真・恋姫†無双〜真・漢ルート〜 第三話:漢達、見逃す |
魏延「突撃準備完了しましたっ!」
魏延のやや低めの声が響く。
一刀の心配をよそに、着実に戦が迫っていた……
第三話:漢達、見逃す
黄忠「わかったわ!なら、私と桔梗が道を開きます!
みんなは弓の第一射が終わったら、一気に突入を!」
魏延の準備完了の言葉に黄忠は一刀たちに指示を出す。
一刀も今回は丸腰ではなく、幅の広い剣を持っている。
自分の身くらい自分で守れるようにと渡された物だ。
人を切ることは出来なくても剣を防ぐことぐらいはできるだろう。
卑弥呼「任せておくがいい!
ご主人様、あまり前に出すぎぬようにな」
貂蝉「まあ、いざとなったら、わたしたちのこの肉体で守っちゃうから大・丈・夫」
外見的には頼りたくはないが、今は二人の言葉が頼もしい。
一刀は二、三度ほど剣を振ってみる。
風を切る音がする、重くはあるが鉄の塊である以上仕方が無いだろう。
左慈「……北郷、無理をせずに下がれ
お前が前に出ないほうが俺たちが楽だからな」
一刀「確かに左慈たちに比べれば劣るけど、俺だって戦えるさ」
ここに来るまでの間にほかの兵士の人たちの会話が聞こえていた。
みんな明日のために戦っている、そんな中自分だけ逃げるなんて真似は出来ない。
そう一刀は考えていた。
「俺、帰ったら結婚するんだ」とか、「戦の後で飲みに行こうぜ、安心しろ俺のおごりさ」なんて言葉は聞こえない振りをしていた。
厳顔「ほう……女々しい男かと思ったら、少しは骨がありそうだな」
卑弥呼「我らのご主人様だからな
いずれは大陸中にその名を響かせることになるだろう」
厳顔「大陸中に……か
はっはっは、なかなか愉快なことを言う」
そんな卑弥呼の言葉に厳顔は愉快そうに笑う。
厳顔「ならばその勇、ここで魅せるがいい!
……では、行くぞ!撃てぇぇぇっ!!」
厳顔の怒号とともに弓を番えていた兵たちの手から銀閃が飛ぶ。
放たれた矢に黄巾の足並みは崩れ、隊形が崩れる。
黄忠「今よ!」
その隙を逃さず、黄忠の号令とともに兵たちが一斉に突撃する。
華佗、左慈、魏延の周囲の敵は圧倒的強さに恐怖し、卑弥呼、貂蝉の周囲の敵はその威圧的な容貌に恐怖した。
一刀は負傷した兵を後ろに下げるのを手伝い、敵兵は峰打ちや体当たりなどで、こかして他の兵士と共に生け捕りにしていた。
大半の黄巾党を捕縛し、一刀は砦の内部を調べていた。
一刀「皆どこにいったんだろ?」
訂正、道に迷っていたのだ。
大半が捕まったとはいえ、未だ敵がいないとも限らない中一人で砦の中をうろつく。
そんな一刀の後ろについてくる者がいた。
??「御遣い様、少々よろしいでしょうか?」
一刀「え?」
振り向いた先にはメガネをかけた左慈と同じ服を着た青年が立っていた。
一刀の誰?と言いたげな視線に青年が気付く。
干吉「私は干吉と申します
左慈とは同門、私も師匠より貴方様の警護をするように言われておりますので、ご安心を」
一刀「あぁ、ありがとう
俺は北郷一刀、その『御遣い様』ってのはやめてくれると助かるかな
できれば敬語も……」
干吉「では、北郷殿、その先の通路に隠し通路があるようです
出来ればこのまま向かって欲しいのですが……」
一刀「そうなの?
でも俺だけだと返り討ちにあうだけだと思うけど」
干吉「当然、私も同伴しますよ
左慈ほどではありませんが早々負けることはないですよ」
そのまま干吉に言われるまま隠し通路を通っていく。
通路は狭く、貂蝉や卑弥呼では抜けられなかったかもしれない。
抜けた先は裏の森に繋がっていたようで開けた場所に出た。
耳を澄ますと、前方から僅かに声が聞こえる。
先に隠し通路を抜けた者がいるようだ。
前方の人間にばれないように二人は木々を盾に音を立てないように近づく。
張梁「ふぅ、二人とも大丈夫?」
張宝「な、なんとかー……」
張角「隠し通路……残していて良かったわね」
先には張角たち三姉妹がいた。
一刀たちが使った隠し通路は彼女たちが用意したものではなく、前の砦の持ち主が逃亡用に作ったものだった。
そして、それを張梁が発見し、いざと言うときの為に残しておいたのである。
張梁「それにしても、何だったの?あの変なの……」
張角「官軍の新兵器なのかな………?
一緒にいた男の人を『ご主人様』って言ってたけど……」
張宝「そんなの関係ないわよ
あんなバケモノ相手にうちの兵士たちが戦えるわけないわ……」
張梁「兵士とか黄巾党とか言っても、ただの野盗か素人だもんねぇ……」
自分たちの発言に三人はそろって溜息を吐く。
張宝「で?これからどこ行くの?人和」
張梁「そうね……とりあえず、あんなバケモノがいるんじゃ何をやっても無駄でしょうし、このまま黄巾党は解散するのもいいかもね
そもそも私たちの望んだものでもないんだから……」
彼女たちは油断していた。
一刀の世界では噂をすると影が差すというのだ。
卑弥呼「だぁーれぇーがぁーっ!!」
貂蝉「バァケモノですってぇえぇぇぇぇ!!」
一刀「うわぁ!」
張三姉妹「「「きゃあぁぁ!」」」
一刀の背後からいきなり叫び、一刀も三姉妹も悲鳴を上げる。
干吉だけは気が付いていたのか特に叫ばなかった。
驚いて彼女たちの前に出てしまった一刀。
こんな形ではあるが、張角たち三人と正面から対峙する形になった一刀は疑問に思っていたことを聞く。
一刀「君たちが黄巾党を組織したんだよね?
でも、さっきの感じからすると好きでやってたってわけでもなさそうだけど?」
張角「それは、私たちだって……」
またも彼女たちは否定的な返事をする。
野盗たちと一緒にいたときも彼女たちは盗賊たちを止めるような事を言っていた。
張宝「……私たちは、ただ三人で旅して、楽しく歌って過ごせればよかったのよっ!」
張角「それでぇ、大陸で一番になれればいいなぁ……って言ってたら」
張梁「何を勘違いしたのか、信徒の人たちがいつの間にか悪事を働くようになってたのよ」
つまり彼女たちの『大陸で一番(の歌手)になりたい』という言葉を曲解して『大陸で一番(偉い人)になりたい』と判断したらしい。
そして、流されるままに黄巾党を起ち上がり、党首として祭り上げられた様だ。
華佗「なるほどな…話は聞かせてもらったぞ!」
上から響く声。
声の先には木の枝の上に仁王立ちしている華佗と左慈がいた。
掛け声と共に華佗が一刀と3姉妹の前に飛び降りる。
左慈「おい、干吉!どこに行ってたんだ」
干吉「まあまあ、そうカッカしないでください
実は隠れてあなたたちを見ていたのですが、出る切っ掛けを掴めなかったもので…
それで、黄巾を攻めるようでしたから先回りして少々悪戯をしておきました」
左慈は飛び降りると一目散に干吉の元に向かう。
干吉は一刀たちと合流せずにこの砦で色々と破壊工作をしていたのだ。
左慈は「少しはずす」と言って干吉を連れて森の中に入っていった。
一刀「……それで君たちはこれからどうするの?」
張宝「う”っ……そ、それは…」
左慈と干吉のことは置いておいて、一刀は彼女たちの今後のみの振り方について問う。
一刀の言葉に張宝は目を泳がせる。
張宝としてはファンが多いことはいいことなので解散にはやや否定的なのだ。
逆に、張角と張梁はファンが多いことよりも悪いことをしている罪悪感のほうが大きい為、黄巾党を解体するのは肯定的である。
張宝「……う〜〜ん…わたしは歌っていたいけど…」
張梁「………でも私たち、このままじゃ悪人よ?」
張角「わたしもさすがに悪いことは…」
貂蝉「んもう、はっきりしないわねぇ……」
ここで史実通りに張角たちを死んだことにすれば、黄巾の乱は鎮圧するだろう。
しかし、それも彼女たちが大人しくしている事が前提で彼女たちの希望とは真逆の行動である。
最終的な決定権はやはり彼女たちにある。
張角「ん〜、多数決で決めよう!
……じゃあ、このまま黄巾党解散したほうがいいと思う人!」
能天気な張角がいきなり多数決で決めると言い始めた。
そしてあげられた手は『8人分』。
張角「えっと…1,2……8人
じゃあ、解散で決定!!」
張宝「ちょっと待ってよ、天和姉さん!
なんであいつらの分も数えてるよ!」
一刀、貂蝉、卑弥呼、華佗、張梁、張角、そしていつの間にか戻ってきた左慈と干吉の計8人。
しっかりと一刀たちも数えられていた。
仮に一刀たちが数えられなくても過半数は超えているのだが、張宝は納得できなかった。
張角「??……でも多数決ってみんなでやるものだよね?」
張宝「……もういいわ」
張宝はあきらめた。
天真爛漫とも言える程能天気な姉の思考についていけなくなったのだ。
一刀はとりあえずほとぼりが冷めるまで彼女たちにあまり大きく活動せず、名前を変えるように言っておいた。
黄巾党も長がいなくなれば、ただの盗賊集団。
今迄のように統率は取れないだろうし、黄巾党にまぎれて行動していた盗賊たちがいい隠れ蓑になるだろう。
一刀「…まぁ、最初はちょっと辛いかもしれないけど頑張ってな、張梁さん」
張梁「ええ、……ところで、あの…」
一刀「ん?」
一番しっかりしていそうな三女の張梁にこれからのことを話していると、卑弥呼たちの方をちらちらと見ながら遠慮がちに問いかける。
一刀「ああ、あいつらは……まあ、その……仲間みたいなものかな?」
やっとのことで声を出す。
当の卑弥呼たちはというと、慣れてきたのか気安く話しかけてくる張角たちと雑談をしていた。
人和「…仲間…あなたも苦労するでしょうね
それと私のことは人和でいいから…」
一刀「れんほー?
そういえば厳顔さんたちも別の名前で呼び合ってたような……字かな?」
人和「あなた真名を知らないの?
真名って言うのは神聖な名で許されたものしか呼んではいけない名のことよ」
一刀「そうだったのか……てっきりニックネーム…愛称のことだと思ってたよ」
人和「そう、危なかったわね
勝手に呼べば、殺される場合だってあるのよ?」
一刀「うげっ!……ぁ、俺は北郷一刀って言うんだ」
人和「姓が北、名が郷、字が一刀ってこと?」
一刀「いや、姓が北郷、名が一刀、字も真名って言うのもないんだ」
華佗「そうだったのか、俺もてっきり北が姓だと思ってたぜ」
一刀「そうだったんだ?
それと、華佗も『北郷』じゃなくて、『一刀』って呼んでくれよ」
華佗「分かった」
人和「それにしても変わってるわね
その服もはじめて見るわ……」
張梁改め人和は一刀の名に疑問を持った。
改めてみれば光を反射する服など見たことがない。
華佗「なんでも、一刀は『天の御遣い』らしいからな」
人和「『天の御遣い』って…管輅って占い師の?」
一刀「……一応そういうことらしいよ」
天の御遣いといっても左慈や貂蝉たちが言っているだけで一刀自身は自分が天の御遣いだとは思っていない。
張角「へぇ〜、じゃあ『天の国』ってどんなところ?」
張宝「ちぃにも教えなさいよ」
華佗「そういえば、俺も気になるな…」
天の御遣いの話題になり張角・張宝が反応し、華佗も現代の医術に興味を持ったようだった。
一刀「そろそろ戻らないと、黄忠さんたちに迷惑がかかるんじゃ…」
張角三姉妹や華佗の質問に答えているうちに大分時間がたったことに気づいた一刀は戻って結果を報告したほうがいいと進言した。
地和「えぇっ!
まだ聞きたいことあるのに…」
一刀「また縁があったらな
あまり離れてると誰か探しに来るかもしれないし……」
天和「縁があるとは限らないのに……」
張角こと『天和』と張宝こと『地和』は一刀の話す『天の国』の言葉や芸能などに興味があるらしくまだ話足りないという雰囲気だった。
人和「天和姉さん、ちぃ姉さんあまり長居は無用よ
……いろいろありがとうね、一刀さん」
一刀「ああ、ついでに嘘の噂も流しておくから」
少しの間ではあったが、彼女たちと話して彼女たちが悪人でないことは間違いなさそうなので、できる限り手助けをすることにした。
地和「ばいばーい!またあったら今度こそ話聞かせなさいよね!」
天和「またね〜」
天和と地和が手を振りながら去っていく、人和も小さくだが手を振っていた。
一刀「さて、戻るか
行こうぜ、華佗、左慈と干吉も」
貂蝉「あらん?わたしたちは?」
―――こなくてもいいぞ。
という声はなかった。
黄忠たちの陣営に戻ると、魏延が立っていた。
どうやら黄忠たちは捕まえた捕虜たちの尋問や城内を探索しているようだ。
魏延「遅かったな?何かあったのか?」
一刀「…あぁ、ちょっと気になることがあってな」
魏延「気になること?」
張角たちと話し合って決めた嘘の噂とは、張角たちが病気という情報がありどうやらその病気は不治の病らしくもう助からないというもので、今回のことで悪化して逃げる途中でもう死んでいるだろうというものである。
華佗が「俺に治せない病気はない!」と豪語していたが、そこは「治す前に逃亡したんだから問題ないだろ?」ということで納得した。
魏延「…そうか、なら黄巾党も統率がとれなくなるな
各国に伝えるか…」
干吉「それと、便乗した盗賊たちもいるでしょうから偽者が現れるかもしれませんよ?」
この予防線を張っておくことで、もし本物の長角たちの情報が渡っても嘘の情報と思わせることができる。
便乗した盗賊たちは張角たちのことを全く知らないのだから、街に出て適当な噂をいくつか流せば正確な情報にはならないはず。
卑弥呼「では、そろそろ我らは行くとしようか」
魏延「あれ?黄忠から褒賞を貰うんじゃないのか?」
一刀「……あ、はは…俺は良いや…みんなは?」
天和たちを逃がしたことで本来ならば彼女たちが得ていたであろう武功を考えると何かを貰うのは気が引ける。
そこで他の面々に尋ねてみると、皆特に気にした様子はない。
貂蝉「ん〜、なら黄忠ちゃんに璃々ちゃんと遊んであげてって伝えて頂戴」
魏延「ん?それは良いがそれだけで良いのか?」
一刀「へ〜、落ち着いた人だと思ってたけど子供がいるんだな」
一刀たちは知らないが、華佗が一刀たちに逢う前に手当てをした女の子こそが黄忠の娘である璃々だったのである。
一刀「うん、それでいいかな
色々と忙しいかも知れにないけど、黄巾党も大分落ち着くだろうから一緒に遊んであげてってことで」
そう言って魏延に背を向け出て行こうとする一刀たち。
一刀「それじゃあ、魏延さん」
焔耶「待て、…焔耶だ」
そこを魏延がとめる。
一刀「……それって真名って奴じゃないのか?」
焔耶「ああ、お前たちのその心意気が気に入った
受け取ってもらえるか?」
一刀「うん、また縁があったら会おう、焔耶
俺のことは一刀で良いよ」
そういって笑いながら手を振って別れる。
焔耶「達者でな!」
少し歩いた所で一刀は後悔する。
どうせなら天和たちを仲間に入れればよかったと……
あとがき
皆様、こんばんは。
大鷲です。
コメントで多かった張三姉妹の参入……ありませんでした。
天和たちを仲間に入れるというのも面白そうですが、残念ながら彼女たちはこの後曹操たちに捕まって本編通りの役職になってしまいます。
どうでも良いですけど昔ジャンプであった封神演義の雲霄三姉妹のヴィーナスが貂蝉を髣髴させませんか?
大鷲はあのキャラ結構スキでした(ねた的な意味で)。
前回の最後にも影にいた人物が干吉です。
特に表記がなかったので分かり難いと思います。
次回は拠点イベントです。
恋姫ッぽく華佗、左慈&干吉、貂蝉&卑弥呼という感じでセットになってたりします。
説明 | ||
名前がややこしいですが、隠しルートである『漢(かん)ルート』の再構成した『漢(おとこ)ルート』です。 ガチムチな展開は精々ネタ程度にしか出て来ないのでご安心ください。 ただし、漢女成分が多分に含まれるかもしれませんので心臓が弱い方はご注意ください。 |
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コメント | ||
恋姫世界には珍しい男臭いパーティーだなw薔薇はやめてくださいね?(←何が?w)(深緑) ヒトヤ様>意味があることにします((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル(大鷲) ZERO様>爽やかさも含んでいると思っていますのでご安心を(大鷲) 砂のお城様>( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ(大鷲) sink6様&宗茂様>キャラは濃いですが基本的に悪い人間ではありませんよ?(大鷲) frauhill0314様>いずれは……ありえるかもしれません(大鷲) hokuhin様&劉炎様>ガチムチ成分は控えめでございます。(大鷲) 仲間にしなかったのはこのあとの話に大いに意味があるからですよね? ゴゴゴゴゴゴゴ(ヒトヤ) 女の子がいないとは!拠点の話が暑苦しくなりそうですね。(ZERO&ファルサ) 三つ目の拠点はすごそうだなwww(宗茂) 左慈&干吉か〜もしかして禁断の恋愛かっ!!!(劉炎) 拠点・・・・なんでだろう絶唱漢女道(卑弥呼とチョウセンのキャラソン)が頭に流れてくる;;; (sink6) きょ、拠点って…男しかいないのに?所で、このむさ苦しい団体に女の子が加わる事ってあります?(frauhill0314) 次は拠点ですと! 干吉が左慈を愛でたりする話かwしかし本当におとこばっかだなw(hokuhin) |
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