真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第十三話 |
洛陽にて、論功行賞が行われた後。
一刀たちは劉弁の強い薦めもあり、暫しの間この地に滞在することとなった。
とはいえ、新しい任地へ赴くことを考えれば、さほどは長居もできない。
その為、期間は十日とすることにした。劉弁からは、
「も少しゆっくりすればよいのに」
と言われたが、徐州の前牧、陶謙からの引継ぎの事もある。
その日数が限界だった。
そんなわけで、一刀たちはいま、城の中庭でお茶会を開いていた。
参加しているのは、
一刀、桃香、愛紗、鈴々、白蓮、月こと董卓、詠こと賈駆、華雄、霞こと張遼、恋、音々音こと陳宮。本当は華琳も誘ったのであるが、陳留のことを妹の曹仁に任せないといけないので、その為の連絡などで手が離せないということだった。
そう、華琳本人はここ洛陽で警備隊隊長に就任することになったが、父祖よりの領地である陳留まで没収とはならなかったため、一族のものが跡を継ぐ形となった。
華琳の配下である、夏候惇、夏候淵、荀ケの三人は、
「「「華琳さまとともにいます!!」」」
と、同じく洛陽に居残ることを熱望したが、
「あなたたちまでいなくなったら、誰が莉流を補佐するのよ?」
と、華琳に諭され、しぶしぶ陳留への帰還の準備を進めていた。華琳とともに洛陽に残るのは、許緒と典韋の二人となった。
(ちなみに、莉流(りる)とは、華琳の妹である曹仁の真名である)
で、のんびりとお茶をしている一刀たち。
「けど、恋がいたのにはびっくりだったな。てっきり長安で丁原さんの看護をしてると思ってたのに」
一刀が、隣で肉まんをほおばる恋の頭をなでながら言う。
「?」
りすのように、ほほを膨らませながら、首をかしげる恋。
「こ、これは///」
「か、かわいい・・・///」
その恋を見てほんわかとする一同。
「・・・丁原どのなんだがな、もう普通に立って歩けるまでに回復されているんだ。だが以前のように将として働くことはできないそうだ。なので、恋が櫨植どのの客将として、働いていたんだ」
「・・・(こく)」
すでに慣れているのか、動じずに言う華雄の言葉に頷く恋。
「で、援軍を率いる将としてここに来てもらったわけ」
詠が茶をすすりながら言う。
「まあ正直、最初はこれがあの飛将軍・呂奉先とは信じられへんかったけどな。なんせ」
「わん!!」
恋のそばにいた犬が、軽く吠える。
「・・・セキト、これ、食べる?」
「わん!!」
恋がその犬−セキトに饅頭をわける。にっこり笑顔で。
「・・・これやもん。信じろっちゅうのが無理やで」
肩をすくめる霞。
「あはは」
「恋ちゃんって言えば、ねねちゃんはどうやって恋ちゃんと知り合ったの?」
「俺も聞きたいな。・・・ねねの恋へのほれ込みようは、並じゃないし」
虎狼関で再会したとき、一刀に恋が抱きついてきた。一刀はその恋をやさしく抱き返したのだが、その背後から、「ちんきゅーーーー、きーーーーっく!!」と、思い切りとび蹴りを食らわして来たのが、ねねだった。
突然だったので避ける事のできなっかった一刀は、そのまま恋を押し倒す形で倒れこみ、気づいたら、その胸をわしづかみにしていた。
で、そうなれば今度は、当然のごとく、
「アニヴエ!?ナニヲナザッテイルンディスカ?!」
「オニィヂャン!!コンノゼッソウナジーーーーーー!!」
二人の嫉妬神にぼこられる一刀であった。
「・・・ねねはみなしごなのです。長安でその日暮しをしていたねねは、ある日、とうとう食べるものもなくなり、露天の食べ物を盗もうとしたのです。・・・そこに現れたのが恋どのなのです。ねねをお家に連れて行ってくだされ、ご飯も下され、ここに住んで良いとまで言ってくださったのです!!母上様も喜んで迎えてくださったのです!!」
興奮して、早口でまくし立てるねね。
「だからねねは一生懸命、恋どのにお仕えするのです!!空腹をごまかすため読み漁り、身につけた本の知識で、恋どのをお助けするのが、ねねの生きる意味なのです!!」
そんなねねの頭を、優しくなでる恋。
「・・・ありがと、ねね」
「れ、恋どの〜〜〜〜」
「・・・いい子だね、ねねちゃん」
「うん。・・・白蓮、どしたの?」
みると、白蓮がうつむいたまま、肩を震わせていた。
そして、突然立ち上がり、
「・・・決めた!!一刀!!私はここに孤児院を作るぞ!!」
「は?」
「もちろん帝の許しは得ねばならんがな。・・・ねねのような子がここ最近の動乱で急激に増えてきている。このまま見過ごすなんて、私には出来ない!!」
力説する白蓮。
「いいですね。帝には私からお話しておきますよ」
月が白蓮に同調して言う。
「ありがとうございます、相国さま!!」
「月(ゆえ)でいいですよ。せっかくみんなで真名を預けあったんですから」
「・・・私も預けられる真名があれば、よかったんだがな」
ぽつりともらす華雄。
「華雄は記憶が無いんだったっけ」
「ああ。・・・物心ついたときにはすでに一人だった。今の名とて、月さまの父上、先代の董卓さまに付けていただいたものだしな」
一刀の言葉に、そう返す華雄。
「手がかりが無いわけじゃないんだけどね。今華雄が名乗ってる姓は、金剛爆斧に巻かれていた布に書いてあった字なのよ。名前の一部なのかもしれないってことで、先代様が姓として使えば、何がしかの手がかりになるかもって、付けられたそうよ」
腕組みをして言う、詠。
「名の”雄”は?」
愛紗が問う。
「そのままの意味だ。雄雄しく勇敢に育てと、そう付けてくれた」
「・・・良い方だったんですね、先代さんも」
「はい。・・・流行病で命を落とさなかったら、この場にいたのは父だったでしょうね」
寂しそうにいう月。
「月、元気出して。今は僕たちががいるんだから、寂しかったらいつでも言って。ね?」
「ありがと、詠ちゃん」
微笑む月。
「お。なんじゃ皆。茶会かの?」
「え?」
突如する声。
全員が振り向くと、そこには二人の少女の姿。
『へ、陛下!!それに、協殿下も!!』
全員が慌てて立ち上がり、頭をたれて拱手する。
そこにいたのは漢・十三代帝、劉弁とその妹劉協の二人だった。
「よいよい。みな、頭を上げて楽にせよ。今は公式の場ではないのだ。畏まらずともよい」
そう言ってとことこと歩いてくる二人。
「朕らも混ぜてもらってよいかの?」
「はは!こ、こちらへ」
「ん」
笑顔で一刀の差し出す椅子に腰掛ける劉弁。
「協、そちは座らんのか?」
「私はこのままで。・・・皆も私のことは気にせぬよう」
そういって後は黙りこくる劉協。
「すまんの。妹は口下手なうえに愛想が悪くての」
「陛下、お茶をどうぞ」
「おお、相国手ずからの茶か。有難くいただこう。・・・ふう」
茶をすすり、息をつく劉弁。
「ところで劉北辰」
「は」
「よい機会じゃから一つ尋ねたい。・・・そなたも朕と同じ漢王室のものと聞いた。差し支えなくば、そちの祖先が何処の者か聞かせてくれぬか」
劉弁の質問に、一刀は一瞬躊躇した。
なぜなら、それをはっきりと口にすることは、今後、良くも悪くも、注目を集めることになるからだ。
「お兄ちゃん・・・」
全員の視線が一刀に集まる。
皇帝から直接聞かれた事に答えないのは、下手をすれば不敬罪にも問われかねない。
一刀は意を決し、
「・・・臣の祖先は、漢の六代・景帝、中山靖王が末孫、劉勝にございます」
・・・・・・・・・・・・
沈黙が流れた。
「漢の景帝・・・。ならば朕の一族ではないか。協、すぐに系譜をこれへ」
「はい」
それからしばらくして、劉協が戻ってくる。
そして、それを読み上げる。
高祖より始まる漢の系譜。その読み上げられていく名を静かに聴く、一刀と桃香。
二人の脳裏には、祖先より代々継がれてきた、北方における苦悩の歴史がよぎっていく。
苛酷な環境と、異民族に悩まされながら、それでも、北方の地を愛し、生きてきた祖先。
自分たちは今後、その地を離れ、新たな土地で生きることになる。
二人の目には、いつしか涙が浮かんでいた。
「間違いありません。劉北辰、劉玄徳は中山靖王の末裔にあたります」
「そうか。・・・朕らにかような親族がおったとは。・・・北辰、玄徳、今後二人には、朕を『命』(みこと)と呼ぶことを許そう」
「「!!」」
「そ、そんな!陛下の真名を預かるなど、我々にはあまりにも恐れ多きこと!!なにとぞご勘弁のほどを」
「だめじゃ。よいな、今後は公式の場以外では真名で呼ぶこと。わかったの?」
「諦めなさい、ふたりとも。こうなった姉上は止められません」
「「・・・御意」」
「よし!!今日は良き日じゃ!!協!酒(ぎろり)・・・は駄目じゃな。食事をここに運ばせよ!!酒抜きは不本意じゃが、このまま宴とまいろうぞ!!」
「はい」
そして、その日は日が暮れるまで、中庭で宴会が続けられた。
楽しい日々は瞬く間に過ぎるもの。
洛陽滞在の十日間はあっという間に過ぎ、一刀たちは徐州へと発った。
白蓮も幽州へと戻り、恋とねねは長安へ。
それを見送る月、詠、霞、華雄、そして華琳。
さすがに皇帝とその妹は見送りには来れなかったようだが、餞別にと、馬騰が命から預かってきた贈り物に一刀たちは驚いた。
それは、見事なまでの立派な体躯の馬。
純白の体に、紅いたてがみ。
蒼い瞳の駿馬。
名を「蒼炎」と言う。
一刀は蒼炎にまたがり、見送る皆に別れを告げ、まだ見ぬ地、徐州へと出発した。
そこに一刀たちを待ち受けるのは、どんな運命か。
時に、漢の黄平二年。
時代の波は静かに、そして確実に動いていた・・・・。
あとがき
いくつか注意書きを。
まず、曹仁ですが、史実では曹操の従兄弟ですが、ここでは妹という事になってます。
次に華雄の設定は私の勝手な妄想です。
怒んないでくださいね^^。
いずれ素性のわかる話をかくつもりです。
それと、一刀と桃香について。
史実の劉備は、本当に漢室の一門だったかどうか怪しいそうですが、
ここの外史においては、正真正銘、漢の一族です。
中山靖王の末裔です。
そういうことでお願いします。
では、また次回。
本編の続きになるか、拠点になるかわかりませんが、
近いうちにアップしたいと思ってます。
コメントお待ちしております。
(出来れば支援も^^)
それでは〜。
説明 | ||
刀香譚、十三話をお送りします。 洛陽にて、ひと時の安らぎの時を過ごす一刀たち。 その様子を少しだけ、のぞいて見ましょう。 では。 追伸。十一話、後編にも王冠がついてました。 やたーーー!!^^。 てなわけで、皆様に感謝感謝です。 |
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コメント | ||
本人から説得があったとはいえ、よく夏侯姉妹や荀ケが傍を離れたな^^次回も期待です!(深緑) houhinさま、お楽しみにおまちくださいな。(狭乃 狼) 華琳は陳留に戻らないなど、もう完全にこの後の展開が読めなくなって、次回も楽しみです。(hokuhin) リョウ流さま、ありがとうございますー!!感謝ですなの〜!(狭乃 狼) 紫電さま、誤字報告ありがとうございます。白蓮は直しました。ただ、ころうかんについては、ここではこの字ってことで、ひとつよろしくですwww(狭乃 狼) |
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