雲の向こう、君に会いに-魏伝- 一章 |
「やらないか?」
「・・・は?」
成都から帰ってしばらくしたある日
朝一番、玉座の間に響く声
私の肩を掴み、真剣な表情でそう言ったのは彼
天の御遣いこと、北郷一刀
「やろう、華琳」
再び、先ほどと同じように言う彼
瞬間・・・場が静まりかえった
そんな中、私は彼に向かい微笑む
彼も・・・一刀もまた、微笑んだ
「一刀・・・」
「華琳・・・」
交わる視線
そして・・・高々と掲げられる【絶】
「朝早くから随分とお盛んなようね・・・この種馬ああぁぁ!!!」
「え!?あ、ちょっ・・ちが・・・・!!?」
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》
一章 証
「す・・・すいません、言葉が足りませんでした」
ボロボロになった一刀が、私に向かって頭を下げる
その様子を皆、冷ややかな目で見ていた
私はそんな一刀に対し、深い溜め息をついた
「で、結局貴方は何が言いたかったのかしら?」
「ああ、実はちょっと皆でやりたいことがあってさ」
「皆で、何を?」
私の言葉
彼はニッと笑い、両手を広げる
「戦いが終わった記念にさ、こう・・・何か思い出になるようなことをだよ!」
「あら、それならば蜀で宴をやったじゃない」
「それは三国の皆でだろ?
そうじゃなくってさ、俺達だけで何かやりたいなって」
「私たち、魏の者達だけでってことかしら?」
『その通り』と、一刀は笑う
その言葉に、集まっていた者達のうち何人かが目を輝かせているのが見えた
「俺達だけで、たとえばほら・・・『秋蘭はどこまで春蘭のことを「姉者は可愛いなぁ」で許せるのか』とか
『凪の目の前から俺が急にいなくなって焦る凪は、いったいどれくらい泣かずにいられるか』とか」
「隊長! 何を言ってるんですか!?」
「あら、それは面白そうね」
「華琳様!?」
顔を真っ赤にしたまま、凪が声をあげる
そんな凪の姿に癒されつつ、私は一刀へと視線を向ける
「でも、そこまで言うってことは一刀・・・貴方、何をやるかは決めているんでしょうね?」
「当然! 勿論、きっと華琳も喜んでくれるはずだよ」
「そ、そう・・・」
笑う一刀から、私は慌てて視線を外す
顔が、少し熱い
「華琳、どうかしたのか?」
「べ、別に何もないわ」
自覚がないのかしら・・・こういう時の一刀の笑顔は、はっきり言って反則だ
本人には絶対に言わないけど
「おい、本当に大丈夫か?」
「大丈夫よ!
貴方こそ、さっきからずっと胸をおさえているようだけど・・・どうかしたの?」
「えっ・・・っ!」
恥ずかしさから逃げるため、私は一刀の胸を指差す
彼は・・・その言葉で気づいたのか、慌てて手を胸元から離した
その慌てように、私を含む何人かが首を傾げる
「北郷、どうかしたのか?」
私の隣にいた秋蘭が、その様子を見かね声をかける
一刀は・・・笑顔で首を横に振った
「大丈夫・・・何ともないよ」
その笑顔がとても儚げに見えた気がしたのは・・・きっと、私の気のせいよね?
「そういうわけで、休みが欲しい」
「死んでしまえこの全身精液男、略して液男」
「そこをなんとか! お願いします桂花タン!」
「いやよ、死になさいよ! っていうか気持ち悪い呼び方しないでよ、妊娠するでしょ!?」
「子供の名前、考えとかないとな」
「いやーーーー!! 殺す!! アンタの子供なんて産むくらいなら、アンタを殺して私も死んでやるーーー!!!」
「桂花は男の子と女の子、どっちがいい?
あ、もしかして今はやりの『男の娘』?」
「そんなの女の子に決まってるじゃない
いやでも待って、男の娘っていうのもいいかも・・・って、ちっがああぁぁぁう!!!!
誰が!!!アンタとの子供なんて産むわけないでしょうが!!!!!!」
あれから少しして、一刀が言った言葉
休みが欲しい
その言葉を、筆頭軍師である桂花が切り捨てた
それから、二人はずっとこんな感じで言い合っていた
まったく・・・相変わらずね、この二人は
「二人とも、一度落ち着きなさい」
ピタリと、私の言葉で二人が言い合いを止める
もっとも、桂花のほうは未だ何か言いたそうに一刀を睨んでいたが
「まったく、二人ともいい加減仲良くできないの?」
「何を言ってるんだ華琳、俺と桂花はいつだって仲良しだぞ?
今だってあれだ、ちょっと桂花がじゃれてきただけだよ
今ちょうど発情期だから、いつもより余計にじゃれてくるんだよ」
「人を動物みたいに言うな、この全身性器男!!!」
「ほらな?」
何が『ほらな?』よ
ますます桂花を怒らせてるじゃない
・・・っと、このままだと話が進まないわね
「一刀、どうして休みが欲しいの?」
「何でって、準備があるんだよ
真桜にも作ってもらいたい物とかのことも考えたいし」
準備・・・とはきっと、さっきまで言っていたことの準備だろう
真桜まで使おうということは、けっこう大変な準備なのだろう
だけど、それだけで休みをあげられるかというと『否』だ
「貴方、警邏の仕事はどうするつもりなの?
貴方は一応隊長なんだから、何日も休んでなんてられないでしょう?」
「ああ、それなら大丈夫
ちゃんと考えてるよ」
そう言って、一刀は笑う
それから、歩き出し・・・
「た、隊長!?」
凪の手をとった
そして一言
「凪、今日から君が警邏隊の隊長だ!」
「は、はい・・・って、ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
玉座の間
凪の叫び声が響いていった
「す、すいません・・・また言葉が足りなかったみたいで」
再び、ボロボロになった一刀
今度はその場に座りながら頭を下げる、『土下座』という姿勢のまま私の前にいる
「まったく・・・で、今度はどういうことなのかしら?」
「ああ、凪を隊長にっていうのは・・・まぁ簡単に言えば、隊長代理ってことかな」
「代理、ですか?」
凪の言葉に、一刀が頷く
「これからは戦いもない、平和な時代になっていく
そんな今こそ、俺の持つ『天の知識』が活かされていくと思うんだ」
「確かにお兄さんの言うとおりですね〜」
一刀の話に、風は同意するよう頷いた
その隣で、稟が眼鏡をあげ頷く
「確かに・・・これからが、一刀殿の天の知識が活かされる時期でしょう」
「だろ?
だったら当然、俺は警邏隊に付っきりにはなれなくなる
何日か出れない日とかもあるかもしれない
そのために凪、君に俺の代理を任せたいんだ」
なるほど、確かに一刀の言うとおりだ
これからのことを考えると、確かに一刀の代理は必要になるだろう
そしてそれは、凪が適任というわけね
珍しく、考えているじゃない
「し、しかし私に勤まるでしょうか?」
「大丈夫、むしろ凪にしか出来ないことだよ
あんまし大きい声じゃ言えないけど!?あとの二人は警邏をサボって、たまにどっかブラブラとしてるらしいし!!?」
「うぐっ・・・隊長、ばっちし聞こえてんねんけど」
「ああ、別に今言わなくても・・・周りの視線が痛いの〜」
真桜と沙和に集まる視線
そんな二人を見て、一刀は溜め息をついていた
「自業自得だ
とにかく、凪・・・やってくれるな?」
「は、はい!! 隊長の期待に応えられるよう頑張ります!!」
「よし、その意気だ凪!!」
「はい!!」
ガッチリと握手をする二人
本当にこの二人は、桂花とは別の意味で相変わらずだ
ちょっとだけ・・・凪が羨ましいと思ってしまったのは、一時の気の迷いか何かだと思いたい
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それから数日してからだった
一刀から、『準備が出来た』と言われたのは
「あ・・・」
呼び出された場所
私達は、そこで・・・言葉を失ってしまう
その、あまりの美しさに
「これは・・・『桃』の花?」
「いや、違うみたいだぞ姉者
しかもこれは・・・」
辺り一面に広がる、『桃色』の美しい花
それは桃の花によく似ているが、どこか違う
「『桜』っていうんだ」
そんな中、私達を呼び出した張本人・・・一刀が歩いてきた
優しげに微笑みながら
舞い踊る、花びらの中を・・・ゆっくりと
その姿に、不覚にも胸が高鳴ってしまう
私だけじゃない
呼び出されたものは皆、頬を微かに赤くさせていた
「まぁ、実は作り物なんだけどね
本当は本物がよかったんだけど、こっちにはないみたいだったから
それでも、良く出来てるだろ?」
「ええ、とても美しいわ」
私の言葉に、一刀は『よかった』と笑う
それから、深く・・・頭を下げる
「ようこそ、お嬢様方
さぁ、こちらへどうぞ」
そう言って、一刀は私の手を取る
微笑む彼はそのまま、すっと指を差す
そこには、いくつもの椅子が並べられていた
「まずは皆、そこに座ってくれないかな
真桜、準備のほうは出来てるか?」
「バッチシや!
ウチにかかればこんなもん、屁でもないで」
一刀の後ろから、スッと真桜が姿を現す
その手に、見慣れないモノを持ちながら・・・
「それは・・・?」
「これは『カメラ』って言ってさ、簡単に言うと皆の姿を絵よりも正確に写し出すモノかな」
「なんと!?
それはすごいな!」
春蘭が驚きの声をあげた
勿論、内心では私も驚いている
あんな小さな箱が、そんなにすごいなんて
流石は天ね
「で、これを使ってみんなで写真・・・まぁ絵よりも正確なものをとろうってことさ」
「わぁ、いいねそれ♪」
「ちぃの可愛いとこもちゃんと残るんでしょ?」
「姉さん達、ちょっとはしゃぎすぎ」
天和、地和の二人をなだめる人和
そのすぐ傍では、霞が桜を見つめながらニヤニヤとしていた
「あ〜なんやこの花を見とると、酒が飲みたくなるなぁ」
「ああ〜、まぁそれはわかるかも
俺の国では毎年、桜を見ながら酒を飲むのが習慣みたいになっててさ
まぁ霞ならそういうと思って、お酒なら向こうに準備してあるよ」
「ほんまに!?」
「兄ちゃん、ご飯は!?」
「ははっ・・・季衣、もちろん美味しい料理も準備してる
ただし、皆で写真を撮った後にだぞ?」
「やったよ、流琉!」
「よかったね季衣」
二人の姿に、一刀は笑顔だった
「喜んでもらえてなによりだ・・・さ、早く写真を撮るから皆座ってくれ」
パンパンと手を叩き言う一刀の言葉に、皆が従う
私は中央に、その両後ろに春蘭と秋蘭が
春蘭の隣に季衣、秋蘭の隣には流流が
私の右隣に桂花
その隣に稟と風が並び
私の左隣をひとつ空け、凪が座る
その左側に沙和、真桜
その後ろに天和、地和、人和が
そして・・・
「よっし、タイマーセット・・・と」
空いた私の左側に座る、彼・・・一刀
一刀は座ると、私の顔を見つめる
それから、フッと微笑んだ
「どうかな?
良い思い出になりそう?」
「さぁ、どうかしらね」
「はは、手厳しいな」
からかうよう、私は言う
その言葉に、一刀は苦笑していた
相変わらず、一刀は鈍感ね
嬉しくないわけがないじゃない・・・まったく
「それじゃ、皆笑ってくれ!
俺達の、今日という日を祝って!!」
一刀は笑う
その笑顔につられ、皆も笑った
あの桂花でさえも・・・微かだが、笑っていた
パシャ!!
写し出されたのは、たくさんの笑顔
幸せな日々の象徴
私達がここにいる、その【証】
私達が皆で撮った、初めての写真・・・
最初で・・・最後の写真
あとがき
皆さんの予想以上の声に押され、とりあえず続きを書いてみました
どうでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか
キャラごとの細かい絡みなどは、これからのお話で少しずつ書いていきます
順番はまだ決めていませんが
とりあえずは、三羽鳥か夏侯姉妹を予定していますが・・・どっちが先かも、まだ決まっていません
少しでも楽しんでいただけたなら、ボクとしても嬉しい限りです
それでは、またお会いしましょうww
説明 | ||
皆様の声に応え、とりあえず続きを書きました 今回はちょっとコメディなどを織り交ぜつつ書いています 駄文ながらも、皆様に楽しんでいただければと思い投稿いたします それでは、お楽しみください |
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コメント | ||
相変わらずの凪がいい(透月) (泣)(readman ) 一刀の普段以上の天然が笑える。と、同時に内心を想うと何とも言えず胸が痛い;(深緑) 地味に胸にくる(BX2) kureiさん<当たり前の幸せなんかを、上手く画けたらいいなと思い書いてみました(月千一夜) 今のこの幸福感が後々効いてきそうです(うдT)(kurei) シュレディンガーの猫さん<ありがとうございます、こっからは少しずつ・・・ゆっくりと物語が進んでいきますw(月千一夜) 砂のお城さん<応援ありがとうございますw桜の花は綺麗だけど、なんだか切なくなりますよね(月千一夜) Kanadeさん<できれば、気長にゆっくりと待っていただければ嬉しいですw(月千一夜) KU−さん<ありがとうございますwぼちぼち更新していきますんでw(月千一夜) めっちゃ続きが気になります、でも悲しい話なのが・・・少し切ないなぁ〜(シュレディンガーの猫) とりあえず続きを待ちます(kanade) 何気に続きが気になる(KU−) |
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