雲の向こう、君に会いに-魏伝- 四章 |
夢を見た
多分・・・いや絶対に、『悪夢』っちゅう類のやつやろう
目の前で、大好きな男が
一刀が・・・消えてしまう夢
いくなと何度叫んでも、一刀はずっと笑ったまま
ただ黙って、目の前で背を見せる華琳のことを見つめとった
そして・・・少しずつ消えていく、一刀の体
嫌や、こんなん嫌や!!
手を伸ばす、でも届かへん
声を張り上げ叫んでみても、一刀は気づいてくれへん
『・・・な』
その刹那、聞こえた声
向けられた視線
一刀が、やっとウチのことを見てくれた
そんでいつもみたいに、笑ってくれた
けど・・・
『ごめんな・・・約束、守ってあげられなくて』
一刀はそのまま、光になって消えてしまった
《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》
四章 約束は、この空へとのせて
「あかん・・・最悪や」
最悪っちゅうんは、勿論目覚めのこと
頭は痛いし、体はだるいし
何より・・・
「なんやねん、今の夢は・・・」
涙が止まらへん
胸が苦しい
あぁもう、らしくないっちゅうねん
「一刀・・・」
それもこれも、全部一刀のせいや
なんやねん!
約束破って消えるなんて、ごめんで済むわけないやろーが!
「ああ、なんかイライラしてきた」
こういうときはあれや・・・そうや、酒を飲もう
今日はウチは非番の日やし、別に朝からのんどっても問題あらへんし
「うっし!
そうと決まれば、早速どこで飲むか考えへんとな!」
気分一新
寝台から飛び出し、窓を開け放つ
うん、今日もええ天気や
風も気持ちええし・・・
「はは、なんや今日は良い一日になりそうやな」
笑い、ウチは歩き出す
けど・・・ウチの頭の中、さっきから繰り返される『名前』
それが気になってもうて、ウチは思わず足を止めた
「一刀・・・暇かなぁ?」
「あかん・・・ウチ、なにやってんねん」
酒を片手に、ウチはある部屋の前で立ち尽くしとった
一刀の部屋
いつもならノックもせんといきなり入って驚かせてやるとこやけど・・・今日はそんな気分ちゃうしなぁ
ていうか、一刀が今日休みかどうかもわからんのに
ウチ、何しにきたんやろ?
「はぁ、どないしよぅ」
ボリボリと頭を掻き、空を見上げる
ああ・・・そういえばまだ朝も早いし、寝とるかもしれへんなぁ
ますます、ウチって何しにきたんやろ?
「寝顔・・・」
ふと、あることが頭によぎる
「寝顔だけでも見てこうかなぁ・・・なんて」
あぁ・・・顔が熱い
あかん、ウチどーかしたんとちゃうか?
何言ってんねん、寝顔見てこーなんて
「あ〜、ぅぅ・・・」
うっわ、どないしよ
顔、めっちゃ熱い
こんなん恥ずかしゅうて、絶対に誰にも見せられへん
「って、せやったらここにつったっとると危ないやんか」
朝早くに起きとる連中に、見られるかもしれへん
どっか、どっか身を隠せるような場所は・・・
「あぁ、もう・・・いったれ!!」
背に腹はかえられん
そんな『言い訳』と、ちょっとした下心をも抱きつつ
ウチは、目の前の部屋・・・一刀の部屋へと駆け込んだ
瞬間・・・
「うひゃぁ!?」
「んぉぶ!!!??」
足元に感じる、柔らかな感触
響く、呻き声
あまりの出来事に、間抜けな声をあげてもうた
「な、何してんねん一刀!」
「っ、いや霞こそどうしたんだよ?
こんな朝早くからさ」
そう言ってのっそりと体を起こすのは、この部屋の主・・・【北郷一刀】
どうやらウチの踏んだ柔らかな感触とは一刀のようや
その顔に、ばっちりと赤く跡もついとるし
ていうかな・・・
「なんで床で寝てんねん!?
びっくりしたやんか!!」
「いや、ちょっと寝台の調子が悪くてさ」
「だからって床て!?
おかしいやろうが!!」
「そうかなぁ・・・」
「そうやって」
『そっか』と、ウチの言葉に唸る一刀
その様子がおかしくて、ウチは笑ってしまう
「? どうかした?」
「なんでもあれへんよ」
ああ、ほんま・・・一刀はおもろいなぁ
っと、そうや
「なぁ一刀、今日暇だったりするん?」
「今日?
あ〜、今日は確か何にもなかったはずだけど」
胸元から何枚かの紙を纏めたもの・・・確か『めも』っちゅうのを見ながら、頷く一刀
よっしゃ!
心の中でグッと拳を握る
やっぱ、今日はええ一日になりそうや♪
にやける顔
緩む頬
それらを隠すことなく、気づいたら・・・ウチは一刀を誘う言葉を口にしとった
んでもって、あれからウチラは二人して馬に乗って街から出ることにした
ただし、二人で一頭の馬に・・・やけど
今の状態はウチが前で手綱を握り、その後ろに一刀が乗っとるって感じやな
理由は簡単
「大丈夫かいな?」
「無理、酔った・・・『馬酔い』だ」
「なんやねんそれ」
馬に乗ってすぐ、一刀が具合わるそうに顔を白くさせとったからや
まったくしゃあないなぁと、ウチの後ろに乗せとったんやけど
それでも結局、込み上げるものは抑えきれんかったらしい
さっきから口元おさえたまま、あんま喋らんようになった
しっかし・・・おかしいなぁ
一刀って、こないに馬に弱かったっけ?
それに、なんか少し痩せたような・・・
「ちょっと待って、一回降りていいか?」
「はいよ、ちょい待っとき」
そう言って、馬をテキトーなとこに止める
ソレと同時に、一刀は馬から降り歩き出す
その表情が『もう限界』っていっとるのがわかった
「ごめん、ちょっとそこらへんで吐いてくる」
「わかった、ウチはここで待っとくさかい」
『すぐに戻るよ』と言葉を残し、一刀は早足で森の中消えていった
その直後
「・・・うん?」
ピラリ・・・舞い落ちる、一枚の紙切れ
それは丁度ウチの前に落ちてきたから、ウチはそれを広い・・・じっと観察する
良く見るとその紙には、なにか書いているのが見えた
『味× 嗅△ 触× 視○ 聴△』
「なんやこれ?」
多分、一刀のものやと思うねんけど
あかん・・・意味がわからん
何か、こう『暗号』かなにかの類かもしれへん
天の国の何かかもしれへんし
ん、まって・・・よくみたら、下のほうにも何か書いとるな
なになに・・・
「『まだ・・頑張れる』・・・?」
水か何かを少しこぼしてしまったんかは知らんけど、なんや歪み滲んだ字で書いてあるその言葉
確かに一刀の字やと思うねんけど、こんな下手やったか?
しかも、意味わからへんし
何を頑張るんや?
あれか? 閨か?
閨で頑張るんか?
いや・・・なんか、違う気がする
「ん〜〜〜・・・」
気になるし、直接本人に聞いてみようか・・・
「霞、お待たせ」
「っ、おお終わったんか!」
「ああ、大分すっきりしたよ」
「そらよかったわ
ほんなら、行こうか?」
「おう」
そう言って、さっきよりは良くなった顔色で笑う一刀
なんでか知らんが、ちょっとまずいで
あの紙・・・咄嗟に懐に突っ込んでもうた
あかん、返しづらなったやんかもう
「さ、さぁいこか!」
「ん、霞どうかしたのか?
なんか挙動不審だけど・・・」
「な、なんでもあれへん!
ほら、飛ばすで! しっかり掴まっとき!!」
「え!? ちょ、霞さん!?
今せっかくスッキリしたとこなのに、そんな飛ばされたらばあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」
誤魔化すよう、ウチは速度をあげる
すまん一刀・・・もうちょいの辛抱やからww
頬を吹き抜ける風に目を細め、背中越しから聞こえる一刀の声に頬を緩ませ
ウチは、その時間に確かな『幸せ』っちゅうもんを感じた
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着いた場所
いつか一刀に言われた『雰囲気』とかいうやつがある場所
ウチは木にもたれ掛かりながら
一刀はそんなウチの膝の上に頭を乗せ、空を見上げとった
「いい場所だな」
「えへへ・・・せやろ?」
『うん、良い場所だよ』と言い、一刀は目を細める
それから、眠そうに欠伸をしとった
「なんや、眠いんか?」
「ん、ちょっと・・・最近、なんか眠れなくてさ」
仕事かなんかかな
そーいえば、最近忙しそうやったもんな
「そか、そんならこのまま寝たらええよ」
「いいのか?
せっかくきたのに・・・」
申し訳なさそうに、一刀が頭をあげようとするんを・・・ウチは止める
そんなこと、気にせんでもええのに
「ウチは、一刀の寝顔肴に酒でものんどるから♪」
「それは、ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」
照れくさそうに、頬を赤くする一刀
あぁ、なんやかわえぇなぁ
「なぁ、霞・・・」
ウチがそんなこと考えとった時やった
ふいに、一刀がウチの瞳を見つめながら・・・
「俺は・・・ちゃんと『此処』にいるのかな?」
そんな・・・意味のわからないことを聞いてきたんわ
「は・・・?」
よく意味がわからんその質問に、一瞬聞き返してしまいそうになった
やけど・・・一刀の表情がなんや、少し暗く見えてもうて
聞き返せんかった
かわりに出たんは・・・
「おるよ」
この言葉だった
一刀が何を聞きたいんかなんてわからんかったし、この質問の真意もわからん
けど、何故かウチにはこの言葉が返すべき言葉に思えて
気づいたら、言葉を続けとった
「この大陸に、この魏国に、この空の下に
そんで・・・ウチらの『ココ』に、ちゃんとおる」
言って、胸をとんと叩いた
それに一瞬呆気にとられたようやった一刀・・・せやけどすぐに、あのいつもの笑顔を見せてくれる
「そっか、俺・・・ちゃんと『ココ』にいるんだな」
「せや、今だってこれからだって一刀はずっと『ココ』におるよ」
「ははは、そっか」
笑う一刀の顔には、さっきまでのあの暗さはない
あるんは、太陽みたいな暖かさやった
「うん、ありがとう霞
おかげで・・・俺・・頑張れる・・・・よ」
ウトウトと・・・一刀の目が閉じていく
どうやら、もう眠気が限界まできとるようやな
「霞・・・」
「なんや?」
「待ってて・・・絶対・・羅馬に連れてくから・・・・さ」
そこで、もう限界みたいやった
聞こえてきたんは、静かな寝息
日に照らされる、安らかな寝顔
「はは、覚えとってくれたんか」
笑い、一刀の髪を撫でる
サラサラと、指の間をすり抜ける
「でもな、一刀・・・ウチ、別に羅馬にどうしても行きたいってわけやないんよ?」
そら、見てみたいとは思う
そやけどな・・・
「ウチは・・・一刀とやったら、別にどこでもええねん
こないだの『花見』んとき、そう実感したわ」
一刀の用意した『桜』
確かに、あの花を見ながらの酒は美味かった
けど・・・それよりもな
「一刀の笑顔を見ながら飲む酒のほうが、何倍も美味いんやで?」
本人は知らんかもしれへんけどな
きっとそれは、皆も思ってることや
みんな・・・アンタのことが好きなんやで、一刀
「せやから、これからもずっと・・・ウチらの『ココ』にいとってな」
静かに、起こさんよう
一刀の口に、自分のそれを重ねる
そして、ウチは空を見上げた
「ま、でも・・・ウチは約束を破る奴なんて嫌いになってまうで?
一刀が言ったんやから、羅馬のことは楽しみに待たせてもらうわ」
青々とした、果てしない空の下
あずけた・・・大切な想い
約束は、この空へとのせて・・・
あとがき
四章突入w
今回は、ずっと霞のターンでしたww
ちょっと、コメディ色が薄すぎた感もありますが・・・まぁ、今回はこれで勘弁してくださいww
次回は多分、ちびっ子二人組みになると思います
それでは、またお会いしましょうww
説明 | ||
四章突入 確実に近づいてくる別れ 彼女達は、未だ気づけぬまま ただ時だけが流れていく 今回は、わりとゆったりとした感じを目指してみましたww それでは、お楽しみくださいww |
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コメント | ||
(T.T)(タカキ) 心が・・・(taku) うう(readman ) 心が・・・・・・いたい。(アルトアイゼン) 無常にも落ち往く命という名の砂時計の一粒・・・。私もバットエンドは苦手です;(深緑) これは・・・きつい(BX2) 触覚がだめになったか、それでも動けるって・・・強いな一刀は・・・・・・・・(サイト) 皆様、さまざまなコメ感謝ですw一刀を幸せに・・・などのコメには、オチ的な問題で答えられませんがただ一言『作者はバッドエンドは苦手ですw』(月千一夜) 触れているのに解らない。自分と世界の境界線がわからない。この首に添えられた刃は、自分の全てを刈り取らんと狙う。でも、大切な人達のために、壊れる事は許されない。 こんなフレーズが浮かびますね。普通なら狂っているはずの心がまだ自我を保っていられるのは、一刀の想い故なのでしょうね。(水上桜花) 段々と消える恐怖(zendoukou) 味覚に続いて、感触まで失せたか・・・切なすぎる、無事なのが視覚だけって(シュレディンガーの猫) じわじわと失っていく感覚に蝕まれながらも、頑張る一刀。見るだけでつらいよ。(kirby) 触覚が駄目って…部屋で倒れてたのってこのせいじゃ?一刀、寝るのが怖いんだろうなぁ…目覚めるかどうか分かんないもんなぁ。(stmoai) ・聴覚と嗅覚もやばいしごまかしきれんぞ一刀・・・・(裸エプロン閣下) もう半分位駄目になってるんじゃ・・・・・誰が最初に気付くのでしょうか?(mokiti1976-2010) 一刀がかっこよすぎです。続きを楽しみにしてます。(shimon) やばい、甘い話なのになんだかしょっぱいよ(涙目)(mighty) 視覚、聴覚のどちらかにきたら、確実にごまかせないぞ・・・。(KU−) 徐々に近付く終わりに耐えられる一刀は本当にカッコいいです。とても素晴らしい作品だと思います、これからも頑張って下さい。(あさぎ) いい感じでほろりとくるぜ・・・・!(゜-Å)(ジャガイモライダー) なんでこうなるんだろうなあ。一刀に愛の手を!(ZERO&ファルサ) こんな状態なのに頑張る一刀・・・泣けてくる・・・頑張れ!!(sasaru) 泣いてもいいですか・・・? この状態までいくと相当つらいんでしょうが…それでも己を保っていられる一刀君・・・どうにかしたげてくださいよ?(よーぜふ) ついに触覚まで、×になってしまった・・・(珠さん) |
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