恋姫無双 3人の誓い 第三十四話「絆」
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環との決戦をもうじきむかえようとしている俺達。各員それぞれは静かに敵を見つめ、目の前には数え切れないほどの五胡の兵士が、銅鑼の音を今か今かと待ち構えている。

戦場に立っているみんなの気持ちは同じだった。

必ず勝とう、そして全てを取り戻そう・・・そんな想いがみんなの心の中には存在していた。

この戦いに大陸の未来が掛かっている。

 

 

 

 

 

もし負けてしまったら、死んでしまったら・・・そんなマイナスな思考が一瞬頭の中を横切る。

だけど、勝たなくちゃいけない。いや、この戦いは勝ち負けが第一ではなかった。

囚われた民を、武将を、そして友を・・・取り戻すことが今の自分達が一番に為すべきこと。

・・・ってそんな風に思い直してみても、変わらないよな。

だってそんな当たり前のこと・・・みんな、分かってるしな。確認する必要もない。

 

 

 

 

 

「どうやら、迷いはないようですね。」

ふと、考え事をしていた俺の耳に愛紗の声が聞こえた。

「愛紗か・・・ああ、大丈夫だ。もし迷いなんかあったら、剣なんて振れるもんじゃないさ。」

俺は自分の手のひらをじっと見つめる。

手には修行で付いた、何度も潰れたまめと傷の数々。一心不乱に修行していた頃を思い出させる。

 

 

 

 

 

 

「その傷の一つ一つが、ご主人様の努力の結晶であり、勲章なんですよ?もっと喜んでもよろしいのに・・・」

「偉そうに自慢するほどのものじゃないさ。それに、はしゃいで喜ぶほどのものでもなし。そんなもんだろ。」

「確かに・・・はしゃいで喜んだり、偉そうに踏ん反り返っているなんて、ご主人様らしくありませんね。フフッ。」

「そういうこと。ハハハッ。」

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静かに響く俺達の声。その声に、一切の怯えも迷いも感じられなかった。そして、

作戦の確認のため、軍師達がみんなを集め説明をする。

「それでは、もう一度作戦内容を確認したいと思います。」

「今回の作戦は、突出してくる敵を突破部隊で中央から一点集中で突き破る。その後、開いた道に少数精鋭を送り、環のいる城へと侵入してもらい、一刻も早く環を討ち取ること。突破部隊はそのまま突出してきた敵を迎撃・・・これからその突破部隊と、精鋭部隊を発表するわ。」

 

 

 

 

 

「突破部隊には鈴々ちゃん、翠さん、蒲公英ちゃん、夏侯惇さん、夏侯淵さん、許緒ちゃん、宇禁さん、李典さん、周泰さんの計9人。精鋭部隊にはご主人様と一刀さん、そして龍玄さん、愛紗さん、楽進さんの計5人になります。特に精鋭部隊のみなさんは、城の中はどういうことになっているのか分かりませんので、くれぐれも気をつけてください。」

「突破部隊の総指揮は、曹操さんと劉備さんにお願いしますね〜」

みんなは軍師たちの話を聞き、応!と勢いよく返事をした。

 

 

 

 

 

「さてと・・・作戦の確認をしたし、そろそろおっぱじめますか!こんだけ敵が多いとウズウズして仕方がないぜっ!」

「ハァ、龍玄さん・・・興奮して一人で突っ込まないでくださいね。」

敵を前にして興奮を隠せないでいる龍玄を、一刀はため息まじりで適当に鎮める。

ホント、いい歳してこの人は・・・。

 

 

 

 

 

俺がそんな二人(特におっさん)を見て、少し呆れているところに、

「全軍!剣を抜け!弓を構えろ!長き渡って大陸を苦しめてきた五胡を、この戦で叩き潰す!・・・銅鑼を鳴らせぇっ!」

夏侯惇の号令に兵士達はそれぞれ剣を抜き、弓を構える。そして銅鑼の大きな音が戦場に響き渡る。

「全軍!突撃ーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

銅鑼の音を合図に、俺達は敵へと突撃していった。

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「敵旗発見!文字は孫、甘、黄、周、呂の五つです!」

伝令の報告に俺達は敵の旗を仰ぎ見た。

「あの孫旗は孫権のものだな。だとしたら、孫策は城の中か・・・」

「・・・・・」

伝令の報告を聞き、周泰は暗い顔しながら俯く。やっぱりいざとなると、怖いんだろうな。

 

 

 

 

 

「周泰、あまり無理はするな。孫権達の相手は私達がする。だから、今は城への道を開けることに集中しろ。生きて孫権達と会いたかったらな。」

「・・・っ!は、はい!分かりました!」

そんな状態の明命を見た秋蘭は、厳しくも少し優しさを帯びた一喝を浴びせた。それを聞いた明命は、大きく返事をしてパチンッと一発頬を叩き、気合を入れ直す。気合を入れた顔は凛々しく、そして明るかった。

 

 

 

 

 

そして突破部隊の活躍により、次々と道が出来ていく。俺達はその道を全力で走りぬく。

そんな突破部隊の中央で弓を放つ秋蘭の目に、一人の人物の姿が映りこむ。

「・・・・・っ!」

「・・・くっ!黄蓋か・・・!はあああああっ!」

後方で矢を放つ黄蓋の姿を見た秋蘭は、持ち前の気転により急に放った矢を見事に黄蓋の矢に当てた。

 

 

 

 

 

「弓の腕は江東一と聞く黄蓋・・・ぜひ術なしで撃ち合いたいものだが、致し方ない。相手になろう!いざ、尋常に!」

「・・・・・」

黄蓋の目には飛鳥と同じように、生気を感じられない。やはり環に操られいるのは確かだった。

「秋蘭っ!」

「大丈夫だ姉者!私には構わず、道を開けることに集中してくれ!はああああああっ!」

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「わ、分かった!うおおおおおおおおおおおおっ!」

秋蘭を後に、春蘭達は敵中央へと突撃していった。だが、次の相手が来るのはそう遅くはなかった。

しばらく進み、城への道までもう少しというところで、立ち塞がったのは孫権と甘寧の二人だった。

「ハァ・・・ハァ・・・いいだろう。二人同時に相手してくれる!」

 

 

 

 

幾多の敵兵士を倒し進んでいた春蘭すでに息をきれぎれにしている状態だった。

そんな状態で二人に突撃しようする春蘭の目の前に、一本の槍が現れた。

「おいおい。あんま無茶すっと身体もたねぇぞ。」

「き、貴様は・・・馬超!じゃ、邪魔するんじゃない!」

「別に邪魔しようなんて思っちゃいないさ。だけどな、私達は今は仲間なんだ。仲間が苦しんでる時に助けないでどうする!はあああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

そう言うと翠は、孫権の方に槍を振っていった。

「私は孫権の相手をする!だからアンタは甘寧を頼むぞ・・・!」

「馬超・・・うむ。分かった!うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

甘寧の相手を頼まれた春蘭は、翠と背中合わせで甘寧と対峙した。

「ハァ・・・ハァ・・・こういう感覚は久しぶりだな。こうしてお前と背中を合わせて戦うと、安心する。」

 

 

 

 

 

「ハァ・・・同じこと・・・ハァ・・・思ってたよ。アンタと一緒に戦っていると、負ける気がしない!」

「私もだっ!」

「「はあああああああああああああああああああああああああっ!!」」

お互いの心を通じ合わせ、まるで一心同体のように掛け声もなしで、攻撃のリズムを合わせていく。

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そんな翠達の姿を見た鈴々達は、言葉を交わさずただアイコンタクトだけで合図を送った。

きっと私達に構わず進め、と送ったのだろう。

そして、呉の武将達と対峙している3人を抜かし、残り6人の突破部隊でなんとか城門まで辿りつく事ができた。

「凪、真桜、頼む!」

「いよっしゃー!そんじゃ一発かますでぇーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

「いきます・・・!はあああああああああああああああああっ!!」

凪は氣で錬られた拳を、真桜は自慢の武器で一斉に扉に向けて攻撃を放った。そして扉は音を立てて崩れていった。

「よっしゃ!扉が崩れた!一気に突入するぞ!」

「ありがとう五人共!後のことはよろしく頼む!」

蒼介と一刀は突破部隊に礼を言うと、急いで城内へと入っていった。

 

 

 

 

 

「よろしく頼まれたのだ!お兄ちゃん達のためにも鈴々頑張るのだー!」

「うんうん!蒲公英も頑張っちゃうぞー!」

「へへーん♪チビ達に負けるもんか!いっくぞーーっ!!」

鈴々と蒲公英と季衣は元気よく武器を振り回すと、そのまま敵陣の方へと突撃していった。

残された三人も、

「ホント、あの子達は元気なのー・・・沙和もうクタクタなのー・・・」

 

 

 

 

 

「子どもは元気が一番っちゅうけど、あれは元気ありすぎや・・・ついていけへん。」

「けど、私達も負けてはいられませんよ。」

クタクタになっている真桜と沙和の間に明命はそっと入り込む。

「・・・そうやね。まだチビ達に負けるような歳じゃあらへんしな。そんじゃ、いっちょやりましょか!」

「そうなのー!まだ私達もピチピチの乙女ってことを分からせてやるのー!」

さっきまでとは別人のように真桜と沙和は目に炎を燃やし、3人は張飛達の後を追っていった。

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一方その頃、蒼介達の方では城の道に戸惑っていた。

「分かれ道か・・・」

ある程度城の内部を進んでいったら、突然三つに分かれた道が現れた。

「ここは手分けして行ったほうがいいでしょうね。」

凪がこの状況の打開策として提案した。やはりその方法が打倒だろう。

 

 

 

 

「分かった。それでは、左側を龍玄殿が、右側を私と楽進が、中央をご主人様と一刀さんの組み合わせで行きましょう。その方が安心できる。」

「おいおいおい!ちょっと待ってよ!何でおっさんだけ一人なの!?おっさんだから一人なんてヒドイぞ・・・うぅ・・・」

シクシクと慣れない嘘泣きを出して、一人いじける龍玄。・・・なんかこの人のノリに慣れてきた。

 

 

 

 

 

「い、いや、別に深い意味はなくてですね!龍玄殿は非常にお強いので、お一人で十分かと・・・」

「え・・・?俺って強い・・・?」

「え、ええ!それはもう大陸で右に出る者はいないくらいですよ!」

愛紗も慣れないお世辞を言ってみせる。さすがにこれはお世辞って気付くだろ。

 

 

 

 

「本当か!?いや〜、やっぱりそうなんじゃないかって、薄々気付いてはいたんだよね!やっぱり俺様は強い!ナハハハハハ!」

それが龍玄は世辞どころか完璧な褒め言葉だと思ったらしく、腰を反り、高笑いを決める。

周りのみんなは愛想笑いをするしかできなかった。

そんな苦しい空気の中、ちょっと早足で俺達は三手に分かれた道を進んでいった。

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「しかし、龍玄殿は変わったお人ですね。戦場では勇猛果敢に戦っておられるのに、普段はこう・・・ふざけているというか、なんというか・・・」

「けど、腕は確かだ。私と夏侯惇の二人で相手をしても、全く歯が立たないくらいの実力の持ち主だ。あれくらいあれば、一国の将として名を轟かせるくらいのことはできるだろうに・・・おかしい人だ。」

そんな風に淡々と会話をしながら、一本道を進んでいくと、広い居間のような場所に着いた。

 

 

 

 

「ここは・・・どうやら違うようですね。まだ玉座の間まで遠いようです。」

「ふむ。・・・向こうにまだ道があるな。そっちに行ってみよう。」

「はい。」

愛紗はそう言って、奥にある通路に進もうとした。

その時だった。

 

 

 

 

「誰だ・・・!」

愛紗達が行こうしていた通路の方から、人影がこちらに向かってくるが見えた。その人影に二人は見覚えを感じた。

「貴方は・・・!」

「孫策殿・・・!」

 

 

 

 

 

奥の通路からゆっくりこちらに近づいてきたのは、呉の王・・・孫策だった。

孫策は何も喋らず、ただ手に持った剣を鞘から抜き、剣先を愛紗達の方へと向ける。

「・・・・・」

「やはり他の呉の武将同様、環に操られている・・・まるで生気が感じられない。」

「ええ。・・・操られている方とは、あまり戦いたくはありませんが・・・仕方ありません。」

二人は不本意ながらも、それぞれの武器を構えた。

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そして龍玄の方でも、

「ん?なにやら広いところに出ましたよっ・・・と。」

広い居間のような場所に出た龍玄。しかし、辺りを見回す必要はなかった。

「・・・来たか。」

奥の通路を遮るように、静かに佇んでいる男・・・牙猛がいた。

 

 

 

 

「ほう。・・・俺の相手はアンタってわけかい。」

「前の戦いでは不意を突かれたが、今回はそうはいかん。一対一、正々堂々と死合おうではないか。」

そう言うと牙猛は、背中に担いだ斧をゆっくり取り出し構える。その構えには一切の隙が見当たらない。

 

 

 

 

 

「・・・なるほど。よほど俺を奥に行かせたくないらしい。なら・・・」

龍玄も腰にある長剣を鞘から抜き出す。その鋭利な刃から、牙猛の姿がうっすらと映し出される。

「アンタほどの武人を相手にするんだ。こっちもそれなりの敬意を払わねばな。・・・ようするに、本気でやらせてもらうってことだ。」

「そうしてもらわねばつまらん。せっかく貴公という楽しみを見つけたのだから・・・」

 

 

 

 

 

それぞれ全身から殺気を漂わせ、それがぶつかり合い、息をすることもできない緊迫した空気をつくりだしている。

そして、

「「いざ、尋常に・・・!」」

両者は激突した。

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さらに蒼介と一刀の方でも、同じ状況が繰り広げられていた。

「一本道が終わったと思ったら、今度は無駄に広いところに出たもんだ。」

「そうだな。けど、行き止まりじゃないみたいだよ。ほら、あそこに通路が・・・」

と、一刀が奥にある通路に指を出した時だった。

 

 

 

 

 

「どうも〜、天の御使いさん達。また会えて嬉しいよ♪」

カツカツと奥の通路から歩いてきたのは、まだ容姿に幼さを残す少年・・・王湾だった。

「またお前か・・・!今度こそケリをつけてやるっ!」

王湾の姿を見た蒼介はすぐに武器を取り出し、臨戦態勢に移る。が、そんな蒼介を一刀は手で止め、一歩前に出ながら鞘から剣を抜いた。

 

 

 

 

 

 

「一刀・・・」

「こいつは俺が相手する。だから蒼介は、俺が戦ってる間に奥に進むんだ。」

「け、けどお前・・・こいつと戦ったことあるのか!?子どもだからって調子に乗ると___________________________________。」」

一刀は蒼介の言葉の続きを遮り、武器を構える。

「大丈夫だよ。それに心配する暇があったら、早く先に進め。・・・一秒でも早く、この戦いを終わらせるために・・・!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 

「一刀っ!?」

一刀はそう言うと、王湾の方へと全力で走っていった。

「いいから!俺に構わず先に進め・・・っ!」

「いいぜぇーーーー!なら全力で相手してやる!来いよ・・・!北郷一刀ぉ!!」

王湾も一刀が突っ込んできた数秒後に、同じように一刀の方へと突っ込んでいく。

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そして両者の武器同士がぶつかり合い、一瞬火花が飛び散る。

「・・・・・くっ!」

それを見た蒼介は、後ろを振り返らずに奥にある通路へと全力で走っていった。そして、

「・・・お前に蒼介の後は追わせない・・・っ!」

 

 

 

 

 

「別に追いかける気なんざ最初からねぇよ・・・っ!逆に一人で行ってくれて嬉しいくらいだ!」

「何ぃ・・・・っ!」

王湾の話を聞き、一刀の頭に不安が過ぎる。

「さて・・・さっきの台詞、そのままお前に返してやるよぉ!・・・お前に天城蒼介の後は追わせない!」

 

 

 

 

 

それぞれの広間で激戦を繰り広げられている城内とうってかわって、戦場の方でも兵士達と武将達が激しい戦いが続けている。

「・・・続いて騎馬隊!前方へ突撃せよ!連合軍前線に衝突後、騎馬隊は一旦退き、弓隊は追撃してくる前線に向けて一斉射撃せよ!・・・フフッ。」

後方で軍の総指揮をしている紅泉は、不敵な笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

「さすがはあの周喩の提示した作戦だ。面白いように引っかかってくれる。・・・フフフ・・・アハハハハハハっ!!」

そしてその不敵な笑みは、次々と倒されていく連合軍兵を見る度に大きくなっていく。

「(ご主人様・・・!)」

「(一刀・・・)」

連合軍後方で指揮を執る桃香と華琳は、指揮を執りながら二人の名を心の中で呼び続けた。

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広い居間にジリジリとした空気が包み込む。

一刀、王湾・・・それぞれはゆっくりと間合いを詰めていき、二人の足元にはポタポタと小さな血の池ができている。

不意に王湾は口を開いた。

 

 

 

 

「・・・こうして死に直面するのはいいものだよ。」

「・・・・・」

「ただ『死ぬまで戦い抜いてやろう』っていう気持ちしか湧いてこない・・・」

王湾は額に血を滴らせながら、純粋な喜びを表しているような子ども笑みを浮かべる。

「地位も、名誉も、親も、友達も、名も・・・何も要らない。・・・何にも縛られず、誰のためでもなく戦う。それが気持ちいい・・・」

 

 

 

 

 

そして王湾は天井を見上げて静かに言った。

「ああ・・・やっと辿りついたよ・・・・・」

そう言うと王湾はさっきの表情とは別に、まるで獣のような気迫で一刀の方に突っ込んでいった。

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

お互いが同時に走り出し、そしてお互いの攻撃がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

王湾の拳が一刀のわき腹に当たったと思ったら、今度は一刀の方が王湾の肩を切裂く。

「・・・っ!どうした!!それがお前の本気か!!足りない!全然足りないぞ!」

「・・・・・っ!」

また互いの武器がぶつかり合い、互いの目で相手を睨み合う。

「俺を倒してみろよ・・・!天の御使いっ!!」

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そして二人は同時に距離を取ると、また同時に相手の方へと突っ込んでいく。

「はあああああああああああああああああああああっ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

二人の魂の雄たけびが広間全体に響き渡る。

 

 

 

 

 

攻撃の行方は、

「ごほ・・・・・っ!」

王湾の拳は一刀の身体ではなく空を切り、一刀の剣は王湾の胸部を切裂いた。

王湾の身体から血しぶきが飛び散る。そしてそのまま王湾は膝をつき、前のめりで倒れていった。

その後、王湾が立ち上がることはなかった。

 

 

 

 

 

「・・・・・ごめんな。」

そう言うと、一刀はおぼつかない足取りで奥の通路へと向かっていった。

歩いていった跡には大きな血の線ができていた。

そして一刀が奥の通路へと消えていった後、王湾はゴロリと寝返りをうつように仰向けになった。

 

 

 

 

 

 

「ははっ・・・なにが『ごめんな』だよ・・・謝られる筋合いはないのに・・・はははっ・・・」

王湾は口元に笑みを浮かべながら天井を見上げた。

「ああ・・・今日はもう、疲れたよ・・・一眠りした後・・・もう一度・・・あいつ・・・らと____________________________________。」

王湾はゆっくり瞼を閉じた。血で汚れた寝顔はとても幸せそうな顔をしていた。

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一刀と別れた後、蒼介は全力で一本道を走りぬける。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ(一刀・・・!)」

友の無事を祈りつつ、蒼介は進んでいく。

そうして走り続けること数分後、先ほどの広間と同じくらいの場所に着いたが、周りには他の通路もなく、ただ視線の先に玉座が映りこむ。

 

 

 

 

 

その玉座に頬杖を突きながら座っているのは、事の張本人・・・環だった。その隣には飛鳥の姿が見える。

「ようこそ。よく私の元に来てくださいました・・・が、用件は降伏ではないようですね。」

「当たり前だぁ!ここで指輪ごとお前を壊すっ!」

「おやおや・・・率直ですねぇ。ですが、貴方には到底できないことです・・・」

 

 

 

 

 

「だったら、今この場で試してやるよぉーーーーーーーーーーっ!!」

蒼介は武器を構え、環の方へと突撃していった。だが、

「フフフッ・・・飛鳥、行きなさい。」

「・・・・・(コクッ)」

「・・・・・くっ!そこを退くんだ!飛鳥!」

環の正面に飛鳥が立ち塞がる。蒼介は突撃した足を止め、環を睨みつける。

 

 

 

 

 

 

「くそっ・・・!環!一体お前の目的は何なんだ!俺や飛鳥や一刀を欲しがる理由は何なんだ!」

蒼介は鬼の形相で環に問いかける。

「目的・・・ですか。いいでしょう、話して差し上げます。・・・ですが、知ったところで貴方には理解できないでしょうね。」

環は手を上に広げ、まるで空を仰ぐようにしながら語り始めた。

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「私達の目的・・・・・それはこの大陸の平和ですよ。」

「なん・・・だと・・・?」

一瞬蒼介は自分の耳を疑った。

「まあ、貴方達とはやり方が根本的違いますがね。・・・私達がどのようにして平和を創るか・・・それは人の信仰心ですよ。」

 

 

 

 

 

「信仰心・・・?」

信仰心・・・神様を信じる心。つまり俺達の世界で言うキリスト教やイスラム教とかで、神様を信じて、それを糧に生き続けることだけど・・・それが一体どうしたんだ?

「ええ。・・・つまり簡単にまとめますと、貴方達天の御使いを神様に見立て、それを信仰してもらうということですよ。・・・こんな時代です。民はどんなものにも縋りたいという気持ちで溢れかえってることでしょう。」

 

 

 

 

 

「・・・・・」

「私達はそんな民の為に、神を信じうやまいさせることで、民に日々の感謝と希望に生きることを与えるのですよ。・・・どうです?何とも素晴らしいことでしょう!」

「・・・もし、それを信じない人がいたらどうするんだ?」

話を聞いた俺はこんなことを環に問いかけた。

「そうですね。・・・私の術で人形にするのも良し。それか、異教徒として見せしめに断罪するのがよろしいでしょうかね。・・・それを続けていけば、断罪を恐れる民は決して逆らうことはないでしょうね。そうして、争いのない世界ができていくのですよ。フフフッ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・けんじゃねぇ・・・」

環の話を聞き終わった蒼介は全身をプルプルと震わせている。

「ふざけんじゃねぇよっ!!!それのどこが平和になるんだ!ただあんたら人を怖がらせて、自分に逆らえない人を増やしていくだけじゃねえかよっ!!・・・アンタおかしいぜ・・・!」

「貴方達みたいに侵略して手に入れた平和よりもずっとマシですよ。侵略はいずれ反乱を生む、そこからまた争いが増える・・・同じことの繰り返しなのですよ。」

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「それは違う・・・」

「何?」

蒼介の反乱に環を目を細める。

「確かに、侵略は誰かの反乱を生むかもしれない・・・けど、大事なのは侵略した後なんだ。土地のことをしっかりと考え、民を第一にする心掛けをすれば、反乱なんて起きるはずはない!・・・現に俺は、そんな風に周りのことを考えてくれている人達を知っている。あんたのように民衆を省みない平和なんて、そんなの偽物の平和だっ!」

 

 

 

 

 

 

蒼介はそう言い終わると、葬刃の剣先を環の方へと向ける。

「・・・どうやら、これ以上貴方と私が話しても意味がありませんね。」

「ここでアンタの野望を打ち砕くっ!はあああああああああああああああああっ!!」

「・・・ですから言ったでしょう?貴方には到底できないことだと・・・飛鳥。」

「・・・・・(コ、コクッ)」

蒼介の武器は環には後一歩のところで届かず、飛鳥に止められてしまう。

 

 

 

 

 

 

俺達のそんな姿を見た環はクククッと笑い、こう言った。

「フフフッ・・・本当にくだらない。なぜ、飛鳥を本気で切ることができない。」

「そ、そんなの決まって________________________________________!」

「‘親友,だからですか?」

「・・・・・っ!」

俺が答えを言う前に、環が俺が出そうとしていた答えを言った。

 

 

 

 

 

 

「全く、くだらない・・・親友や友情、愛情、絆など全て人が勝手に創りだした幻想に過ぎない・・・それにすがって生きている人間が、私は一番嫌いなんですよ。」

「なんだとぉ・・・!!・・・ん?」

蒼介は突如、剣の受け止めている飛鳥に違和感を覚えた。静かに耳を澄ますと、声が聞こえてくる。

「・・・チ・・・がう・・・」

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「ん?何か言いましたか、あす____________________________________。」

「違うっ!!」

今までしゃべることのなかった飛鳥の口から思いがけない言葉が飛び込んできた。飛鳥は受け止めていた剣を振り払うと、その矛先を環へと向けた。

「そ、そんな馬鹿なっ!?じゅ、術は完璧に施したはず!術が解けるはずは・・・」

 

 

 

 

 

「ぐうう・・・っ!た、環!お前は親友や友情が幻想に過ぎないって言った!僕と蒼介、一刀は喧嘩をしたり、たまにバカやったりする・・・けど!僕と蒼介と一刀の間には、確かに親友というものが、友情という感情があった。その感情に嘘偽りは決してない!」

まだ術は完璧には解けてなく、時折、頭を抱えて痛みに耐えているが、気力を振り絞って、想いの全てを環にぶつけた。

 

 

 

 

 

 

「そうだっ!!」

そして、後ろの通路の方にも聞き覚えのある声が聞こえた。

「一刀・・・・・」

「俺達三人は小さい頃から付き合いだ。俺達がどんなことに悩んで、苦しんでいるのか・・・聞かなくても分かるんだよ。・・・これでもお前が幻想って否定するなら、勝手に否定してろ。俺達三人は肯定する。肯定し続けてやるよ。俺達が親友だってことを。」

 

 

 

 

 

 

「この青二才共が・・・っ!なら、ここで仲良く眠りにつくがいいっ!!」

環の指輪が強く光り始める。そして瞬時に移動し、俺達に光を浴びせようとする。

しかし、

「もうその手には乗らないっ!はあああああああああああああっ!」

一刀は環よりも速く移動し、環の腿を斬り付けた。

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「がああ・・・っ!!」

環は状態を崩し、そのまま床に倒れこんだ。しかも腿を斬られたため、思うように立ち上がれない。

「これでアンタも終わりだ。大人しく術を解けば、お前を殺さず済む。」

「殺さずに済む・・・か。ハハハハハッ!どうせ私は王朝に殺される運命!今死のうが後で死のうが同じこ・・・ひぃっ!!」

 

 

 

 

 

今だ抵抗を続ける環に、蒼介は指輪をつけている手を足で押さえ、葬刃の剣先を指輪のついている指にそっと当てる。

「術を解くんだ。」

「ひ、ひ、ヒャハハハハハっ!誰が解くものか!今頃戦場の方では、すでに私達の軍が連合軍を壊滅させている頃だろう!ハハハハハ・・・ハ?」

ストーンと何かを叩き切る音が聞こえた。その何かは、ゴロゴロと床の上を転がっていく。

 

 

 

 

 

その何かとは、指輪のついた環の指そのものだった。

「がああああっ!?指がっ!指があああっ!!・・・・・うぅ・・・」

遅れてきた強い痛みに耐え切れず、環はそのまま気絶していった。

「ふう・・・中身はそこらにいる二流、三流の悪党と変わらないか・・・」

「そうだな・・・って一刀!?お前その傷大丈夫なのかよっ!」

 

 

 

 

 

「そ、そうだよ一刀!ち、血がダラダラって・・・!」

環の集中していた俺達は、一刀の身体の状態にようやく気が付く。・・・後ろの方を良く見ると、なんか血の線ができてるんですけど!?

「あ、ああ。今は別に何ともないよ。それよりも・・・」

一刀はチョンチョンと蒼介の肩を叩き、飛鳥の存在を知らせる。

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「あっ!そ、そういえばそうだった!えっと、そのー・・・なんていうかよ。まぁ、おかえり飛鳥。」

「・・・ただいま。蒼介、一刀・・・」

蒼介は照れくさそうに飛鳥に伝えた。急なことで言葉が出てこなかったようで、たったの一言で終わってしまった。

けど、飛鳥はその言葉を聞き、目に涙を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「なに泣いてんだよ、飛鳥。せっかくの再会なんだから笑えよ♪」

「そ、そうだね。ごめん・・・つい・・・」

一刀の指摘に飛鳥は急いで涙を拭く。けど、拭いても拭いても涙が止まることはなかった。

「・・・ったくよぉ。せっかく会えたんだからよぉ・・・笑え・・・つーの・・・」

蒼介も飛鳥の泣き顔を見て、ついもらい泣きをしてしまい、目から大粒の涙が流れ落ちる。

 

 

 

 

 

「二人とも。・・・なに泣いてんだよ。まだ喜ぶのは早いよ。」

そんな一刀にもうっすらと涙が浮かんでいた。

「そ、そうだったな!戦場ではまだみんなが戦ってるんだ。急いで行かないと・・・!」

「環はどうしますか?」

「・・・そこの玉座に縛り付けておくか。」

三人は気絶している環を、近くの道具置き場にあった縄で玉座に縛り付けた。

 

 

 

 

 

「これでよし・・・っと。それじゃ二人とも、急いでここから出よう。」

「ああ・・・みんなが待ってる。」

「(どんな人達なんだろう?一刀達の知り合いって・・・)」

三人は仲間達が待つ戦場へと疲れた身体を急がせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※どうもお米です。いや〜!笑いあり、シリアスあり、涙アリの作品になりましたね!(自画自賛)ついに環を倒す(?)ことに成功した一刀たち。飛鳥も意識を取り戻し、これで事件解決!・・・なんてことにならないのがお米流です。次回はあの人に悲劇が舞い降りる・・・。ちなみに次回は最終回です。お楽しみに〜♪それでは失礼します〜。

・・・・・本当は環はあんなキャラではないんですよ・・・うぅ・・・(泣)

説明
第三十四話目となります。今回はかなり長いです。一回区切ろうと思ったのですが、区切り所が難しかったのでいっそのこと一つにまとめてみました。
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