえ?」
愛紗の言に一刀は。
「・・・・・・・・・一寸、話してみたいな、輝里と」
それからしばらくして、日没間近の城門前。
五千の兵をともなって、城から出てきた輝里と、縛り上げて猿轡をかました劉虞をつれた一刀が、対峙していた。
「輝里!要求どおり、こいつは引き渡す!」
「・・・わたしは首を差し出せ、と言った筈だけど?」
「徐苑さんの仇なんだろう?なら、君のその手で首を取ればいい。俺たちは邪魔はしない」
そう言って、劉虞を連れて輝里の方へと近づく一刀。
「むーーー!!むむーーーー!!」
声にならない声を上げる劉虞。
その劉虞に、剣を向ける輝里。
「な、輝里。少しだけ、話を聞いていいかな?」
「・・・なに?時間稼ぎ?」
「違うよ。・・・なあ、輝里。こいつを斬ってから、お前はどうする気だ?」
「・・・・・」
「こんなのでも一応は幽州の牧だ。そして俺たちは、その下にいる者として、お前を捕らえるか、討たざるを得なくなる」
無言のまま、微動だにしない輝里。
「そんな悲しいことを俺たちにさせるのか?一年あまりとはいえ、兄妹の様に過ごした俺や、桃香、白蓮に」
「・・・ならどうしろって言うの?法にでも任せろと?ふざけないでよ!!母さんが死んだ時、その法に守られたのはこいつの方だった!!何の罪にも問われず、それどころか、ぬけぬけと州牧になんかなって、ぬくぬくと生きてんのよ!!」
早口でまくし立てる輝里。
その目に涙が滲み出す。
「母さんが死んだ後、わたしは親戚中をたらいまわしにされた!!厄介者としてね!!最後は危うく野たれ死ぬとこだった!!森の中に捨てられてね!!」
「輝里・・・」
「輝里ちゃん・・・」
誰もかも、何も答えられずにいた。今までの鬱憤を晴らすかのような、輝里の悲痛な叫びに。
「・・・もしあの時、水鏡先生たちに出会わなければ、確実に母さんのところに行ってた。・・・先生のところで生活しながらも、こいつの事だけは、けしてわすれなかった。いつかこの手でこいつを殺す、それだけが私の生きている意味だった。・・・なのに」
顔を上げ、大粒の涙を流しながら、一刀たちを見やる輝里。
「なのになんで!!カズくんも!とうかちゃんも!白蓮姉ェも!!何でそれを崩そうとするの!!何で私なんかを気遣ってくれるの!!」
「・・・大切な妹、だからな」
「!!」
「そうだよ。輝里ちゃんは、私たちの大事な妹だよ。昔も、今も」
「そうさ。ここにいない、華琳や麗羽、蓮華だって、そう思ってるさ。みんな、お前を大事な妹だと、思っているさ」
一刀に次いで、桃香と白蓮が、口をそろえて、輝里を諭す。
「う、う、う、う、うあああああああっっっ!!!!!!!!」
叫びながら、輝里が剣を振りあげ、そして、劉虞に思い切り、振り下ろす。
「「「「!!!!!」」」」
ザシッ!!
と、その剣は劉虞ではなく、横の地面を穿った。
「輝里・・・」
「カズくん・・・とうかちゃん・・・白蓮姉ェ・・・。私、わた、し、うわあああああああん!!」
からん、と。輝里がその手に持っていた剣が落ちる。
そして、輝里は一刀にしがみついて泣きじゃくる。
「つらかったな・・・。うん、好きなだけ泣いていいよ」
「ふえええええええええん!!!!」
「よかった・・・輝里ちゃん」
「・・・やきもち焼かないのか?」
「・・・私だって空気ぐらい読みます」
「くくく」
「なによー。白蓮ちゃんの意地悪」
空気が和みつつある。
そのときだった。
「ぎやあああああああ!!!!」
「「「「!!!!」」」」
突然に響く、劉虞の悲鳴。
振り向いた一刀たちが見たのは、巨大な長刀で体を切り裂かれた劉虞と、
そのそばに立つ一人の男。
一刀たちは、その顔に見覚えがあった。
「お、おまえ!!どうしてここにいる!!」
白蓮の問いに、男は憎憎しげに答える。
「・・・どうして、だ?ふん、牢を破ってに決まってるだろうが。この馬鹿が」
その形相は、かつて一刀たちが見た男のものとは程遠く、歪んでいた。
かつて、桃香の名をかたり、愛紗たちを騙し、そして、白蓮によって、北平に投獄されているはずの、その男。
「・・・しぶとさだけは一流だな、え?このななし野郎」
日はもうすぐ暮れようとしていた。
あとがき。
さて、七話改め、六話の後編です。
台詞ばっかりで疲れた。
輝里の過去を中心に話を進めました。
いかがでしたでしょうか。
「ていうか作者、もうひとつは進める気ないの?」
あれ、輝里。
「あれ、輝里。じゃないわよ。躑躅さんも由も、そうとう暇もてあましてたけど」
当分未定。二人にはうまく言っといて。そのうちこっちで出番があるから。
「・・・ほんとーに?」
・・・たぶんね。
さて、最後の最後に悪役が一名復活。
憎まれっ子世にはばかる、ってやつです。
その目的は何か。
次回それが明らかに。
ではまた次回、第七話にて。
コメントお待ちしてます。
それでは。
「再見〜」
説明 | ||
刀香譚更新です。 前回のあとがきで、今回を七話にすると書きましたが、 つながり的に後編としました。 前回のは前編とします。 では、どうぞ。 |
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コメント | ||
ななし しぶといなーー(グロリアス) リョウ流さま、そうなる前に、ってことです。(狭乃 狼) 睦月 ひとしさま、ホント楽しみ・・・ヒヒヒ。(狭乃 狼) 神龍白夜さま、どんな殺りかたにしましょうかねww(狭乃 狼) さて、次回が楽しみですなぁ。フフフフフ・・・。(睦月 ひとし) 名無し野郎、まだいたのかww殺しちまえ一刀ww(リンドウ) hokuhinさま、言われてみればそうですね。ぜんぜん気なしでした。(狭乃 狼) 砂のお城様、あとそこにかゆうまも入れてくださいwww(狭乃 狼) 劉虞さん、あなたが曹操の役割をやっちゃったか(狙いは母親のほうだったが)・・・ しかももう出番終わったと思った偽者が出てきて驚きました。次回も楽しみにしてます。(hokuhin) 2828さま、そのために出しましたから。クックック。(狭乃 狼) gemさま、小悪党は救いようがないです。てか救う気ありませんww輝里は助けますよ。理由もちゃんと考えてあります。(狭乃 狼) 名無しを討伐する理由はできたなw(2828) 更新お疲れ様です。大事な後輩だからこそ同じ首を刎ねるにしろ、法に則るのがベターでしょうね。それを子悪党に邪魔されたようですが、討伐の口実を与えましたね。復讐は完遂出来なくともどちらの悪党も首が刎ねられるようで何より。では、次回更新を楽しみにしています。(gem) 紫電さま、すっきりする殺りかたをカンガエチュウデスヨwwクス。(狭乃 狼) はりまえさま、いいネーミングですなwwwしかも真名www(狭乃 狼) いっそのこと、なまえゴンベイでいいんでない?、真名で(黄昏☆ハリマエ) sink6さま、ふさわしい裁きは次回で。ククククク、ドウシテクレヨウカwww.(狭乃 狼) またでたか偽者いや名無しwとっとと裁かれてしまえw(sink6) |
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