お題「シュール」 |
「シュール」
午後の閑散としたコンビニ。男女の店員が一人ずつ、暇そうにしている。
「ねぇ、坂上君。この時間帯って一番強盗が少ないんだって」
プリンのベロをひたすら前に向けていた店員の男の方、坂上に、上村がつぶやいた。レジと店の奥とに位置していたが、つぶやき程度でも聞こえるほどに店内は静かだ。
「へぇ、そうなんですか」
「そうなんじゃないです。嘘です」
「そうなんですか……」
電子レンジに寄りかかりながら、上村は悪気なく暇そうにしている。今客が来たら食い物以外でも温めますかと聞いてみよう、なんてことを考えながら。
ガー。久しぶりに自動ドアが仕事をした。あまりに動かないから故障したのかとも思っていたが、客が来ないだけであった。
黒い革靴、黒いジャージ、黒い上着に、黒い……目出し帽。
「いらっしゃいま」
「強盗だゴラァ!!」
手には黒いL字型の、日本では発売されていないはずのかっこいいあの子が握られている。そして丸く穴のあいた先端はまっすぐ上村に向けられていた。
「……あ、上村です」
「テメーなんてどうでもいいんだよ!! 金出せや!!」
よく見ると手が震えている。目は血走っているが、なんだか泣きそうな目をしている。必死なのだ。
わめく男に気づいて、坂上がレジに戻ってきた。
「お待ちのお客様どうぞ〜」
「待ってねえよ!! いいからテメーも金出せやゴルァ!!」
「いや、給料日前なんでカツアゲ的なことはちょっと……」
「オメーの金じゃねえ!!」
「お客様、拳銃の方温めますか?」
「うっせええええええ!!!」
ついに、店内に爆発音が轟いた。鉛玉は天井を射抜いていたが、至近距離だったので耳が飛んでしまった。意外とパーティークラッカーみたいな音なんですねーと上村はうまい事を言ったつもりだったが、誰にも聞こえていなかった。でも聞こえていたら天井の二の舞を踏む事になっただろう。
耳も聞こえるようになり、果敢にも坂上は話し続ける。
「まぁ落ち着いてくださいよ後藤田さん」
「ごと……後藤田じゃねえ『強盗だ』っつったんだよぉ!!」
「お客様拳銃の方は」
「あっためねえよ!!!」
相当イライラが募っているようなので、被害が及ばないうちに要求に応える事にした。当店の強盗マニュアルは、店員の安全第一を考えた最近の流行に乗ったものだ。なのでお金が取られても、一応それに対してはおとがめナシという事になっている。しかし、保険等を超えた責任も取らないという事も明記されているので、今この二人に穴があいてもけがに対する補償しかされない。
ところで、この強盗は拳銃一丁で乗り込んできたため、いわゆる「この鞄に金をつめろ」という展開にはならない。ポケットにでも入れて行くつもりなのだろうか。
「私の方はえーと、じゅう……ろくまん……ごせん……はっぴゃく……にじゅうろく円、になります」
「僕は二十三万円ちょっとですねぇ」
「け、結構あるんだな……」
「お客様こちら小銭とお札別々にいたしますか?」
「そういうのいいよ! 一緒にしろよ!」
「お箸はおつけ……」
「いいってば!」
「お客様拳銃の方は温めま」
「いいよもう!!」
強盗の方は面倒くさくなってきているようだ。なんだかバタバタしている。
「警察だ動くな!」
「なんで警察だよ! ……本物?!」
店の入り口には三人の警官が、それぞれ拳銃を構えて牽制していた。
「い、いつのまに呼んだんだ」
「どんだけスキがあったと思ってるの」
ちなみに強盗が押し入ってきてすぐに通報はされていた。
「覚えてろよ村上!!」
あえなく御用となり、強盗は連行されていった。彼はパトカーに押し込められ、サイレンとパトランプと一緒に遠ざかっていく。
「危なかったですねぇ村上さん」
「え、あれって坂上くんが間違えられたんじゃないの?」
「うーん……」
「うーん……」
「なんか消化不良を残していきましたね」
「そうね……。あ、一応店長に出す報告書書いといてね」
「村上さんがやってくださいよ」
「村上君がやってよ」
コンビニは今日も平和であった。
説明 | ||
シュールの意味はよくわかりません。 | ||
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