真・恋姫無双 悠久の追憶・序章 〜〜月下の二人〜〜
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序章  〜〜月下の二人〜〜

 

 

―――――誰でも子供のころ、一度くらいはあり得ない夢を抱いたことがあるだろう。

 

 

もしもこの世に、炎を吐く竜がいたら――――――

 

もしも自分に魔法が使えたら―――――――

 

そんな夢を、本気で信じたことがあるはずだ。

 

当然のことながら、そんなものはこの世に存在しない。

 

大人になれば誰だってその事実に気がつく。

 

 

しかし物語の中でなら、そんな『もしも』を実現できる。

 

語られる言葉の中でなら、竜も魔法も存在する。

 

それがたとえば、歴史に名を残す英雄たちが、全員女性という世界でもいい。

 

それらすべてが実現可能だ。

 

 

しかしそれらの存在はたしかに自由に実現できるが、所詮現実ではない。

 

それはその物語そのものが現実ではないからだ。

 

 

――――――実現できても――――現実じゃない――――

 

 

今から話すこの物語も、そんな現実ではない実現された話。

 

一人の男の思いによって始まった、世界から見ればごくごく小さな、しかし壮大な物語―――

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――――――――――――――――――――

 「・・・ふぅ。」

 

森の中にある小さな小川。

 

川辺にある木を背にして赤い髪の男が一人、月明かりに照らされて座っていた。

 

 

彼の性は王(おう)、名は允(いん)、字は子師(しし)。

 

 「・・・良い月だ。」

 

王允は杯を片手に、夜空を見上げていた。

 

今宵の空は星ひとつない黒い海のようで、その中にただ一つ浮かぶ大きな月は、青白い宝石のような光を放っていた。

 

王允は手にしていた杯に酒を注ぎ、口へ運ぶ。

 

王允は、たまにこうして一人で酒を飲むのが好きだった。

 

“サラサラ”と小川の流れる静かな音に耳を澄ましながら酒を飲んでいると、もはや懐かしい記憶となった日々を思い出すことができる。

 

さらに今夜のように月の出ている日には、まるで月が自分一人を照らしているようで、その雰囲気が王允は好きだった。

 

 「ん・・・」

 

もう一度杯を口へ運び、月を見上げる。

 

 「王允様。」

 

 「?」

 

突然後ろから掛けられた声に、ゆっくりと振り向く。

 

急に声をかけられたのにも関わらず驚かなかったのは、聞こえた声が彼の良く知る人物のものだったから。

 

十年以上も聞き続けた、優しい声だ。

 

 

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 「あぁ、愛梨か。」

 

そこにいたのは彼の予想通り、長くつややかな黒髪の少女だった。

 

彼女の名は関興(かんこう)、真名は愛梨(あいり)。 

 

かつての王允の仲間である天の御遣いと、彼の愛した女性、関羽との間に生まれた娘である。

 

 

王允はかつて仲間たちとともにこの大陸を、この世界を救うために戦い、勝利した。

 

世界を救った、などというと大げさに聞こえるかもしれないが、それは事実だ。

 

彼はただ愛する者のために戦い、その結果この世界を救った。

 

しかしその仲間たちも、もうこの世にはいない。

 

 

彼の仲間――――――――――

 

天の御遣いと呼ばれ、この世界に降り立ったひとりの男と、その仲間たち。

 

 

王允が一人で酒を飲むのが好きなのは、一人でいるとそんな仲間たちの事を思い出せるから。

 

あの辛くも幸せだった日々を、感じられるから。

 

 

 

「まったく、またおひとりで城を抜け出して・・・桜香(おうか)が心配していましたよ。」

 

愛梨は呆れたようにそう言いながら、王允の隣に腰掛ける。

 

桜香というのは、天の御遣いとこの蜀漢の初代皇帝となった劉備との間に生れた娘で、蜀漢の二代目皇帝である劉禅(りゅうぜん)の事である。

 

愛梨は天の御遣いの娘たちの長女で、彼女からすれば桜香は母親の違う妹に当たるのだが、皇帝には彼女の方がふさわしいと愛梨本人の希望だった。

 

 「あはは、桜香は心配しすぎだよ。」

 

 「王允様が気にしなさすぎるのです!」

 

少し怒ったように言う愛梨のその表情は、まるで彼女の母親が愛した男を叱っている時に似ていて、思わず王允は笑ってしまった。

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確かに、彼がかつてともに戦った仲間たちは今この世にいない。

 

しかし、今はその仲間たちが残した娘たちとともに暮らしている。

 

王允は、それで十分幸せだった。

 

 「また・・・思い出していたのですか?」

 

 「ん?」

 

隣に座った愛梨が、静かに王允に問いかける。

 

その表情は、少しだげ寂しげだった。

 

 「・・・父さまたちの事ですよ。」

 

 「・・・あぁ、少しね。」

 

そう言って、王允は少し表情を曇らせる。

 

王允がこうして一人で城を抜け出すときは、たいていここで昔に思いを馳せていることを愛梨は知っていた。

 

 「・・・もう何年になるかな・・・君の両親が亡くなってから・・・」

 

 「十年ほど・・・になりますね。」

 

王允のつぶやきに、愛理は表情を変えることなく応えた。

 

 

愛梨の両親は、彼女が十歳にもならないうちに、流行り病でこの世を去ってしまった。

 

乱世の武神と呼ばれた母親に、簡単に泣いてはならないと日ごろから言われていた愛梨が、あの時だけは声が枯れるまで泣いていたのを、王允は良く覚えている。

 

それからはずっと、王允が親代わりだった。

 

彼女の父親のように優しく、彼女の母親のように強く、ずっと彼女をそばで支えてきた。

 

だから愛梨も、王允のことが本当の父親と同じぐらいに大好きだった。

 

 「十年・・・か。」

 

そう言ってもう一度月を見上げ、すぐに愛梨に視線を戻す。

 

十年・・・それは口に出すと短いようで、実際に過ごすには長い時間。

 

初めて会ったころは下を見なければ見ることができなかった愛梨の顔も、今ではしっかりと王允の隣にある。

 

 「もう見た目は俺より愛梨の方が年上かな。」

 

 「なっ、失礼な!王允様が若すぎるんです!」

 

 「違う違う・・・大人になったねって事。」

 

 「あ・・・」

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顔を真っ赤にして怒る愛梨の頭を優しく撫でてやる。

 

これは昔から、愛梨が大好きな父親にしてもらっていたこと。

 

父親が死んでからは、王允がしてあげたこと。

 

父親や王允にこうされると、愛梨はどんなに怒っていてもすぐに大人しくなってしまうのだ。

 

 「愛梨の髪は本当にきれいだね、お母さんにそっくりだ。 目は、お父さんに似てる。」

 

 「うぅ“〜・・・ずるいです、王允様。」

 

サラサラの髪を手でなでながら優しく笑うと、愛梨は恥ずかしそうに唇を尖らせた。

 

彼女の長い黒髪は、美髪公と謳われた彼女の母親に負けないほど美しく、周りを囲む夜の闇にも紛れることもなく、月明かりに照らされて一層輝いていた。

 

いつも自分に優しくしてくれた父親と、いつでも強く凛々しかった母親。

 

幼い頃の僅かな記憶しかないが、愛梨にとって今は亡き両親ははいまだにあこがれの存在だった。

 

だからその両親に似ていると言われるのはとてもうれしかった。

 

 「・・・それに、知ってるだろ?俺はただ時間が止まっただけ。」

 

 「それは・・・っ」

 

王允の言葉に、愛梨は失言だったと表情を曇らせる。

 

王允の外見は、愛梨が初めて出会ったころから全く変わっておらず、せいぜい17、8歳だ。

 

しかし実際の彼の年齢、生きて来た時間は、おおよそ普通の人間と比べられるものではない。

 

 「・・・これは、俺への罰なんだよ。」

 

王允はうつむく愛梨に笑って言った。

 

時間が止まったというのは、正確ではないかもしれない。

 

そもそも彼にとって、時間というのは意味のないものだから。

 

 

彼は本来、ここにいるべきではない存在。

 

存在するが―――存在しない―――0と1の狭間の存在。

 

だから時が経っても老いることは無く、死ぬことも無い。

 

 

こうなったのは、自分への罰―――――

 

彼は、昔大切な人の命を救えなかった。

 

そしてそのせいで、大切な人の運命を狂わせてしまった。

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今ここに存在しているのは、王允自信が望んだからだ。

 

しかし大切な仲間がこの世を去っていくのをただ見届けなければならない日々は、そんな自分への罰なのだと王允は思っていた。

 

 「・・・王允様。」

 

 「ん?」

 

うつむいていた愛梨も顔を上げ、少しだけ笑顔を見せてくれた。

 

 「また・・・あの話をしてくれませんか?」

 

 「またか?」

 

 「だって・・・好きなんですもの。」

 

少し照れたように、愛梨は言う。

 

あの話というのは、愛梨が最も好きな話。

 

この世界に平和をもたらした、自分の両親とその仲間たちの物語。

 

 「本当に愛梨はその話が好きだね。」

 

愛梨の頭を撫でていた手を離し、いたずらっぽく王允は笑う。

 

 「だって、自分の両親が活躍した話なのですから。 娘としては何度聞いても嬉しいものです。」

 

幼くして両親を亡くした愛梨にとって、昔の両親の姿を知ることができる王允の話は、何よりも面白かった。

 

昔から、愛梨が眠れない夜には枕元で王允が子守唄代わりに話してくれた物語だった。

 

 「いいよ。 それじゃあどこからがいい?」

 

 「最初からです。 天の御遣いがこの世界に現れるところから。」

 

愛梨は期待に胸を膨らませた子供のように、王允にせがんでくる。

 

王允もそんな愛梨に応えて、笑顔を向ける。

 

 「わかった・・・それじゃあ話そうか。」

 

もう一度杯を口に含み、王允はゆっくりと語り出す。

 

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 「そう、今より少しだけ昔・・・・・この世に平和をもたらした天の御遣いと、その仲間たちの物語を―――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 

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〜〜一応あとがき〜〜

 

 さて、ついに調子に乗ってやってしまいました長編作品。ww

 いきなりオリキャラ二連発ですが、この先この二人はしばらく登場しません。

 

 次回から話が始まるわけですが、実を言うとあまり展開は考えていません。

 書きながら少しずつ考えていこうかなと思っています。ww

 

 前作の「雛里の災難」はたくさんの方に読んでいただけてとてもうれしく思っています。

 この長編も、どうか最後まで書ききれるように応援よろしくお願いします。ww

 

 それから、誤字脱字などございましたら、遠慮なく指摘お願いします ノシ

説明
調子に乗って始めちゃいました長編作品。

とりあえず読んでやってくださいwww
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コメント
深緑さん=コメントありがとうございますww 関興の兄である関平ですが、養子という説もあるようなので今回は省きました。 王允の正体は物語が進んでのお楽しみということでノシ(jes)
王允がなぜこうなたのか気になりますね。しかし、関興ですか。姉や妹もいるのかな?^^これからが楽しみです!(深緑)
タグ
真・恋姫?無双 王允 関興 愛梨 

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