「らぁめん、ぶらり」 アイマス二次創作SS |
四条貴音は決まった帰り道を使わない。
今日も仕事が終わって家まで帰るのを途中の駅でふらりと下車した。
駅周りは居並ぶ様々な飲食店があるのだが、彼女はそれらにちらりともせず歩いていく。
「さすがに初めての場所では土地勘がありませんね」
のんびりとそんなことを言ったが進める歩は止めない。
それはまるで目的地があるように人には見えるだろう。
まっすぐ進んだかと思えば曲がったりして、駅から離れ、周囲にある店の数も減っていく。
「ここでしょうか」
ようやく彼女が足を止めたのはまだ新しく開店したてのような佇まいの1軒のラーメン店。
カウンターしかないような小さな店舗は女性であれば避けそうなものだが、貴音は気にも止めない風情でドアを開ける。
「いらっしゃいませっ」
カウンター内の厨房から店の人間が元気よく挨拶してくるのを会釈のようなうなずきで返し、椅子に座る。
テーブルにあるメニューを持ち上げ軽く目を通し、
「ラーメンを」
一番最初に大きく書いてあるメニューを店員に告げる。
「大盛りでお願いします」
貴音のその言葉に店員は少し驚いた様子で、彼女の顔を見て大きく驚いて、「ラーメン大盛りー!」と言いながら調理人の元へと駆けていった。
すぐに出てきたラーメン大盛りのどんぶりを貴音は自分の前に置く。
割り箸を持つと合わせた手の両親指の付け根で挟み込んで「いただきます」と一礼した。
茶褐色に濁ったとんこつ醤油のスープに大盛りとなった中太のちぢれ麺が浸かっている。添えてあるのはこんもりと盛られた白髪ネギと分厚く切られたチャーシューが2枚。
貴音は上に立ち昇ってくる湯気を鼻で吸い込み、まずはその香りを愉しむ。
「ただのとんこつではない。楽しみですね」
箸を入れ、麺を持ち上げ、前かがみとなった自分の口元へと運ぶ。
音を立ててすすり上げ、適当なところで麺を噛み切り、咀嚼する。
とんこつらしいくどさをもったスープかと想像していたら野菜の甘みが感じられるあっさりとも思える味わい。
ちぢれ麺なだけあってスープがよく絡んでおり、口の中に麺の味だけではなくそのスープの味がよく広がる。
「ほう」
箸を入れ、先程よりも多めに麺を持ち、さらに前かがみになって口元へ。
勢いよくすすり、ひたすらに麺を食べていく。
麺を持ち上げてはすすり、チャーシューにかぶりつき、また麺を持ってすすり上げる。
大きく盛られていた麺はその量を減らしていく。
貴音はただ麺だけをすすっていく。
「む」
そして、あんなにあった麺はなくなった。
箸でどんぶりの中をかき回してみてもそこには何も出てくる様子がない。
貴音はそのどんぶりを持ち上げ、縁に口をつける。
そこにあったスープを飲み始めたのだ。
喉を鳴らし、麺に負けずに大量にあるそれを自分の中へと入れていく。
スープの量が少なるとともに器はその角度を上げ、しかし貴音はそれから口を離す様子はない。
そのままスープを飲みきり、
「ふう」
一息つくとともにテーブルにどんぶりを置いた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて一礼する。
貴音がふと目をやったメニューに「替え玉」の文字があり、ここで初めて表情に動揺の色を浮かべた。
空になった器とメニューを見比べ、咳払いを一つしてから立ち上がる。
「大変おいしくいただきました、ごちそうさまです」
「あの、アイドルの四条貴音さん、ですよね?」
「はい、そうですが」
「サインいただいてもよろしいでしょうか? できれば、おいしかったと言葉を添えていただけると」
「そんなことでしたら」
差し出された色紙にサインペンを走らせ、空いた場所に店の名前と「大変おいしくいただきました」の文を添えた。
最近ラーメンを扱った番組や雑誌記事に関わることが多くなり、自分のあずかり知らないところでずいぶんもてはやされている噂を思い出し、貴音はそっと微笑みをもらす。
「ありがとうございましたー!」の大きな声を背に受けながら店を出て、元来た道である駅の方へと歩き出す。
そして、足が止まり、
「おや、こんなところにも」
そうつぶやいて店の中へと入っていった。
「いらっしゃいませー」
「チャーシューメン大盛りで。おや、こちらにも替え玉が」
-END-
説明 | ||
アイドルマスターの二次創作SSになります。 出てくるのは貴音ひとりとなっています。 |
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