真・恋姫無双 EP.24 集結編 |
袁紹に敗れた公孫賛は、馬車の上で骨の折れた足を労るように撫でていた。二人乗りの小さな馬車で、不自由な体で旅をするために購入したのだ。
「何だか悪かったな。せっかく、仕官してくれたのにさ」
「なに、構いませぬ」
そう言って笑ったのは、手綱を握る趙雲だった。袁紹との戦いの際、落馬して足の骨を折った公孫賛を助け逃げてきたのである。どこか安全な場所まで運んで、別れるつもりだった。仕官したとはいえ、それほどの義理もない。だが、城から逃げて来た公孫賛の従者と合流した時、状況は変わった。
「それよりも公孫賛殿、約束は憶えておりますかな?」
「わかっている。家宝として伝わるアレが欲しいのだろう? 従者が気を利かせて持ってきたようだが、正直、私は興味がないんだ」
「あの『仮面』のすばらしさがわからぬとは……だがまあ、そのおかげで手に入れることが出来るのだから、文句は言いますまい」
肩をすくめた公孫賛は、流れる雲を眺めた。
「馬で自由に走り回れるのは、いつになるかなあ……」
「そのために、噂に聞く治癒術師の元へ向かっているのでしょう?」
「ああ……」
ふと、気になって趙雲は訊ねてみた。
「足が治ったら、袁紹に奪われた領地を取り戻すのですか?」
「いや、そんな気はない。私は君主の器じゃないんだ。どうするかは、まだ決めてない」
「ふふふ、公孫賛らしい」
「……なあ、趙雲。私のことは白蓮と呼んでくれ」
「ふむ。ならば私のことは星と呼んでくだされ」
二人は顔を見合わせ、何となく笑った。馬車は、進む。
どうしても信じられなかった。しかし立ち寄った街で聞いた黄巾党の噂は、どれも悪いものばかりだ。
「どうして……」
一刀は、以前に出会った張三姉妹のことを思い出す。どうしてもその姿と、黄巾党の噂が結びつかない。皆が買い物に出かける中、一刀は一人で宿屋に閉じこもっていた。
月、詠、恋、音々音の四人は、これからの旅の準備をしている。ここまで、なるべく人に会わぬよう旅をしていたのだが、どうしても食料などをどこかで買い求めなければならない。毎回野宿というのも、女の子には辛いものがある。
だが、彼ら五人がぞろぞろと歩いていては目立ってしまう。そこで、幌馬車を購入することとなった。一刀を貴族の息子ということにして旅をすれば、大勢で居ても怪しまれないだろうと考えたのだ。
月と詠は、村を出てからも侍女服の姿だった。詠は反対したのだが、最終的に月が押し切ったのである。
「詠ちゃんとお揃いなら、うれしいな」
「うっ……」
二の句を告げず、詠は陥落した。
そんな理由もあり、一刀を貴族の息子にする案は採用されたのである。その裏工作というわけではなかったが、詠が宿屋の主人に相場の倍近い料金を払って言い含めてあった。幸い、月を洛陽から救出した後、必ず必要だろうと詠が自由に使えるお金は持ち出してきていたのだ。この五人で豪遊しても、一ヶ月は優に続けられるだけの蓄えはある。
「あんた、まだ部屋に閉じこもってたの?」
帰ってきた詠が、一人でしょぼくれている一刀を見て溜息を漏らす。
「なあ、俺やっぱり青州に行くよ」
「はあ? あんたわかってんの? あそこは今、黄巾党の本隊がいるって言われてて危険なんだから」
「だから確かめたいんだ。本当に黄巾党を率いているのが、俺の知っている張三姉妹なのか。もしかしたら、別の人間かも知れないし……」
「ボクが不思議なのは、どうしてあんたは正体不明の党首がその三姉妹だって思うわけなのかよ。そういう情報があったわけじゃないんでしょ?」
一刀は言葉に詰まった。確かに黄巾党の党首については、まったく知られていない。詠の疑問は当然だった。しかし一刀は、自分の不安の根拠を説明することは出来なかった。隠すことでもない気がするが、何となく今の状況でそれを言うのは憚られたのだ。
街に到着して、自分たちの風評を初めて知った。天の御遣いなどと言われる今、『未来を知っている』なんて取って付けたような言葉に思えた。
(それにもう、この世界は俺の知っている三国志じゃないしな……)
だからこそ、自分の目で確かめたい。一刀の決心は固く、結局、全員で青州を目指すこととなった。
居並ぶ部下たちを、華琳は玉座から見回した。
「内政は充実し、軍備も整ったわ。黄巾党に先日の借りを返そうと思うのだけれど、何か意見はないかしら?」
「黄巾党の本隊がいるという青州は、袁紹の領地です。そこへ攻め入った場合の袁紹の動きはもちろん、背後の袁術がどう動くかわかりません」
秋蘭が代表して、当然の疑問を口にする。それに頷いた華琳は、桂花に言った。
「桂花はどう考えるかしら?」
「はい。私は黄巾党を今、攻めるべきだと思います。そのための問題は秋蘭が言った通りですが、そのための策を考えました」
「聞かせてちょうだい」
「まず袁紹ですが、その本隊は長安にいます。袁紹は朝廷側と思われていましたが、その動きは必ずしも盲目に従うというわけではありません。洛陽周辺が通れないのは、袁紹も同じなはずです。こちらの動きを察しても、南下して遠回りする必要があるため、早めに決着をつけることで袁紹たちとの衝突は避けられます。また、河北四州に残っている兵力は多いですが、独裁的な袁紹軍では個別に動くとは思えません」
一度言葉を切った桂花は、呼吸を整えて再び話し始める。
「次に袁術ですが、あの者は領土拡大の野望もなく、この機に動くとはあまり考えられません。しかし後背の憂いを無くすために、策を用いて完全に動きを封じる必要があります。袁術の元には客将という名目で、孫策という人物がおります。彼女に働きかけ、袁術を抑えるのです」
「孫策……名は耳にしたことがあるわ。一族を守る為に、人質同然だとか」
「はい。だからこそ、袁術からの独立を考えてます。そこで今回、袁術を抑えてくれれば独立する戦いの際に力を貸す、あるいは邪魔をしないという約束をします」
その案に、春蘭が噛みついた。
「なぜわざわざ、敵を助けるようなマネをせねばならんのだ。それにそんな約束など、向こうが守るとも限らんではないか」
「袁術はバカだけど、その影響力は大きいのよ。でも孫策が独立すれば、袁術の領内は混乱する。独立後にこちらが攻めても、約束を反故にしたことにはならないのよ。それに孫策は約束を守るわ」
桂花には自信があった。孫策に会ったことはないが、彼女に仕える明命を知っている。明命の能力や人柄を考えれば、孫策がどういう人物か推察できた。
「いいわ。この件は桂花に任せましょう。まずは邪魔な黄巾党に退場してもらうわ。いいわね」
「御意!」
こうして、曹操軍は黄巾党討伐のための準備を開始したのだった。
義勇軍が行軍していた。皆、大切な者を殺されたものばかりだった。
「待って! 愛紗ちゃん、鈴々ちゃん!」
駆け寄った桃香の声に、先頭に居た二人が馬を止める。
「どうして……」
「申し訳ございません、桃香様。我々は桃香様のような癒しの力もなく、剣を振るうしか術を知らぬのです。黄巾党に苦しめられる人々を救うためには、これ以上、奴らをのさばらしておくわけには参らないのです」
「でもだからって、殺し合いなんて」
「今が好機なのです。曹操軍が、黄巾党本隊の討伐に動き出した今こそ、我々も動く時。私や鈴々も、世の中を平和にするために何かをしたいのです」
愛紗と鈴々の二人はずっと、桃香のそばで苦しんでいた。桃香は治癒術で人を助ける。でも自分たちには何ができるのか、常に悩んでいたのだ。
「愚かかも知れません。けれど、後悔はしない。私と鈴々は、そういう道を選んだのです」
「……わかったよ」
力なくうなだれ、桃香は言った。
「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん……」
だが次の瞬間、ガバッと顔を上げて強い決意の眼差しを見せた。
「私も行く! 二人と一緒に行くよ!」
「桃香様!」
「お姉ちゃん?」
桃香は駆け寄り、二人の手を取った。
「私は二人のそばにいる。そして戦いで傷付いたら、この治癒術で助けるよ」
「ですが――」
「自分の知らないところで、もしも二人が死んじゃったらって思うと、とても怖いの。だからお願い、そばにいさせて」
「桃香様……」
義姉の決意に、愛紗と鈴々は顔を見合わせて頷いた。
「死ぬときは、一緒です」
三人は手を重ね、誓いを新たにしたのだった。
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 黄巾党を中心に動き始める人々。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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コメント | ||
アンプレゼントさま、少女編の最後に迎えに来たのが春蘭です。(元素猫) む、春蘭はいつ合流できたのでせう?(アンプレゼント) さぁ、鍵が集まる時が・・・!(トッティ) 集まってきた〜(zendoukou) |
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