恋姫?夢想〜乱世に降り立つ漆黒の牙〜 第九話
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雪蓮はどうなっただろうか。

 

僕は今度こそ守ることができたのだろうか。守ることができたのなら、それは喜ばしいことだ。もう何も感じない、何も見えない、ということは、僕はもう駄目なのだろう。いや、この何もない、無の空間こそがあの世というものなのかもしれない。

 

…こんなことになって雪蓮は怒るだろうか、悲しむだろうか。いや、両方だろう。彼女はそう言う人間だ。蓮華は…シャオは…泣くんだろうな。明命は、思春は、冥琳は、亞莎は、祭さんはどうだろうか。穏はちょっと想像できないな。

 

しかし、自分の役目もここでどうやら終わりのようだ。折角だから最後まで見届けたかったのだが、ようやく、自分もレーヴェや姉さんのところへ行けるのだろう。

 

 

 

「…まだここに来るのは早いわ、ヨシュア」

 

…姉さん?

 

「まだここに来るのは早いわ。貴方にはやるべきことがある。守らなければいけない人たちがいる。そうでしょう?それに、こっちに来てもレーヴェはいないわよ。彼も、取られちゃった」

 

さっきまで暗闇だった場所に現れたのは自分の姉で、全く姿が変わっていなかった。しかし、レーヴェも取られたというのはどういうことだろうか?

 

「レーヴェも、まだやることがあったみたい。だから、こっちにはいないわ。彼も自分のやるべきことを見つけて、前に進んでいる。私はそれが嬉しいわ。彼の心が別の女の子たちに向いてきているのは、少し妬けるけど。私はレーヴェが全てを終えるまで待っているつもりだから、ヨシュアも、ね?」

 

「それに、あの変態教授がいるんでしょ?それならヨシュアがぶっ飛ばしてやらないと」

 

エステル?どうして君が?

 

姉の隣に、今度は最愛の少女が、自分を解放してくれたときの背格好で現れた。

 

「…ヨシュアがいなくなってから三年くらい後に私も…ね。それはともかく、あの教授が生きているのなら、絶対ろくなことはしないわよ!それこそ、ヨシュアみたいな子供がたくさん出来てしまうかもしれない。それに、今度こそ、ヨシュア自身の手で、決着をつけなさい!前はケビンさんが全ての片をつけたみたいだけど、今度はあんたの番よ!私の夫でしょ?それに、ここで終わったら、子供たちに示しがつかないでしょ?」

 

ああ、そうだね。君には勇気づけられてばかりだ。それに、父親としては子供たちにかっこわるいところはみせられないね。

 

「そうよ!…きちんと決着をつけたら…あの女の子たちとのことも…まぁ、許してあげるわ。その代わり、あの子たちを幸せにすること!いいわね?それと…私のことも忘れないで」

 

全く…君って子は…。それに、君のことを忘れることなんてできっこないよ。僕にとって、君はいつでも太陽だから。

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そして今度は随分昔に別れた仲間の声が響いた。

 

「ヨシュア、間違ってもあんなやつに負けるんじゃねえぞ。あいつ程度軽くぶっとばしてこい!」

 

「ヨシュア、今のお前の腕なら教授ごとき相手ではない。その場に留まっている教授と、先に進んだお前、どちらが上かなど、言わなくても分かるだろう?」

 

アガットさん、ジンさんまで…。

 

「ヨシュアさん、あなたのことは多くの人がいつも見守っているのを、忘れないでください」

 

「そうだよ、マイハニー。君は決して一人じゃないんだから、胸を張って、そして自信をもって行きたまえ」

 

クローゼ、オリビエさん…。…マイハニーはやめてください。

 

「さ、そろそろ行きなさい。あまり女の子を待たせるんじゃないわよ、天の御使い様?」

 

…シェラザードさん、楽しんでますよね、僕の状況。でもそうですね、僕にはまだやらなければいけないことはたくさんある。だから、戻らないと。

 

「そう、なら行ってきなさい。あ、そうだ、あの周瑜って人の体調、ちゃんと気にかけてあげなさい。片方を救ったんなら、もう片方も、ね?」

 

…?エステルの言っていることはよくわからないけど、まぁ、わかったよ。じゃあ、行ってくるよ。

 

「「「「いってらっしゃい」」」」

 

いってきます。今度は、みんなで会いにくるよ。そうしたら、エステルたちのことも紹介できるね。

 

「いったわね」

 

「うん、いったみたい」

 

「ったく、簡単に諦めてんじゃねえよ」

 

「まぁ、そういってやるな」

 

「ふふ、でも若いヨシュアさんを久しぶりに見れて良かったです」

 

「そうだね、僕も「あ、そういえばクローゼ。前、ヨシュアが城に泊まった時、本当に何もなかったの?」…エステル君、僕のセリフを遮らないでくれたまえよ…」

 

「ふふ、どうでしょう?秘密です」

 

「ちょ、ちょっとクローゼ!?」

 

「相変わらずね…。…先生、何も言わなくてよろしかったんですか?」

 

「ああ、あいつもいい大人だ。もう私が何か助言してやる必要もないだろう」

 

「そう言って、恥ずかしいだけですよね、あなた?」

 

「む…それを言わないでくれよ、レナ」

 

「それはともかく、自分らはもう少し、彼のことを見守るとしようか?剣帝の兄ちゃんと一緒に」

 

「あれ、ケビンさんいたの?」

 

「ちょ、エステルちゃん冗談きついわ」

 

「言われて当然、さっきまで何も言わなかったんだから。私もだけど」

 

さっきまで暗闇だと思っていた場所は、随分と明るくなり、多くの人間が、談笑していた。彼女たちは、暖かな目で、自分たちの家族を、仲間を見守っていた。

 

「あ〜、遅かった!エステルたちだけずるいわ!ヨシュアと話しするなんて!」

 

「仕方ないよ、レンちゃん。アガットさん、ただいま」

 

「ああ、おかえり。ティータ」

 

「それを言ったら、長生きしすぎた私は…姫様はともかく、エステルなんかよりも長生きするとは思わなかったなぁ。あ〜あ、私もヨシュアに会いたかったなぁ」

 

「また、賑やかになってきたわね」

 

「そうですね、お義姉さん」

 

エステルとカリンはお互い顔を見合わせて笑っていた。お互いに愛しい家族のことを想いながら。

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目を開けると、そこは既に見慣れた天井だった。まだ、朝も早いようだ。一体、どのくらい眠っていたのかは分からないが、体の調子を見る限り、それなりに長い間眠っていたようだ。そして起き上がると、寝台のすぐ傍に、雪蓮と蓮華が並んで眠っていた。恐らく、看病をしてくれていたのだろう。その顔には疲労が見えていて、随分心配をかけたのが分かった。

 

 

「…そうだね、彼女たちを幸せにしないと、エステルに怒られてしまう。姉さんにもかな?」

 

ヨシュアはそう呟いて、雪蓮と蓮華の頭に手を伸ばし、二人の髪を丁寧に梳いた。…シャオがいないのはなぜだろうか?この二人がいるのなら、シャオも当然いると思ったのだが。

 

「ん…」

 

髪を梳かれる感覚で目を覚ましたのだろう、雪蓮と蓮華は目を覚まし、寝ぼけ眼でヨシュアを見上げている。

 

「おはよう、雪蓮、蓮華」

 

ヨシュアがそう声をかけると、二人の目にみるみるうちに涙がたまっていく。動揺したのも束の間、泣き声をあげて雪蓮が抱きついてきた。

 

「よかった…よかった…もう目を覚まさないのかと…ヨシュアが倒れてから二週間、華佗がもう大丈夫だっていうのに…全然目を覚まさないから…」

 

声こそ上げていないが、蓮華も涙を流して頷いている。二週間、随分と眠っていたようだ。この分だと他の人にも随分心配をかけたに違いない。

 

「…もう大丈夫だよ。あの世、かな?そこにいた、昔の仲間や大事な人たちに怒られたよ。まだやるべきことがあるだろう、って。だから、大丈夫。僕にはやらなければいけないことがまだたくさんあるってことを再確認したから。それに、きちんと決着もつけないと」

 

そう言って、雪蓮の体をそっと離し、その涙を拭ってやる。そして、今度は蓮華を呼び寄せて抱きしめる。いつの日か、エステルが自分にしてくれたように。

 

「よかった…目を覚ましてくれて」

 

蓮華が本当に安心したようにこちらに体重を預けてくる。そのとき、恐らく外で待機していたのだろう、思春が、他の仲間を連れて部屋に入ってきた。

 

 

 

その後は、分かる通り、皆にもみくちゃにされ、心配をかけたことを涙ながらに怒られ、そして雪蓮を守ったこと、そして無事に目を覚ましたことを褒められた。まぁ、祭さんには鍛え方が足りん、などと言われたが、流石にレーヴェすらも戦闘不能に追いつめるような電撃の直撃をくらったのだから、そこは勘弁してほしいところだった。

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それから二日後、華佗のお墨付きももらい、寝台からでる許可をヨシュアがもらったので、これからのことをもう一度再確認することになった。今回は曹操が自分の兵の把握を怠ったことでこのような事件が起きたということで、それに責任を感じ、兵を退いてくれたのだが、またいつ攻めてくるかどうかも分からない。それに、今回は同盟国である蜀となんらかの協力を得る暇もないうちに攻め込まれたということも問題だった。

 

 

蜀の劉備からは、見舞いの使者がすぐに駆けつけたのだが、それでもなんの連携も取ることができなかったのは事実だった。そこも問題点の一つだった。

 

 

そして、これからは南下するということをヨシュアに告げる。これはヨシュアが眠っている間に決めていたことなので、ただの連絡事項として処理され、ヨシュアも冥琳たちが決めたことなので口を挟むつもりもなかった。

 

 

 

だが、それよりも、ヨシュアが懸念しているのは、白面ことゲオルグ・ワイスマンのことだった。冥琳も程度こそ違うが、ヨシュアと同じ考えを持っているようだ。そういえば、エステルが冥琳の体調を気にかけろ、と言っていたが、どういうことなのだろうか。……そういえば、僅かだが、顔色が悪いかもしれない。誰かに言われ、注視してようやく分かる程度の顔色の悪さだ。華佗に相談してみた方がいいのかもしれない。

 

 

「それで、ヨシュア、お前と雪蓮を襲った妖術師だが…雪蓮から聞いた話では知り合いのように見えたようだが」

 

「…ああ、彼のことはよく知っている。彼は≪白面」ゲオルグ・ワイスマン。≪身喰らう蛇≫の第三柱にして、蛇の使徒の中でも類を見ないほどの悪逆非道を行った人物。そして、僕を再生、改造した人物でもある」

 

「ヨシュアを再生…改造?どういうこと?」

 

雪蓮が眉を顰めて首を傾げている。ヨシュアは、いつかは話すつもりではいたが、ちょうどいい機会なので、全てを話すことにした、自分の過去を。まぁ、ワイスマンのことを話すのならば、自分のことを話す必要もあるのだが。

 

「そうだね、まずは、僕の生い立ちから話そうか。僕の本名…というより、ある時期までの名前は、ヨシュア・アストレイ。雪蓮たちには話したけど、エレボニア帝国という国の辺境、リベールっていう僕のもうひとつの祖国といえる国との国境沿いにあった、ハーメルという村で、姉と、将来的には兄となるはずだった人と、他の村の人たちと裕福ではなかったけど、人並みに幸せに暮らしていたんだ。そのときは、兄は剣に対しては天賦の才、というのかな?神に愛されているような才能があって剣技を磨いていたけど、僕はそういうことはやっていなかった」

 

ヨシュアはそうやって話し始めた。最初こそ、雪蓮たちは興味深そうに聞いていたが、話が進むにつれて、その顔色が変わっていく。王である雪蓮や、蓮華などはヨシュアの村が襲われた、そしてそれは実際は国の重臣の一部が行った戦争を起こすための策だったということを聞いて怒りに顔を染めていた。思春たちも、それが国のやることか、と怒りをあらわにしていた。

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「そして、僕は、人を初めて殺したこと、姉さんを目の前で失ったことで、心を壊して人形のようになっていた。そして、僕には元々、戦闘の才能、特に対集団戦と隠密に関する才能があった。そして心を壊して人形になっていた僕にワイスマンは目を付けたんだ。そして、レーヴェに僕の心を治すということを持ちかけ、レーヴェと僕を結社に入れた。そして僕の心を組み直し、戦闘術、暗殺術、隠密の術を叩きこまれ、執行者というある意味人外の集まりの仲間入りを果たし、≪漆黒の牙」という二つ名で呼ばれるようになった。そして同時に、ワイスマンの操り人形として生きる日々が始まった」

 

そして自身が行ってきたことを告白する。今までに数多くの人を暗殺してきたこと、そのために関係のない人間も巻き添えにしてきたこと、そして自身にとって初めて守るという感情の芽生えた、姉に対するものとは違う、愛しいという感情を抱いた少女との出会い、身分を偽ったワイスマンとの再会、仲間との出会い、ワイスマンの企み、そして阻止、今でも最強の一人と信じている兄との別れ、そして自身の罪に対する贖罪の旅、そして結社の活動停止までのことを話していった。そしてその間にワイスマンのことを入れていく。

 

「これが僕の全て、そして僕の知りうる限りのワイスマンの全てだ。…別に軽蔑してくれてもいい。全ては僕がやったことで、それから逃げるつもりはもうないから」

 

 

静かになった玉座の間でヨシュアはそう締めくくる。次に何を言われても、受け止める覚悟はできている。今までのことから彼女たちが自分を軽蔑するとは思えないが、軽蔑に値することをやってきたという自負はある。もし、彼女たちがここから出ていけ、と言えば、素直にそれに従い、一人でワイスマンを仕留める覚悟も出来ていた。

 

 

「…軽蔑なんてするわけないでしょう?あまり見くびらないでほしいわ。今さらそんなことで私たちがあなたを軽蔑したり、あなたに対する見方を変えたりするわけないでしょう?私たちはずっとヨシュア・ブライトという人間を傍で見てきた。だからこそ、あなたのことも理解しているつもり。エステルっていう子にはまだ負けるかもしれないけど、そんなことは関係ないわ。私たちは今のあなたを信頼する。それで十分よ」

 

雪蓮の言葉に蓮華やシャオ、冥琳たちが頷いている。自分はここでも仲間に恵まれたらしい。もうワイスマンに対する少しの心配もなくなった。彼女たちとならワイスマンも簡単に退けてみせよう。漆黒の牙の二つ名に、ヨシュア・ブライトという名にかけて。

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「…ありがとう。気が楽になったよ」

 

「それでは、ヨシュア、そのワイスマン、じゃったか?そやつの潜伏先に何か思い当たるところはないのかの?」

 

「私や思春様で見つけてみせますよ!」

 

「ああ」

 

「シャオもシャオも〜!」

 

「…悪いけど、流石に彼の頭脳は冥琳に勝るとも劣らないからいくら僕にも簡単に見つけられるような場所に潜伏しているはずはない。だけど、僕が生きているということを知れば、また僕を狙って姿を現すと思う。そのときに決着をつけるよ。だけど、冥琳、この国だけじゃない。魏と蜀にも使者を出して、彼に対する警戒を呼び掛けてほしい。彼は危険だ。何をしてくるか予想もつかない。だからこそ、つけいる隙を与えないようにしておきたいんだ。一応、休んでいる間に、彼の似顔絵を描いておいたから、これを使者に持たせてほしい」

 

「分かった。…誰かある!」

 

冥琳がそう声をあげると、すぐに兵士が駆けつけてくる。そして冥琳がヨシュアから受け取った似顔絵を渡し、いくつか各国の王に伝えることを告げる。それに兵士は頷くと、すぐに駆け去っていった。

 

「それじゃ、今日のところはこれで解散かしらね。皆、これからのことを念頭において行動してね。それでは解散!」

 

雪蓮の言葉と同時にその場はしめられ、各人、自分たちのしなければならないことをするためにその場を去っていく。ヨシュアは、今まで祭や思春たちが交代で見てくれていたという自分の部隊の調練を行うために玉座の間を出ていった。

 

雪蓮もそれについていこうとしたのだが、仕事をさぼろうとするのを冥琳がそれを見逃すはずもなく、冥琳に首根っこを掴まれて引きずられていった。

 

説明
お久しぶりです。へたれ雷電です。

ようやく少しばかりの時間が取れたので、更新です。

しかし、最近暑いですね。氷水が手放せないへたれ雷電です。
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コメント
深緑様>おお、英雄伝説への愛が響いてくる!自分も大好きです!これからも頑張らせていただきましょう!(へたれ雷電)
英雄伝説大好きー!エステル大好きーー!!クローゼ大好きーーー!!!・・・ゴホン!はじめまして、毎回楽しく拝見させていただいております。これからも楽しみにお待ちしておりますので、がんばってください!(深緑)
NANOHA様>読みやすいという評価ありがとうございます。現在亀更新ですが必ず完成させます(へたれ雷電)
はじめまして このSSは読みやすいです。・・・レーヴェさんもいないってもしや!つぎの更新も楽しみにしてます(NANOHA)
辰様>亀更新で申し訳ないです。楽しんでいただけたのなら幸いです(へたれ雷電)
更新乙です。今回も楽しく読ませていただきました。(辰)
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