雲の向こう、君に会いに-魏伝- 六章 |
「彼女・・・欲しいな」
「・・・は?」
朝一番、玉座の間に響く声
腕を組み、真剣な表情でそう言ったのは彼
天の御遣いこと、北郷一刀
「というわけで華琳、いいかな?
彼女、連れてきても?」
再び、先ほどと同じように言う彼
瞬間・・・場が静まりかえった
そんな中、私は彼に向かい微笑む
彼も・・・一刀もまた、微笑んだ
「一刀・・・」
「華琳・・・」
交わる視線
そして・・・高々と掲げられる【絶】
「毎度の事ながら、ほんと朝早くからお盛んなようね・・・この種馬ああぁぁ!!!」
「え!?あ、しまっ・・ちが・・・・!!?」
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》
六章 予兆
「す・・・すいません、色々と足りてませんでした」
ボロボロになった一刀が、私の前で『土下座』しながら言う
なんだか前にも見たような光景に、思わず溜め息がこぼれた
「で、今回は何なの?
あんまりふざけた話なら、貴方の下の首叩き斬るわよ・・・凪が」
「私がですか!?」
「凪・・・お前に斬られるなら、俺も本望だよ」
「隊長っ!!?」
「おやおや、逆にお兄さんの【七性我漏】に返り討ちにされてしまいそうですね〜」
「待て風、貴様何勝手に私の剣の名前を使っているのだ!?」
「そうだぞ風、俺の【七性我漏】と春蘭の【七星餓狼】を一緒にするんじゃない
俺のはあんなに乱暴じゃないぞ
もっとこう大人しくて、人見知りが激しい照れ屋さんなんだ」
「何だと!?
貴様の【七性我漏】のほうが、その・・・乱暴で逞しいではないか!!!」
「落ち着け姉者! もはや、何の話だったのかわからなくなってきているぞ!?」
「ああ、一刀殿の逞しい【裸閃槍】が私の中を・・・乱暴に・・・ぶーーーーーーー!!」
「稟さーーーん!!??」
「っていうか、【螺旋槍】て!? 隊長のと、ウチのを一緒にせんでや!」
「その通りだ、真桜
俺の【裸閃槍】は謙虚で、だけどとても度胸のある大した奴なんだよ」
「聞いてへんってそんなことわ!」
「はぁ・・・」
いつの間にか、一刀の七性が・・・ゲフンゲフン
【アレ】の話になってしまっている状況に、頭が痛む
これがつい最近までの激しい戦いを勝ち抜いてきた軍の者達なの?
・・・恐ろしいわね、平和というものは
「とにかく静かになさい
一刀の【アレ】については置いておくとして、今は一刀の話を聞きましょう」
私がそう言うと、ようやく場が静まった
こういうところは、未だに変わらないようだ
そんな中『わかった』と一刀が立ち上がり、周りを一度見渡してから話を始める
「さて、さっきの話なんだけど・・・ようするに侍女とまではいかないけど、ちょっとした手伝いを雇いたいんだよ」
「手伝い?」
「ああ、最近『学校』に関しての資料を纏めてるんだけどさ
どうしても一人じゃ手が回らないんだ
だけど、皆だってそれぞれ『会議』の準備があるじゃん?」
「だから手伝いね・・・」
「貴方の手際が悪いだけじゃないの?」
桂花の言葉に、一刀は『それもあるかな』と苦笑い
だが・・・少しだけ様子がおかしい
何だか・・・妙な胸騒ぎがする
「とにかく、これから絶対に必要になってくると思うんだ
だから華琳、許可してほしい」
真剣な眼差しで言う一刀
最初は・・・『これ以上女を侍らして、どうするつもりなのかしら?』と、絶を首筋にでも当てて脅してやろうと思ったが
その気は失せてしまった
何だか今の一刀の顔を見ていると・・・不安になる
「はぁ・・・仕方ないわね
いいわ、許可してあげましょう」
「ありがとう華琳」
「いいわよ、別に
さっきの言葉を聞く限り、もう目をつけた者がいるのでしょう?」
「ああ、実はもうここに連れてきてるんだ」
「へえ、もうここに・・・・・・・・・・・は?」
今、何て言ったのかしら?
もう、ここに、連れてきてる?
「へぇ、貴方・・・随分と、偉くなったわねぇ」
「あれ? ちょ、かかか華琳さん?」
「私が許可を出す前から、勝手に城内に女を入れるなんて・・・」
「へ、あ、いや・・・その・・・・・」
「死んでしまえ、この種馬ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ひぎぃ!? ちょ、華琳!! そこからの跳び蹴りはまず・・・・・・!!??」
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
「と、いうわけで今日から俺のお手伝いとなりました・・・【赤-セキ-】さんです」
再びボロボロになった一刀の隣
頭まですっぽりと布を被ったまま、彼女は頭を下げる
おかげで顔が全く見えない
ちょっと、失礼じゃないかしら
いや、それ以前に・・・怪しすぎる
「兄ちゃん・・・その人」
「ああ、赤さんはえっと・・・昔、顔に火傷を負ったみたいでさ
普段はこうして、顔を隠してるんだよ」
『ね?』と一刀が言うと、彼女は無言で頷く
それを聞き、季衣は『そっかぁ』と申し訳なさそうに俯いた
なるほど、だからか・・・でも、何かしらこの違和感のようなものは
彼女から、何か・・・
「えっとそれじゃぁ、赤さんからもほら・・・自己紹介を」
「うむ、わしはぶぁ!?」
一刀に言われ、自己紹介を始めた彼女が・・・途中で横腹をおさえ、言葉を止める
そんな彼女の肩を掴み、一刀がブンブンと首を横に振っていた
この光景に、周りの者達は皆首を傾げている
当然、私もその一人だ
なんなの・・・この二人?
随分とその、仲が良いみたいだけど
「ごほんっ・・・それじゃ、赤さん」
「う・・・う、はい
私は赤と申します
これからしばらくの間、北郷様のお手伝いとして働かせていただくこととなりました
どうかよろしくお願いいたします」
一刀に促され、再び自己紹介を始める赤
声からして、私よりも年上のようだが・・・何故だろう
やはり何か、違和感のようなものを感じた
まるで・・・どこかで会ったことのあるような
「失礼・・・少し、いいか」
ふと、その場にそんな声が響いた
声の主は・・・秋蘭
秋蘭は真剣な表情のまま、真っ直ぐに彼女を
赤のことを見据えていた
「すまんが、お主・・・私と会ったことはないか?」
「・・・」
そして・・・彼女の口から出たのは、私と全く同じ疑問
その言葉に、赤は静かに頭を下げた
「誰かとお間違えではないでしょうか?
私がこの街に来たのは、つい最近のことですから」
「そうか・・・いや、すまなかった」
そう言って、未だ何か納得いかないような表情のまま・・・秋蘭は視線を彼女から外した
やっぱり・・・気のせいだったのかしら
「と、華琳
そろそろ、お開きにしないか?
急がないと、『会議』の準備間に合わないぞ?」
「そうね・・・それでは各自、自分の仕事をこなしなさい」
『御意』と、皆が頭を下げ玉座の間を後にしていく
その時・・・
「・・・」
ふと、彼女・・・赤と目が合った
彼女は無言のまましばらく私を見つめていたが、一刀が歩き出すのに気づきその後について歩き始める
「なんなのよ・・・いったい」
湧き上がる疑問
この答えを知るものは、どこにもいない
「ん、今日も良い天気なのですよ」
空を見上げ、風は小さく声をもらしました
三国での戦いが終わってから、もっと心の中に余裕が生まれたんでしょうかね?
いつもよりも、青空が気持ちよく見れます
これも華琳さま、そして・・・お兄さんのおかげですかね〜
「そう言ったらきっと、お兄さんのことですから・・・『俺は何もしてないよ』と言うんでしょうが」
きっと、そうでしょうね
お兄さんは優しくて、とっても鈍感さんですから
お兄さんは、気づいてないんです
風が、そして魏の皆がここまで頑張れたのは・・・他ならぬお兄さんのおかげなんです
風が支える太陽は・・・華琳様
その太陽を美しく見せるため、蒼くどこまでも広がる空は・・・きっと
「なんて・・・恥ずかしくて、言えませんよ〜」
自然と、頬が緩みます
お兄さんのことを想うだけで、こんなにも風は幸せな気分になれます
これからは、平和に向け皆で頑張っていく時代です
皆と、お兄さんと一緒に笑いあい生きていける・・・そんな時代を目指して
「風は、頑張るのですよ」
見上げた空
青々とした空に向かい、聞かせた想い
「風様・・・」
ふと・・・聞こえた声
風は視線を空から、その声の主の方へと向けます
そこにいたのは・・・いつもの笑顔ではなく、どこか不安げな表情を浮かべた流琉ちゃんでした
「おお、どうかしたのですか?」
風の言葉
流琉ちゃんは、何度か何かを言おうとしては・・・それを止めるということを繰り返します
いったい、どうしたのでしょうか?
「・・・おぉ?」
ポツリ・・・頬に当たる雫
雨?
でも、こんなに晴れているのに
そう思い見上げた空はやっぱり青くて、今のはきっと気のせいなんだと思いました
でもそれは・・・
「風様・・・実は、相談したいことがあるんです」
きっと予兆だったんだと
風は・・・全てを失った後に、気づいてしまったのです
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーー
月が照らす・・・一人の青年
北郷一刀
「なんじゃ、まだ起きとったのか」
そんな彼に声をかけるのは、朝とはまったく違う喋り方をする赤だった
彼は赤の言葉に一瞬微笑むと、視線を月から外した
「前にも言ったけどね・・・情けない話、怖いんだよ」
「眠るのが・・・か」
『うん』と、彼は笑った
その笑顔は、とても儚げに見える
「もう・・・時間がないんだ」
「時間か、どうなんじゃろうな」
「はは、わかるんだよ
だってさ、俺・・・今日の月がどんな形してるのかさえ・・・よく、わからないんだ」
「っ・・・そうか」
彼の言葉
赤は彼と同じように、月を見上げる
月は・・・美しい満月
「今日は・・・満月じゃ」
「そっか、ありがとう」
「よい、それがワシの役目じゃからな」
「それでも・・・ありがとう」
一刀は、笑い・・・赤を見つめる
赤は、コクンと小さく頷いていた
「言わんのじゃな・・・他の者には」
「ああ、まだ頑張れるから
それに・・・決めたからね」
決めた
そう言って、彼は夜空に向かい手を伸ばした
その手が、月に重なる
彼は・・・笑っていた
「笑っていよう
最期の最期まで・・・俺は皆と一緒に笑っていようって
そう、決めたんだ」
月に重なる手
光を浴びたその手は・・・僅かに透き通っていた
「わかった・・・ワシがこの目で、しかと見届けよう」
「ありがとう赤さん」
月の下
迫る終わり
彼の物語は・・・着実に終焉へと向かって、その足を進めていた
あとがき
今回は、これからの展開に大きく関係してくる人物
そして流琉の行動について書いていきました
最初にも言ったとおり、この作品にはオリキャラは絶対に出ません!!ww
万が一『赤』の正体がわかっても、できれば『わかったお』などのオブラートに包んだ表記でお願いしますww
いや、っていうか簡単ですよねww
さてこっからいよいよ、物語は大きく展開していきます
次回は『軍師三人組』です
それでは、また会う日までw
説明 | ||
六章です 始めにいっておきます この作品は原作重視のため、オリキャラ等は絶対に出ません それを知った上で、今回のお話はお楽しみくださいw |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
35660 | 28940 | 185 |
コメント | ||
わかったお(ミクボン) 分かったお(透月) わかったお(kinoshiki) あああ…(readman ) 一刀よ、その失言癖を直さないと色々とズンバラリンされるぞ?マジで^^;・・・まだ頑張れる・・・ですか・・・人の想いって凄いですよね・・・。(深緑) 赤さん吹いたwせきね、自重せねば。(☆クー☆) なるほど…だから「赤」なのか…(ハチミツ) 皆様、コメありがとうございますww皆様の温かい声援のおかげで、気づいたらランキング入りしてましたwww本当にありがとうございますwwww(月千一夜) 少なくとも平衡感覚とかにきていないのが唯一の救いか…でも、ただ「見る」ことしかできないとかどんだけしんどいんだよ。(shimon) くそ!! おれも違う意味で画面が見えなくなってきやがった・・・(suisei) やばい、すでに泣けてくる・・・(T_T)(ハセヲ) 一刀はすごいな普通笑ってなんかいられないぞ。そして触覚と来て視覚ですか、そろそろ立てなくなりますね・・・・普通はもう立てないはずですけど。(サイト) やばいなんかまだ最後じゃないのに涙が・・・・(リンドウ) あほですか?前半の一刀はあほですか? そしてギャップでなかせるつもりなんですねぇうえぇぇぇぇ・・・・(よーぜふ) 赤・・・ね。赤・・・(kanade) ここまで来てまだ皆に病状がばれてないのが驚きです。すごい精神力ですね。(mokiti1976-2010) 1~3pごとで 「完」 となるんじゃないかと思いました。(thule) 赤…一体何者なんだ……?(てゐがー) 華琳達のお仕置きで悪化が進んでるんじゃ(neko) つ・・・・・つづきをくれぇぇぇぇぇ!!(霊皇) とうとう視覚も曖昧になりましたか・・・ってことは、朝議のとき、皆の顔・・・あまり見えなかったんじゃ・・・愛している人の顔すらまともに見えない・・・恐い・・・(水上桜花) アノ人ですね、分かります。ってか視力まで消えつつあるか・・・誰か、彼を救ってください(シュレディンガーの猫) なんか一刀かっこいいw(an) わk、ザッシュ・・・・バッタ(aoirann) いやー、誰だろうなー(棒(キサラ) 謎の女性は裏をかいて真名を持っていないあの人に違いないw いやー、こんな登場なんてオドロキダナァーw(kei) 笑いとシリアスのバランスがうまいから面白さと悲しさがすごいことになるぜ。(poyy) 毎回、笑いとシリアスの織り交ぜ方が自然すぎて凄いです。続きが早く読みたいと思える、素晴らしい作品だと思います。(あさぎ) まさかの「アノ人」が登場!?今回はメモは出てきませんでしたが満月の形が分からないとすると既に視覚も△くらいか・・・皆に悟らせない役割が彼女なのですね。メモを持ち一刀の五感に唯一疑問を持っている流琉が風に相談・・・続きが気になります!(kurei) あー、あの人ですなw てか多分恋姫をきっちりプレイした人ならわかるんじゃないかな?w(闇羽) |
||
タグ | ||
真・恋姫†無双 魏 北郷一刀 華琳 流琉 風 | ||
月千一夜さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |