真・恋姫?無双 悠久の追憶・第二話 〜〜罪と決意〜〜 |
第二話 〜〜罪と決意〜〜
――――――――本当は、少しだけ期待していた。
今までの事は全部夢なのだと。
今日もいつもと同じように目覚まし時計に起こされ、いつもと同じように学校へ行き、いつもと同じような一日が始まるはずだと。
しかし、そんな一刀の期待は見事に裏切られた。
「ん・・・・・?」
目を覚ました一刀の目に映ったのは、眠る前に見たのと同じ、見慣れない部屋の天井だった。
「そっか・・・俺、違う世界に来たんだっけ・・・」
少しの落胆を感じながらも、ゆっくりと体を起こす。
すると部屋の外からはなにやら慌ただしい音が聞こえてきた。
「なんだか騒がしいな・・・・」
外の様子を見ようと、寝台から起きて扉を開ける。
“ガチャ”
「きゃっ!み、御遣い様!?」
「愛紗!?」
扉を開けた瞬間、部屋の前を通ろうとしていた愛紗とぶつかりそうになった。
「なんだかずいぶん騒がしいけど、何かあったのか?」
ぶつかりそうになったのを謝って、この慌ただしさの理由を尋ねる。
「はい。 実は最近この辺りを荒らしている黄巾党の賊たちに町が襲われたのです。」
「なんだって!?」
あまりに突然の出来事に、一刀は耳を疑った。
さっき見たあの平和な町が襲われている。
起きたばかりの頭にはあまりにも衝撃的な知らせだ。
「私はこれから、兵を率いて賊の討伐に向かいます。 御遣い様は決してここから出ないでください!」
「あっ、愛紗っ!」
言い終わると同時に、愛紗は走り去ってしまった。
「・・・町が・・・襲われてるって・・・?」
まだ信じられず、ただその場に立ち尽くす。
ふと視線を落とすと、部屋の隅に立てかけられた一本の剣が目に入った。
「・・・・・くそっ!」
考えている暇などなかった。
頭で考えるよりも前に、一刀はその剣を手にとって部屋を飛び出した。
「(少しだけど、じいちゃんから習った剣術がある。 ただの賊くらいならなんとか・・・)」
別に腕に自信があったわけではない。
実戦の経験ももちろんない。
しかし町が賊に襲われ、愛紗たちが戦っているというのに自分だけ部屋に隠れているのは我慢できなかった。
―――――――――――――――――――
「なんだよ・・・・これ・・・」
町の光景を見て、一刀は愕然とした。
建物はところどころ壊され、道には多くのものが散乱していた。
どうやら住人は全員避難した後のようで、人の気配はない。
それはさながら、テレビで見たことがある映画のワンシーンのような光景で、ここへ来た時に見た平和な町の姿は、もはや見る影もなかった。
「・・・こんなのって・・・」
辺りを見渡すが、賊の姿は無い。
おそらくこの近辺は荒らしつくし、別の方向へ行ったのだろう。
「うぇ“〜〜ん!うぇ”〜〜ん!」
「!?」
聞こえてきた泣き声の方を見ると、崩れかけた民家の前で小さな女の子が座り込んで泣いていた。
一刀は急いでその子に駆け寄り、声をかける。
「どうしたの?どこか痛いのか?」
「ひっく・・・おと・・ちゃんと・・おかぁ・・・ちゃん・・ひっく・・・ない・・の・・グスっ」
どうやら逃げる途中で両親とはぐれてしまったらしい。
「そっか・・・もう大丈夫だよ。 必ずお父さんとお母さんに会わせてあげるから。」
そう言って、泣きじゃくる女の子の頭を優しく撫でてやる。
「なんだぁ?まだ人が居やがったのか。」
「!?」
突然後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには荒々しい風貌の男が立っていた。
そして男の頭には、黄色い布が巻かれている。
「(黄巾党――!?)」
「おい小僧、なんだか珍しい服着てんじゃねえか。 痛い目に会いたくなかったら大人しく着てるモン全部置いてきな!」
男は不敵な笑みを浮かべ、腰に差していた剣を抜いてその刃先を一刀へ向けた。
だが一刀はひるむことなく、手に持っていた剣を鞘から抜く。
「断る!・・・お前らは絶対に許さない!」
一刀は必死の形相で、男を睨みつけた。
おそらく、元の世界にいた時には抱いたことのない強い感情。
町をこんな姿にした賊たちに対する怒りだけが一刀を動かしていた。
「うおぉぉーーー!」
両手に持った剣を構え、一刀は男に向かって走り出した。
一気に男との間合いを詰め、剣を振るう。
「あめぇよっ!」
“ガキィィン!”
「ぐあ“っ!」
だが男は一刀の一撃を剣でなんなく弾き飛ばし、一刀は地面に倒れた。
「くっそ・・・っ!?」
一刀はすぐに立ち上がろうと身体を起こすが、突然左腕に走った痛みに顔を歪めた。
左腕を押さえた右手には、生温かい感触が伝わった。
そしてゆっくりと赤い液体が腕をつたっていく。
「あ・・・あぁ・・・」
それを見たとたん、今まで高ぶっていた感情は波が引くように冷めていき、代わりに忘れていた恐怖が一刀の頭を満たした。
いや、忘れていたのではない。
今の今まで、一刀は恐怖を感じる余裕などなかったのだ。
いきなり見知らぬ世界に飛ばされたという事実を、まだ信じきれていなかった。
心のどこかで、これはどうせ夢なのだと―――――
もし負けても本当に命を落とすはずがないと――――――
そう思っていた。
だが、これは現実なのだ。
荒くなっている呼吸も、左腕に走っている痛みも全て現実。
所詮一刀の形だけの剣術など、賊一人にすら通用しない。
ましてや漫画のヒーローのように、余裕綽々で相手を倒すなんてできるはずがない。
そして今、目の前の男は本気で自分を殺す気でいる。
一刀は今、自分に生まれて初めて本当に『死』が迫っているのだと理解した。
「はっ、威勢のわりには大したことねーな。 ガキが剣振って勝てると思ったか?」
男は相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、倒れている一刀にゆっくりと近づく。
その手に握られている剣にはさっきの一撃でついた一刀の血が赤く光っていて、それが一刀の恐怖をさらにかき立てた。
「(逃げなきゃ・・・殺される・・・本当に・・・)」
なんとかこの場から逃げ出そうとするが、足が震えて力が入らない。
地面に尻をついたまま、這うようにして後ずさる。
「おとなしく逃げなかったことをあの世で後悔しな!」
男は一刀を見下ろし、手に持った剣を振り上げる。
一刀 「・・・・っ!」
死を覚悟して、一刀はとっさに目を閉じた。
(――――――おいおい・・・・来て早々ピンチだな。)
「え・・・?」
“ザシュッ!”
「ぐぁ“っ!?」
“ドサッ”
何が起きたのか分からなかった。
頭の中に誰かの声が聞こえた瞬間、まるでそう動けばいいということを知っていたように一刀は男の剣を交わし、逆に斬りつけていた。
「なんだよ・・・今の・・・」
いきなりの出来事に、ただ茫然と立ち尽くす。
「・・・・・・!?」
ふと後ろを振り向くと、そこにはさっきまで恐怖の対象だった男が倒れていた。
その周りは赤く染まっていて、どうやらもう息はしていない。
「俺が・・・殺したのか・・・?」
持っていた剣を落とし、地面に膝をつく。
両手には、確かに男を斬った感触が生々しく残っていた。
「俺が・・・人を殺した・・・?」
生まれて初めて人を殺したという事実に、全身が“ガクガク”と震え出した。
それを必死に鎮めるように、両手で自分の肩を抱く。
「俺が殺したんだ・・・俺が・・・・う・・・うわぁぁ“−−ーーーーーー!!!」
“ドサッ”
切り裂くような叫び声を上げ、一刀はそこで意識を失った。―――――――――
―――――――――――――――
「―――つかいさま。 御遣い様。」
「ん・・・・っ」
聞き覚えのある呼び声に、一刀は目を覚ました。
「御遣い様!よかった。 気がついたのですね。」
「・・・あい・・しゃ・・?」
ゆっくりと身体を起こすと、そこには心配そうに見つめる愛紗と桃香たちが居た。
「もぉー、心配したんだよ。 部屋にいないと思ったら気を失ったまま運ばれてくるんだもん。」
「ほんとなのだ。」
「でも気がついてよかったです。」
「・・・・“コクコク”」
「みんな・・・・ここは?」
「御遣い様の部屋です。 兵が道で倒れているあなたを見つけて、ここまで運んできたのですよ。」
「そっか・・・そうだっ!女の子は!?」
あの時道で泣いていた女の子の事を思い出した。
両親に会わせてあげると言ったのに、結局約束を守れていない。
「女の子?・・・あぁ、一緒にいた子供ですね。 大丈夫です。 無事に両親のもとへかえしましたよ。」
「・・・よかった。」
「それから、そばに賊が一人倒れていましたが、あれは・・・御遣い様が?」
「!?」
愛紗の言葉で、思い出したくない記憶が一気によみがえり、一刀の表情はとたんに暗くなった。
「・・・御遣い様?」
そんな一刀の顔を、愛紗は不安そうにのぞきこむ。
「そうか・・・俺、人を殺したんだよな・・・」
自分の両手を見ながらつぶやく。
あの時の感覚が、まだかすかに残っていた。
人を殺したという消すことのできない事実が、一刀の心に重くのしかかる。
「御遣い様は・・・人を殺めたことがないのですか?」
「ないよ。 いや、なかった・・・かな。 俺が居た世界にももちろん戦いはあったけど、それはずっと遠い国の話で、人が死ぬなんてどこか他人事のように思ってたんだ・・・ましてや自分が誰かの命を奪うなんて考えもしなかった・・・」
「・・・・・」
一刀の言葉に、そこにいた全員が言葉を失った。
「・・・ねぇ御遣い様、こんなときに言うことじゃないかもしれないけど・・・ううん、こんなときだからこそ、ひとつお願いがあるの。」
「・・・お願い?」
しばらくの沈黙をやぶって桃香が口を開いた。
「私たちの上に立って、この世界を平和にする手助けをしてくれないかな?」
「・・・上に立つって・・?」
「私たちの君主、つまりご主人様になってほしいってこと。」
「君主って・・・俺が!?」
桃香りの突然の申し出に、一刀は驚きの声をあげた。
そして桃香は真っ直ぐに一刀をみつめたまま、話を続ける。
「私たちは、この戦乱の時代をなんとかして終わらせたくて立ち上がったの。 でも今回の事で、やっぱり私たちの力だけではできることに限界があるって分かった。 だから御遣い様の力を、私たちに貸して!」
桃香は真剣な表情で一刀に訴える。
そこには初めて会った時のようなのんびりとした少女ではなく、真に大陸の平和を願う英雄・劉備玄徳の姿があった。
しかし、一刀は心の中で悩んでいた。
『君主』というのがどれほど重要な立場なのか、だいたいの想像はつく。
だからこそ、戸惑った。
少し前までただの学生だった自分が、いきなり君主などになったところでいったい何ができるというのか。
せいぜい『天の御遣い』という肩書にたよって、人々の心の支えになるという程度だが、それすら怪しい。
とてもではないが、目の前で必死に想いを語る桃香の期待に応えられる自信はなかった。
「でも・・・俺に君主なんて・・・」
「私からもお願いします!」
「愛紗・・・」
「あなたはご自身の身を顧みず、町を救う為に賊と戦って下さいました。 そして、人を殺めたことを悔いる優しさも持っておられる。 あなたには、人の上に立つ資質があります。 どうか、人々を守るために力をお貸しください!」
「お兄ちゃん!鈴々からも頼むのだっ!」
「お願いします、御遣い様!」
「・・・お願いします。」
桃香と愛紗に続いて、集まった全員が一刀に思いをぶつける。
「みんな・・・。 人々を・・・守るため、か。」
一刀は静かに目を閉じ、先ほど見た荒れ果てた町の姿を思い出した。
建物は荒れ、人の気配はない、まるで死んだような街の姿を。
あんな光景は、もう二度と見たくない―――――
一刀は拳を握りしめ、ゆっくりと目を開けた。
「・・・俺は、自分の事を天の御遣いだなんて思ってないし、皆が言ってくれるような立派な人間じゃない。」
一言ずつかみしめるように、思っていることを言葉にする。
「だけど、俺なんかの力で少しでも苦しんでいる人たちを救えるなら、力を貸すよ。 それに、賊とはいえ俺はもう一人の命を奪ってしまった。 それを無意味なことにしないためにも、この世界を平和にしたい。」
迷いが消えたと言えば嘘になる。
自分に君主が務まるなどとはいまだに思っていない。
それでも、目の前の少女たちのために、奪ってしまった命のために、苦しんでいる人々のために、何かをしたいと思った。
どんな理由があろうと、人を殺したという事実は消すことはできない。
ならばせめてその命を背負って戦い続けなければ、本当にただの人殺しになってしまう気がした。
「ありがとう!御遣い様♪」
桃香は一刀の手を取り、満面の笑みを浮かべた。
「どこまでできるかは分からないけど、精一杯やるよ。」
「では、これからはご主人様と呼ばせていただきますね。」
「ご主人様っ!?」
「そうだよ。私たちの君主なんだから。 がんばろうね、ご主人様♪」
「はぁ・・・まぁいいか。 うん、頑張ろう!」
これが、天の御遣い北郷一刀と仲間たちの最初の出会いだった――――――――――――
〜〜一応あとがき〜〜
二話目終了です。
最後まで読んでいただきありがとうございましたww
やっぱり物を書くというのは難しいですね (汗
さて、次回からは黄巾党の話になってきます。
あの子も出る予定ですのでよろしくお願いします。
なお、誤字脱字などありましたらどんどん指摘してやってください。
説明 | ||
二話目ですww 今回一刀がちょっと頑張ります。 |
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何やら妙な人格らしき方がいらっしゃるようで・・・とりあえず桃香達と共に行く事になりましたが、さて?(深緑) | ||
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