真・恋姫無双 〜古の存在〜 第一話「北郷、『蒼天』と出会う」 |
一人の青年が雲一つない満月の森の中、静かに剣を構えていた。
握られた剣はいかにも名のある刀匠が打ったような見事な作りだった。
細く刀身には龍が彫られたスラリとした両刃。
見事としか言えないほど作り込まれた鍔。
自然と手が馴染んでしまいそうな柄。
木に立てかけられた鞘は赤と金で装飾され、見る者を見惚れさせるほど美しかった。
青年は静かに息を吐くと、ゆっくりと腰を低くしていった。
その体制のまま剣を肩の位置まで上げ、やがて止めた。
過ぎていく時間。
青年は身動き一つせず目を閉じ、ただ待つ。
すると、一陣の風が彼に吹いていった。
風に運ばれた葉がゆらりと通りすぎようとした時だった。
『ッシュ』
っと言う音と共に葉は二つに切られていた。
そこには先ほどとは体制が違う青年がいた。
青年は剣を下ろしながら目を開いた。
そして、気が付くと一人の老人が拍手しているのが目に入った。
「一刀、見事な一閃だったぞ。お前も腕を上げたな。」
「いや、まだまだ爺ちゃんには敵わないよ。っというか何時からいたの?」
「お前が目を閉じた辺りぐらいからじゃ。何時まで経っても戻らんから探しに来たのじゃ。」
「そうなの?ごめん、心配かけて・・・」
一刀と呼ばれた青年は、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「んじゃ戻ろっか、爺ちゃん。」
「うむ、そうじゃな。」
一刀は鞘に剣を入れるとそれを持って自分を待つ老人の下に走っていった。
俺の名前は北郷一刀。
爺ちゃんと一緒に山で修行している十八歳だ。
俺の両親は俺が幼い時に事故で死んでしまっていて、婆ちゃんも数年前に他界してしまったから、肉親は爺ちゃんだけだ。
だから、今は俺と爺ちゃんの二人きりでここに住んでいる。
親が死んだあと、俺は爺ちゃん達に引き取られてからずっと武道の修行をしている。
爺ちゃんは立派な武人で、昔は道場を経営していたこともあったらしく、俺は引き取られた時からずっと爺ちゃんに教わっている。
何でも、爺ちゃん自ら編み出した剣術だとかいうみたいだけど、俺は詳しくそのことを知らされていない。
たぶんまだ俺が未熟だから教えてもらえないんだろうと思う。
「・・・もっと強くならなきゃな。」
だから俺は今日も一生懸命修行をするんだ。
・・・もう俺のせいで誰かが泣かないように。
いつも通り俺が修行をしていると、爺ちゃんの鷲が飛んできた。
「・・・?どうしたんだろう。急に・・・。」
いつもなら昼まで飛んでこないはずだけど、今はまだ昼じゃないし・・・
「まぁ呼んでるんだし、行ってみるか。」
俺は自分の愛剣、『紅蓮』を持つと走って家に向かった。
家に着いてまず真っ先に向かったのは道場の方だ。
何か特別なことがあると、必ずここに爺ちゃんは待っているんだ。
俺は草鞋を脱いで足を拭いてから道場に入っていった。
そこでは、やはり爺ちゃんがいた。
「何、爺ちゃん?何か用?」
俺は爺ちゃんの前で胡坐になりながら聞いてみた。
「うむ、お前のことで少し話しがあったのじゃ。」
「俺の事?」
なんかあったっけ?俺に・・・
「お前ももう十八。今までずっとお前に稽古をつけてきたが、今日を持ってワシは引退することに
した。」
「・・・・・・。」
今なんて言った?
「・・・冗談はよしてくれよ、爺ちゃん。まだ俺は爺ちゃんに稽古をしてくれなきゃダメなんだ。しかも何だって急にそんなことを言うんだよ?」
俺は突然言われたことにびっくりしていた。
そんなことになったら俺は・・・
「安心せい、お前は十分に強くなった。このワシを超えて・・・な。」
「何言ってるんだよ!!だって俺、まだ爺ちゃんに勝った事ないんだぜ!?」
「いいや、ワシはお前に負けておったよ。少なくとも、一ヶ月前からな。」
「あ・・・。」
そういえば、確かに爺ちゃんと模擬戦をした時竹刀を飛ばしたが、あの後一本取れずに引き分けに
なったはずだ。
「あの時、ワシは全力でお前と打ち合ったはずだが、お前はワシの全力で振った竹刀を弾き飛ばしたのじゃ。あの後お前は油断し、このワシから一本も取れなかったがな。」
「・・・そう・・・なのか・・・。」
俺は信じられなかった。
いつも俺は爺ちゃんよりも強くなりたいと思ってずっと修行してきた。
何度も何度も軽くあしらわれて悔しい思いもしてきたけど、それが今では爺ちゃんよりも・・・
「・・・全然実感が湧かないよ。」
俺は自分の手を見ながら呟いた。
爺ちゃんは俺の姿を見ながら、
「・・・あの後、何故お前に修行を続けさせたか分かるか?」
突然、爺ちゃんが神妙な顔つきで話してきた。
「それはな、お前の中にある油断を取り除くためじゃ。油断は時として、最大の弱点ともなり得るものじゃ。じゃから、修行を精神統一や気持ちを落ち着けるものへと変えたのじゃ。」
確かに最近はそういうことを中心としてやっていた。
突然武術関係から離れたとは思ったけど、そういうことだったのか。
「そこでじゃ、ワシの引退と共にお前に渡したいものがあるんじゃ。」
「俺に渡したいもの?」
「そうじゃ。お前が持っている名刀『紅蓮』と対なす剣、『蒼天』を・・・。」
「『蒼天』?」
初めて聞く名前だ・・・。
爺ちゃんが立ったので、俺も釣られて立った。
「案内するから、ついて来なさい。」
そういうと、爺ちゃんは俺の横を通りすぎて道場を出て行った。
俺も爺ちゃんの後をついて行った。
爺ちゃんの後をついて行くと、そこは普段立ち入ってはいけないと言われていた洞窟だった。
中に入ると、先には祠が立っていてそこに一振りの剣が祭ってあった。
「この剣はワシがお前に与えたその『紅蓮』と共に出会った剣じゃ。ある刀匠に特別に打ってもら
ったもので、この世に二つとない名刀じゃ。」
そう言うと爺ちゃんはそっと剣を持つと俺に振り返った。
「お前がワシを超えたときに与えようと思っていたのじゃ。」
「爺ちゃん・・・」
そして、爺ちゃんは俺に剣を差し出した。
「受け取ってくれ、我が孫よ。」
俺は爺ちゃんの手から剣を取った。
・・・『紅蓮』と全く変わらなく軽い重量。
青と銀によって装飾された鞘は美しい螺旋を描いていた。
丁寧に作られた鍔は目が釘付けにされそうなほど見事なものだった。
俺は剣をゆっくりと抜いていった。
まるで『紅蓮』を抜いている感覚がした。
細く刀身に龍が彫られたスラリとした両刃。
本当に『紅蓮』と一対になるように作られた剣だった。
俺はその場で『蒼天』を振ってみた。
・・・全く愛刀『紅蓮』と変わりない振りやすさにとても驚いた。
「どうだ?『蒼天』の振り心地は?」
「本当に『紅蓮』を振っているみたいだよ・・・。」
俺は『蒼天』を握り締めた。
何年も前から使い続けているような手の馴染みに改めてこの剣が『紅蓮』と一対なのだと思った。
「爺ちゃん、ありがとう。」
俺は爺ちゃんに振りかえると感謝の気持ちを伝えた。
「うむ、大切にするのじゃぞ。」
爺ちゃんは明るい笑顔で言った。
爺ちゃんから『蒼天』を引き継いで一ヶ月。
俺は『紅蓮』『蒼天』を使った奥義の修行をしていた。
・・・爺ちゃんは俺に『蒼天』を渡してから一週間後に死んでしまった。
きっと爺ちゃんは知っていたんだ。自分がもう長くないことを。
だからあの時、俺にこの『蒼天』を渡したのだろう。
爺ちゃんは死ぬ間際、俺に手紙と本を置いていった。
手紙には、
『お前はこれから、きっと沢山の者達と出会い、そして守るものが出来るだろう。これから書くことを良く覚えていて欲しい。
・一つ、仲間が出来たなら全力で守り通せ。
・一つ、愛すべき者が出来たなら全力で愛せよ。
・一つ、どんなに困難な時でも己の道を貫き通せ。
これは、ワシが常に心がけていたことだ。どんなにつらくてもこれだけは守って欲しい。
最後に、お前が孫で本当に良かった。お前の行く末が見れないことを許してくれ。』
※追伸 書庫にある本はお前に譲る。暇なときにでも読みなさい。
祖父より
と書いてあった。そして俺は爺ちゃんが残した最後の修行内容について書かれた本を見て、現在に至る。
俺は強くなる。
これから出会うかもしれない仲間と、愛すべき者のを守る為に。
そして、もう誰かが自分のせいで泣かないように・・・
説明 | ||
真・恋姫無双の二次創作です。 北郷が強く、そしてオリジナルキャラが出てきます。 初めて書くので至らないところもあるかもしれませんが、どうかお見知りおきを。 |
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コメント | ||
よいお祖父さんですね。教えを秘めた一刀の物語はどう開演するのか楽しみです。(深緑) 続きに、超期待!(zendoukou) ものすっごく面白い話になりそうだ。個人的に呉√で、是非とも雪蓮・冥琳生存する方向でお願いします!(西湘カモメ) きたきたきた〜!僕的に蜀か呉がいいですねぇ〜。とても続きが気になります(ガブリエル三世) 続きがきになりますね〜。どの√なのかまだ分かりませんが、頑張ってください!(おやっと?) 続きを頑張ってください(黄昏☆ハリマエ) |
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