子猫と鈴
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 鈴は、子猫たちに埋もれた時間を過ごしたいた。

「あーん、どうしてみんなそうなのぅ」

 昼休みが、そろそろ終ろうとしているのに、鈴から離れてくれそうもない。

 そんな中、一匹の子猫が、鈴の脇を通り抜けようとしていた。兄の恭介が最初に拾ってきた猫だ。目つきがどことなく恭介に似ていた。

「素通りしないで、助けてよぉ」

 鈴は、手を伸ばした。

 恭介似の子猫が、足を止めた。鈴と目を合ったが、表情を変えることもない。正面に向き直り、その場から離れていく。

「このぅ、薄情モノ。そんなんだから、キョースケって呼ばれるのよ」

 呼んでいるのは、鈴だけなのだが……

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 予鈴が鳴った。

 後五分で午後の授業が開始になる。鈴に甘える子猫たちを何とかしない限り、遅刻は逃れられない。

 起きあがろうとしては、尻餅を付く。その繰り返しだった。

 一匹の子猫が、鈴の頬を、小さな舌でチロチロと舐める。その後ろで、別の一匹が、ジーっと鈴を見ていた。リキと名付けた子猫だ。

 このコとも、付き合いは長い。普段から大人しく、目立たない存在だった。

 少しの間、鈴と目を合わせていたが、まとわりつく子猫の群れに、潜り込んでいった。

「あなたもなのぅ」

 いよいよ、鈴はピンチに陥った。

 鈴のお腹辺りで、暴れ出す子猫がいた。身体が一番大きな子猫だ。マサトと名付けた子猫が、ケンゴと名付けた子猫と、ケンカを始めたらしい。

 よく見る光景だった。

「こら、やめなさい。ケンカはダメ!」

 鈴の言葉など、二匹には届いていない。他の子猫たちを蹴散らし始めた。逃げ出す子猫も出てきた。

 何が幸いするか、わからない。おかげで、鈴は身体を起こすことができた。

 マサトとケンゴは、キョースケに怒られていた。足元で、リキが「ニャー」と鳴いた。

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「やっぱり、ここにいたんだ」

 理樹の声だ。予鈴が鳴っても鈴の姿が見えないので、探しに来たらしい。

 鈴は、リキを抱き上げ、幼なじみと目を合わす。

「何かあったの?」と、理樹が不思議そうにリキを見つめた。

「ううん、何でもない」

 鈴は、理樹に背を向け、リキを地面に下ろす。

「もしかして、あなたの仕業なの?」

 鈴の視線は、キョースケたち、三匹に向けられていた。

(おわり)

説明
子猫の世話をする鈴には、人に言えない苦労があった。そのせいで、今日も、また、ピンチに陥る。
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