ハーレムキングをブッ飛ばせ!プロローグ< G S > |
「はぁ……」
HRを終えて後ろ髪引かれつつ教室を後にする。
今日もあの人、来栖川 秀人君に自分から声を掛けることが出来なかった。
入学間もない頃からすごくカッコよくて優しくて成績もよくて女子に人気で、とにかく色々噂になっていた人で、
遠目から見ているだけだったけど本当にカッコよくて優しそうな人で、いつも周りに綺麗な娘たちが集まってきているのは納得だった。
わたしとは縁遠い雲の上の人。わたしなんかじゃ絶対釣り合えない人。だからカッコいいな〜って、遠くから見ているだけでよかった。
2年生へ進級してクラス変えでクラスが一緒になった時でもその考えは変わらないものだった。
そんなわたしがこんなにも彼に心惹かれ、片思いするようになったのはある時、階段を上る途中で貧血で気を失った私を偶々居合わせた来栖川君が助けてくれて、保健室へと運んでくれたのが切っ掛け。
目を覚ましたわたしに見せてくれた笑顔は今もはっきりと心に焼き付いている。
「なにごとも成せば成る、叩いて砕く、です」
「それを言うなら「当たって砕けろ」ね。砕けるよりは良いかもだけど相手砕いたらやっぱまずいっしょ。
ま、優子はもっと積極的に行ければ元は良いんだから、それだけで充分上手くいくって? 」
そう言ってみいちゃんやアサちゃんは応援してくれるけど来栖川君の周りにいる女の子たちに敵う気がしない。
霧埼さんはスラリと背が高くてすごい美人だし、市瀬さんは同姓でも思わず抱きしめたくなるくらいかわいらしいし、小鳥遊さんはお淑やかで一緒に居るだけで癒やされるような不思議な人。
他にもわたしなんかよりずっとずっと魅力的な人たちばかりで、やっぱりあの輪に飛び込むのわたしには無理だ。
「はふ……」
また溜め息が勝手に出てしまう。とぼとぼと一人昇降口へ歩いていく。
いつもはみいちゃんとアサちゃんと3人かどちらかと二人で帰るのだけど今日は美化委員のみいちゃんはその会議で、アサちゃんの方は友達に部活の手伝いを頼まれて一緒に帰ることが出来ない。
不意に視界に男子の制服が入って一瞬来栖川君かと思ってしまったけど、来栖川君は今日の日直で教室で日誌を書いていたのをすぐ思い出し、男子の制服を見ただけで見間違えるなんてとちょっと恥ずかしくなってしまった。
改めて見間違えてしまった男子に目を向ければ当然 来栖川君じゃなかった。
背が低くて三白眼の目付きの悪い男子生徒、クラスメイトの田中君だ。
来栖川君とは対極的に悪い意味で有名人で悪い噂の絶えない人。
学園では大人しくサボらずに授業を受けているけれど、学園の外では不良さん達から猟拳だとか羅刹だとかと呼ばれているとても怖い人。
休み時間はいつも机に突っ伏して寝ているし、ほとんど人と話もしないし、いつも不機嫌そうに眉間に縦皺を作っていて、見た目や噂が怖いから誰も―― 先生たちでさえ義務的なこと意外は ――話しかけない。クラスは勿論学園で完全に孤立している。
ついこの間なんて田中君一人を狙って校門前までやってきた他校の怖い不良さんたち数十人を相手取って大立ち回りをやってのけ、不良さんたちを引き連れるように学園から去って行った。放課後間際に田中君一人で戻って来たけど頭から口から何から血を流して制服もボロボロで酷い格好をしていた。
そんな怖い不良さんの田中君を来栖川君は自分の親友だと言って学園で唯一親しげに田中君に話しかけ、田中君の悪口を聞けば必ず庇う。
それに田中君が他校の不良さん達との乱闘事件で退学にならなかったのは来栖川君が弁護したからだという話だし。
来栖川君は田中君を不器用で照れ屋だから分かり辛いだけで本当はすごく良い人なんだと言うけど、とてもそういう風には見えない。
来栖川君の言っていることが本当なら危ない薬を売ってる怖い人たちやヤクザ屋さんと関わりがあるとかそんな悪い噂は立たないはずだし、それ以外の良い噂があっても良い筈だもの。
だから来栖川君は騙されていて付き纏われているんだというみんなの話はわたしも納得できる。
来栖川君自身がどう思っていてもそんなこと許されることじゃない。来栖川君の将来のためにも!
「雨宮、さん…… ? 」
「ふぇ!? 」
声を掛けられて我に返れば田中君が怖い目付きでこちらをじっと見ていて……も、もしかして声を掛け来たのは田中君?
ど、どどどどうしようっ、な何か気に障ることでもしちゃった? ってじっと見てたりしたからだぁっ!?
どうしようどうしようどうしようっ。何か、何か言わなきゃ!!
「く、来栖川君に付き纏うのはもう止めてください! 」
って何言ってるのわたしぃぃっ!? 確かに直前まで考えてたことだけどぉぉぉっ!?
「……………」
うう、睨んでる、すっごく怖い顔で睨んでるよぅ。
め、目を逸らしたら、だダメなんだよね、こういう場合。逸らしたら、その、ひどい目とかに遭わされちゃうんだよね?
……………………………
ううぅ、沈黙が痛いし、睨まれて怖いしどうしよう。助けてみいちゃんアサちゃん!!
「…… ハァ」
「!? 」
突然大きな溜め息と共に田中君はいつも不機嫌そうな顔を一層不機嫌そうにした暗い表情で目を瞑った。
な、何ですか!? ひどいことされちゃうんですか、怖いことされちゃうんですかわたしぃっ!?
「……… 縁を切りたいのは、こっちの方だ」
「え?」
激しい痛みを堪えるような苦い顔でそう一言吐き捨てて田中君は何も無かったかのように、無かったことにするようにわたしに背を向けてまっすぐに校門へ向かって行った。
『縁を切りたいのはこっちの方』 ?
あれ? 付き纏っているのは田中君の方じゃ。でも、縁を切りたいって今……
ど、どういうこと?
なんで田中君がそんなこと言うの?
だって、それじゃぁ付き纏っているのは、で、でもでもでもでも、そそんなこと、あるわけが、大体不良さんの田中君に来栖川君が付き纏う理由なんてあるわけが………
田中君が残していった言葉に頭を抱えて混乱するわたしには答えらしい答えを見つけることも思いつくことさえも出来ず、一人帰途につく以外に出来なかった。
結局、家に帰り着いてからも頭から田中君の言葉が離れず、悩んだ末に怖いけれど田中君に直接あの言葉の真意を聞こうと決めた。
聞きに行く時は絶対みいちゃんとアサちゃんに付い来てもらおうと思いつつ。
しかし翌日、学園に登校したわたしは来栖川君と田中君が霧埼さんたちの目の前で神隠しに遭い、行方不明だという驚きの報せを耳にした。
こうしてわたしは、来栖川君への告白の機会も自分の頭を悩ませる田中君の言葉の真意を知る機会も得ずに失ってしまったのだった。
ハーレム野郎(キング)をブッ飛ばせ!
プロローグ
< とある少女Aの視点(ガール・サイト) >
―― 了 ――
説明 | ||
これはもう一つのプロローグの方を8割ほど書いた段階で、これならこの娘の視点も書いた方がよくねーですか? と思い至り書き出したので、基本的に読まなくても問題ありません。 尚、脳内で女性声優さんの声をフルドライブで再生しながら文章やらセリフを考えて書いたため、ここ最近 女性声優さんというと水樹奈々さまのお声が真っ先に再生されることも相俟って、この視点の娘にプリキュアの花咲 つぼみのキャライメージが少し入ったような感じになっており、おかげで3〜4行程度の簡単な設定のモブキャラだったのにえらくキャラ立ちしておりますw そんな感じでよろしければご覧ください(^_^;AJJ |
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