真・恋姫†無双〜覇天之演義〜 第三章・英撃雄騎・白馬義従 |
劉備こと桃香率いる琢の陣営は、軍議の真っ最中。
というのも、町にやってきた流れ商人から聞いた情報によると、
大勢の賊に襲われそうになったところを、公孫賛率いる騎馬軍に助けられたのだが、
その賊はどうやら先遣隊だったらしく、潰した賊軍の後ろから更なる賊があふれるほど出現。
副本隊である三万程の賊軍と今まさに激突しているらしい。
もし公孫賛が敗れてこのまま賊が押し寄せれば、民たちはより賊に略奪され、
こちらが受ける被害も甚大になる。これは看過できない。
そして何より、劉備と公孫賛こと白蓮は友人同士であるらしい。
これに伴い、公孫賛軍救援の軍議を執り行っている次第である。
一刀「三万居ても本隊じゃないのか…。」
愛紗「『副』本隊というくらいですから、本隊とそこまで大きな開きは無いと思いますが…。」
桃香「でも、白蓮ちゃんが危ないんだもん。見過ごすなんて出来ないよ…。」
朱里「でも、隊列も練度も無い賊とはいえ、三万という数は脅威です…。」
雛里「あわわ…。ご主人様の政策で少しは豊かになったし、兵隊さんも増えたけど…、
ちゃんと戦えるくらいのひとは三千人くらい…。質が落ちるのを承知でも五千人が限界です…。」
朱里「勝つためには三倍の兵力が要るといいますが、今回はあちらが多すぎます。
公孫賛さんの軍勢が何人いるかにもよりますが、それでもあちらの方が三倍ほどになりますね…。」
愛紗「とはいえ、付近の商人に伝え聞いた話によると、
賊共に攻め滅ぼされた農村は十は下らんと聞く。捨て置くわけにもいくまい…。」
この逼迫した軍議の場で鈴々はというと、一刀の膝枕でぐっすりである。
一刀「こんなときなのに…、しょうがないなぁ(苦笑)」
少女たち 「「「「 (いいなぁ〜…。) 」」」」
いまいち締まらないのが、彼らのクオリティである。
??「白狼様、兵たちの準備が整ったようです。」
軍議で白蓮の援護に向かうことが決まり、一刻ほど。
早々に準備を済ませて、内鉄双竹刀を佩いた一刀が待機していると、
兵たちの中から一人の女性が出てきて、そう一刀に告げる。
彼女は荀蝉楽妃(ジュンゼンガクヒ)、真名を玲音(レオン)という。
もともと琢県で県令として職務をこなしていた。
先の賊襲撃事件の折、賊に犯されていたのが彼女である。
あの時そばで殺されていたのは、彼女の弟とその息子で、
弟は姉である玲音に、息子の顔を見せるために琢県へ来ていたらしい。
そのタイミングでの賊襲撃、間が悪かったとしか言いようが無い。
賊たちをたった一人で制圧し、そして民だけでなくその俗すらをも想って、
雨の中ただ慟哭していた一刀のその広い懐とやさしさに惚れ込み、
県令の地位を一刀に譲った後、一刀もとに降ったのだった。
一刀「うん、有り難う。玲音は町で待っててくれな。」
玲音「申し訳ありません。私にも戦う力があればよかったのに…。」
一刀「気にしないで。人それぞれ戦うべき舞台があるさ。俺じゃ玲音の内政力には敵わないよ?」
玲音「あ…、ええ、有り難うございます。無事のご帰還、心よりお待ちしております。ご主人様。」
心から安心した。凄く嬉しい。という彼女の気持ちが伝わってくるような、
そんなふわりとした笑顔に、一刀はにっこり御遣いスマイルを返し、兵たちの下へ向かう。
余談だが、この時御遣いスマイルの直撃を受けた玲音は、
顔を真っ赤にしたまま、しばらくの間硬直していたという。
硬直がとけて街中を引き返している玲音の前には――
??「どォだよ、天の御遣いサマは?」
玲音「あら。あなたは…。」
この邂逅を、一刀たちは知らない。
白蓮「おお、来たな。久しぶりだなぁ、桃香!」
桃香「白蓮ちゃん!無事でよかったよ!」
一刀たちは、友軍として公孫賛の陣に招かれていた。
感動の再会、というほどではないが、
長らく会話もしていなかった旧友との再会に喜ぶ二人。
やや手持ち無沙汰気味な一刀たちである。
白蓮「桃香、後ろの奴らはお前の仲間か?」
桃香「うん!あ、この人が私のご主人様だよ!」
白蓮「ご主…、ふぅん。ん?もしかして、桃香のご主人様、天の御遣い・銀狼か?」
桃香「うん!えへへ〜、すごいでしょ〜。」
一刀(…銀狼ってなんだ?)
自分のことや、自分への評価、
自分へ向けられる女の子の想いにとことん鈍いのが一刀品質。
白蓮「へぇ、あんたが…。(なんだろう、アイツと纏う気の質が似てる気がする。)」
ふい、と。
白蓮が背後の将に気を向ける。
一刀もつられて視線を向ける。
そこには一人の男が立っていた。
腕を組み、壁に背を預けたまま、じっと一刀のことを見つめている。
一刀は何とはなしに、感じ取る。
一刀(こいつ、無茶苦茶強い…。)
しばらくすると、一刀から視線をはずし、俯いてしまった。
白蓮「まぁ、桃香とは仲良くしてやってくれ。こいつ、天然入ってて、トロいからさ。」
一刀「ああ、十分承知してる。」
ええ〜!?と背後で桃香が抗議しているが二人は無視。
白蓮「私が公孫伯珪(コウソンハクケイ)だ。よろしくな、銀狼。」
一刀「ああ、俺は北郷だ。あと銀狼じゃなく白狼な。」
白蓮「あはは!銀狼は武名に応じた通り名みたいなものだぞ。受け入れな!」
一刀「うぅむ、それならまぁ仕方ないか…。」
雑談もそこそこに、対賊戦の軍議が開かれる。
開かれた軍議に参加したのは、各陣3人ずつ。
自軍の戦力や賊に関する情報、対策について見当していく。
しかし、軍議の最中に公孫賛軍の客将として参画していた趙雲が、
しびれを切らし、兵も連れずに単身で陣を飛び出してしまう。
慌てて一刀たちが追いかけようとするのを、残る公孫賛側の将が止める。
先ほど一刀のことを観察していた男である。
彼は、公孫賛の従弟で、公孫越と名乗った。
現在公孫賛軍の武将と軍師を兼任しているらしい。
長すぎて完全にその相貌を覆い隠す前髪と、口元を覆い隠す黒い布マスク。
最も印象深いのは、身の丈程もある、まるで西洋の突撃長槍(ランス)のような馬上槍。
その先端から柄の端まで金属で出来ているため、相当な重量になるはずだが、
まるで重さを感じていない、空気を背負っているかのような振る舞いを見せている。
先ほどと同様に、直感的に感じた彼の強さに生唾を飲み込む一刀を他所に、越は今回の作戦を告げる。
内容は朱里が考えていた策と似てはいたが、最後の部分が大きく違った。
危険且つ無謀ともいえる策に朱里はやや渋るが、兵の練度さえ十全なら出来るし、
完璧に嵌れば被害はそれこそ最小で済む、という越の言葉に言葉を飲み込んだ。
言外に、兵たちの練度に自信がないのならやめるのも手である、といわれているからである。
自分たちの兵の練度は高い、と一刀陣は自負しているため、退くわけにはいかなかった。
かくて、賊討伐戦が展開された。
朱里「以上が、今回の作戦内容です。」
愛紗「随分と無茶な作戦だな。朱里ではあるまい。どこの愚か者が考えた策だ?」
一刀「愛紗の後ろにいる人。」
愛紗はビクッとしながら、無言で佇む越を振り返る。どうやら気づいていなかったらしい。
しかし、越の姿を見て、軽蔑したような眼差しを送る。
まったく遠慮することなくその視線を越に浴びせつつ、愛紗は言う。
愛紗「ずいぶんと細く青っ白い男だな。その背の大層な武器、まともに取りまわせるのか?」
越「………。」
愛紗「それになんだ、あの策は。あれでは、我々は撤退もままならんではないか。」
越「………。」
愛紗「それに、騎馬隊の役目も相当危険だぞ。貴様のような奴が将の部隊で、さて、
役目が果たせるものやら。おおかた、途中でそのまま馬で逃げるのではないのか?」
越「………。」
愛紗「そもそも、貴様からしてとても将の器とは「程度が知れるな。」…何?」
越「やったこともない策を決めてかかって及び腰。
軍師でもないくせに戦う前から退く時のことに意識を向ける。
そして見た目ばかりを気にして、相手の力量も測れない。程度が知れる。」
愛紗「…っ!!」
越「ああ、お前のじゃない。主人である 一 刀 のだ。」
一刀陣 「「「「「「 !? 」」」」」」
そういって、越は一刀に視線を送る。
その気配は、先ほどまでの公孫越のソレではない。
越?「おィおィ、一刀ォ。部下は選んだ方がいいぜェ?」
一刀「!!(こ、この口調!?)」
愛紗「貴様ァ!!私を侮辱するに飽き足らず、あろう事かご主人様を侮辱し、
それだけか、天の御遣い・北郷白狼様の真名を気安く呼びおって、覚悟s―」
一刀「まっ、待て!愛紗!!」
一刀がそう言った時には、既にその武器は喉元に突きつけられていた。
公 孫 越 の 馬 上 長 槍 が、―――
―――関 羽 雲 長 の そ の 喉 元 に。
愛紗は武器を振るうどころか、まだ構えることすらできていなかった。
普段ならそろそろ鈴々も動くはずだが、顔を青くして動けずにいる。
周囲に充満する重力が数倍になったかと錯覚するような殺気のせいで、誰も動けないのだ。
愛紗「な……に……?」
越「馬上でなければ、この長大で鈍重な得物は振り回せない、そう思ったか。」
愛紗「………くっ。」
越「長くても力さえあれば扱える。重くても重心をうまく操れば良い。ようは使いようだ。
まぁ、私はそのあたりは特に気にしなくとも、この程度のことは容易いが、な。」
愛紗「………。」
越「速(SPEED)でも、力(POWER)でも、技(TECHNIQUE)でも、お前は私の遥か下だ。」
愛紗「!?」
越があごで示した地面を見てみると、いつの間にか愛紗を取り囲むように、
何かを突き立ててえぐったような穴が、五箇所開いていた。
愛紗に槍を突きつけてからは動いていない。
つまり越は、愛紗が切れて、一刀が止めようとしたその瞬間から、
瞬時に地面に刺突を五回打ち込み、その上で愛紗の首に槍を構えたのである。
越「力の差を理解したか。」
越の気迫に圧され、誰も口を開かない。
その様子をしばらく見て、越は槍を背に収めた。
越「私に関しては、今見せたとおり。この場の誰よりも強かろう。」
全員『!!』
突然、越が語りだしたことに全員が驚く。
しかし、その反応を他所に越は説明を続ける。
越「次に、撤退など必要ない。敵は所詮賊。練度がなっていないならともかく、
そちらの兵たちの練度を見る限り、賊どもに囲まれようと、まず問題などないだろう。
最後に、我らの騎馬隊だが、こちらも問題ない。幾度も厳しい訓練を重ねている。
こちらの騎馬兵一人の強さは、そちらの兵で言えば十人程度だ。
ちょっとやそっとでは、討たれるどころか、負傷も落馬もしはしないさ。」
一気に説明を終えると、越は溜息を吐く。
越「まったく、うちの猪の猛進を追わなければならないというのに、手間のかかる。」
そう呟くと、越は兵をまとめに、さっさと行ってしまった。
残された一刀陣営はすぐさま兵の編成を始めたが、愛紗は硬直したままだった。
越が去った方を見つめ続ける愛紗に一刀が声をかける。
一刀「強かったか。」
愛紗「…ええ。あんなに強い方には、ご主人様以外会ったことはありません。」
一刀「…そうか。」
愛紗「ええ。今ほど自分が恥ずかしかったことなどありません…。」
一刀「…そうか。」
愛紗「しかし…、しかし、あの方がご主人様の真名を汚したことは…許せません。」
一刀「………。」
愛紗「ご主人様?」
一刀「…愛紗。」
越の去った方をまぶしそうな表情で眺める一刀に、首をかしげる愛紗。
一刀「多分たけど…。あの人が…俺の師匠だよ。」
愛紗「!!!! なんと…。」
確証などない。彼の顔など誰も知らないからだ。
そもそも越からして顔が見えていない。
一刀がそう考えたのは、彼の口調と、纏っている気が似ていたからだ。
自分が知っている、獅子神 湊瑠、その人に。
一刀「幼いころから修行に付き合ってもらってたからね。いうなれば、
愛紗たちよりも、それこそずっっっっっと昔に真名を預けた人だよ、あの人は。」
愛紗「あ、ああ…!私はなんと不敬なことを…。」
一刀「そうだね。人を見かけで判断するのは、良くないよね。
でも多分、あの人はそんなことは気にしないよ。
それよりも、この戦でしっかり働いて、腕を認めてもらえるよう、がんばろう?」
愛紗「…そうですね。気を引き締めて臨みます。」
その時の愛紗の表情は、実に凛々しかったという。
それを見て赤面していた一刀は、他の少女たちにつるし上げられたという。
一刀「公孫賛。ちょっと失礼な話になるかも知れないけど、聞いていいかな。」
白蓮「んー?なんだ、銀狼?」
今は賊に迎撃の策をあてるため、趙雲を救出するために移動していた。
この場に、公孫越はいない。彼は賊の背後をつくために別行動している。
北郷の陣営と公孫賛は途中までは道が同じなので、一緒に行動していた。
一刀「…出来れば、白狼で。」
白蓮「はははっ!わかった。で、なんだ白狼?」
一刀「ああ、あの公孫越って人についてなんだけど。」
白蓮「あ〜…、越か。うん、アイツがどうかしたか?」
一刀「あの人ってさ、本当に公孫越?」
白蓮「…、ん?どういう意味だ?」
一刀「ああいや、あの人って本当に公孫賛の従弟なのか?」
白蓮「ああ、そういう意味か…。う〜ん、よくわからない。」
一刀「え?」
白蓮「私もよく知らないんだ。というのも、アイツと初めて会ったのが割と最近でさ。
それまで、越っていう従弟がいる、というのは知ってたんだけど、会ったことはなかったんだ。」
一刀「………。」
白蓮「それが、どうかしたのか?」
一刀「え?いや、うん。あの人、知り合いに似ててさ。
もしかしたら名乗っているだけで、その人なのかな〜、って。」
白蓮「そうなのか?」
一刀「いや、よくわからない。多分一緒にこっちに来てると思うんだけど…。」
白蓮「天の世界からってことか。それは紅鷲じゃないのか?」
一刀「紅鷲?誰、それ?」
白蓮「地の御遣いだろ?呉の紅鷲。たしか、白童鷲王だったか。」
一刀「白童!葎っちゃんも来てたのか!しかし、鷲王って…。」
白蓮「知り合いみたいだが、どうやら違うようだなぁ。」
一刀「そうだね…。」
白蓮「う〜ん?」
二人の会話に、兵士が割り込んできた。伝令の兵のようだ。
伝令「公孫賛様。そろそろ部隊の分岐地点になります。」
白蓮「ああ、わかった。隊列に戻ってくれ。」
伝令「は。」
白蓮「そろそろ準備しなきゃな。で、白狼。その話は…。」
一刀「あ〜、いや。うん、気にしないで。」
白蓮「ん、そうか?」
結局、結論が出ないまま話は終わった。
白蓮「…湊瑠が、御遣いかもしれない…、ねぇ…。」
既に分かれていた一刀の耳に、その言葉は届かない。
星「はい!はい!はい!はい―――!!」
威勢のいい女の声にあわせて、数人の賊が物言わぬ肉塊になった。
常山の登り龍を自称する、趙雲子龍(チョウウンシリュウ)こと星(セイ)である。
圧倒的なその武でもって、すでに数十人の賊を誅していたが、やや疲れが出てきている。
そして、積み重なった骸に動きを制限され、すこしずつ押されだしていた。
星「くっ。私としたことが。思い上がっていたようだ。あれだけ越殿と手合わせをしていただいて、
いまだかすり傷のひとつすらつけることが出来ていないというのに…!」
賊「おらぁー!」
星「しっ!」
ぎゃあ!と叫びながら地に伏す賊。
またひとつ、星を縛る肉の壁がその嵩(カサ)を増した。
星「まだまだぁ!はぁーっ!はい!はい――!!」
賊たち 「「「 ぎゃ―――!!!! 」」」
奮迅する星によって骸はどんどん詰みあがり、ついに星は悪手を打つ。
転がる骸に、脚をひっかけてしまったのだ。
星「!! しまっ…!」
賊「いまだ!その女を仕留めろ!!」
星「くっ…!我が命運も此処までか…!」
その一瞬、挫けかけた自身に自問する。
星(諦めるのか?たかが雑兵、賊程度に討ち取られるのが、最期?
イヤだ。そんな惨めで情けない終わり方など、私は認めない!私は…―)
叫べ、その心。胸に燃える思いを。
星「まだ、死にたくない!!―――」
??「示現北星流…―――」
一刀「鋭撃閃(エイゲキセン)――――!!!!」
星「!!」
賊の骸の山の一角を貫いて、一人の男が現れる。
公孫賛の陣で対面した天の御遣い、銀狼こと北郷白狼である。
星は、自分が助かった事、一刀が 見 覚 え の あ る 技 を使ったことに驚く。
一刀「無事か、趙雲!」
星「あ、ああ。助太刀、かたじけない。」
一刀「まだだ!跳べ!!」
星「っ!!」
とっさに跳躍した星と同時、一刀が行動に出る。
一刀「示現北星流・大噴火(ダイフンカ)!!」
爆音を響かせ、周囲に積もった賊の骸が空中に打ち上げられる。
◆示現北星流・大噴火
内鉄竹刀に気を通し、先端から放出しながら大地に突き立てる。
地面を伝って周囲に走った気は、何かに触れると一気に放散し、
半径5〜10M周囲のものを一気に上空に弾き、打ち上げる。
離れ業なので汎用性が高く、応用がきく。
災害モードの一刀が使った地面に縛る地震はこれの発展系。
一刀「次、伏せて!!」
星「っ、応!」
すぐに指示に従って伏せた星を確認すると、
一刀は竹刀を一本放り捨てて両手で竹刀を構える。
一刀「白童流抜刀術・劣化模倣奥義(ハクドウリュウバットウジュツ・レッカモホウオウギ)」
瞬間、一刀は両肩から先が霞んで見えるほどの速度で竹刀を振り回す。
一刀「大和千両花火(ヤマトセンリョウハナビ)―――!!!!」
一刀が竹刀を振るうその先その先で賊や骸が吹き飛んでいく。
あっという間に、一刀と星の周りはひらけた。
こうなったら、最早常山の空を駆ける龍は止まらない。
星「はいっ!はい―――!!」
襲い掛かる賊たちを次々と屠る星。
一刀「劣遠閃(レットオセン)!」
星に討ち取られた骸や、死角から襲い掛かる賊を、中遠距離から吹き飛ばす一刀。
星「直に斬らずに当てるとは、便利な技ですな。」
一刀「はは。葎…あ〜、紅鷲の剣術の物まねだけどね。花火はこれの応用。
これでもものすごい劣化してるよ。本物なら離れた場所の弓兵も討ち取るよ。」
星「それは…、ふふ。恐ろしい御仁ですな、地の御遣い殿は。」
◆白童流抜刀術劣化模倣・劣遠閃
(ハクドウリュウバットウジュツレッカモホウ・レットオセン)
葎の我流抜刀術を一刀が真似たもの。
振るう竹刀の先端に気を乗せ、少し離れた場所のものを吹き飛ばす剣技。
技術不足で劣化しているので、大きく吹き飛ばすだけで斬れはしない。
◆白童流抜刀術劣化模倣奥義・大和千両花火
(ハクドウリュウバットウジュツレッカモホウオウギ・ヤマトセンリョウハナビ)
葎の我流抜刀術を一刀が真似たもの。
瞬間的に多方向に劣遠閃をいくつも放つ奥義。
葎が賊討伐の時に使ったのは、いわばこれの完全版。
射程、威力、斬撃数全て葎のそれより圧倒的に低い。
※ちなみに、葎は技に特に名前をつけていなかったので、一刀の勝手な命名である。
星「常山は趙子龍。助太刀感謝。」
一刀「天の御遣い、北白狼(ホクハクロウ)。よろしく!」
賊に包囲された一帯を、笑いながら駆け抜けていく二人。
星「それで、これからどうするのですかな?」
一刀「別働隊が到着するまで少し足止めする。合図がなるまで―」
ぐわ〜ん ぐわ〜ん
星「合図のようですな。」
一刀「おお、速いな!あの人、もう着いたのか。こりゃ急がないと!
さて、趙雲殿。公孫越殿の策を使うため、ついて来てはくれないかな?」
星「ご迷惑をおかけした。お供いたす。往きましょうぞ!」
一刀「行くぞ!」
隙がない二人の布陣に近づける者はなく、無事賊の群れの中から脱出した二人は、
外周部で賊たちをいなしていた北郷隊の兵たちを引き連れ、賊たちの誘導にとりかかった。
"桃香・白蓮"
伝令「伝令!公孫越隊、突撃体制に移行いたしました!」
白蓮「ご苦労!桃香、頼んだ!公孫賛隊、出陣るぞ!!」
桃香「うん!
さぁ、みんな!反撃の時は今だよ!ご主人様たちに知らせて!
合図を送ったら、劉備隊の皆さんは私の後に続いて公孫越隊後列に接触、突撃用意です!」
ぐわ〜ん ぐわ〜ん
"張飛・諸葛亮陣"
鈴々「おぉ〜っ!やっぱりお兄ちゃんは強いのだ!」
ぐわ〜ん ぐわ〜ん
朱里「桃香様の合図です!次は公孫賛さんと公孫越さんの隊が敵を切り崩してからです!
張飛隊、諸葛亮隊のみなさんは、公孫賛隊の離脱後、行動開始です!
この戦いは速さが重要です!騎馬隊が離脱してからが勝負どころになります!
張飛隊のみなさんは、何時でも突撃できるように準備をしてください!
諸葛亮隊のみなさんは援護射撃の準備に入ってください!!」
オォォオオオオ――――――――!!!!
"関羽・鳳統陣"
ぐわ〜ん ぐわ〜ん
雛里「愛紗さん。桃香様の合図が鳴りました。
それから、既に公孫賛さんがこちらの陣の中央を突っ切り突撃に入っています。」
愛紗「了解した。北郷軍の兵たちよ! 今こそ罪なき民草から略奪をもって、
甘い蜜を吸おうとする賊共を蹴散らすぞ!関羽隊、突撃用意――――!!!」
雛里「鳳統隊、射撃隊列になってください〜!」
オォォオオオオ――――――――!!!!
"一刀・星"
ぐわ〜ん ぐわ〜ん
一刀「合図だ!全員、左右に捌けろ〜!!」
星「雄騎陣がくるぞ!死にたくない者は速やかに左右へ捌けよー!!」
オォォオオオオ――――――――!!!!
南へ向かって賊を誘導する北郷隊、趙雲隊。
賊軍北から猛進する公孫越隊。
西に突撃開始を待ち前進する張飛隊、諸葛亮隊。
東に公孫越隊と連動して突撃に入る公孫賛隊。
賊軍の外延に沿って公孫越隊後列へ向かう劉備隊。
突撃した公孫賛隊を追う形で前進を始めた関羽隊、鳳統隊。
ここに、北郷軍・公孫軍最強の大陣が咲く。
"白蓮 ― 越"(同時)
二人 「「 我らは先行して穴を穿つ!各員、我らに続き穴を広げろ! 」」
越「力なき者たちに刃を向けた賊共に、」
白蓮「今こそ我ら雄騎衆(ユウキシュウ)が裁きを下す!」
二人 「「 各員、鋭撃せよ!騎馬戦陣(キバセンジン)――― 」」
―― 英 撃 雄 騎 ・ 白 馬 義 従 ――
( エ イ ゲ キ ユ ウ キ ・ ハ ク バ ギ ジュ ウ )
雄騎衆『オォォオオオオ――――――――!!!!』
一刀「!!」
北から、公孫越が槍を構えて駆ける。
東から、公孫賛が剣を振りかざして駆ける。
まるで光を纏っているかのような闘志の迸り。
走り抜ける過程にいた賊たちは、瞬く間に吹き飛ばされていく。
敵中を駆け抜けたその軌跡、賊軍には十字の亀裂が走った。
賊たちは何が起こったのかも理解できず、未だ公孫賛軍の攻撃は続く。
間断なく、次々と交互に駆け抜けて行く雄騎衆。
二列縦隊に並んだ総勢四千の雄騎衆のわだちは、十字の道となった。
桃香「いまだよ!もう一度合図!!」
ぐわ〜ん ぐわ〜ん
北郷軍将&星『全軍、突撃――――――!!!!』
北郷軍『オォォオオオオ――――――――!!!!』
作られたその道に、なだれ込んで行く北郷軍。
ここからがこの策の正念場である。
"突入部隊"
桃香「えーい!みんな〜!がんばって〜!!」
鈴々「突撃なのだ!鈴々に続くのだ――!!」
愛紗「油断するな!敵を蹴散らしつつ中央を目指せー!!」
星「ちっ、道が塞がれ始めたか!」
一刀「遠慮なんか要らない!突き破れ!」
全員『はぁああああああああ(鋭撃閃――)!!!』
賊『ぎゃぁぁぁああああああああ!!』
開いた道に突出してきた賊は、圧し通る龍や狼の妨げにはなりえなかった。
やがて一刀は、砂塵の向こうに仲間を見つけ、叫ぶ。
一刀「! 見えた!」
星「戦の最中に…、好き者ですな。」
一刀「何の話!?」
愛紗「行くぞ、鈴々!!」
鈴々「応なのだ!」
ガッキィィィィイイイイイイインン!!!
振るわれる猛将の得物がぶつかり合う音は、戦場に大きく響いた。
これもまた、公孫越の案である。
敵中を突っ切り、十字に分断するのが今回の策の大きなポイント。
見事、敵を分断してからが、次の行動に移る指標となる。
しかし、地形は平地であり、それを外から判断する術はなく、
また、戦場の真っ只中でドラなど鳴らしている余裕はない。
ゆえに、越は使った。この二人が武器をぶつけ合う轟音を――
白蓮「来た!合図だ!」
越「各員、奮迅せよ!輪回陣!!」
ついに最期の策が出る。
白蓮、公孫越率いる雄騎隊は、両将を筆頭に賊の周囲を周回し始めた。
賊たちは事此処に至り、ようやく自分たちの状況を理解した。
内側には、自分たちを十文字に切り裂く、龍狼の兵(ツワモノ)たち。
外側には、間断なく自分たちを削り取っていく、鬼馬(キバ)の陣。
つまり、自分たちは――
越「そうだ。この十輪陣に、お前たちの逃げ場などない。
自らより弱き者を狩り、畜生道に堕ちた外道の輩どもよ。
私は、たと他人がお前たちを人ではないと言おうとも、差別などはしない。
それが、人を殺したものであれば、義も利もなく、等しく外道である。
なれば、お前たちのその業…、この私が摘み取り、食ろうてやろう。
安心して黄泉路へ向かえ。鬼に殺された者は、罪など問われぬだろうよ。」
かは、と。
彼を見た賊たちは、布で隠されたその口元に裂けた笑みを幻視した。
白蓮「有り難う、桃香、白狼。本当に助かった。」
桃香「ううん、白蓮ちゃん。困ったときはお互い様だよ!」
一刀「はは、そうだな。」
琢県に戻る一刀たちを、白蓮が見送りに来ていた。
戦も終結し、もはやここにいる意味などないからだ。
北郷軍と雄騎隊の十輪陣に嵌まった賊たちに、もはや反撃の術などなかった。
挟み撃ちではなく、内と外からの攻撃に、三万もいた賊の兵は瞬く間に制圧された。
戦が終わるなり、星は
星「今回の件で、己の未熟さを痛感した。今一度、己を見つめなおし、
鍛えなおすべく、武者修行の旅に出ようと思います。では。」
と、挨拶もそこそこに、旅立っていった。
そして、戦の事後処理も終え、琢県に戻ろうということになった次第だ。
一刀「ところで、公孫賛。俺たちが援軍に駆けつけた時、
何も説明していないのに、すぐに陣へ通されたのは、何でだ?」
白蓮「ああ、それか。越が言ってたんだよ。
「じきに劉備と銀狼の軍が来るだろう。すぐに通せ。」ってな。」
桃香「へぇ〜。公孫越さん、凄いね!占い師みたい!」
白蓮「そうだな〜。越の奴、たまに予言みたいなこと言うんだよな〜。」
一刀「………。」
一刀は、二人の会話を聞くのもそこそこに、思考に沈む。
一刀(時々、予言じみた言動や行動を取る。これは義兄さん(湊瑠)と同じだ。
それに、公孫越と公孫賛がやったあの技。馬に乗ってはいたけど、間違いない。
あれは、示現北星流・鋭撃閃。戦国は島津の示現流の流れを汲む北星流の技が、
この時代に存在するはずがない。だとしたら公孫越、やはりあの人は…――)
◆示現北星流・鋭撃閃
比較的容易に習得できる、示現北星流の基礎剣術。
自身と得物に気を纏わせ、突撃するだけの特攻技。
大した事ない技のように見えるが、勢いがあるときは身に纏った気が、
まるで鎧のような働きをするので、気の乗っていない攻撃は基本的に弾いてしまう。
突撃するその姿は、まるで光を纏って駆けているかのように美しい。
攻防一体の便利な技。しかし、気弾や気の乗った攻撃は普通に食らうので注意。
一刀は結局、公孫越の正体を突き止めることもなく、白蓮たちと別れた。
はたして公孫越、真名を湊瑠と名乗る彼は、本当に一刀の知る湊瑠なのか。
その真相を知るのは、本物の湊瑠だけ…―――
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*旧作 本作品を読んで下さっている皆様、お待たせいたしました。 第三章、あげさせていただきます。 今回は蜀ルートの話です。 オリジナルのキャラが数名登場しております。 また、謎の人物の登場で、公孫賛のレベルが上がっております。 お楽しみに。 P.S. 実は、今回の策の陣形に秘密が… |
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コメント | ||
連コメ失礼; 獅子王じゃなくて神でしたね;ごめんなさい;;;(sink6) ヒトヤさん>愛紗にとっては当然のこと過ぎて、判らないのでしょうね。彼女は彼女で、仲間を守るのに必死なのでしょう。(FALANDIA) はりまえさん>どうでしょうねwその内、明らかになりますので、お楽しみに。(FALANDIA) sink6さん>謎の多さこそ怪人物たる所以ですw(FALANDIA) 見た目で判断できない筆頭の鈴々が居ながら何を言っている?(ヒトヤ) 実は式神とか?(黄昏☆ハリマエ) えっ!?どゆこと!?獅子王がふたり!? また謎が・・・・ この先どうなるのかきになるう(sink6) |
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