雲の向こう、君に会いに-魏伝- 五章 |
「流琉・・・ボク決めたよ」
「え?」
ある晴れた日の朝
親友である季衣の言ったこの言葉に、私は首を傾げていた
「えっと、季衣?
いきなりどうしたの?」
朝一番
いきなりの出来事
季衣が何を言いたいのかなんて、私には全くわからなかった
だけどそんな私の様子など気にせずに、季衣は目を輝かせ話を続ける
「ボクね、兄ちゃんに作ってあげるんだ」
・・・何を?
気になり聞こうとするけれど、季衣はまたもやそんな私の事を無視・・・というよりも、全く気づいてないみたいだった
「ねぇ流琉・・・最近、兄ちゃん元気なかったよね?」
「あっ、うん
そういえば、最近兄様・・・ちょっと疲れてるみたいだったね」
「でしょ?」
季衣の言うとおり
最近・・・兄様の様子が、少しおかしい気はしていた
なんだか元気がないような・・・そんな感じ
そんな兄様の様子が気になっていたのは、季衣も同じだったみたいだ
「だからボク、決めたんだ
兄ちゃんに作ってあげるんだって」
握り拳片手に、彼女は言う
けど・・・
「季衣、いったい何を作るの?」
そこだ
大事な部分を、季衣は言っていない
季衣は、兄様のために何を作るつもりなのか
だから聞いてみたんだけど・・・
「え? そ、そんな・・・恥ずかしくて言えないよ」
「・・・は?」
返ってきた予想外の反応に、私は思わず言葉を失ってしまった
え、恥ずかしくて言えない?
そんなものを作るの?
兄様のために?
『死ね、この種馬』
一瞬、脳裏によぎるのは桂花様の言葉
作る・・・兄様のために・・・・種馬・・
え、それって・・・ままままままさか!?
「季衣、本当に!? 本当につくっちゃうの!?」
「え、えへへ・・・やっぱり流琉にはばれちゃった」
そう言って、エヘヘと笑う季衣
そんな季衣に対して、私は落ち着いてなんていられるわけがなかった
まさかあの季衣がそんなことを考えていたなんて
あの華琳様すらも出し抜き、一番乗りを目指してたなんて
季衣・・・恐ろしい子!!
「で、でも大丈夫なの?
ほら、兄様の気持ちとかもちゃんと聞いた?」
「大丈夫だよ
兄ちゃんに言ったら『今夜、楽しみにしてるよ』って言ってくれたもん♪」
「えぇ!!?」
今夜・・・楽しみにしてる?
きょ、今日から励んじゃうの!?
『兄ちゃん、ボク・・・』
『ああ、わかってる』
『兄ちゃん・・・』
『季衣・・・』
あぁ、季衣がどんどん遠い存在になっていく
「もちろん、流琉にも手伝ってもらうつもりだったんだけどね」
「私も、ってえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
私も!?
私も一緒にその・・・つくっちゃうの?
兄様のを・・・季衣と一緒に?
『兄様、私・・・』
『あぁ流琉、俺に任せろ』
『兄様・・・』
『流琉・・・』
い、いいかもしれない
「わかった、季衣
私も一緒につくるよ」
「本当に? やったぁ」
「そうと決まれば、今から準備しないと」
「うん、そうだね
頑張って兄ちゃんのために作らないと・・・」
「そうだね
兄様のために、頑張って・・・」
「美味しい御馳走を!!」
「元気な子供を!!」
《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》
五章 繋いだ手、想いを込めて
「ようしそれじゃあ早速準備を・・・って、アレ?
流琉、どうしたの?」
「ううん、気にしないで
ちょっと頭冷やしてるだけだから」
orz←私
不思議がる季衣から視線を逸らし、私は赤くなってしまった頬をなんとか戻そうと頑張る
冷静になればわかることだ
そうだよね、季衣がいきなり子供が欲しいなんて言うわけないよね
それなのに、私・・・あぁ、恥ずかしい
「あれ? そういえば流琉今なんて・・・」
「さって、気合入れて準備しなくちゃ!!
ほら、季衣いくよ!?」
「あ、ちょっと待ってよ!」
言われる前に、私は走り出す
それはもう全速力で
その後を、慌てて季衣がついて走る
『きゃあぁぁぁぁぁ!?』
途中、中庭で何故か落とし穴にはまっている桂花様を見かけた
・・・見なかったことにしよう
・・・そんなわけで着いた厨房
とりあえず今使える食材を並べてみる
「それで、どんな料理を作るつもりなの?」
「うんとね・・・美味しいやつ♪」
・・・範囲が広いよ季衣
「もっと、こう・・・何が作りたいとかってないの?」
「う〜ん、兄ちゃんが美味しいって言ってくれればそれでいいんだけどなぁ
兄ちゃんって、どんなのが好きだっけ?」
「兄様は、そんなに好き嫌いがあるほうじゃないし
最近では・・・あれ?」
最近・・・兄様って、私達の前で何か食べてたっけ?
ここ何日か、朝にも会わないし
「流琉、どうかしたの?」
「えっと、なんでもないよ」
そう言って、私は笑った
偶然・・・だよね
きっと朝だって、私達よりも早く食べてるだけなんだよ
「とにかく、まずは何を作るか決めよっか」
「うん♪
あ、あとさ・・・流琉は、教えてくれるだけでいいよ
今日は、頑張ってボクが作るから」
「季衣・・・大丈夫なの?」
「うん、頑張る!
兄ちゃんにボクが作ったご飯、いっぱい食べてもらうんだ!」
「季衣・・・」
笑顔で、本当に嬉しそうに言う季衣
季衣は・・・本当に、兄様が大好きなんだなって
改めて思った
勿論、私だって兄様が大好きだ
始めは、兄のいない私達にとって・・・本物の兄のような感じだった
それが、いつからだろう
兄様のことを、一人の男の人として好きになったのは
兄様のことが好きで好きで・・・離れたくないと思うようになったのは
いつでも、頭の中浮かぶのは
愛しくて、温かくて・・・大好きな笑顔
兄様・・・
「わかったよ、季衣
頑張ろうね♪」
「うん♪」
手を取り合い、笑う私達
繋いだ手
同じ想い
さぁ作ろう
私達の、ありったけの想いを込めて
「うぅ、なんか緊張してきた」
「大丈夫だよ
季衣が頑張って作ったんだもん
兄様もきっと、美味しいって言ってくれるよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
私達は今、出来立ての料理を抱え兄様の部屋の前にいた
季衣の手には、出来立ての炒飯が美味しそうな匂いを漂わせている
私の助言を聞き、季衣が自分で作った料理
私達二人の想いを詰め込んだ料理
私達は顔を見合わせ頷く
これを合図に私達二人は、同時に兄様の部屋の扉に向かってノックをする
コンコンと、響く音
だけど・・・
「あ・・・あれ?」
返事はない
季衣がそのことに戸惑っているのを見て、私も少しだけ焦ってしまう
「ねぇ季衣、本当に今日約束したの?」
「したよ・・・ちゃんと」
なら、何で・・・兄様が約束を破るなんて思えないし
もう寝てるにしても、ちょっと早すぎる
「もう一回・・・」
再び響く、ノックの音
だけど・・・返事はない
何か、おかしい
「どうしよう、流琉」
「ちょっと待って」
そう季衣に言って、私はその扉へとそっと耳をあてる
すると・・・中からは小さく音が聞こえてくる
これって・・・何かを書いてる音、かな
『ごほっ・・・ごほ』
次いで聞こえてきたのは、多分咳かな・・・とにかく、兄様は中にいるらしい
多分、仕事に集中してて気づけなかったんだと思う
私はそう思い、さっきよりも強く扉をノックする
『あ、もしかして季衣か?
入っていいよ』
聞こえてきた、大好きな声
季衣はそれを聞き笑顔になり、勢い良くその扉を開けて中へと入っていく
その様子に微笑みながら、私も季衣の後に続いた
「こんばんわ、流琉も来たんだね」
「はい、お疲れ様です兄様」
「兄ちゃん見て見て!! ほらこれ、ボクが作ったんだよ!!」
「ははっ、凄いな季衣
凄く美味しそうだよ」
「え、えへへ♪」
言いながら、季衣の頭を撫でる兄様
やったね、季衣と目で合図
季衣はそれに気づき、ニッと笑っていた
「季衣ったら兄様のためにって、すごく頑張ったんですよ?」
「あ・・・あはは、なんかすごく嬉しいよ」
頬を微かに赤く染め、兄様は笑う
本当に嬉しそうに、だけど・・・
「美味しそうな匂いだな」
少しだけ儚げに見えたのは・・・私の見間違いだったのかな?
「ああ、美味しかった・・・ご馳走様、季衣」
「えへへ♪」
あれから、兄様は笑顔で季衣の料理を平らげてしまった
その様子を見ては、季衣は嬉しそうに笑っていた
本当に、頑張ってよかったね・・・季衣
「ふぁ・・・」
ふと、兄様の口から欠伸がこぼれる
「眠いんですか?」
「ん・・・ちょっとね、大丈夫だよ」
大丈夫
そう言うわりには、物凄く眠たそうなんですけど・・・
「あ、だったらボクが膝枕してあげるよ」
元気良く手をあげ、季衣が言う
その言葉に兄様は、苦笑いを浮かべていた
「せっかく二人が来てくれたのに、そんなの悪いよ」
「いえ、気にしないでください兄様
私はその間に、このお皿片付けてきますから」
「ほらほら兄ちゃん、遠慮しないでよ♪」
『なら、お言葉に甘えて』と、兄様は寝台に座る季衣の膝に頭をのせる
それからすぐだった
「すー・・・」
静かな寝息が聞こえてきたのは
「兄ちゃん、疲れてたのかな」
「最近、頑張ってるみたいだから
近いうち行われる『会議』で出す『学校』ってやつについての資料を纏めなきゃって、こないだ言ってたもん」
季衣は兄様の頭を撫でながら、『へえ〜』と声をもらす
ていうか、季衣が羨ましい
私も、兄様の頭をな・・・撫でてあげたいなぁ
・・・これ片付けたら変わってもらおう、うん
「それじゃ、急いでこれ片付けてくるから」
「うん、わかった〜」
季衣の返事を背に、私は歩き出す
その直後・・・ふと目にとまる、一枚の紙切れ
机の上、並べられた書簡の中
隠れるように置かれたソレ
『味× 嗅× 触× 視○ 聴△』
記された・・・意味不明な言葉と記号
これ、なんだろう?
今度の学校についての資料?
何か・・・違う気がするけど
「えへへ〜、兄ちゃんの寝顔可愛いなぁ」
「・・・急ごう」
聞こえた季衣の声
その内容のあまりの羨ましさに、私は足を進めた
季衣、帰ってきたら絶対変わってもらうからね
そう心の中で決め、足を速める
ぺタ・・・と、手に何かがつく感触
見てみれば皿に僅かに残っていたご飯粒がついたみたいだった
「そういえば、私・・・季衣が作ったもの、食べたことなかったっけ」
そう思い、そのままソレを口に運ぶ
その瞬間
「っ・・・!」
私は・・・思わず足を止めてしまっていた
そして、思い浮かべるのは・・・料理中の光景
『うん、これなら大丈夫♪
それじゃぁ季衣、兄様の部屋に行きましょう?』
『うん・・・あ、ちょっと待ってて』
『?』
『最後に、隠し味っていうのを入れれば美味しくなるって華琳さまが言ってたの忘れてた
ちょっと入れてくるね』
『あ、ちょっと季衣
もう・・・先行ってるよ?』
『うん、すぐ追いつくから』
そうだ・・・季衣は隠し味を入れたって言ってた
それから、私は味見をしていない
兄様・・・?
兄様は、いったいどうして・・・何も言わなかったのかな?
季衣が傷つくと思ったから?
でもだからって・・・
「こんなに『しょっぱい』ものあんな食べたのに・・・水も欲しがらなかったのはどうして?」
季衣が隠し味に何を入れたのかはわからないけど、こんなにしょっぱいんだし水くらい欲しがるはず
仮に季衣を傷つけまいという理由でも・・・水を飲むくらい、別になんの問題もないはずだし
廊下の真ん中
立ち尽くす私
浮かぶ月に・・・雲がかかっていく
妙な胸騒ぎがする
嫌な予感がした
「兄様・・・」
そしてこの予感は・・・最悪の形で、あたってしまうことになる
あとがき
流琉のターンww
こっから物語は大きく進み始める・・・その前に
間に大事な話が入ります
その話の次に、軍師三人組が入る予定です
残された時間はあと僅か
一刀の想いは・・・彼女達の想いは
これからどうなっていくのか
それでは、またお会いしましょうww
説明 | ||
五章目 今回は、いよいよ近づいてくる終わり その兆しに、ついに・・・ |
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コメント | ||
やっぱり良い(muyo) 悔しかったし辛かったろうな・・・・季衣が自分のために一生懸命作ってくれたのに味も香りも感じられなかったなんてッ(タカキ) むねがくるしい・・・(たこきむち@ちぇりおの伝道師) あああ(readman ) もうあかん、次を見るのが怖い(アルトアイゼン) 序盤の子供と大人な意見の、楽しい違いは笑ってしまったのはさて置き・・・流石に周りが感づきはじめてきましたか。深き想い故に、どこまでも苦しみに独り耐えていく姿がきついです・・・。(深緑) うおお・・・五感は一つ無くしただけでも地獄というに・・・しかも無くしたことがすぐにわかる視覚・聴覚は残ってるとか・・・(O-kawa) 砂のお城さん<誤字報告あざっすww多分、素でやってましたwこれから仕事も忙しくなって、また出てくるかもしれません・・・その時はまた教えていただければすぐに直しますんで(月千一夜) 次の3軍師、特に風辺りには、ばれそうだ(珠さん) だんだん辛くなってきた・・・今までにない悲しい感情が・・・(rin) やはり今度は嗅覚が・・・これは辛すぎますね・・・一刀はきっと本当に楽しみにしていたのに、体がそれを感じないなんて・・・これで消えたのは三つ。もう、いっそ、全て消えてしまったほうが楽なのに・・・(水上桜花) おい一刀、そろそろ限界だぞ・・・ばれるのも時間の問題だTT(サイト) これは…いっそすぐさま消えた方が救いなんじゃないかって感じですね。終わりはまもなく…キッツイなぁ(闇羽) 意見が食い違ってる〜!!!!!!!!!!(COMBAT02) なんかおもしろい展開になりそうな予感w(an) もう少し…もう少しだけ、頑張らせてあげたいです。(ユダ) テレ流琉かわいかったのに…がんば季衣かわいかったのに…もう一刀はそこまで…(よーぜふ) とうとう、嗅覚もやられたか・・・・もう見てられんよ(T-T)(シュレディンガーの猫) 味覚障害(心因性)をやったことがあるが、何食べても紙やら砂を感じだった。触覚もやられている一刀は、表面上誤魔化せてる所、すげぇ精神力だな。(stmoai) あわわわわ。目と耳しかもう・・・・(sink6) 原作では華佗に診てもらって異常なしでしたが消えてしまいました。この物語の一刀のかかってる症状も病気の範疇を越えた何かなのか、それとも診てもらった時点では手遅れだったのか。なんにせよつらいですね。(アクメイカン) ちゃんと最後は幸せになりますよね?(poyy) 五感がもうほとんど・・・。一刀に救済は無いのですか!?(狭乃 狼) 涙が止まりません。なんとか一刀を助けてあげてください。(t-chan) |
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