魏√ 暁の彼は誰時 12
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夜、許都のとある一室。

霧雨が降っており、昨日とはうってかわって肌寒い。

部屋の少し開いた窓から外を眺めると、すぐそこにあるはずの緑もかすんで見える。

「朝になれば、暖かくなってすぐ霧も晴れますよー」

向かい合っている少女の視線が外に向いているのを見つけそう告げる。

「あ、あの……よくご存知でしゅっ!?」

少女は恥ずかしさのあまり帽子のつばを引っ張り、顔を隠してしまう。

「ふふっ、風は天のことについては、超一流なのですよ〜」

天という文字を口にする時に込められた想いに、目の前の2人が気付いているかどうかわからない。

しかし、風にとって簡単に出せるものではないということは確かである。

「風さんはやっぱりすごいです。私ももっと勉強しないと……」

顔を隠した少女の隣で、服の裾で口元を隠し、片眼鏡をかけた少女がぼそっと口の中で声をだす。

「亞莎ちゃんも天に興味をもちましたかー。さすがはお兄さんなのです。ほとんど会ってもいない女性の気をひくとは……」

「ふぇっ!? そ、そんなつもりじゃ……」

ますます声が小さくなり、赤くなった顔をみせまいと、裾を目の前まで持ち上げる。

「お兄さんにもこの眺めを見て欲しかったのですよ〜」と、風は恥ずかしがっている2人の美少女を前にうんうんと頷く。

 

雛里と亞莎が許都にきてから10日ほどたつ。

気付けばほとんど毎晩のように風の部屋で遅くまで秘密会議を行っている。

三国会議まで1ヶ月足らずとなった今、情勢把握とその対応についての作戦会議である。

それぞれの国で新帝待望論をめぐって激しく対立しており、どちらが勝つにしろ現在の平和は瓦解しかねない。

しかしながら、賛成派、反対派ともに頑として自説をゆずる気配もなくそれぞれが国運を賭けており、双方に対する策は通用しそうもなかった。

こうなると、なだめようもなにもあったものではないが、3人の雰囲気に悲壮感は感じられなかった。

この作戦会議の中ですでに雛里の策が採用されていたからである。

2日前に雛里の策を聞き、風も亞莎も無言ながら何度も点頭した。

風は情勢が好転しつつあるの感じていたが、不安もあった。

不安とはある人物のことである。

その人物は会議の際、個性をおしみなく発揮し舞台の主役とばかりの活躍をするのだが、それは後の話である。

 

で、今はもう話すべきことはすでに話し終えたとばかりに、わずかばかりの酒をだし、ちょっとした暴露大会になっている。

亞莎が少し酔った口調で2人に問いかける。

「風さんも雛里さんもですけど、どこへ行っても才能ある方ばかりでして、私なんか雪蓮さまや蓮華さまのお役に立っていないと思っていました。

それで私考えたのです。皆さんよりももっと一所懸命働いて、もっと時間をかけて本を読んで、注意深くやれば、お役に立てるんじゃないかって……。

……間違っていませんよね?」

よく見ると少し目が潤んでいる。

それを聞いていた雛里も少し涙ぐんでいる。

「亞莎さん、ぐす……私、感動しました……呉のみなさんもきっと幸せです……貴女と友達で、よ、良かったぁ……ふぇぇっ」

亞莎の両手をひっしと握り、はらはらと涙を流しはじめる。

風は猫のように目を細め、心地良さそうにそれを眺めている。

「――こうして着々とお兄さんの気を引いていくのでした」

満足そうに呟く。

……頼むから、誤解を招くようなことは言わないで……

「おおっ!」

一刀につっ込まれた気がして、ちょっと吃驚した。

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「お姉さま〜」

宮中には似つかわしくない声が響く。

一刀は後ろから声をかけられたにも関わらず、振り向くことはなかった。

この後に起こることが予測できたからである。

軽やかに走ってきた栗毛の少女は、一刀の左腕に自らの右腕を絡ませて体を密着させる。

「くすっ、陛下が呼んでますよー」と、いかにも楽しそうに話しかける。

「あぁ、ありがとう。すぐ行くよ」

あまり感情を加えず、目を合わせないようにして一刀は返事をした。

この態度に少し機嫌を損ねたようで、頬を膨らませて「お姉さまったら、そっけないのー」と言った。

さらに一刀の左腕をギュッと引っ張り、左耳に口を寄せて「やっぱり旦那様って呼べばいい?」と囁いた。

「〜〜〜〜っ!?」

一刀を顔をボッと真っ赤にさせて、音にならない声をだして驚いた。

「旦那様ったら、恥ずかしがることないのに〜」

一刀の反応に機嫌を良くしたのか、さらに楽しそうに囁きつづける。

その時、一刀にはこれまで見たことがないほど蔑んだ目をしている華琳と風が見えた。

ガバッと顔を上げると、「何もしていないって!!」と叫んだ。

隣の少女――たんぽぽは突然の大声に目を白黒させて驚いたが、すぐに口元を吊り上げニッと笑みを浮かべ同じく叫んだ。

「旦那様がご乱心〜〜! 殿中でござる〜! 殿中で――……んむっ!?」

あまりの大声に一刀は何を思ったか、咄嗟にたんぽぽの口を塞いだ。

……自らの口で。

華琳が真っ赤に目を吊り上げて何かを叫んでいる。

風は魂をも凍らせてしまう程の冷たい視線で何かを伝えてくる。

声が届かなくてよかった、と一刀は思う。

何を言っているか想像することはできるのだろうが、頭が拒否をしている。

生き残るための最後の防衛反応なのだろう。

「……ぷはぁっ、旦那様ったらぁ、強引なんだからぁ……」

たんぽぽはそう言いながら一刀の胸にしなだれかかる。

......また、やってしまった。

一刀は口を離すと、激しく後悔の念にとらわれる。

また!!

その言葉に反応し2人の視線がさらに強く痛くなり、ついに一刀は意識を手放し、考えるのを止めた。

その後、白いぼろ布と化した一刀を引き摺って廊下を歩くたんぽぽの姿が何人かの侍女に目撃されていた。

 

 

 

……つづく

説明
短いですが続きです。
どなたか1人でも楽しんでいただければ幸いです。
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コメント
今更ながら、10話で一刀が恥ずかしがった理由が未だに分からんorz。赤面したのは無意識ですよね?裸なら無意識じゃないような……?どうやって男だと分からないようにしたのかも不明。一刀位の年齢ならまな板胸でも男女差あるはずなんだが……?うーん、気になります。(takewayall)
・・・・・・・・一刀、やっちまったな(苦笑) 蒲公英、お前もちょっとは、ね・・・・勘弁してあげてちょ(峠崎丈二)
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