雲の向こう、君に会いに-魏伝- 十三章
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「もう・・・時間がないんや」

 

 

暗闇の中、駆ける影

 

一心不乱に、流れる汗を拭うことなく

 

 

影は・・・彼女は走り続ける

 

 

 

「ウチはまだ、何も伝えとらんのに・・・!」

 

 

 

走りながら、呟く彼女

 

その手は、力強く握り締められていた

 

 

 

 

 

「せやから、ウチは・・・」

 

 

 

 

ピタリと・・・足を止める彼女

 

その視線は気づけば、黒く不気味な空へと向けられている

 

 

 

 

 

「隊長・・・」

 

 

 

 

 

 

空を見つめ、彼女は・・・真桜はふっと微笑む

 

悲しげに、儚げに微笑む真桜

 

 

握り締められた手・・・そこから、僅かに流れる血にさえ気づかずに

 

 

 

 

 

 

 

「ウチな・・・隊長のこと・・・ホンマに好きやねん

  大好きやねん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーせやから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウチの想い、届けたるからな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伸ばした手・・・呟く気持ち

 

彼女もまた、強い『想い』によって突き動かされていたのかもしれない

 

 

 

 

 

 

・・・さてここで、少しだけ時を遡ろう

 

 

 

それは、北郷一刀が『全て』を失う少し前

 

 

 

 

 

 

彼女達の物語を・・・覗いてみるとしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》

十三章 貴方に届け

 

 

 

 

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「皆に・・・見てもらいたいものがあるの」

 

 

ゆっくりと、そう言った私に・・・全員の視線が集まる

 

クシャリと、再び音をたてる紙

手が、震える

 

 

恐い・・・だけど、それじゃ駄目なのよ

 

 

そうでしょ・・・風?

 

 

チラリと、視線を向けた先

私を見つめ、柔らかな笑みを浮かべる風の姿

 

 

その笑みに、少しだけ胸が温かくなった気がした

 

 

「ふふ・・・」

 

 

さぁ、はじめましょう

 

 

 

「この紙を、一緒に・・・見てほしいの」

 

 

 

覚悟は決まった

 

震えは・・・もうない

 

もう大丈夫

 

 

 

 

「これなのだけれど・・・」

 

 

 

私は握り締めたその二枚の紙切れを、広間の机の上に広げて置く

 

その机を囲むように、皆が集まってきた

 

そして、紙に書かれていることを各々が確かめる

 

 

 

その紙には・・・このようなことが書かれていた

 

 

 

 

 

 

 

『味× 嗅× 触× 視○ 聴△』

 

 

『味× 嗅× 触× 視△ 聴』

 

 

 

 

 

 

 

「これって、なんかの暗号・・・?」

 

 

紙を見てからの、雪蓮の第一声がこれだ

 

確かに、私も今初めて見るが・・・これは、暗号か何かに見えなくもないわね

 

 

「うへぇ・・・こういうのは苦手なんだよなぁ」

 

「にゃ〜、鈴々もなのだぁ」

 

 

その謎めいた内容に、早くも降参気味の馬超と張飛

まぁ二人だけでなく・・・武官達はそろって、そんな感じなのだけれど

 

 

「これは・・・いったいどういうことなんでしょうか?」

 

「何か意味があるはずなんですけど〜」

 

 

対して呂蒙や陸遜をはじめとする軍師達はそろって、その頭を振り絞り考えているようだ

流石は三国を代表する軍師たちと言ったところか

 

だがそれでもやはり、これを解読するには至らない

 

そんな中・・・

 

 

 

「これは・・・」

 

 

 

凪が、この紙を見つめながら小さく声をもらした

 

 

 

「凪、どうかしたのかしら?」

 

「華琳様、私はこれと似たようなものを・・・持っているのです」

 

「なっ・・・!?」

 

 

凪が言ったこと

それに、私は大きな衝撃を受ける

彼女は恐る恐るといった感じで、懐から一枚の紙切れを取り出し・・・机に置いた

 

突然現れた・・・新たな手がかり

 

 

 

 

だが、それだけではなかった

 

 

 

 

 

 

「ウチも、持ってるで・・・それ」

 

「霞・・・」

 

 

 

凪の言葉に続くように、霞がそう名乗り出たのだ

そして懐から取り出したのは、一枚の紙切れ

 

彼女はそれを、置いてあった三枚の紙の隣に置いた

 

 

さらに・・・

 

 

 

 

 

「私は持ってはいませんが、以前に北郷の部屋で同じようなものを目にしたことがあります」

 

「私も兄様の部屋で、これと同じものを見ました

えっと・・・華琳様が持ってたうちの、一枚なんですけど」

 

 

 

 

 

そう言って前に出るのは、秋蘭と流琉だった

 

二人の言葉に内心驚きつつも、私は秋蘭に見た内容を書くよう伝える

 

それから、風へと視線をうつした

 

 

その視線に気づいたのか、風は静かに頷いてから・・・最初の二枚のうちの一枚を指差した

 

 

恐らく、風もこれを一刀の部屋で見つけたのだろう

 

 

やがて書き終わったのか、秋蘭が紙を机の上に置く

 

 

 

 

 

並べられたのは、似たような記号の並んだ・・・五枚の紙

 

 

 

 

「これは・・・」

 

 

 

 

共通点は、いずれも一刀の部屋・・・もしくは近くで見つかったということ

 

汚い字だが、一刀が書いた字と良く似ているということ

 

並べられた、よくわからない記号

 

 

これらを頭の隅に置き、私達は再び考える

 

 

 

「う〜ん・・・なんなんでしょうか」

 

 

しかし・・・蜀一の頭脳である諸葛亮でさえ、このザマである

これでは、進展は難しいかしら

 

 

「でも・・・諦めないわよ」

 

 

何か・・・何かあるはずよ

 

風にはわかったのだから、私にだってきっと・・・

 

 

 

 

「なんだか、これ・・・料理の評価みたいに見えるな」

 

「・・・っ」

 

 

ふいに、耳に入ったのは・・・春蘭の声だった

その言葉に、視線が春蘭へと集まった

 

 

「姉者・・・?」

 

「いやホラ、味が×で匂いも×・・・みたいな感じで

これは・・・相当マズイ料理だったんだな」

 

「アンタ、やっぱり馬鹿でしょ?

だったらこの『聴』ってなによ?

料理の評価に、耳は関係ないでしょうが」

 

「ぬ・・・そうだな」

 

 

春蘭の言葉を、バッサリと切り捨てる桂花

 

だけど私は、春蘭の言葉が頭から離れなかった

 

 

何故?

 

 

今の言葉に、何か・・・何かあったとでもいうの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・もしや、『五感』のことではないか?」

 

 

 

 

 

 

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響いたのは、呉の筆頭軍師・・・周瑜の声

 

春蘭に集まっていた視線が、一斉に彼女に向けられる

 

 

「五感・・・?」

 

「ああ、この紙・・・『味』は味覚、『嗅』は嗅覚、『触』は触覚、『視』は視覚、『聴』は聴覚と当てはめることができるんだ」

 

 

言われて、皆は再び紙に目をやる

 

確かに彼女の言うとおり、そう当てはめることができる

 

 

 

だったら・・・この記号はなんなの?

 

何を意味するの?

 

一刀は、いったい何を書きたかったの?

 

 

「一刀・・・」

 

 

呟いた名前・・・痛む頭

 

 

そして・・・

 

 

 

 

「っ・・・これは」

 

 

 

 

視界に入った・・・ある言葉

 

私は慌ててそれを・・・霞が出した紙を手に取った

そこに書かれている言葉に、私は言葉を失ってしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まだ・・頑張れる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタガタに震えた・・・汚い文字

何か水のようなものでもこぼしたのだろうか

滲んだその文字を見つめ、私は気づいてしまった

 

この紙に書かれたことに・・・

 

 

 

 

「この紙を・・・一刀に会った順番に並べるわよ

そうね、古い順からでいいわ」

 

「華琳様・・・?」

 

 

私の言葉に、首をかしげる桂花

 

よく意味がわかっていないのだろう

 

 

 

「いいから・・・そうすれば、わかるはずよ」

 

「は・・・はぁ」

 

 

桂花はこの言葉に頷き、紙を見つけた者に聞きながら・・・紙を並べ替えていく

 

まずは、秋蘭が見つけた紙

 

次に、凪が見つけたもの

 

その次に霞

 

霞の次は流琉のが・・・

 

 

最後に・・・風の見つけた紙が

 

 

机の上、順番に並べられた紙

 

 

 

それを見て、皆の表情が変わった

 

気づいたのだ

 

この紙に書かれていること・・・その意味に

 

 

 

 

 

「な・・・なんだと?」

 

「これは・・・」

 

まずは秋蘭、春蘭

 

 

『味× 嗅△ 触△ 視○ 聴○』

 

 

 

 

 

 

「嘘・・・でしょ?」

 

「た、隊長・・・」

 

次に・・・凪と沙和が

 

 

『味× 嗅△ 触△ 視○ 聴△』

 

 

 

 

「なんやねん・・・これ」

 

その次に・・・霞が

 

 

『味× 嗅△ 触× 視○ 聴△』

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ流琉・・・これって」

 

「兄様・・・」

 

 

それに続き・・・季衣と流琉が

 

 

 

『味× 嗅× 触× 視○ 聴△』

 

 

 

 

 

「な・・・なによこれ」

 

 

最後に、桂花が・・・息をのんだ

 

 

 

『味× 嗅× 触× 視△ 聴』

 

 

 

 

 

 

 

これに・・・仮に、五感が当てはまるとする

 

ならば、この記号は?

 

簡単なことだ

 

×とは・・・つまり、駄目だということだろう

 

時が経つにつれ、増えていく×

 

 

 

 

ならば、これは・・・いったい誰のものを記しているのか?

 

 

それもまた、簡単なことだった

 

 

 

 

 

 

だからこそ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「一刀の部屋に・・・急いで!!!」

 

 

 

 

 

 

私の言葉に皆は、迷いなく一斉に駆け出していったのだ

 

 

 

 

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「一刀がいないですって!?」

 

 

広間・・・そこに私の声が響き渡る

 

それに対し秋蘭は、悔しそうに頭を下げた

 

 

「はい・・・部屋はすでに、もぬけの殻でした

一緒にいた赤の姿も見当たりません」

 

「なんですって・・・」

 

 

こんな時に・・・いったい、どこにいったの?

 

一刀・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

『この後、天和達の舞台もあるしね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、天和たちのところ・・・!」

 

「そういえば、言っていましたな・・・天和たちの舞台を見に行くと」

 

私の言葉に納得し頷く秋蘭

それとほぼ同時に駆け出していくのは・・・春蘭だった

 

 

「姉者っ!?」

 

秋蘭の制止も聞かず、彼女は颯爽と広間から飛び出していった

 

それから少し遅れて、霞・凪・沙和の三人も駆け出していく

 

 

「華琳様・・・!」

 

「秋蘭、貴女も向かいなさい」

 

「御意!」

 

 

私の言葉を聞き、足早に広間をあとにする秋蘭

私はそれから、視線を風のもとへと向ける

 

 

風は・・・静かに頷いた

 

 

 

 

「もう・・・時間がないのね?」

 

「はい、そのとおりなのです」

 

「辛かったわね・・・風」

 

「っ・・・はい」

 

 

揺れる・・・風の瞳

 

 

 

辛くないわけがない

彼女は一人で、ずっと耐えてきたのだから

 

一刀のために・・・誰にも言わず

 

 

 

だから・・・

 

 

 

 

「ありがとう・・・風」

 

「いいのです、それよりも・・・」

 

「わかってるわ・・・行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

行こう・・・一刀のもとへ

 

 

 

 

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私たちが着いたころにはすでに、天和達の舞台は始まっていた

会場にはたくさんの人が集まっており、この中から一刀の姿を見つけるのは・・・難しいだろう

 

 

いや、仮に見つけられたとしてもこの人数だ

そこまで辿り着けないわね

 

 

 

「く・・・華琳様!

舞台を一時中断させましょう!!」

 

「駄目よ・・・この舞台は、天和たちにとって夢にまでみた大切な舞台なの

それは、きっと今まで彼女達を手伝ってきた一刀にとっても同じものよ」

 

「くっ・・・しかし!」

 

 

拳を握り締め、悔しそうに言う春蘭

いや、悔しいのは皆同じだ・・・私だって、今すぐにでも駆けつけたい

 

だけど・・・天和たちの邪魔は出来ない

 

 

「まいったわねぇ・・・」

 

「雪蓮?

なんで貴女までここに・・・」

 

「ん〜、勘?」

 

「はぁ?」

 

「気にしないでくれ、曹操殿

雪蓮のこれは、もはや病気なんだ

それよりも・・・この状況をなんとかせねばな」

 

「冥琳、ちょっと酷くない?

ていうかなんとかせねばって・・・正直、これじゃ無理よ」

 

「だろうな、しかし・・・」

 

「待ちましょう・・・」

 

「曹操殿?」

 

「・・・終わるまで待つしかないわ」

 

 

それしかない

 

 

 

ここで、じっと待つしかない

 

 

 

 

それまで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってなさい・・・一刀」

 

 

 

 

 

無事でいなさいよ・・・馬鹿

 

 

 

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『みんな〜、今日はありがと〜〜〜〜〜!!』

 

「「「「ほわあああああぁぁぁぁぁぁああああ〜〜!!!!!」」」」

 

 

日もすっかりと落ち、辺りが暗くなったころ

 

ついに天和達の舞台は終わりを告げた

 

 

 

それと同時に・・・

 

 

 

 

「北郷〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

「隊長ーーーーーー!!!!」

 

「一刀ーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

一斉に飛び出していく、春蘭と凪と霞の三人

 

それに続き、私達も人ごみを掻き分け突き進んでいく

 

 

「あっち!あっちから兄ちゃんの匂いがする!!!」

 

「皆さん、あっちのほうです!」

 

 

何事かと慌てる人々にも目をくれず、私達は走り続ける

季衣に誘導され、ただひたすら走り続ける

 

 

そして・・・

 

 

 

「いた・・・一刀!!」

 

 

私達はついに・・・その姿を見つけた

 

 

 

暗い空を見上げ、微笑む彼を・・・

 

 

 

「一刀!!!!」

 

 

私は周りの目など気にせずに、彼の名を大声で叫ぶ

 

しかし、一刀は気づかない

 

 

「隊長!!」

 

 

続いて、凪が名を呼んだ

 

しかし・・・それでも気づかない

 

 

 

まさか・・・

 

 

 

最悪の考えが・・・頭をよぎる

 

その時、ふと視線が赤とあった

 

彼女はしばらく、私を見つめたあとに

 

 

 

 

 

 

その首をゆっくりと・・・横に振った

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・」

 

がっくりと・・・秋蘭が膝をついた

 

他の者も、同様に・・・言葉が出ないといった表情でその場に立ち尽くす

 

 

私は・・・

 

 

 

「嘘よね・・・一刀」

 

 

 

震える足で、一刀の傍まで歩み寄った

 

だけど、一刀はこっちを見てくれない

 

 

 

 

「なんとか言いなさいよ・・・一刀」

 

 

 

グッと、強く肩を掴む

 

だけど、一刀は気づいてくれない

 

 

 

 

「一刀・・・一刀ぉ」

 

 

 

抱きしめて、何度も名前を呼んだ

 

だけど、一刀はこたえてくれない

 

 

 

 

 

 

「私の声が聞こえないの?

馬鹿・・・馬鹿ぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は・・・間に合わなかったの?

 

 

全部、手遅れだったとでもいうの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだや・・・まだやで、大将」

 

 

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「え・・・?」

 

 

声が・・・聞こえた

 

 

聞き覚えのあるその声に、私は視線をそちらへと向ける

 

 

そこにいたのは、一人の少女

 

 

 

 

 

 

真桜・・・

 

 

 

 

「真桜!?お前、今までどこに・・・」

 

「んなこと、後でええねん!!

それよりもや・・・赤さん!」

 

 

凪の言葉を己の言葉で遮り、彼女が呼んだのは・・・赤

赤は無言のまま、視線を真桜へ向けた

 

 

 

「隊長はもう、何も聞こえへんのか?」

 

「はい・・・残念ながら」

 

 

赤の答えに、不覚にも涙が出そうになる

 

だが真桜は・・・真っ直ぐと赤を見据えたままだった

 

 

 

「目は・・・?」

 

「恐らくもう・・・いや、もしかしたらですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーとてつもなく強い『光』ならば、まだ届くかもしれませんが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は・・・ははは」

 

赤の言葉に、真桜は・・・笑った

 

本当に嬉しそうに、笑ったのだ

 

その様子に私達は言葉を失ってしまう

 

 

 

彼女は、いったいどうしたというのか?

 

 

 

「間に合ったんや・・・ウチは」

 

 

ふいに、彼女が呟いたその言葉

 

『間に合った』

 

ますますわからなくなる

これの、どこが間に合ったというのか

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀の書いたあの紙

 

 

あれは・・・きっと自分のことだったのだ

 

彼自身の五感について

 

そして月日が経つにつれ、増えていくバツは・・・失った感覚を記していた

 

だとすればもう、一刀には・・・

 

 

 

「真桜・・・もう一刀は」

 

「まだや大将

赤さんが言ったやろ?

強い光なら、届くかもしれへんって」

 

「そんなの・・・!」

 

 

 

 

 

「あるんや・・・ここにな」

 

 

 

 

 

ニッと笑い、真桜が指差したのは・・・一刀が先ほどからずっと見上げている空

 

薄気味の悪い夜空

 

ここに、なにがあるっていうのよ?

 

 

 

私が、いや皆がそう思う中・・・真桜はスッと目を閉じた

 

それから、静かに口を開く

 

 

 

 

「ホンマ・・・間に合わへんかと思ったわ

雨は降りそうやし、隊長は危ないし

  だけど、どうしてもウチ・・・届けたかってん」

 

 

 

届けたい

 

何を?などと、野暮なことは聞かない

 

そんなもの、聞かずともわかる

 

 

 

「ウチの想いを・・・ま、そのついでに皆のぶんも伝えたるから安心してや」

 

「真桜、さっきから何を言って・・・」

 

「口で言うよりも、ホレ・・・きたで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーウチらの想いが・・・

 

 

 

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「これ・・・って」

 

言葉が・・・出てこない

 

空に浮かんだ『それ』に、私は・・・私達は、言葉を失った

 

 

 

 

それが、あまりにも美しくて

 

 

 

それが、あまりにも儚くて

 

 

 

 

夜空に浮かぶそれを、ただ無言で眺めていた

 

 

 

「これはな・・・隊長の国ではお祭りんときに、打ち上げるやつらしいで

  名前は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「花火・・・」

 

「そうそう、花火・・・って、隊長!?」

 

「一刀!?」

 

 

花火を見上げたまま、ふいに聞こえたのは・・・愛しい人の声

 

一刀の声

 

 

 

「は、はは・・・真桜か

まったく、ほんと大したやつだよ」

 

 

 

夜空に浮かぶ花火を見つめながら、彼は呟く

 

その手が、夜空へと伸ばされる

 

 

 

「なんだよ、ちくしょう・・・こんなの見せられたら、まだ『諦める』わけにはいかなくなるじゃないか」

 

 

 

伸ばされた手が・・・何かを掴んだ

 

それが何なのかは、きっと一刀にしかわからない

 

だけど彼の表情を見る限り、それは・・・きっと、彼にとって大切なものだったのかもしれない

 

 

 

「なら俺は・・・『最期の瞬間』に賭けよう」

 

 

 

ニッと、彼が笑う

伸ばした手は、もう・・・下ろされていた

 

 

 

「赤さん、いるんでしょ?」

 

「はい」

 

「『アレ』を・・・頼むよ」

 

「うm・・・はい」

 

「はは、何だか今日はもう・・・疲れちゃったな

皆には悪いけど・・・今日は・・・もう・・寝よう・・・・かな」

 

 

 

 

 

ガクリと・・・一刀は俯く

 

手はだらしなく伸ばされ、静かな寝息が聞こえてくる

 

 

「おやすみ・・・一刀」

 

 

彼の頭を撫でながら、私は優しくそう囁いた

 

 

 

何か・・・聞こえる

 

見れば周りの者達は皆、声を殺し涙を流していた

あの春蘭が、あの桂花までもが

 

皆・・・泣いているのだ

 

 

 

 

わかってしまったのだろう

 

これは・・・ただの眠りではないと

 

 

 

私にはわかった

 

 

 

 

 

 

 

きっと・・・一刀はもう二度と、起きることはないんだと

 

 

 

 

 

 

 

「雨・・・」

 

 

 

 

 

 

まるでそんな私達の心に合わせる様に、降りだした雨

 

 

 

 

 

まるで・・・この国までもが、涙を流しているように

 

 

 

そう思えた

 

 

 

-9ページ-

★あとがき★

 

さて、十三章ですが

 

とりあえずまず、重大でもない発表があります

 

まずひとつ

 

まことに勝手ながら

【真★恋姫シリーズ】の全ルートを新しく書き直す予定です

 

理由としては、モバのころとストーリーがかなり変わってしまったため様々な矛盾点が出てきてしまったのです

そのために、また新しく書き直したいのです

それに伴い、新たな√を執筆予定

 

ええ、そうです

皆さんお待ちかねの南蛮√ですww

 

予定としては・・・

【真★恋姫†無双-天の御遣い-】

蜀√

北郷一刀

 

【真★恋姫†無双-真紅の君-】

呉√

太公望

 

【真★恋姫†無双-蒼の誓い-】

魏√

郭嘉 

 

【真★恋姫†無双-花鳥風月-】

漢√

沖田総司

 

【真★恋姫†無双-悠久幻想序曲-】

他√

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

 

【真★恋姫†無双-夢幻ノ彼方ヘ-】

五胡√

明智光秀

 

【真★恋姫†無双-世界描いて-】

南蛮・他√

かの有名な、画家・・・名前は秘密ですw

 

 

・・・となる予定です

 

公開順は皆さんのお声の高かった順にやる予定です

気になる方は、今回の《雲の向こう》の感想などの後にでも『これが見たい』などのコメをくれれば嬉しいですww

 

 

さて、今回はもう・・・本当に疲れましたよ

 

次の次でいよいよ、伏線回収編に入る予定です

 

ここまで長かったなぁ

 

 

 

「うむ、次回でいよいよワシが大活躍するわけじゃな」

 

 

ちょww先走らないでwwwwまだ早いからww色々とバレちゃうからwwwww

 

 

というわけで、またお会いしましょうwww

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、わたくしの出番は(ry」

説明
十三章更新しますw
今回は最期に、さほど重要でもない発表が・・・よろしければ、ご参加ください
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コメント
よく頑張った一刀(透月)
うおお(readman )
マジ泣き。作者GJ(アルトアイゼン)
まだ灯火は消えてない!まだ・・・まだだ!(深緑)
ゴッホかピカソですかね(VVV計画の被験者)
ぐぉぉぉぉぉぉ 心の汗がぁぁ ;_;(リアルG)
皆様、コメありがとうございます!なかなか返事が出来ませんが、それでもこんなにコメを・・・本当にありがとうございます!なんか、頑張ろうってなりますねwww(月千一夜)
十三話まとめて読ませてもらいました。鳥肌ものです。(nakatak)
一刀−−−−−−!!!寝るな−−−−−(T_T)(蛮之祐)
みんなの涙を拭けるのはお前しかいねぇーだろうがッ!一刀ーーーー!!!(悠なるかな)
よくやった真桜!もう少しだがんばってくれ一刀!!想いは世界を変えることができるんだから!(ZERO&ファルサ)
一刀・・・あれ・なんか雨降ってる・・  個人的には呉ルートの太公望が好きですね(クロスEX)
たぶん姫の出番は蜂蜜を(ry(大ちゃん)
一刀ーーーーー!まだだ!まだ終わりにするのは早いぞーーーーーー!!(mokiti1976-2010)
がんばれ一刀   ……ティッシュ買ってこなきゃ(ペンギン)
東堂: 多分わざと抜けてますよ。。。そのあたりからもうろくに書けなくなったってかんじで (根黒宅)
一刀、がんばれーーーー!!ちくしょう、涙が止まらないよぉ。ここまで頑張ったんだ、最後の時まで生きてくれ・・・(mighty)
がんばれー!!かずと・・・(rin)
かずとぉ・・・がんばれよぉ・・(よーぜふ)
P3の最後の「聴」の記号が抜けてますね。それにしても泣ける……(東堂)
一刀に届いた皆の想い、諦めない心が一刀にまだあるなら想いによって作られた外史で奇跡を起こせるはずだ頑張れ一刀!!(サイト)
やば泣く、一刀頑張れ!!(ブレイド)
まだ望みはあるはず!!(黄昏☆ハリマエ)
一刀・・・そのまま眠り続けることはぜったい許さないからな!♯(劉炎)
一刀ぉ!!あと少し、あと少しがんばってくれよぉぉ!!   水上桜花さんそコメントを見て不意に泣きそうになってしまいました。(samidare)
あともう少しがんばってくれ一刀!!!!!(an)
一刀さん…起きてくれよぉ!(キサラ)
頑張ってくれ一刀ぉ?(暇人28号)
届かぬ声、届かぬ香り、届かぬ光。全てが閉ざされたセカイ。御遣いは孤独のセカイに沈む。もう、彼が気付くことは無い。そのそばに、愛した少女たちがいることに。そして、どれだけヤミが深くても、日はまた昇ることに。(水上桜花)
一刀もだが真桜もかっこよすぎる・・・覇王様より目立ってんじゃね(shimon)
秋蘭よく覚えていたな・・・(ヒトヤ)
一刀もう少しなんだ踏ん張れええええええええ!!(poyy)
もうちょっと続くようですね。着地点がどうなるのか楽しみにしてます。(KU−)
一刀……運命に抗えるのか?次の話が待ち遠しいです。最後のアンケートですが、私は蜀√に一票入れます。オリキャラが主人公だと入り込めそうにないので^^;(よしお)
気付くのがあまりに遅すぎた・・・後悔と悲しさで押しつぶされそうな皆の心境が辛すぎる;; 「最後の瞬間」?「アレ」?一刀に残された最後の一手を見届けます!><(kurei)
一刀・・・  がんばれ!!(カズ)
ヤバイ、涙腺が・・・一刀ぉぉぉぉおぉぉ〜(T-T)(シュレディンガーの猫)
一刀・・・・頑張れ。頑張ってくれ。(峠崎丈二)
一刀おおおおぉぉぉぉ!(弐異吐)
一刀もう少しだから・・・がんばれ!(スーシャン)
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