外史演義 その3 |
「えっと、姓は劉、名は備、字は玄徳です」
「姓は関、名は羽、字は雲長と申します」
「鈴々は張飛、字は翼徳なのだ!」
定食屋にて自己紹介をする三人。
「帰ってきてすぐに皿洗いかよぉー!」
北郷は戻ってくるなり女将に皿洗いを命じられてしまったのでこの場にはいなかったのである。
「それで、私に仕えたいって言うのはどういうことなんですか?」
いきなり仕えさせてくれと言われても困惑するのが当然であろう。
しかし、そう言った説明を忘れてしまうほどに関羽は、この劉備に対して何かを感じていたのである。
「はっ。私とこちらの鈴々は、横行する賊共から民草を救うために旅を続けて来ました」
「でも二人だけじゃどうにもならなくなってきたのだ」
初めは賊を退治するのは二人でもなんとかやってこれた。
しかし、時が経つにつれて賊の規模が大きくなり二人では難しいものとなってきたのである。
「そこで、義勇兵を募ろうと思ったのですが、私と鈴々は人の上に立つという器ではないので誰かに仕官しようと考えていたのです」
「だから愛紗と一緒に仕えるべき人を探していたのだ!」
二人の話を静かに聞いていた劉備。
しかし何故自分のような人間に仕えたいのかが分からない。
「なんで私なんですか?」
「こんな荒んだ時代では、理想を語ることさえ憚ります。しかし、あなたはその理想を力強い言葉で示しました」
劉備は街中で叫んだことを思い出して恥ずかしくなるのだった。
「さらにあなたの目は嘘を言っていなかった。理想のためならどんな困難が立ちはだかってもそれを決してあきらめないでしょう。……そして何より私はあなたに何かを感じ惹かれました。それこそ仕えるのならばこの方以外にはありえないと言うほどのものです」
饒舌に語る関羽の瞳は劉備を捉えて離さなかった。
「鈴々は愛紗の言うことなら間違いないと思うのだ。それにお姉ちゃんはとっても優しそうだから鈴々もお姉ちゃんになら仕えてもいいのだ!」
張飛も関羽と同じく、目の前の劉備という少女に何かを感じていたのである。
「…………私はずっと力のない人たちが苦しむ世の中を変えたいと思っていました。……でも私一人じゃどうにも出来ないって分かって…………それでもどうにかしたいって思っていました」
ゆっくりと語りはじめる劉備に関羽と張飛は静かに聞き入る。
「頭だって良くないし、武器を持って戦うことも出来ません。……それでも、こんな私に出来ることがあるなら――」
大きな瞳をさらに大きく見開き二人を見据えた。
「あなたたち一緒に戦わせてください!」
勢いよく立ち上がり頭を下げる劉備。
それを見た二人も立ち上がり手を出した。
「よろしくお願いします劉備様!」
「お願いするのだお姉ちゃん!」
劉備は交互に二人の手を取り喜んだ。
力が無いことを誰よりも嘆き、それでもあきらめなかった少女は関羽、張飛という仲間を得て、平和な世の中を作るために立ち上がった。
「話は纏まったようだね」
ちょうど話が終わったところに北郷が出来たての料理を運んできた。
「美味そうなのだ!」
「確かに食欲をそそるな」
「これ一刀さんがつくったの?」
「まさか。俺は運んできただけだよ」
いくつか料理を運び終えた北郷は再び皿洗いに戻った。
(それにしてもあの三人がこんなところで結盟するなんて思わなかったな。この後に桃園にでも行くのかな?)
そんなことを考えながら皿洗いに勤しむのだった。
「それじゃあみんな頑張ってね」
食事を終えた三人を見送る北郷。
「北郷殿には色々と世話になったな」
「ご飯美味しかったのだ!」
三人が話をしている間、劉備はずっと何かを考えていた。
「それじゃあ劉備さんもまたね」
「…………………………」
北郷に話しかけられても気付かないのか、劉備は返事をしない。
そして北郷は聞こえていないと思いもう一度話しかけようとした。
「一刀さん!」
「は、はい!」
逆に話しかけられて声が裏返ってしまう北郷。
勢いよく話しかけたはいいが、劉備はなにやらもじもじとしていた。
「えっとね、その〜」
「うん?」
北郷は、この子も見納めか、と呑気なことを考えていた。
やがて劉備はゆっくりと口を開いた。
「あの! 一刀さんも一緒に来てくれませんか!?」
なぜ、そんなことを言ったのかは分からない。
しかし、
――――今、この人を手放してはいけない。
なぜだかそんな気がしたのである。
「…………へっ?」
誘いを受けた北郷は、いきなりのことで唖然としていた。
元の世界に帰るまで陰ながら応援でもしようと考えていた北郷にとってそれはまさに寝耳に水。
そんな北郷を余所に、関羽と張飛も賛同の声をあげる。
「確かに今は一人でも仲間が欲しいところだ」
「鈴々もお兄ちゃんならいいのだ!」
なぜか上から目線の幼い張飛に苦笑いをこぼす北郷。
しかし頭の中では様々なことが駆け巡っていた。
やがて考えが纏まったのか、口を開いた。
「……俺は、戦っても弱いし頭も良いわけじゃない」
多少剣術をかじっていたが、腕の方はあまり良くはない。
頭の方はただの学生である北郷は可もなく不可もなくといったレベル。
「それに、いつかは自分の国に帰らなければならない」
なぜこの世界に来たのかは分からない。
しかし来れたからには帰る方法があるはずと北郷は考えている。
「家族や友人も心配しているだろうから死ぬことは出来ないんです……」
だから、一緒には行けない。
「だから……えっと、少し考えさせてもらっていいですか?」
口を衝いて出た言葉は北郷自身意外なものだった。
ためらいがちの北郷の様子から半ば諦めかけていた劉備の表情は一変して喜色に染まる。
「本当ですかッ!?」
「う、うん」
まだ行くと決まったわけでもないのに、こんな顔されては今すぐにでも、良しと言ってしまいそうになる北郷だった。
「ふぅ……」
三人を見送った北郷は先程の事を考える。
「どうしてあんなこと言っちゃったんだろうな……」
断るつもりだったのに、と言っても後の祭である。
言ってしまったからには考えなくてはいけない。
そして北郷は想像してみた。
「我が名は北郷一刀! 敵将、呂奉先討ち取ったー!」
北郷が掲げるのは三国志一の武を誇ると言われている呂布の頸。
味方から沸き起こる鬨の声。
それに酔いしれる一刀。
「北郷さん!」
「ああ、玄徳じゃないか」
味方の軍が真っ二つに割れ、劉備が駆けてくる。
そしてそのまま北郷に抱きつく。
「おいおい、危ないじゃないか」
「だって、心配だったんだよ?」
戦場とは思えない甘い空気が二人の間を流れる。
そしてそのまま二人の距離は近づき……
「その唇を…………フフフ」
「なに不気味に笑ってるんだい?」
「うおっ! 女将さん、いつの間に!」
女将に声をかけられて現実に戻る北郷。
「我が名は北郷一刀! ってところからだね」
「最初からじゃん!」
自分の妄想話を聞かれたことにより顔を真っ赤にする北郷。
女将はそれを見てケラケラと笑っている。
しばらく女将は笑いが止まらなかったが、やがて真剣な表情で北郷に問いかけた。
「っで、あんたはどうするんだ?」
「……決まってない」
北郷は正直に自分の胸の内を吐露する。
「……死ぬのは怖い。それに人を殺すのだって怖い。俺が住んでたところはそんな事とは無縁な場所だったからさ」
「随分平和な場所なんだね……。けど、ここじゃあそうはいかないよ。権力や暴力がもの言うところさ」
分かっているつもりでいた北郷だったが、改めて聞かされると何とも言えない気持ちになる。
「そりゃあ誰だって死ぬのは怖いし、殺すのも怖いさ。……けど誰かがやらなきゃいけないことをあの子たちはやろうとしている。それは理解してやりなよ」
「………………………………」
「まっ、あたしが言いたいのはそれだけだよ。さあ、皿洗いの続きが待ってるよ」
女将は北郷の肩を叩いて店の中に戻っていった。
北郷はギュッと拳を握り、女将の後を追いかけた。
説明 | ||
むむむ。 難しい。 愛紗と鈴々の理由が弱い気がする(;ω;) まあ、仕方ないか(´゚д゚`) 駄文ですが読んでやってください|ω・`) |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
8609 | 6755 | 62 |
コメント | ||
普通の人ならそりゃ悩みますよね。自分に自信の無い状態でなら特に;次回以降の決断に期待です!・・・後、一刀君、妄想が行き過ぎて何処かの軍師様みたいに赤い何かを噴かないようにw(深緑) マフェリア様 蜀は最初が弱いので大変ですよねー。 (ゼニガメ) 一刀君は一応一般人ですからねぇ。最初から強者の保護下に置かれた魏や呉√とは違って蜀は絶対ためらうよな…完全なゼロからのスタートだし。 (マフェリア) よーぜふ様 曹操様のありがたい言葉(;^ω^)(ゼニガメ) …よし、妄想一刀君のためにあるお方のありがたい一言をば (妄想)出すぎだぞ、自重せい!(よーぜふ) 村主様 普通の人ですからね一刀は/)`・ω・´)(ゼニガメ) jackry様 それはどうでしょうね/(^o^)\(ゼニガメ) それが普通の反応ですわなw自分の力を見極めた上での悩みですし・・・さて一刀の決断は如何に(村主7) |
||
タグ | ||
真・恋姫†無双 一刀 劉備 関羽 張飛 | ||
モンキー・D・ゼニガメさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |