葉留佳シフト |
昼休み、理樹が教室を出ようとすると、廊下に葉留佳の姿が見えた。
一瞬にして、クラスメイトの緊張が高まる。
今日はどんな災厄を持ち込まれるのか。警戒の色が、以心伝心で染み渡る。最悪でも教室内に留め、風紀委員まで届かぬにしなければならない。
「おっはようですネ」
理樹を見つけた葉留佳が、左手を挙げた。独特のツインテールが揺れる。理樹を中心に、葉留佳シフトが、できあがったのだが……
「あれっ……?」
葉留佳は、そのまま通り過ぎていった。
接点は、理樹との挨拶だけ。
「そんなバカな」と、クラスメイトたちは、顔を見合わせていた。
安堵の息に教室内が満たされる中、理樹は、廊下に飛び出した。
「三枝さん、今日はどうしたの?」
理樹の呼びかけに、葉留佳が振り向く。
「何がですネ」
「だって……」
真人が「やめとけ」と、理樹の制服を引っ張る。その後ろで謙吾が頷いていた。
翌日も、その翌日も、葉留佳は理樹の教室に入らなかった。
学校には来ていた。
廊下を歩く姿は、普通に目撃されていた。
なのに、どうして……
さらに数日が過ぎ、教室のどこからか、声があがり始めた。
「葉留佳シフトなんて、もう、止めにしないか」
「いや、まだまだ。警戒の解けた頃が危ないんだ」
「でも、なんか、ねぇ」
理樹たちの教室に、平穏な日々が続いている証拠でもあった。
ある日、理樹と真人が、廊下を歩いていると、不穏な空気が背中を刺した。
「何か、感じなかったか」
理樹は足を止めた。
「俺の筋肉は、いつも通り、絶好調だが」
真人が脱ぎ出した。上半身ハダカになって、ボディピルのポーズを取る。言わなければ良かったと、理樹は後悔した。
「いや、何かおかしい」
いつの間にか、謙吾が後ろに立っていた。
気が付くと、そこは葉留佳の教室の前だった。理樹たち三人を包む視線は、決して心地よいものではない。真人でさえ、筋肉の動きを控え始めた。
(葉留佳が、全然、行かなくなったんだって)
(あのクラスに行くと、なんか、すごいことされるらしいよ)
(葉留佳シフトとか言って、みんなで寄ってたかって……)
(ウソー。マジで)
(そんなの、葉留佳が、かわいそう)
葉留佳のクラスメイトは、口々に語っていた。
そんなことになっていたなんて。
理樹たちの教室に入り浸っていた葉留佳が素通りするようになったのは、逆襲のイジメに遭ったから――らしい。
冷たい視線が、理樹たちを包む。
理樹の背中に、冷たい雫が流れた。葉留佳は、教室に来なくても、しっかりとトラブルに巻き込んでいく。
これも葉留佳の、新手なのだろか。
(おわり)
説明 | ||
理樹たちのクラスでは、対葉留佳対策が進んでいた。それを察知したように、教室を通り過ぎる葉留佳。平穏が訪れたかに見えたのだが…… | ||
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