恋姫異聞録72  定軍山編 −叢演舞−
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山の中を走り、風達と合流する為に兵を進める。この速度なら速いうちに合流することが出来るだろう

統亞達が待ち構える場所まで巧く誘導できているだろうか、風が居るならばそれほど心配はいらないと思うが

相手は英雄だ、何処で策を感付かれるか解らない、気を抜かず敵の動きを良く見なければ

 

「はっ、はぁっ、はぁっ、ふ、風の方が心配?」

 

「いや、韓遂殿の動きが気になるだけだ」

 

「英雄か、化け物って思っておいて間違いないわよねっ」

 

必死に隣を走る詠に軽く頷き、また風達の方角を見ながら走る

そうだ、化け物だ。華琳と戦った父の姿や前回の戦いで韓遂殿の力は十分に見せてもらった

おそらく韓遂殿は勘と知を合わせて答えを導き出し戦場を駆ける

戦いでの見切りも俺とは違う、俺は眼だけを使って敵を見切るが韓遂殿は聴剄を使っての見切りだ

よほど己を鍛え上げたに違いない、霞の攻撃を見切るくらいだからな・・・

 

「むっ?」

 

兵達が走り続ける中、男の脚が急に止まり、目の前で止まる男に驚き転びそうになりながらしがみ付き

詠は不満顔を向けた

 

「あぶなじゃないっ!」

 

「・・・・・・」

 

「・・・どうしたの?」

 

秋蘭の方から音が消えた。罠が全て潰されたのか?もう秋蘭の所に着いたと言うのか?

だとしたら速すぎる

 

男は懐から取り出した望遠鏡を持ち、近くの木に素早く登っていく

 

予定の位置に旗が見えない、風達はまだ釣りきっていないんだ

韓遂殿は恐らく此方が面白そうだと考えるだろう

このままでは秋蘭の所に敵将が三人集まってしまう。ならばっ!

 

「ちょ、ちょっと何処行くのよっ!」

 

「秋蘭の所へ戻る。韓遂殿が此方に向かってるはずだ」

 

「ふ〜ん、じゃあ一つ目は破られたって訳ね」

 

走り出そうとする男の脚は、意外な反応をする詠の言葉で止まってしまう

今なんと言ったんだ?一つ目と言ったのか?まさかこの予想外な韓遂殿の動きを予想していたと言うのか?

 

少し驚いた顔をする男を楽しそうに、口の端を吊り上げてニヤリと笑みを作る小さな軍師の姿に男の背筋が粟立つ

 

「想定内だというのか?」

 

「まぁね、でも僕と風の考えだけじゃそこまでは至らなかったわよ。アンタが教えてくれたんでしょう?

韓遂は勘と知識を混ぜて戦場を駆けるって、だから予想外な動きも頭に入れておいたの」

 

「・・・怖いな、二人とも」

 

改めて二人の知の恐ろしさを感じ取った男は、つい『恐ろしい』と言葉に出してしまう

その言葉をこの上ない評価だと感じたのか詠は心底嬉しそうに笑い、秋蘭の方を指差した

 

「行きなさい、少しでも秋蘭の方を持たしてくれれば良いわ。元々迎え撃つ形にして誘ったんだから

敵が予想外な動きをするか、もしくは罠を食い破る事は考えていたから。韓遂が英雄でよかったわ

わざわざ自分から突っ込んで来てくれたんだから」

 

小さな軍師の言葉に大きな頼もしさを感じ、一つ頷き男は走り出す

 

「風はきっと一馬と将の誰かを此方によこすはず、アンタを追わせる。気合入れなさい!」

 

その場から離れる男の背中に向かって大きな声で叫び、男は振り返らず手を振ると秋蘭の居る方向へと

森の中へと消えていった。その姿を見ながら詠は兵達に指示を出す

 

「兵二百は舞王に続け、後は僕と一緒に風達と合流する」

 

【応!】

 

 

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木々を槍で払い、真直ぐに黄忠と厳顔の旗印へと駆け抜けていく。共に走る兵たちも真直ぐ進んでいると言うのに

徐々に離され、凄まじい速さの韓遂に追いつこうと必死の形相で山を駆けていく

 

クククククッ、向こうで音が消えたと言う事は罠を全て看破したということ。ならばあれほどの罠を張っていたのだ

あの場に残るのは伏兵、しかも数を少なく置いているはず。旗の動きを見るに敵は擬装していたのだろう、総大将に

兵を多く置くか、向こうの小ざかしい軍師の考えそうなことだ、確か賈駆と言ったか?中々の知恵者だと

聞いた事が有る

 

一番の狙いは俺の頸、あのまま進んでも面白いことになっていただろうが、俺のするべき事は勝利することだ

このまま紫苑殿と合流し、近くに居る総大将を背後から追撃、舞王の頸を取る

 

韓遂は心底楽しそうに大声で笑いながら山を駆けていった。次は親友の息子と戦えると喜びながら

 

 

 

 

 

 

 

メキメキと木が折れる音が聞こえ、大きな音と共に地面に巨木が倒れる。舞い上がる土煙の先には

口の端を吊り上げて笑う鉄塊を振り回す長身の女性、深紫の着物が倒れた木の風で美しくはためき

次の瞬間には素足に履いたぽっくりが木を踏みしめカンカンと美しい音を奏でる

 

「さぁて、これで最後か?そろそろ木を倒すのにも飽きてきた、なぁ紫苑」

 

「フフッ、貴女は何時もそうね。私としては厄介な相手が待ち構えていないことを祈るだけよ」

 

後から続く黄忠は時間差で発動した罠を矢で打ち落とし、上品に微笑む。そして兵たちも後に続き

橋代わりの木から下りたところで三人の兵士の頭に矢が突き刺さる。崩れ落ちる兵を横目に

厳顔と黄忠は矢の飛来した方向に武器を構えた

 

「来たか、皆急ぎ木を渡り陣形を整えよ。その間の時間稼ぎは我等に任せよ」

 

厳顔は素早く兵に指示を送り、兵は陣を形成していく。黄忠は倒れた兵を見て、三人とも正確に耳の穴から

矢が貫通している姿に敵が誰で有るかを理解した

 

「この正確無比な矢、【雷光 夏候淵】」

 

雷光と口にした黄忠の言葉に厳顔は軽く微笑む、そして眼光鋭く森を睨むと木々の間からゆっくりと凛とした

冷たい空気をその身に纏い歩み出る。蒼く美しい長衣に骸骨を象った肩当、そして叢の刺繍の入った美しい?に包んだ指先で矢筒から取り出した矢を弓に番え、黄忠の額に狙いを定める

 

「フフッまた会ったな、今度は貴様の頭蓋に私の矢を撃ちこみ、借りを返させてもらおう」

 

軽く笑う秋蘭の後ろでは森の影が動き、敵兵の動きを察知した黄忠の顔が歪む。

 

「わしら二人の注意を引いて、兵は森を動き我等を囲むか。流石は智勇の雷光、楽しませてもらえそうだ」

 

「油断しては駄目よ。彼女は私と翠ちゃんを相手に余裕だった。それに一人で出てきた事で隙が無いわ」

 

「紫苑よ、わしが居るではないか。戦場の妙味と言う物を雷光に味わってもらおうではないか」

 

笑う厳顔につられ、黄忠も口元に手を当て上品に笑う。そして厳顔は地面を蹴り走り出す

それに合わせ、黄忠は兵に指示を出し秋蘭目掛け矢を放つ

 

「陣を方円の陣に移行、森から襲撃をしてくる敵に備えなさい」

 

「貴様の実力を見せてもらおう雷光よ!」

 

襲い掛かる厳顔を冷たい視線で見つめながら、黄忠目掛けて構えた矢を空に向けて放つ

上段から振り下ろされる鉄塊の穂先を力に抗う事無く弭槍で優しく横へ受け流す

 

ボゴォッ

 

「ちぃっ」

 

地面に突き刺さる穂先、避わす秋蘭を厳顔は横目で睨むが秋蘭は気にする事無く舞うように

隙を補うように飛来する黄忠の矢に対応する。

 

襲い掛かる弓の弦で引っ掛け、絡め取り、のびた弦の反動を利用しそのまま弓を引き絞ると目の前の厳顔に放つ

 

「くっ!」

 

眼前に襲い掛かる矢を地面から無理矢理引き抜いた轟天砲で防ぐと今度は先に放った矢が頭上から襲うが

厳顔はその矢を見ることもせずに、そのまま武器を振りかぶり、秋蘭に横薙ぎを合わせた

 

ブオンッ

 

空を切る音を聞きながら秋蘭は後ろに飛び、厳顔の頭に落ちてくる矢が黄忠の矢で撃ち落されるのを見ていた

 

「む・・・」

 

前回とは違うようだ、連携が取れている。どうやら黄忠と厳顔と言ったか?二人は呼吸を合わせ戦うことが出来る

ようだな。我等ほどではないが中々に厄介だ、しかし時間さえ稼ぐことが出来れば詠と風が巧くやるだろう

将二人、少々きついが何とかなる。昭も居るのだ、簡単にやられるわけにはいかん

 

空中で矢筒から矢を三本取り出し、地面に足をつけると同時に矢を番え放つ。一息で三射、地面を穂先で擦りながら

走ってくる厳顔目掛け速射する。

 

「はっはっはっ!」

 

襲い来る矢を笑いながら、轟天砲を盾のように構え突撃する。大きな鉄塊のような武器はすっぽりと長身の厳顔

の身体を覆い、矢を弾く

 

「面倒な武器だ」

 

少し嫌そうな顔をした秋蘭は、厳顔の足元に数本矢を打ち込む。突き刺さった矢は柵のように厳顔の進路を

塞ぐが、厳顔はまたニヤリと笑うと地面の矢をなぎ払う。その止まった隙を黄忠の矢が埋める様に秋蘭を

襲い掛かる

 

馬超の時のように矢を奪い、厳顔の額を貫いてやる

 

前回と同じように矢を奪い、厳顔に矢を放とうと襲い掛かる矢に弭槍をあわせようとした時、視界に厳顔が

地面に武器を突き立てる姿が見えた。そして

 

ドゴッォォォォォォッッ!!

 

凄まじい轟音と共に土砂が秋蘭に襲い掛かる。地面に突き刺した轟天砲はその凄まじい破壊力で地面の土を掘り起こし、秋蘭目掛けて吹き飛ばしたのだった

 

広範囲に覆いかぶさる土砂を避けきれず、土を被り地面に倒れた秋蘭を見逃さず。厳顔の轟天砲の穂先が襲い掛かる

 

「それで仕舞か雷光よっ!」

 

「くっ!」

 

地面に横たわる身体を薙ぐように穂先が襲い掛かるが、咄嗟に後ろに転がり矢を放つ。だが放った矢はまた

黄忠に撃ち落され、舌打ちをする秋蘭に踏み込む厳顔の攻撃が襲い掛かった

 

「翠と同じに考えていては死ぬことになる」

 

「フッ、何も変わらん。する事は同じだ」

 

「そうこなくてはな」

 

大振りに上下に振り回し、秋蘭の動きを調整して強烈な上段からの振り下ろしを黄忠の矢と共に振り下ろす

超重武器の隙を黄忠の矢が補い、隙無く攻撃を繰り出してくるのを秋蘭は顔色を変えずに弭槍一つで捌いていく

 

「どうした、矢はもう撃たんのか?」

 

「フッ」

 

「随分と余裕のようだ、だがその余裕は何処まで続くか」

 

表情とは裏腹に、秋蘭の細い腕がかすかに震え始めていた。度重なる超重武器の攻撃を捌き、秋蘭の腕は

限界に達しようとしていた。

 

僅かに攻撃をずらすために、軽く弭槍を当てていただけだと言うのに此処までとは、姉者と変わらぬほど

この身を鍛えてきたというのにこの有様か、この腕の痺れ恐らく撃てる矢は後三発

それまでは体捌きで避けるしか無いか

 

フフフッ、どうもこの定軍山は私と相性が悪いようだな。今回はこのような武器を使う化け物と戦うのだから

 

矢筒に手を掛け、指先で矢をつまむ秋蘭に厳顔は武器を槍のように構えて突撃を開始した

 

「放てっ!」

 

突然発せられた秋蘭の声で、森の中の影は一斉にざわつき木々の間から大量の矢が放たれる。瞬間、黄忠は

一瞬だけ顔を驚きに変えたがすぐさま素早く矢を撃ち落し、後方の兵達を守り。厳顔はそんな黄忠の

動きを知っていたかのように後ろを見る事無く、真直ぐに突っ込みその身体に矢を被弾させながら突き進んでいく

 

「その腕で撃てるのはいくつの矢だ?わしがその矢で撃たれるのが先かこの切っ先が届くのが先か勝負と行こう!」

 

見破られたっ、秋蘭は矢筒から矢を素早く引き抜き番え襲い来る厳顔の額に狙いをあわせる

 

「貴様を撃つのに一つで十分っ!」

 

突撃兵のように突っ込んでくる厳顔に合わせ、一瞬で心を氷のように冷たく落ち着かせ引き絞った矢を

額に狙い済まし放つ、弓からは美しく弦が音を立て放たれた矢は一直線に厳顔に襲い掛かる

 

「フハハハハハハっ!やはり貴女は面白いっ桔梗殿っ!」

 

「何っ!?」

 

笑い声と共に木々の間から人影が飛び出し、厳顔に襲い掛かる矢を槍の穂先で弾く。それと同時にまた

厳顔は地面に轟天砲を突き刺すと、 撃鉄がガチンと重く弾ける音を立て、気を蓄えられ押し込められた薬莢が

光を放ち鉄杭を撃ち出し大地にに突き刺さり、ボコボコと地面が盛り上がる

 

ズドンッ!

 

必殺の矢は圧し折られ、眼前に厳顔と韓遂がニヤリと笑う顔が映った瞬間、地面から爆発するように襲い掛かった

土砂に秋蘭は吹き飛ばされ、大きな音を立てて木に叩きつけられてしまう

 

「ガハッ」

 

ずるずると腰が砕け落ち、木に寄りかかるように背中を預ける秋蘭を厳顔と韓遂は見下ろし、武器を構えた

弓は土砂で吹き飛ばされ、腕は満足に動かない、周りを見れば数の少ない伏兵は韓遂の引き連れてきた

兵に襲われ始めていた

 

秋蘭は必死に考えを巡らせる、まだだ、此処でやられるわけには

 

「どうやら俺は余計な事をしたようだな」

 

「はっはっはっ雷光の必殺の矢だ、わしの轟天砲を貫いたかもしれん、礼を言うぞ銅心殿」

 

気にするなとばかりに笑う厳顔に、韓遂も笑みを返し目の前に崩れる秋蘭を見据える

 

どうやら此処は夏候淵一人のようだな、思ったとおり後ろががら空きのようだ。このまま舞王を撃ち取らせて

もらう

 

韓遂の考えが終わらぬまま、目の前で崩れ動くことの出来ない秋蘭に轟天砲の穂先が向けられ

顔をゆがめる秋蘭に無常に振り下ろされる

 

 

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「クッ」

 

襲い来る切っ先を怯む事無く睨みつけると、目の前が急に美しい蒼い色に覆われる。その色はまるで蒼天

そして見覚えの有る金色の魏の刺繍と暖かい背中、秋蘭の瞳からは自然と涙があふれ出し頬を伝う

 

キンッ

 

乾いた金属音と共に地面に突き刺さる切り取られた轟天砲の穂先、そして厳顔の目の前には輝く剣と青と紅の

交じり合った剣を持ち、鋭い眼光を放つ男。厳顔は己の武器が切り取られたことに少し驚くと後ろに飛びのく

 

「昭・・・」

 

「怪我は無いか?もう大丈夫だ、良く頑張ったな」

 

男は厳顔たちに背を向け、崩れる妻の頬を伝う涙を優しく指で拭う。そして柔らかい笑顔を向けると、その瞳は

怒りで濁り始める。そんな男を見て秋蘭は驚き、動かない身体を必死に動かそうとするが男の瞳が何時もと

違うことに気が付き、止まってしまう。その瞳は濁った怒りの色と美しい清流のような澄んだ色を同時に

称えていた

 

「あ・・・」

 

「うん」

 

眼を細め、優しく笑い頷くと立ち上がり振り向くそして剣を鞘に収め、地面に転がる秋蘭の弓を拾い、矢筒から

矢を一本引き抜いた

 

わしの轟天砲を斬りおった、あれが噂に名高い倚天の剣と青紅の剣か、という事はあの男が舞王、夏候昭

なんとも凄まじい気を放ちおる。この殺気は獣、紫苑に恐怖を植え込んだのはこの男か

 

厳顔が武器を構えると、男の体から更に恐ろしい紅蓮の殺気が放たれ後方の兵達の動きが止まる。そして

殺気に当てられ恐怖を思い出した黄忠は噛み付かれた腕を握り、押さえ震え始めた

 

「くっ、何という殺気を放つ」

 

「・・・」

 

「どうされた銅心どの?」

 

「鉄心・・・」

 

気を放つ男を見て自然に口から出た言葉は己と共に英雄と呼ばれた友の名前、目の前に立つ男の姿に無き親友の

姿が重なって見えてしまった韓遂は、自分の言葉に驚いていた

 

「馬騰殿?」

 

「ああ、俺は真の英雄では無い。真の英雄とは鉄心、しかもあの眼は妻を亡くした後の鉄心の眼だ」

 

「確かにあの殺気は尋常ではない、とても武が無いとは思えん」

 

違う、あの眼は真に悲しみを知る者出なければ持てん、そして優しき心の持ちで出なければ。こんな気を放つのは

俺は三人しか知らん、江東の虎孫堅、英雄馬騰そして特進曹騰・・・そうか、曹騰殿に育てられたのだったな

 

「桔梗殿、舞王が気を放った時、我等の方は鳥達が飛び立ったが舞王の後ろはどうだ?」

 

「あれは・・・」

 

「舞王の後ろはまるで戦場から切り離したかのようになっている、あの空気が作れるからこそ

鉄心は英雄と呼ばれた、気を放ち強烈な信頼と安心を兵に与えるなど俺は真似出来ん」

 

発せられる獣の殺気に武器を構える厳顔の額から汗が流れ落ちる。重圧が牙を持ちこの身に突き刺さるように

感じるほど男の体から発せられる気は大きく恐ろしいものになっていた、一体どれだけの心力を持っていると

いうのか、握る轟天砲に力が入る

 

「私にやらせて、桔梗と銅心様は兵を、舞王は兵を連れてるはずよ」

 

「紫苑」

 

「いや、此処に総大将が居るのだ。三人でかかるほうが良いだろう、兵を考えるならば無駄な戦いは避けるべきだ」

 

震える黄忠を戦えないと判断し、黄忠の願いを断ると韓遂は槍を構え覇気を垂れ流す。馬騰と同じ英雄の覇気を

 

「銅心殿の言うとうりだ紫苑、恐怖を払拭したいのは解るが此処はやつの頸を上げることが先だ」

 

「・・・ええ、そうねごめんなさい」

 

「武が無いと言うのは考えないほうが良い、あの目をするものは何かを持っている」

 

韓遂の言葉に頷き、ただじっと身体を妻の前に置き弓を持つ男に三人は武器を構えた。すると目の前の男は

不思議な動きを始める。その動きは三人の一人、黄忠をそっくり鏡に映したような動き

 

「なっ」

 

矢を番え、弓を引き絞り、全く同じ角度、全く同じ動き、そして目線まで全て同じ。その動きに黄忠は気味の悪い

ものを見たと言った顔になってしまう

 

 

【演舞外式 鏡花水月 −黄忠−】

 

 

男の口から発せられる言葉に自分の名前が含まれ、黄忠の中の嫌悪感は更に増し、気持ち悪さに耐え切れなくなった

黄忠は矢を放つ

 

「紫苑っ!」

 

男も全く同じ動き、同じ速さで矢を放つ。そしてちょうど半分の距離で空中でぶつかった矢が地面へと落ちる

それを見た黄忠は植えつけられた恐怖もあいまって益々気味悪さを増し、男に更に弓を構えた

 

「待て紫苑、お前と同じではない惑わされるな」

 

「離してっ、あの人は危険よっ!あんなおぞましいものをっ!」

 

黄忠の素早い弓捌きを無理矢理真似した男の指は包帯が破れ、皮が裂け血が流れるが見えないように腰でふき取り

笑みを浮かべ黄忠を見ていた

 

それを見逃さ無いとばかりに韓遂は槍を構え、素早い動きで間合いを詰め男を貫こうと槍を突き出す

男は瞬時に弓を地面に突き刺し、腰の剣を抜くと盾の様に構え韓遂の突きを押さえ込む

 

「小癪な真似をする、動きで紫苑殿を惑わすか」

 

「貴方の動きは前に見せてもらった」

 

「フッ、面白い。貴様の慧眼は戦う為の物では無いだろう、その不向きな眼で何処まで捉えられるのか

試してやろうっ!」

 

そういうと槍を引き、中ほどを持つと顔が真っ赤に鬼の形相になる。そして腕は加速し、てに持つ槍は姿が

消え、素早い突きが男を襲い掛かる

 

迫る攻撃を前に、男の体から余計な力が抜け、目の前に襲い来る槍を素早く剣を盾にし防いでいく

 

ギギギギギギギギギンッ

 

激しくぶつかる金属音、無数に襲い掛かる槍を最短に小刻みに動かし防いでいく、しかし更に加速する槍撃

に男の身は徐々に削られていくが、男の意にも介さず怯む事無く捌いていく、そして

 

ギィンッ!

 

弾かれるように韓遂だけが後ろに飛びのき、男は不動のままその場に留まっていた

その光景に、混乱していた黄忠の動きは止まり、厳顔は冷静に体から血を流す男を見ていた

 

「無想か・・・面白い物を使う、その心力あればこそか。だがそれでは俺を攻撃できまい」

 

「紫苑、見ろ舞王はお前が恐れるほどの者ではない、現に銅心殿に攻撃されるがままだ」

 

無想・・・条件付けの極限精神集中、仲間が、妻が傷つくことを条件に精神を極限の集中状態に切り替える

瞑想からえられる技だ、これが俺の出した一つの答え。秋蘭を、仲間を守る為に身に付けた力だ

 

「防ぐだけならば、俺は貴様が倒れるまで攻撃し続けよう」

 

「ならば俺は全ての攻撃を防ぎ続けよう」

 

男の瞳に鋼鉄の意志が宿り、腰を落とし足を大きく開くと大地をしっかりと踏みしめ剣を構える

韓遂はそれを見て楽しそうに笑い、また槍を構え握る手に力を込めた

 

「桔梗、もう大丈夫よ。ここで負ければ新城に居る璃々を守れない」

 

「ああ、その通りだ。我等とて負ければ多くの仲間が死ぬのだ」

 

厳顔は穂先を切り取られた轟天砲を構えながら、心の中で舞王を認めはじめていた

 

紫苑の恐怖をさらけ出させ、鋼鉄の守る意志を見せることで紫苑の中の母としての意志を奮い立たせた

意識してはいないだろうが、舞王も子を持つ親なのだろう。紫苑はそれを感じ取ったに違いない

恐怖を乗り越えた紫苑は手ごわい、父としての強さを見せたことを後悔するが良い

 

黄忠もまた矢を番え弓を構え、男の額に狙いを定める

 

「くっ、昭」

 

「無理をするな、大丈夫だよ」

 

三人から狙われる男の背中を見ながら、秋蘭は震える腕を無理矢理動かし、地面に突き立った己の弓を取ろうと

するが、男に振り向かれ柔らかく笑いかけられて手が止まってしまう

 

武器を構え対峙する男と厳顔たちの間に張り詰めた空気が流れ、韓遂が走り出そうとすると木々の間から

悲鳴と馬の疾走する音が聞こえ足を止めてしまう

 

「ちょっとまったなの〜!」

 

木々の中から戦場には不釣合いな可愛らしい間延びした声が響き、その声に男はつい笑ってしまう

 

来たか、まずは沙和が来てくれた。この戦は俺達の勝だ

 

韓遂達の眼前に飛び出してきた馬は、男の前に立つと後ろに載せた少女を下ろし、一馬は威嚇するように

馬を操る

 

「隊長!助けにきたのー!」

 

「有り難う、助かった」

 

そういって剣を地面に突き刺し、優しく沙和の頭を撫でた。沙和は何時もと違う俺の雰囲気に驚いたのか

頬を染めて、笑顔になっていた。これで詠の望むだけ時間を延ばすことが出来る

 

「一馬、戻って次は凪をつれて着てくれ」

 

「了解いたしました兄者、姉者はいかがなさいますか?」

 

「秋蘭はいい、安心させたいんだ」

 

俺の言葉に一馬は驚いたのか、振り向いたままぽかんと口を開けていたが、すぐさま笑って頷くとまた森の

中へと馬を走らせ消えていった。相変わらず速いヤツだ、正に疾風だな

 

「さて秋蘭、見ててくれ」

 

「・・・ああ」

 

「沙和、力を貸してくれ」

 

「わかったのー!」

 

この場に沙和が現れたことに韓遂殿たちは驚いたようだが、驚くのはこれからだ。問題は俺の腕が消えないでいて

くれることを祈るだけだ

 

俺は両手に剣を握ると、武器を構える沙和に鏡で照らし合わせたように背中合わせになる。背中越しには

沙和が驚いていたが、優しく笑うと安心したのか同じように笑みを返し、韓遂殿たちに視線をぶつけた

 

「さぁ・・・行こうか」

 

 

 

【叢演舞 第一幕 叢雲は集まり、降り注ぐ雨は悪しき業を削ぎ落とす】

 

 

 

槍を構える韓遂に沙和は双剣で回転するように攻撃する。それを影のように身体を合わせ、

連撃に繋げて行く、沙和の振る横薙ぎは一振りで二連撃に、三度振れば六連に、影のように合わせ

まるで沙和が二人いるかのように攻撃を繰り出していく

 

「ぬぅっ!」

 

沙和の攻撃を防げば破壊力の有る輝く剣が影から襲い、槍を削り韓遂は苦虫を噛み潰したような顔になる

攻撃を返そうと思えば、距離を詰めてくる沙和の影が腕や脚が伸びきる前に足や手で押さえ込み

止まった韓遂を沙和の剣撃が襲い掛かった

 

「見切りをそのように使うとはっ!

 

「銅心様っ!」

 

襲い掛かる沙和目掛け、黄忠は矢を放つが前へ踏み込む沙和の腰を男は腕で抱き寄せ、矢を避わし

そのまま一回転して沙和と同時に斬りつける

 

「ぐっ!」

 

身をそらし、剣撃を交わすが韓遂の胸は切りつけられ、紙のように斬られた鎧がはずれかける。

それを凶悪な笑みで笑いながら乱暴に外し、大声で笑い男と沙和を鋭く見つめた

 

「面白いっ!それが貴様の奥の手か舞王!」

 

大声で笑いながら叫ぶと、更に覇気を強くする。周りの兵は脅え木々は声で震えるが

背中にいる沙和は何故か何も感じる事は無かった。感じるのは背中から優しく包まれ守られているという

柔らかい空気だけ、不思議に思い男の方を見るが男は優しく笑うだけだった

 

「その技、確かに面白い!だがこれはどうだっ!」

 

気を放つ韓遂とは全く別方向から声が聞こえ、沙和の視界に厳顔の姿が映る。厳顔は地面に目掛け

秋蘭の時と同じように振りかぶり大地に突き刺そうとしていた

 

「なっ!」

 

「あっ!」

 

沙和と厳顔が驚くのはほぼ同時、振り下ろす轟天砲の横腹を回転して攻撃する沙和の腕の振りを利用して

遠心力で一瞬にして近づき思い切り蹴り飛ばしていたのだ

 

ガギンッ!ズドンッ!

 

真横を向いてしまった轟天砲は空中で激しく鉄杭を飛び出させるが、空を叩くだけ。しかしその風圧は

振動となって韓遂に襲い掛かる

 

「喝っ!」

 

空気砲のように飛んでくる振動を己の声量だけで叩き潰すと韓遂はまた嬉しそうに笑い、槍を動きの止まった

沙和に向けると、素早く間合いを潰し襲い掛かった

 

「きゃー・・・なんて嘘なのー!えいっ!」

 

キンッ

 

一直線に襲い掛かる槍に沙和は剣をあわせる。その手には男が握っていた青と紅の混じる剣

切り取られた槍は轟天砲の穂先と同じように地面に突き刺さった

 

「貴様・・・」

 

「合わせるくらいなら沙和にだってできちゃうのー、ってことでさよならなのー!」

 

槍を斬られ、睨む韓遂を尻目に素早く戻ってくる男と直ぐに背中合わせになる

 

「ああー怖かったなのー!」

 

「良くやったぞ、偉いな沙和」

 

「わーい、でもでもこんなことが出来るなんて先に言ってくれないと沙和も驚いちゃうのー」

 

「すまんな、ついこの間完成したばかりなんだ」

 

「うーん、じゃぁしょうがないのー」と背中越しに笑って許してくれた。後で沙和に何か買ってやるか

怖い眼にあわせたお詫びだ・・・・・・こずかいの足りる範囲でだがな

 

「銅心様、これを」

 

「感謝する紫苑殿」

 

背後で戦う兵士達から予備の槍を受け取った黄忠は韓遂に投げ渡し、韓遂は二つに切られた槍を投げ捨て

新たな槍を構え、厳顔も今度は同じようには行かないとばかりに握る武器に力を込め固定した

 

「そろそろだな」

 

「何がなのー?」

 

そろそろ一馬が来る。あの速さならば大体このくらいで戻ってくるはずだ、一度進路を覚えたならば

俺の自慢の義弟は更に早く此処へ来る。俺と沙和の攻撃になれる前に凪が来てくれれば上出来だ

 

その思いに答えるように、今度は後ろに凪を載せ、男の目の前に飛び出し凪を下ろす。

 

「沙和、ご苦労だった。凪よろしく頼む」

 

「はーい!凪ちゃんガンバッテ!!」

 

「ああ、隊長の力になれるのならば」

 

一馬は後ろに沙和を載せ「今度は真桜さんですね?」そういって男が頷くのを確認すると、また森の中へと

消えていった

 

「構えろ、そして俺を信じろ凪」

 

「はい、隊長を信じます」

 

男は剣を鞘にしまうと、沙和の時と同じように拳を構え、凪と全く真逆の鏡写しの格好を取る

凪も男の姿に驚くが、背中越しの男から優しく安心感の有る空気を感じ真直ぐと目線を韓遂達に移した

 

さぁ、前半は終了。此処からは中盤

 

 

 

【叢演舞 第二幕 風は凪、留まる雲は天を覆い曇天に。不動の雲は大地に雷を落とす】

 

 

 

男の口にする言葉に厳顔と黄忠は武器を構え、備えるが。韓遂の額から汗が流れ落ち、顔は険しく歯を食いしばる

 

・・・もしや舞王は全ての将兵と動きを合わせ戦えると言うのか、それがその眼を使った戦い形だというのか!

なんと恐ろしいことを考え付くのだ、あのような戦いを前線で使ったならば兵の士気など下がる事は無い

鉄心と同じ、王が兵を奮い立たせ舞うように戦う

 

これが魏の舞王か

 

韓遂は友の息子に友の姿を重ね見て、それを超える姿に総毛立ち笑うのだった

 

 

-4ページ-

 

今晩は、絶影です

 

後書きかきました

 

久しぶりに後書きなんぞ書きましたのは今回の叢演舞についてと無想についてです

 

まずは無想、これは普通にスポーツ選手、アスリート達がやっているメントレです

瞑想して得られる条件付けの精神コントロール法、α波を出して凄まじい集中力を得る

 

基本主人公は凡人なので誰でも出来ることを基本として使ってます 

 

 

叢演舞に付きましても、眼と舞を最大に利用したもので、仲間の動き全てに重ね

隙を消し、仲間の攻撃を増幅させるものです

 

利点はその眼で仲間を見て戦っているので、敵を攻撃した時の代償が少ない

 

また仲間の眼に写る敵の動きで予測し動く、後は仲間の動きや挙動で相手の動きを予測する

 

剣が大量に無くとも良い

 

腕を削らない

 

欠点は、相変わらず足元が死体などで覆うと使えない

 

後は一馬の本気とはあわせられない、理由として馬を使った武が一馬の武だからです

 

真名に風を持つものとは合わせられない

 

見て手合わせを行い、相手の動きを覚える必要が有る

 

仲間が居なければ使えない

 

舞の極みである戦神は条件を満たしていないので発動をしない

 

 

そして最後に叢演舞の演目についてなのですが全て真名に絡ませてあります

 

沙和と組んだ時は

 

叢雲は集まり、降り注ぐ雨は悪しき業を削ぎ落とす

 

沙の意味は「水に洗われる」「悪いものを捨てる」

和は「二つ以上のものが集まる」

とのことで雲と繋げ演目としました

 

ちなみにイメージ曲

 

沙和はアリプロの愛と誠

 

凪はDOESの曇天です

 

と相変わらず使えるのか使えないのか、偏った主人公ですがよろしくお願いします

 

 

 

 

 

説明
やっと此処まで着ました

前回は休みに一気に二話書いて死にましたよー
でも頑張ります!

叢演舞につきまして説明を後書きに

何時も読んでくれる方感謝しております^^
有り難うございます
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コメント
深緑 様コメントありがとうございます^^雲こそ彼の真名。何者にも掴めず、その姿は変幻自在、群れる雲は全てを覆う。今後も彼の活躍をご期待ください!(絶影)
流石、昭!雲が如く全てを包み込み在るがままに流れ往く・・・鳥肌立ちそう!次回も期待です!(深緑)
クォーツ 様コメント有り難うございます^^英雄すらも退かせる。ようやく此処まで着ましたよー><これからの定軍山にご期待ください!楽しんでいただけるよう頑張ります><(絶影)
執筆お疲れ様です。韓遂すらも一歩退かせる昭は凄い。之からの定軍山の動きが楽しみです。最後に韓遂はどうなるのか、翠は降るのか? 次作期待(クォーツ)
ロンロン 様コメント有り難うございます^^基本は舞であり、攻撃力は名剣にたよっていますので、そして後書きには書きませんでしたが組む人によって動きは全く変わります。ですので主人公はめっさ疲れるくらいで代償は無いですよー(絶影)
弐異吐様コメント有り難うございます^^真桜との組み合わせは中々頭を悩まされましたw何せ螺旋槍なのでw(絶影)
GLIDE 様コメント有り難うございます^^一皮向けましたよー!ようやく心が玉になって来ました^^私も書きながらジェラシーをww(絶影)
超腹様コメント有り難うございます^^此処の所多対一が多かったのでそう感じられることが有ると思っておりました^^;基本は個人差はありますが、単純な武は銅心よりも春蘭の方が強いです(絶影)
KU−様コメント有り難うございます^^修正させていただきます><真桜との演目もお楽しみに^^(絶影)
Ocean様コメント有り難うございます^^仰るとおり、私も英雄とは居るだけで周りを鼓舞するそんな人物もまた英雄であると思っておりますのでそういっていただけてとても嬉しいです^^舞いも常に誰かの為に振う力だと思っていますので感じ取っていただけて嬉しいです><(絶影)
叢演武、確かに強力ですけど組む相手によっては昭自身も傷つきますよね?仮に春蘭と組んだ場合、自身以上の実力を出すことになりますから身体が酷使されることになるはず。(龍々)
tomasu様コメント有り難うございます^^手合わせも伏線です><そしてやはり最初は三羽烏が適任だと思いましたので、やらせていただきました^^気に入っていただけて嬉しいです(絶影)
真桜との組み合わせどんな感じになるんだろ?(弐異吐)
昭は一皮向けたな。一段とかっこよくなった。・・・ジェラシーww(GLIDE)
確かに面白い。しかし魏の将は魏呉蜀中一番弱い感じがするのは気のせいなのか。(超腹)
感は勘とするか直感にした方が良いような気がします。真桜とはどんな演目になるか楽しみですね。(KU−)
魏の将との全員組み手はこのための布石とは……。誰かが居ないと使えない技(舞)は、仲間の為なら戦える昭にピッタリだと思いました。個人的に「英雄」とは偉業を成した人の他にも、居るだけで周りを勇気付ける存在にも当て嵌まると考えているので、銅心が鉄心を連想したことに、凄く納得しました。(Ocean)
まさかの展開に驚かされました。昭くんがみんなと手合わせしていたのはこのためだったんですね。しかも三羽鳥が使われるところがよかったです。(tomasu)
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