双天演義 〜真・恋姫†無双〜 二十五の章 |
一刀と曹操の所から、いかにして伯珪さんたちに曹操の対応をいかにオブラートに包んで説明するか悩みながら関の中を歩けば、すぐに伯珪さんたちのいる軍営についてしまった。
「あ、御遣い様、こちらでしたか。伯珪様がお呼びです、至急大天幕までお越しください」
伯珪さんの親衛隊所属の兵士が、トボトボと歩いていたオレを見つけて声をかけてきた。そしてオレの背を急かすように押しながら軍営の中を進んでいく。
「すでに皆様お揃いです。お急ぎください」
兵士に押されながら軍営を歩くこと少々。キョロキョロとあたりを見渡してみれば兵士たちが慌しく動いている。
「何が起こっているんだ?」
「そのことも含めて軍議で説明されます。ささ、お早く……」
この軍営の中で一際大きく、慌しく入れ替わり立ち代り人の出入りの激しい天幕へと連れてこられた。伯珪さんの軍で行軍中において軍議に使う一番大きいな天幕で、基本伯珪さんの寝所にもなる天幕でもある。
この物々しい様子が、何か大きな出来事が起こっていることをオレに思わせた。
中へ入ると伯珪さんを中央に越ちゃんと子龍さんが、机の上に置かれた白地図に入ってくる兵士の報告を聞いて、なにやら書き込んでいる。
「お、諏訪。やっと来たか」
オレが天幕に入ってきたことに気がついた伯珪さんが声をかけたことで、残りの二人もオレを見た。
「伯珪さん、何かあったのか? 何か物々しい雰囲気だけど」
「まずこちらに来い。説明してやる」
新たに入ってきた報告を白地図に書き込みつつ、視線をこちらに向けないまま伯珪さんはオレを手招きする。
三人の所に行くついでに覗き込んだ白地図は、連合に来て配られた水関から虎牢関までの間の大まかなものに、なにやら数字と名前が書き込まれていた。
水関の所に伯珪さんの名と一万八千、孫策の名と一万、曹操の名と三万とそれぞれ現在ここにいる兵数が書き込まれている。そして虎牢関との間に八万という数字と張の字が書かれていた。
「もしかして虎牢関の董卓軍が動いたのか?」
「もしかしなくてもその通りだ。それと洛陽に送っていた細作からの報告もある」
苦虫を噛み潰したような表情の三人から、現状あまり良いと言える状況ではないことが良くわかった。でもオレにはなぜ、三人がこのような表情をしているのかわからない。
約六万というオレたちに対して八万という数字だけれども、水関という防御壁があるこの状態なら袁紹他の本体が来るまで耐えるくらいは可能ではないかと思う。本隊八万が来れば、オレたちの数そのままが董卓軍の数を上回ることになるし、本隊が来るまでに相手の数を減らすことができればその分さらに有利にできるはずだ。
「ふむ。確かにその通りに進めば、有利にはできるでしょうな」
「……諏訪。それは本当に状況を考えていっていますか?」
子龍さんは腕を組んで一つ頷き、越ちゃんは呆れたようにため息をついてオレの意見に答える。
「なぁ諏訪、一つ言っておく。私たちは曹操の力を信頼しているが、曹操を信用していない。それに孫策を信用しているが、今現在の孫策の軍は信頼できない。それをわかっているか? それにな……」
伯珪さんの言葉はオレの考えたことが、甘かったと理解させた。
単純に兵数だけを考えていたオレに、曹操の兵士たちの評価のために連携が難しいことを思い出させ、そして孫策の怪我に、連戦による疲れと関を自分たちで落とせなかったことによる士気の低下も突きつけてきた。
さらに言えば、オレの知らなかった水関という関の問題を教えてくれた。
この水関は洛陽へ攻めてくる軍には堅牢な城壁でその軍を防いでくれるが、虎牢関からの攻め手にはその城壁はまったく役に立たないように作られている、このことが水関と虎牢関が難攻不落と言われる理由のようだ。
堅牢な城壁を越えてやっとの思いで水関を落としたとしても、すぐに虎牢関に攻め込まないと逆に攻め込まれて大変なことになる。
この説明を受けてオレは史実にて、もしかしたら演義でもだったか覚えていないが、水関と虎牢関が同一と言う扱いを受けていたことを思い出した。
このような形を取られていたら、今は二つに分かれていたとしても、長い年月の間に一つのものという認識が生まれたのも納得する。
「あと本隊の麗羽だが、正直私たちが健在のうちに来るかどうかわからないぞ」
関の説明の後に伯珪さんは、いかにも当然のことを言うように衝撃的なことを言う。
「何せ、相手の兵数はほぼ総てと言ってもいいですからね。私たちを使い潰すつもりでいたとしてもおかしくはありません。ただ桃香様は、そんなことを考えずに救援に来てくださるとは思いますけどね」
越ちゃんがその伯珪さんの言葉を補強した。
確かに董卓軍八万を破ることができれば、ほぼ相手の全軍を潰すことができたことになる。たとえ虎牢関に洛陽の城壁があったとしても、それを守る兵がいなくては無人の野を行くがごとく突き進むことができるはずだ。
董卓軍の将軍なり軍師なりが、そのリスクを考えていないわけではないだろう。それでもこちらに攻める利点がそのリスクを上回り、今回の判断になったのだろうけど、正直オレには無謀にも攻めてきただけのように思えてしまう。
「ふむ。諏訪殿の言い分、一理あると思うが、最後の無謀という部分は頷けませんな」
董卓軍八万を率いる将軍、張文遠がなんの策もなく、自棄を起こすような将軍ではないと子龍さんは言う。たしかに何も策がないで自棄になって軍を動かすということは、さすがにこの時代でもさほどあることではないだろう。
だからといって董卓軍が何を考え、何が目的であえてリスクの高い今回の軍行動を採ったのかわからない。
「そういえば、洛陽の情報も入ったんだよね。董卓とかの情報って入ったの?」
「あぁ、入った。なんというかな……」
言いよどむ伯珪さんをいぶかしむように見てみれば、越ちゃんに子龍さんまでもあまり良い顔をしていない。
「董卓についての情報は確かに入りました。そして袁家の嘘……いえ、野望でしょうか、がわかりました」
そう前置きを置いた越ちゃんの言葉によると、この世界の董卓は、やはり女の子で史実の董卓とは似ても似つかない存在のようだ。豚のように肥え太った体躯の暴虐の王という演義のイメージとは正反対の小柄で儚げな印章の、心優しく民を安んじる良君だと言う。
そして洛陽にて悪政のかぎりを尽くし、贅沢三昧の生活をするということは全く無く、逆に贅沢をしようとする張譲や帝を諌め、質素倹約を旨としているらしい。
それゆえ民には大層人気があるそうだけれど、宮中の人間にはかなり恨まれているようだ。
もしかしたら袁家は、この宮中の動きに踊らされた面もあるのかもしれない。中央の実権を握ってしまった董卓への嫉妬と、宮中の人間に官位の出世を約束されて今回の連合を作ったのだろう。
連合が水関に近づいたあたりから、宮中での董卓への反発が強くなっているとも報告されていた。
「以上のような宮中の現状が、ある意味今回の軍行動の理由かもしれないな。手早く連合を叩き潰して、宮中を沈静する必要があったということが考えられる」
「しかし従姉様。ならばなぜ今回の軍に呂奉先の姿が無いのか。さらに言えば軍師たる賈文和、陳公台の姿が無いのもおかしいと言えます」
「それらは洛陽にて呂布は董卓の護衛、賈駆、陳宮は宮中での狐対策でもしているのではないか?」
「ですが、この重要な戦局で出てこないというのはおかしいでしょう。特に軍師がいないというのが信じられません」
始まった三人の持論のぶつかり合いを聞きながら、自分が董卓ならどうするだろうか考えてみる。
邪魔にしかならない宮中の宦官に帝、水関の敗北、五万以上ひらいてしまった連合との兵力差などなど、考えてみると正直やっていられないというのがオレの気持ちだ。
これだけマイナス要素がたくさんあると、逃げ出しても許されるような気がしてくる。
しかし伯珪さんや越ちゃん、子龍さんに孫策、周瑜だったら、違う感想を抱くのかもしれない。どこかしらに勝機を見出して、それに賭ける策のひとつでも生み出しそうな気がする。
「洛陽を捨てて、逃げるですか……。案外良い着眼点かと思いますが、未だ八万もの兵力を擁している董卓が、洛陽を捨てて逃げるというのは少し私には無理があるかと思います」
「そうだよなぁ。ここまで連合によって悪名が広がっている状態で、逃亡先も見つからないだろうし……」
越ちゃんには一応の評価を得られたけれど、さすがに賛同を得られなかった。他の二人もあまりいい返事はなかった。特に伯珪さんは厳しい表情をしていた。
「袁家の思惑がわかり、董卓についてもわかった。董卓の意図がどうあれ、戦いづらいな」
そう呟いた伯珪さんの言葉は彼女の本心だと思う。袁家と董卓、どちらに共感できるかと言えば董卓だろう。
「しかし、ここで戦わず後退することはできませんな。戦いづらいという心情は理解できますが」
そう子龍さんの言うとおり、ここで後退してしまったら敵前逃亡という不名誉の烙印を押されることになる。もう少し早く水関に入る前に知っていれば違ったことになっていただろうが、現在はこうなっている。
「そうですね、戦わざるをえないでしょう。でなければここまで来た意味がなくなります」
「……方陣を組み、防衛戦準備だ。董卓軍を向かい討つ!」
立ち上がった伯珪さんの言葉に返事をした越ちゃんと子龍さんは兵をまとめ、迫りくる八万人もの董卓軍の兵士を迎え撃つ準備をするために、この天幕を飛び出していった。
説明 | ||
双天第二十五話です。 ヤマなしオチなしの状況説明という名の軍議を書いた回です。ヤマなしオチなしはいつものことですが……。orz まだまだ反董卓連合の戦争は終わりません。 |
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状況の整理編ですな。今後どうなるか期待です!(深緑) | ||
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